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第十七話 それは魔法のように



 心が燃えるようだった。全身が熱く滾っていた。


 激情のままに安全地帯(セーフポイント)を飛び出して地上に転移し、夕菜にメールを送る。

 モンスターのことは言えないから、もし自分が面倒な事態に巻き込まれたとしても一緒にいてくれるか、とかそんな感じの気持ち悪い文面だったと思う。

 ただそれでも返事はすぐに返ってきてー-



『は? 下らない言い訳してないで、早く帰ってきてください』



「ー-っ、ー-っ、ああああっ」


 一文。たったそれだけで体から力が抜けて、へたりこむ。

 瞳から涙が零れていく。ずっと体を蝕んでいた何かが解けていく。

 

 嗚呼、そうだ。夕菜は、俺の妹はそんなこと気にする人間じゃない。

 叔母さんたちの元を離れた方がいいかもしれないと伝えた時も同じだった。


『全く、なんで悪くもない兄さんが謝るんですか? 

 ほら早くいきますよ。……ほんと、おにぃは私がいないと駄目なんだから』


 そう言って俺の手を握ってくれてー-。


「っ」

 

 壊れそうになる体。

 勢いで『愛してるぜ、夕菜』とかクソ寒いメッセージを送って、ダンジョンの中に転移する。


 どうして、忘れていたんだろう?

 一度死の恐怖に苛まれたから? あるいはこんな訳の分からない体になってしまっただろうか?


「ほんと……ざこはどっちなんだか」


 涙を拭って立ち上がる。

 今なら何でもうまくいきそうな全能感に包まれている気がした。


『……もう、よいのか?』


 ああ、もう大丈夫だ。

 一斉捜索に向けて、色々と急いで準備しないと。

 雪乃さんたちには悪いけど、後でメッセージでも送ることにするよ。幸い電話番号は知っているわけだし。


 ……あれ、そういやどういう流れで励ましてくれる事になったんだっけ?


『さ、さあな。まあ今はそこまで深く考えなくともよい。

 その顔をみせてくれただけで、我は十分じゃ』


 シル様の妙に嬉しそうな声が頭に響いた。


 




  

 静岡ダンジョン最下層、ボス部屋。

 その荘厳な両開きの扉の前に俺は立っていた。ポーションやら食料をポケットに詰め込んで。 


 高ランク冒険者も集まる一斉探索だ。静岡ダンジョンの中にいたら、ひとたまりもないだろう。

 さりとてここから逃げ出す力はない。ー-少なくとも今の俺には。


 はやる気持ちを押さえ、その扉を開ける。

 いつかはやりたいと、やらなければと思っていたことだ。今回はそれが早まっただけ、だから俺ならやれるさ。


 中に広がったのは、コロシアムのようなドーム状の空間。

 その中央には台座に乗った青色の宝玉、ダンジョンコアとその幻影たるボスモンスター。


 グルァァァァァァァァァ


 体長3mはあろう巨大な白色の熊が大きく咆哮する。

 ー-俺はこの音を聞いたことがあった。忘れもしないあの日に。


 グレーターベア(C)Lv._

 筋力 B        

 物防 B     

 魔防 B        

 知性 C       

 器用 C      

 敏捷 B        

 運  C


 <使用スキル☆>

 覇者の波動

 爆風の息吹


 コンカに暴力的なステータスが映る。それに加えて、過去のSランクを再現したボスモンスターは例外的に当時持っていたすべてのスキルを使うことができる。

 対して俺のステータスはこれ。


 月宮 マコ(C) Lv.9  死神 Lv.1    

 筋力 B(↑)          

 物防 D   

 魔防 D       

 知性 D        

 器用 B         

 敏捷 B         

 運  C 

    

 <スキル>

 攻撃系 

  絶命の一撃 Lv.1

 防御系 

  なし

 補助系 

  転移 Lv.2      

 加護系 

  冥王の寵愛 Lv._


 筋力が上がって何とか希望が見出せるようになったものの、それでも圧倒的に足りない。敏捷の数値は同じなのに、相手の攻撃を一発食らっただけでアウトというシビアな条件だ。

 加えて、俺の目的は普通に倒すだけじゃ達成できなかった。


 足を踏み入れると同時、後ろでばたんと扉が閉まる。

 ボス部屋は、挑戦者かボスが倒されるまで何人たりとも中に通さない。

 それがダンジョンで定められた絶対的なルールだ。どんなスキルを持っていようと、覆すことはできない。


 スキルのレベルは使い続けることで上がっていき、ボス部屋は俺が生きている限りダンジョン内で唯一の安全圏となる。だからー-やることは一つ。


 俺はここで敵の猛攻を耐え続ければいい。

 隣のダンジョンへと渡ることとができるようになるまで、つまり「転移」のレベルが3になるまで。


「あはっ、持久戦ってやつですね」


 自然と口から笑みが零れる。

 正直、厳しい賭けだった。勝ち目なんてないに等しい戦いだった。


 ただそれでも諦めるわけにはいかない。

 他に探索の手から逃れられる方法はないし、何よりこんな俺でも誰かに迷惑をかけてもいいと言ってくれた少女がいたから。幸せになる権利はあると背中を押してくれた少女がいたから。


 だから決めたのだ。

 もう何も諦めやしないと。望んだもの全部手に入れてみせると。


「じょーとーです、やってやりますよ。こう見えて私、体力ある方なんです。

 だからあなたもー-頑張って耐えてくださいね?」


 挑発的な口調が今は頼もしい。

 絶望に抗うため、俺は父さんの仇(グレーターベア)へと向き直った。



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