謎の教官
サクセンドリア士官学校。
帝国きっての名門校ではあるが、入学できた者がみな《華の学園生活》を送れるわけではない。
学校には歴然たるスクールカーストが存在しており、華の学園生活を満喫できるのは、ごく上位の生徒たちだけだ。
その上位というのが――クラスAの教室である。
先述の通り、このクラス分けというのは受験時の成績をもとに行われたもの。
B、Cは中層で、Dは中の下、Eは最下層。
この順番で歴然たるヒエラルキーが存在するらしい。
現代においては《魔法の腕は成長しない》と考えられているらしく、クラス異動が行われるのは極めて稀。
ほとんどの生徒はクラス異動を経験することなく、受験時と同じクラスのまま卒業を迎えることになる。
つまり――
こうしてクラスEとなった俺たちは、スクールカーストの最下位で生きることを決定づけられたことになる。
「はぁ……」
「クラスEかよ……。せめてCがよかったぜ……」
だから現在、教室の雰囲気はとても暗い。
いくら名門校に入れたとはいえ、みんなもっと上位のクラスに入りたかったようだからな。入学早々、葬式のような雰囲気が漂っているわけだ。
「うわぁ……。すごい空気」
とりあえず俺の隣の席に座ったレナスが、やや引き気味に言った。
「まあ仕方ないさ。誰しも自分には才能があると……思い込みたいものだからな」
「うん、それはわかるんだけど……」
「……おまえも気づくか。この違和感に」
「うん……」
そう。
はっきり言って、さっきのヴァハームとクラスメイトの違いが全然わからない。
潜在魔力はさほど違いがないようだし、言ってしまえば、ヴァハームより才能のありそうな生徒さえいるのだ。
(それに……魔法の腕は成長しないというのは、どういうことだ……?)
これもまた、前世の常識に反することだ。
クロエなどはみるみるうちに魔法の腕を磨いていったし、クラス異動も頻繁に行われていたと聞いている。
それなのに、今世では魔法の腕は上がらないだって……?
まるで意味がわからない。
生徒の実力が成熟しているならまだしも、はっきり言って、受験生たちの腕は未熟もいいところだった。
弱い魔法を5メートル先の的に当てるくらいでは戦場では役に立たないし、そもそも、魔法を使う前に「てやぁぁぁぁぁぁぁぁああ!」と大声をあげる意味がわからない。隙を見せすぎである。
(授業が始まる前から、色々と謎ばかりだな……)
たしか学校のカリキュラムは、ベイリフの教えを元にして再構築されたんだよな。
前のカリキュラムを教えていた教官はみな戦場に消えていったらしいし……いまではもう、この違和感に気づける者はいないわけだ。
まさか、ベイリフの魔の手がここまで深く根付いているとはな……
こうして士官学校に入ったことで、改めてその現実を理解できた気がするな。
と。
「おはよう、みんなー!」
やけにフランクな声が、教室中に響きわたった。
そちらに視線を向けると、眼鏡をかけた柔和そうな青年がひとり――
沢山の書類を抱えて、教室に入ってきたところだった。
「遅れてごめんよぉ。今日から皆さんの担当をさせてもらう、ニラフ・ヒュースキンといいます。よろしくお願いします!」
そう言って頭を下げるニラフ教官。
なるほど……彼がこのクラスの担当ということか。
新人の教官っぽいし、ある意味では適任なのかもしれないが……
なんだろう。この違和感は。
「さてさて、皆さん。改めてですが、サクセンドリア士官学校へのご入学、おめでとうございます! ……とはいっても皆さんは将来性のない落ちこぼれ集団ですので、教育してもあまり意味ありませんが……少しでもマシになれるよう、頑張っていきますからね!」
お、おいおいおい。
なんだこの自己紹介は。
「え……? なにいまの……」
「言い方ってもんがあるよな……」
当然のことだが、教室内にもざわめきが広がっていく。
前述した通り、この士官学校に入学するだけでも、相応の資金が必要になる。だから必然、生徒には貴族の子息も多いわけで……
そんな生徒たちを相手に喧嘩を売るメリットなど、どこにもないはずなんだが……
「さて、それではまず、皆さん全員に自己紹介をしてもらいましょうか。才能のない駄目人間たちでも……在学中は、僕がサポートしないといけませんからね」
そう言ってニヤリと笑うニラフ教官に……俺は思わず違和感を感じずにはいられなかった。
本日9/23、本作のコミカライズが各種サイトにて電子単行本化しています!
漫画家さんが超面白く描いてくださったので、ぜひともお読みくださいませm(_ _)m




