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第二十話 白き部屋の少女



『さて、鬼が出るか蛇が出るか。

 楽しみじゃのお、我が使徒よ』


 シル様の言葉と共に、俺の体は藤枝ダンジョンの中へと転移しー-。


「なにっ、これ」


『む、誰かに干渉されてっ……』


 途中で、何かに阻まれる。

 視界がぐらぐらと歪み、そのまま体がどこかに引っ張られー-



 気が付くと、俺は白い部屋にいた。


 白い壁と白い地面、白い天井に囲まれ、空中では白いオーロラのような何かがゆらゆらと揺れている。

 そして部屋の中央には大きなベッド。巨大な植物の(つる)や葉に周囲を覆われたそこには、10歳くらいの少女が仰向けに眠っていた。白いドレスのような服を着て、緑色の髪を腰まで伸ばしている。


 ー-やべっ。

 慌てて目をそらそうとしてー-気付く。

 そう、普通に見ていたのだ。人間を見ると殺意に支配されるという制約が引き起こされることなく。


『っ、まさか……じゃが……』


 ? シル様、何か知っているのか?

 

『……すまぬ。我には何も言えぬ、いや言わぬほうが良いというべきか。

 お主には変な先入観を持ってほしくないのじゃ』


 何やら意味深なことを言うシル様。

 まあそれなら仕方ない、か。試しにコンカをかざしてみる。



  エラー:データベースに存在しないモンスターです。

    以下に暫定のステータスを表示します。


 名称不明(B) Lv.17    

 筋力 D          

 物防 D       

 魔防 C    

 知性 A        

 器用 A         

 敏捷 C         

 運  A   


 <主な使用スキル>

 不明

 

 滅多にない、未発見のモンスターに向けた場合に出る表示。

 やっぱり彼女はモンスターなのか?

 ……というか、そもそもこの部屋は何だ?

 藤枝ダンジョンはジャングル型のダンジョンで、俺はその地上部分に転移する予定だったはずだ。


 マップを見てみれば、赤点(しかも二つだ)を除き周囲が一面真っ黒の表示。

 それが意味するのはここが人の手が入っていない、つまり全く調査されていない未発見領域だということ。


 失敗した転移。未発見領域。未発見モンスター。

 何だ、俺は一体何に巻き込まれている? 

 ……でも本当に危険なら、シル様でも教えてくれるだろうし。うーむ、どう考えたらいいものか……


 ってかこの光景、あれに似ている気がするんだよなあ。


 茨(?)に囲まれたベッドと、そこで眠る美女(?)。

 そう、有名なグリム童話の一つ、茨姫。あるいは眠れる森の美女。

 妖精の呪いで眠らされていた王女様が王子様のキスで目覚める、例のあれだ。俺がキスしたら、あの子も目覚めるとかそんな感じ?


『おおっ、お主もとうとうTS百合デビューか。

 TSしてから早五日ここまで本当に長かった。……うむ、長かったっ』


 シル様が即座に食いついてくる。

 く、変なこと言わなきゃよかった。さすがの俺でも初対面の女の子にそんなことしねえって。

 しかもここ最近が濃すぎたせいで時間感覚狂ってるし。


 ばきり。

 そんなことを気を取られていたからか、足元まで伸びていた蔓を踏んでしまう。

 ガラスが割れたような音に反応し、ベッドの上の少女がぱちりと開く。水色の瞳がこちらを捉えてー-




「お母さん?」



「は?」


『……お主。

 初キスすら経験せず一児の母になるのは流石に飛ばしすぎだと我は思うぞ?』


「そんなわけないでしょ、馬鹿なんですか? 死ぬんですか?

 大体こんな体で出産なんか耐えられるわけないじゃないですか、目ん玉腐ってるんですか?」


『い、いやそういう作品もー-こほん、やめておこう』


 はあ、シル様のせいで何か一気に気が抜けたな。

 視界の奥で、少女がびくりと肩を震わせる。


「あ、ご、ごめんね。めんたま腐っててごめんね」


「……あなたのことを言ったわけじゃありません。

 自意識過剰なんじゃないですか?」


「そ、そうだよね、ごめん……あれ、じゃあ誰と話してたの?」


「……」


 少女の純粋な視線がこちらを射抜く。

 こ、この口調のせいで何かめんどくさいことになってるじゃねえかっ。シル様のこと言うわけにはいかないしっ。


 こほんと咳払いをして、ベッドの上の少女ー-モンスターでありながら異種の俺と普通に会話できる何かに決定的な質問を問いかける。


「あなたは何者なんですか? どうしてこんな所にいるんですか?」


「……うーん、なんなんだろうね? ぼくもよくわからないなあ。

 あ、でもね、なんだかずっとここにいたような、そんな気がするな」


「っ、あなたの親はどこにいったんですか?」


「どう、だったかな。昔はいたような……」


 返ってくるのは、とんでもなく曖昧な回答。


 ……なあ、彼女が俺みたいな使徒である可能性はあるのか?


『先に言った通りじゃ。我が知る限りお主以外の使徒はおらんよ。

 それにー-彼女は全く別の存在じゃ、そこは断言しよう』


 シル様の言葉に、嫌な冷や汗が背中を流れる。


 この状況を全て説明できる存在の名前を俺は知っていた。

 モンスターと人間、両方の特性を持ったそれ。

 まことしやかに囁かれながら、都市伝説に過ぎないと一蹴されていたそれ。


 モンスターと人の間に生まれた子供ー-迷宮人。

 彼らはそう呼んでいた。



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