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歪んだ友達


あなたは今日もこの喫茶店を訪れた。

ドアを開けると、カランコロンと来店を告げる音が鳴り、コーヒーの匂いが鼻孔をくすぐる。

奥のカウンターにいた店主が、微笑んで出迎えてくれた。

 あら、いらっしゃい。

 今日は早いのね。あなたが今日最初のお客様よ。


 飲み物は何時ものでいいわよね?

 ――はい、どうぞ。それで、今日早かったのは誰かと待ち合わせでもしたの?


 ……ふーん。それならまだ時間はあるわね。

 どうせこの時間に客は来ないし、よかったらお茶請け代わりに一つお話でもしましょうか?


 あら、興味津々みたいね。

 それならよかったわ。


 ――これは私が小学生の時、初めて父の実家に帰省した時に起きた出来事よ。


 私が夏休みに入ってすぐに両親の実家に旅行も兼ねて帰省したの。

 何時もこっちに来てくれていた祖父母に会ったりとか、ご飯がおいしいとか色々嬉しい事が多かったんだけど、子供ながらに一つ不満があったのよ。

 多分察しが付くとは思うんだけど、父の実家って結構田舎なのよね。


 ――あら? あなたも田舎に行ったことがあるのね。


 それならわかるわよね? うん、そう。遊ぶ所が全然ないの。

 探検だー、って飛び出したはいいけど、すぐに飽きちゃったのよ。それでどこかで遊ぼうにも初めての場所だからどこに行けばわからない。

 帰ろうかどうしようかってぶらぶら歩きまわっていた時に、同い年くらいの子たちが私を遊びに誘ってきたの。


 その子たちは、見知らぬ子がいるって興味津々で声をかけてきてくれてね。

 私も声をかけてくれたのが嬉しくって、すぐに仲良くなって滞在中は毎日遊んだわ。

 川遊びとか、山の中の秘密基地とか、滑り台ぐらいしかない小さな公園で鬼ごっこしたりとか。本当にその数日は楽しかった。


 そんな楽しい毎日だったんだけど、一人だけおかしな子がいたの。

 ピンクのワンピースを着たお人形みたいな女の子なんだけど、その子は私たちが遊んでいると、何時の間にか離れた所にいて、ニコニコと私たちを見ていた。


 その女の子を最初見た時は、仲間に入りたいのかなって声を掛けようとしたんだけど、すぐにいなくなっちゃってね。

 その時は用事があったのかなって、すぐにまた遊びに戻ったのよ。

 だけど、その女の子はまたニコニコと私たちを見ていたわ。


 それに気づいた時は少しだけ変な子だなって思ってたんだけど、一緒に遊んでいた子たちは何も言わないから、私も気にしないようにしていたの。

 今思えばおかしいことに気付くべきだったのよね。だってその女の子、ずっと同じピンクのワンピースを着てたもの。


 ……続けるわね。


 そうして帰る前日になって、最後だからたくさん遊ぼうって朝早くから公園に行ったんだけど、まだ誰も来ていなかった。

 誰か来るまで待ってようと思ったんだけど、朝早くても夏だから太陽の日差しがすごくてね。滑り台の影でボーっと待ってた。


 早く来ないかなー、って待ってた時にね、声を掛けられたの。

 誰か来たのかなって影から顔を出したけど、そこにいたのは、あの女の子だった。

 その日もまた同じピンクのワンピースを着ていた女の子は、ニコニコとした笑みを浮かべていたわ。


 女の子は私と遊びたいって言ってきた。

 私もみんなが来るまで暇だったから、いいよって頷いた。

 でもそれが間違いだったの。


 その子は私の手を掴むと、涼しいから私の知っている場所で遊ぼうって引っ張ってきたの。

 あんまりここから離れたくなかったんだけど、近いから大丈夫って言うその子を信じてついて行った。


 その子はすごく話しやすくて、私の知らない事とかも沢山話してくれた。私も負けてられないって沢山話をして、その子はニコニコと笑みを崩さずに話を聞いてくれたわ。でも、そうやって連れられて歩いて行くうちにおかしい事に気付いたの。


