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第九話 兄として



 突如、道を塞ぐように現れた現代的な扉。


 冒険者協会によってほぼ全てのダンジョンに安全地帯セーフポイントと呼ばれる休息場所が設置されており、中層の中央あたりに位置するここもまたその一つだった。


 扉の右側に付いたパネルに、恐る恐るコンカをかざす。


 ピ、という音共にゆっくりと開いていく扉。

 足を入れてみるも、特に何の警告音も聞こえない。


「良かった」


 この体でも弾かれなかったらしい。まあモンスターがコンカを使うことなんか想定してないよな。


 ……俺みたいな存在が他にいなくてよかったよ、ほんと。 


『ほお、ここが安全地帯セーフポイントか。

 ……何だか寂れたキャンプ場のようじゃな』


 安全地帯セーフポイントの中は体育館程度の広さの空間が広がっていた。

 地面には大小様々なテントが設置されていて、周囲を剥き出しの岩盤が覆っていることを除けば、確かにそんな感じに見える。


 当然、マップでそこに誰もいないことは確認済み。

 出来るだけ出入り口から遠い場所のテントに入り、きっちりとファスナーを閉める。対モンスター用の生地が俺の視界を閉ざした。


 ……多分これで安心だ。

 冒険者の間では緊急時以外他と関わらないというルールがあるから、例え人が来ようと覗かれる心配はほぼない。出る時も誰もいなくなるまで待てばいいだろう。


 暗闇の中、夜目が効く瞳で(どうやらこれも「冥王の寵愛」の恩恵らしい)コンカを操作して今日の成果を表示させる。


 月宮 マコ(C) Lv.3  死神 Lv.1    

 筋力 C          

 物防 E       

 魔防 D(↑)       

 知性 D        

 器用 B         

 敏捷 B         

 運  C   

 

 スケルトンを20体ほど倒した時点でレベルは3、魔防はDに上がった。


 ステータスはこうして一定のレベルになると上昇し、『職業』に適するように変化していく。それゆえ上昇率が高いほどパラメータは強力なものとなるが、俺のかつての『職業』「運び屋」はそれが低かったゆえに使い物にならなかった。

 ただ今回の「死神」は柴田たちの「剣士」と同じように当たりの『職業』のようで、なかなかに良い上昇率だった。ステータスが最初から高いこともあって、スタートダッシュも狙える。


 なあ、シル様。

 最強種ー-Sランクになるにはどれくらいまでレベルを上げればいい?


『お主の素質にもよるゆえ一概には言えぬ。

 だが、最低でも70は必要じゃろうな』


 70、70かあ。

 柴田たちでも大体5年かけて45前後しか上がっていない。高レベルになればなるほどレベルが上がりづらくなることも考えれば、随分と果てしない道のりだ。


 だが……やれるはずだ。

 それに耐えれるだけの体は神様が用意してくれた。これで泣き言を言っていたら、ステータスオールGから上げてきた全ての人たちに顔向けできない。

 1年。いや、半年だ。

 半年後の3月、夕菜が俺の母校である「冒険者学校静岡校中等部」を卒業する。それまでに何とか完全種になって、約束通り一緒に冒険してみせる。


 やれる、うん、やってみせるさ。

 俺は長男なんだ。妹のために無理を通すなんて慣れっこだ。


『……ふ。長男だから、か。

 まるで妹のため鬼と戦うどこかの誰かさんのようじゃな』


 ? 桃太郎的な童話の話?

 それともシル様が実際に見聞きした出来事か? 

 だったら是非聞いてみたいもんだな。


『い、いや漫画の話じゃよ。それも一世を風靡した、の。

 ……そうか、お主らは知らんのか』


 ぽつり、と寂しそうに零すシル様。


 ……そういえば、昔はダンジョンもの以外の漫画とかが沢山あったんだっけか。

 もし面白い話を知っているんならぜひ教えてほしいなあ。


 詳細を聞こうとしたその瞬間、マップに変化が現れる。


 右端で蠢く三つの青い点と、それを追う無数の赤い点。

 これは……


『ふむ。三人の人間がモンスターどもから逃げてきたようじゃな』


 遅れて、入口の方が騒がしくなる。


 どんな状況か見に行きたい気持ちになるも、何とか押さえる。

 うっかり三人と対面してしまって、さらに状況が悪化する事態は避けたい。


 暗闇の中、扉の向こうへと耳を澄ます。


 ー-ちょ、せんせい、しっかりしてよっ。ほら、まだ敵があんなに!


 ーーこの傷を見なさい、治療が先よっ。


 ー-で、でもその間は誰が前衛やるの!? 私には絶対無理だよ!?


 ー-そ、それは……


 ーーだ、大丈夫だ。君たちの命を守るのが私の、くっ。


 かすかに聞こえてくる、見知らぬ男性と少女二人の錯乱した声。

 さりとて、外とこちらを隔てる扉が開かれる様子はない。

 安全地帯セーフポイントの中にモンスターを呼び込むのを防ぐため、モンスターが近くにいる状態でアンロックしてはいけないのだ。


 同業者を見殺しにするも助けるも自由。

 かぎはこちら側にいる冒険者ー-つまりは俺だけが持っている。


『随分と苦戦しているようじゃが、どうする? マコよ』


「……仕方ない。これが最初で最後っ」


 こんな体で本当に彼らを助けられるのかは分からない。

 ただこのまま見捨てるわけにもいかなかった。自分の心の安寧のため、そして何より帰った後、このおかしな神様との冒険譚を夕菜に笑って話せるように。

 

 テントを開け、勢いよく駆けだす。ついでコンカで状況を確認。


 扉付近に固まる三つの青い点。少し離れたから徐々に狭まってくる赤い光群の網。

 ー-これなら、何とか一発で前に出れる。

 

 迫る扉。ギリギリのタイミングで向こうー-人とモンスターの間に転移する。


 切り替わる視界。


 前に広がるは巨大アリの群れ。背中に感じる確かな息吹。

 ーー成功だ。


 後ろの三人に、ひとまずは治療に専念するよう呼び掛ける。

 



「ここは私が引き受けるので、ざこのあなたたちは下がって治療でもしてたらどうですか?」



 あああああ、ちゃんと怪我人を気遣ったのに何でこうなるんじゃっ。



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