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何もしてない……よな?

 さて。


 入学試験はひとまず、《実技試験》から始めるようだ。


 剣士を志す者であれば《剣技試験》。

 魔術師を志す者であれば《魔術試験》。


 正直どちらを選んでもよかったわけだが、俺もレナスも、ひとまず魔術試験を選ぶことにした。魔族の言っていた喪失魔法(ロストマジック)というのが純粋に気になるし、どんなふうに世界が弱体化されているのかを知る機会になるだろうからな。


 というわけで。


「ていやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああっ!!」


 ボウゥ、と。

 受験生が放った炎の球が、見事カカシに命中。


 当たっただけ(・・・・・・)で威力もクソもない一撃だったのだが、受験生にとっては悪くない一撃だったようだな。満足そうな表情を浮かべ、待機場へと歩きだしている。


 この一回だけではない。

 どうやら《カカシの近くに魔法を打てれば及第点》という試験内容らしく、見事それができた受験生たちはみな嬉しそうな表情を浮かべていたのである。


「……マジか」


 最下位を目指す予定ではあったんだが……これはあからさまにレベルが低い。


 正直、魔法を的に当てるくらいなら、前世では六歳の子どもですら普通に行えた。それが15歳の……しかも国の将来を担う有望な若者の実力になっているとは……


「てやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」


 ボウ、と。

 またひとり、受験生が火球をカカシに当てたようだ。


「ふむ……今年は優秀な者が多いですな」


「ええ。まさか三割近くの受験生が的当てに成功するとは……」


 試験官の様子を見るに、「今年だけレベルが低い」というわけでもなさそうだな。


 むしろこれで優秀な部類に入るらしいから、さっきから頭痛が収まらない。


「ふふ……これは大変ね、レクター」


「ああ。困ったものだ……」


 最下位を狙うとはいえ、ここまでレベルが低いとなると、どのラインを目指せばいいのだろうか。とりあえずカカシの近くまで魔法を放つことができれば正解か?


「では次。レクター……・ブラウゼル」


 俺を呼ぶ試験官の表情が、やや曇っていた。


「おい、あいつレクターって……」


「気の毒にな。よりによって偽勇者(・・・)と同じ名前をつけられるとは」


 ……わかりきっていたことだが、レクターという名前は、今生ではかなり悪印象を与えるようだな。もちろん、それだけで差別されたり、虐められるといったことはなかったわけだが。


「レクター♡ 頑張ってー♡」


 かのレナスだけが、マイペースに手を振って応援してくれている。


「まったく……あいつは」


 少しだけ救われた気持ちになりながら、俺はカカシの五メートル前に立つ。


 これまで多くの魔法を当てられてきたはずなのに、当のカカシはまだピンピンしていた。


(さて……どうすればいいかな)


 カカシに的中させるのは論外。これだけで上位3割に入ってしまうようだからな。


 カカシの近距離に当てるのも論外。これも優秀な部類に入ってしまう。


 かといって遠くを狙いすぎると、今度は合格が怪しくなるからな。


「レクター殿。どうされたかな」


 しかし、あまり考えている時間もなさそうだ。


(仕方ない……。とりあえず、適当な位置に魔法を撃つか……)


 そう判断した俺は、ひとまず適当に右手を突き出し、下級魔法の《ファイア》を発動。


 ドォォン! と。

 他の受験生よりはやや大きめの火球が、カカシの少し離れた位置に直撃した。


「目標から1メートル離れた位置に着弾……。この程度か」

「まあ……悪くはないんですがねぇ」


 試験官たちがおのおの感想を述べながら、机上のノートに何かを書き込んでいる。


 とりあえず……狙いは成功したっぽいな。


 あからさまに外したわけではないし、これなら不合格を避けつつも、最下位あたりのクラスに入ることはできるだろう。


「なんだよあいつ……美人を連れてる割にはたいしたことねえな」

「ああ。しょべえ狙いだったぜ」

「あの女の子、レナスっていうんだよな? 俺、奪っちまおうかな」


 他の受験生たちも、俺の無能っぷりをヒソヒソ話し合っている。


 うん。これでいい。

 落第にならない程度に低い点数を出す――その狙いは成功したようだ。


 しかし。


「いや……待たれよ」

 試験官のなかで一番高齢の男性が、妙に威厳のある声を発した。

「レクターとやら。そなた……いま、どうやって魔法を発動した」


「え……? いや、普通にですが……」


「普通に……? そなたにとってはあれ(・・)が普通だと言うのか」


 なんだこの反応は。


 別に強力な魔法を撃ったつもりはないし、距離もうまいこと外したはず。

 なにもおかしなことはやってない……よな?


「ええ。私にとってはあれが普通ですが」


 だから自信を持ってそう答えたのだが、老齢の試験官は「うーむ……」と言って顎をさするのみ。


「どうされたのですか、ヴェール教官。私も特に妙な点は見つけられませんでしたが」


「…………うむ」

 ヴェールと呼ばれた老齢の試験官は、最後にまじまじと俺の顔を見て言った。

「そなた。名前は」


「レ、レクターです。レクター・ブラウゼル……」


「ふむ。あいかわった。引き留めてすまなかったな、レクターよ」


「…………」


 なんだ。よくわからないが、目をつけられてしまったか……?


 首を傾げつつ、俺は待機場へと向かうのだった。

いよいよ、明日コミカライズがグラストコミック様にて公開されます!

無料で読めますので、ぜひお越しくださいませ……!

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱりBANして終わりだった件。(´д`)(その安定苦ぶりときたら。)
[一言] 見た感じ、、ヴェール教官はレクターが勇者やってた頃からいた人間っぽいな…だから今のショボい魔法とレクターがやった昔の魔法の違いに気がつけたのかな?
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