 日が差してすごく暑かったはずなのに、何時の間にか暑さを感じなくなっていた。それどころか、少し肌寒さを感じていたわ。

 それにあれだけ聞こえていたセミや鳥の鳴き声も一切しなくなった。

 何より、その子とかなり長く歩いたはずなのに、一向にその子が言う場所に着かなかった。


 私は少し気味が悪くなって、さっきの公園に戻って遊ぼうって言ったけど、その子はもう少し、もう少しって言うだけだった。

 手を振り払おうとしても、すごく強く握ってきてたから振り払えなかったのよ。

 諦めてその子に連れられてまた暫く歩いたんだけど、着いた先には古いお屋敷みたいな家があったの。


 ここで遊びましょうってその子が私を見て言ってきたんだけど、同じニコニコした笑みのはずなのに、何処か気持ち悪さを覚えたの。私はそれを見て、直感的に逃げなきゃって思った。


 握っている手を何とか振り払おうと、両手でその子の手を掴んで抵抗しようとしたんだけど、その子の腕を掴んで驚いたわ。

 繋いでいた手は確かに熱を持っていたけど、腕の部分は氷みたいに冷たかった。


 えっ、ってなった瞬間にね、パーンって屋敷の方から風船が破裂するような音が聞こえてきたわ。それと同時に、ガラガラって屋敷の玄関が開いたの。

 私もその子も屋敷の方に顔を向けたわ。そこに何がいたと思う?


 ――頭が倍以上に膨れ上がった友達の一人がいたのよ。


 その友達は何かを言っていたんだけど、その度に膨れ上がった頭が波打ってぐにゃぐにゃと歪んでいたわ。

 何より恐ろしかったのは、その友達が小さな赤黒い何かを抱っこしていたの。その何かも生きていたのか、友達の腕の中で蠢いていたわ。


 正直何が何かわからなかった。頭が真っ白になった私は、半狂乱になって悲鳴を上げたわ。全力で掴まれていた手を振り払って、叫びながら逃げた。後ろから女の子が何か叫んでいたんだけど、とにかくがむしゃらに走って逃げた。

 気が付いたら私は祖父母の家で寝かされていたわ。


 公園にやってきた友達が私が倒れていたのを見つけたらしいのよ。

 その友達が祖父たちに知らせてくれて、祖父が家まで運んでくれたの。熱い所で待ってたから熱中症になったんでしょうって母には心配されたわ。

 それで私はああ、怖い夢を見てしまったんだ。みんなと最後に遊べなくて残念だったなって思ってたんだけど、話はそれで終わらなかった。


 夜遅くにね、友達が一人いなくなったってその親が、自警団を連れて祖父母の家に知らせに来たの。

 もう大騒ぎ。私にも何か知らないかって聞かれたわ。

 それでね、気付いたのよ。そのいなくなった友達は、あの屋敷にいた友達だって。

 生まれて初めて血の気が引いたわね。喉がカラカラになって、すごく挙動不審になってたわ。


 それに気付いた祖父がこっそり私を連れ出してくれて、何か知っているのかって尋ねてきたの。

 しどろもどろになりながらも、覚えていることを全部話したわ。

 私の話を聞き終えた祖父は、話してくれてありがとうって頭を撫でながら褒めてくれて、その日は両親と一緒に寝なさいって言われたわ。


 それから私は両親に部屋まで戻されたから、その後何があったかはわからない。でも祖父は自警団の人たちとどこかに行ったみたいね。

 次の日は何事もなく迎えられたわ。でも両親はすごく慌ただしく帰る準備をしてたの。朝食も食べずに祖父母に挨拶だけして、そのまま逃げるように母の実家へと向かったわ。


 私はお別れも言えなかったって少し不貞腐れながら、窓の外を見ていたのだけど、その時に見てしまったの。

 あのピンクのワンピースの女の子が、凄まじい形相で私を見つめていたのを。

 その時の女の子の体はね、あの時見た友達と同じように一部の部位が倍以上に膨れ上がっていたわ。


 その姿を見て、私は逃げる時に女の子が叫んでいたことが鮮明に蘇ったの。


 ――一人じゃ、足りない


 それから私は中学生になるまで父の実家に行くことはなかったわ。

 祖父母が来るなって言ってたみたいね。

 結局あれが何だったのかはわかってないわ。誰も教えてくれなかったもの。

 でも、一つ言えることは……今も、友達は行方不明のままってことよ。


 ふふ、これで話はおしまい。いい時間潰しにはなったかしら?

 ……あら? ちょうど、待ち人が来たみたいね。


 それじゃあ、ごゆっくり。

 ……また、時間がある時にゆっくりお話しましょうね。


この小説は基本的にこの店にいる人の話をただ聞くだけです。

気が向いた時に更新を行っていきます。

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