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ハナバナシイチャクチ!

猛暑日の11時。

限界集落寸前と言われている看句村 (みるくむら)には珍しい小学5年生の少女、 黒光菜乃花(くろみつなのか)は髪を結っていた。

ツインテールにしてみたり三つ編みを編んでみたり、自宅玄関の靴箱に張り付けられた姿見の前で髪をいじってもう30分になっていた。

床に置かれたタブレットは『女子の鉄板!ヘアアレンジ特集!』と銘打たれた動画を表示しているが、これも何分もシークバーが同じところを指したまま。


「ん~。…こうか!いや…うーん。」


肩ほどまで伸びているピンク髪をあれやこれやといじってはいるもののなかなか納得いかないようで難しい顔でうんうんと唸っている。

リビングでスイカを切り終えた母が玄関の髪結い娘に声を掛ける。


「あーんた鏡の前でなにしとんの。ほれスイカ食べて宿題やり。」

「今日は宿題バロンとやるー!あっこんな時間!おかーさん!スイカもう一人分切ってー!」

「はいよ。」


リビングに移動した菜乃花は母がスイカを切っている間暇なので机の回覧板に目を落とす。

一番前に留められている一枚のわら半紙。

そこには『看句村 盆祭り 開催にあたって』と書かれている。

大きな皿いっぱいに乗せられた二切れのスイカがどんっと机に置かれる。

ラップで巻かれたそれを両手に持ち、ソファに置かれた赤いランドセルを腕に通して菜乃花は家を出る。


「あっついなぁー!」


騒々しいセミの声。山にかぶった入道雲。あたり一面緑色の田んぼや木々。

菜乃花の好きな季節が来た。

小1の頃から愛用しているピンクの自転車にまたがり、籠にスイカを入れて走り出す。

田んぼに面した長い一直線の道を全力で立ちこぎする。

駄菓子屋みうらの前を通り、神社の方面へと坂を上る。

長い坂道を上り息を切らしながら林にできたあぜ道を通ると目的の場所にたどり着く。

村では珍しい小さな一階建ての戸建て。見た目はボロく、家の表面に絡みつくツタや狭い庭に生い茂る雑草からこの家が整備されていないことがわかる。

ペンキの塗装が所々剥げている扉をノックする菜乃花。


「バーローン!あーそーぼ!」


錆びた鉄から発せられる耳障りな音と共にゆっくりと扉が開かれる。

中からは菜乃花と同じくらいの130cm程の長い黒髪の少年が出てくる。

服装は黒いTシャツに紺色の半ズボン。余所行き用の黄色いブラウスにデニムのショートパンツの菜乃花とは対照的だった。


「今起きたの?」

「うん。」

「もう!夏休みだからって寝坊ダメ!」


慣れた様子で入っていく菜乃花。

バロンは本当に今起きたのだろう、外観に反して今時の家電が多く置かれている家のカーテンは閉まったままだった。


「ネットフリックス見ながらスイカ食べよー。」


カーテンを開け、綺麗に整頓されている机の上にスイカの皿を乗せる菜乃花。

眠そうに眼をこすっているバロンが村で唯一の4K対応の薄型テレビの電源を点ける。


「宿題残ってるのドリルだけだね。」

「うん。」

「あ、そのアニメがいい。」


菜乃花が指さしたアニメを再生する。

迫力のある音を出す最近のテレビだったが、あいにくボロ屋のため外のセミの声に邪魔されている。

スイカを頬張る二人。種を皿に吐きだしながら菜乃花がぽつりと言う。


「村に越してきて最初のお祭りでしょ?」

「うん。」

「東京のに比べると全然大したことないと思うけど出店とか花火とか楽しいよ。」

「あんまり祭りって行ったことない。」


それを聞いて菜乃花はぱあっと顔を明るくする。


「じゃ、行こうよ!二人で!」

「…うん。」


その時だった。

一本の黒い杭が窓に穴を空け、机に突き刺さる。

外から飛んできた突然の異物。


「なんだこれ…?」

「ちょっと!危ないよバロン!」


突如黒い嵐を巻き起こす杭。

部屋全てが重力を忘れたように渦に飲み込まれる。

渦の中心には杭。

その杭から黒い筋繊維がこぼれだし人の形を形成しようとする。

形成は綻び崩れ人の形を成そうと何度も筋繊維を湧き出すが失敗に終わる。

部屋をぐるぐると飛び回る嵐に巻き込まれる二人。


「バロンっ!」

「菜乃花ッ!」


手を伸ばす二人。

しかし菜乃花は見た。

黒い人を保てない筋繊維がその魔手をバロンに伸ばそうとしているところを。

飛んできたミキサーが額に直撃し菜乃花は気を失う。

筋繊維に取り込まれそうになり涙を浮かべて叫ぶバロン。

菜乃花の暗くなった世界にその声が反響する。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「大丈夫!?大丈夫!?しっかりして!」


一人の女性の声で菜乃花は目覚める。

黒い嵐。バロン。人を保てない怪物。

ふざけた悪夢のような出来事。

菜乃花は飛び上がる。


「バロンっ!」


部屋を見回す。最新のスタイリッシュな家具たちは床に散らばりほとんどが壊れてしまっている。

まさに嵐が起こったようなその部屋。菜乃花は涙になりながら先ほどまで話していた友人を探す。


「どこ?バロン!」

「やっぱりもう一人地球人がいたのね。」


女性の声。先ほども耳にしたその声の主を探そうときょろきょろあたりを見渡す菜乃花。


「…?」

「あっごめん。自己紹介するわね。」


菜乃花の左手が黄色く光る。


「わっわっわっ!」


ぶんぶんと腕を振る菜乃花。左手の光は強くなる。

左手から数房イソギンチャクの触手の様なものが生えてくる。

驚いて口をパクパク開く菜乃花を尻目にその触手は一人の黄色く発光する女性の姿を形成する。


「驚かせてごめんね。私はコルル。ギンガ警察よ。この地球ではあなたの体に同居させてもらうわ。」

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