表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/22

喰えない女

 魔族を倒してから数分後。


「あら。お早い退治ね」


 ふいに、背後から声をかけられた。

 変声機能によって“野太い声”をしているが、振り返らずとも誰かはわかる。


「ふ……君こそタイミングよく戻ってきたじゃないか。それも《直感》の力なのかな」


「うふ。どうかしらね♡」


 改めて身を翻すと、やはりそこにはレナス・カーフェの姿。


 もちろん黒い仮面を被っているので、可愛らしい少女の出で立ちではないけどな。

 この場で姿を晒すと色々と面倒だし、仮面を被ったままなのは賢明な判断だろう。


「しかし、妙だね。わざわざ私に任せなくとも、君なら下位魔族くらい倒せたのでないかね?」


「いやいやー、そうだね。やろうと思えばできるかも」

 そう言いながらレナスは下唇に人差し指をあて……妖艶に笑う。


「でも、レナスのはちょっとエグいから。ちょっと刺激が強すぎるかもしれないの」


「…………」


 幼馴染――レナス・カーフェ。

 以前から妙に大人びた仕草をしているとは思っていたが、これで確信に至ったな。


 この女は――普通の女じゃない。

 妙に研ぎ澄まされた直感力といい、なにかがあるとしか思えないのだ。


「なるほど。先ほど幼馴染の家に行って号泣していたのは……やはり演技だったのかな」


「うふふ、どうかしらね♡ 私、わかんなぁい」


「ふ、喰えない女だ」

 俺は苦笑とともに肩を竦めると、改めてレナスを見つめて言った。

「それで……教えてくれないかね。なぜ自分ではなく、わざわざ《R》に魔族討伐を依頼したのか」


「んー、そうだね。“それが依頼だから”かな?」


「依頼、だと……?」


「うん。《R》の強さを見極めて、魔族を簡単に倒せるようだったら……こう言われてるの。レナスと二人で、魔王・・を倒してほしいって」


「ほう……」

 その依頼主の正体も気になるが、俺はもうひとつのほうに気を惹かれた。

「面白いことを言うな。魔王はすでに倒されているのではないか? 10年前、勇者ベリナスの手によって」


「レナス、まどろっこしいこときらーい。あなたも本当はわかってるんでしょ? 魔王は倒されていないってことを」


「…………」


「ううん、本当はもっと厄介なことになってる。あろうことか、ベリナスは魔王の側になっていて……いまでも少しずつ人類を衰えさせてきてる。ほとんどの人間はそれにも気づかないで、ベリナスを聖人のように崇拝してるよね」


「ふむ……そうかもな」


「レナスも“依頼主”のことはよく知らないけど……こんな状況だしね。魔王討伐を依頼する人がいてもおかしくないとは思うよ?」


 なるほどな。


 それ自体は一理ある。


 依頼主とやらの正体は気になるが、ベリナスの裏側を知る人物がいたことにも驚きだ。


 前世でも、今生でも……

 あいつを聖人呼ばわりする人間が多すぎて、いい加減嫌になってきたところである。


「もちろん、依頼主さんもタダであなたに頼むつもりはないそうよ。とりあえず、一生分遊んでくれるお金と、ミューラ地方の一部領地をあなたにあげるって」


「なに……?」


「もちろん、嘘じゃないよ。ほら」


 そう言うなり、なんとレナスはどこからともなくアタッシュケースを取り出した。おそらく空間魔法……異次元空間において、一時的に荷物を預ける魔法だろう。


 そして想像通り、アタッシュケースには大量の紙幣が詰め込まれていた。


「これは前金だって。魔王を倒してくれたら、約束通り一生分のお金を払うみたいよ。どう? 悪くないんじゃない?」


「…………」


 これは驚いた。

 依頼主の正体はいまだ不明だが、仕事を請け負うだけで想像以上のリターンをもらえるらしい。


 ベイリフは転移者だし、本来なら絶対に勝てるわけのない相手だが……

 いまの俺は転生を果たし、文字通り不正の力を手に入れた。

 であれば……レナスの言う通り、悪くない条件かもしれないな。


「もちろん、魔王は手強い相手よ。でも私の直感によれば、魔王を倒せるのは世界であなたひとりしか――」


「よかろう。その話、乗ってやる」


「いないは――え? まさかの即答⁉」


「ああ。自由気ままに生きるために、これほど打ってつけな提案はあるまい。違うか?」


「う、うん……。それはそうかもしれないけど……」

 そしてなぜか、レナスは急に俺に腕を絡める。

「本当はもっと色っぽい条件を出してもよかったんだけどねー。ほら、男の子はみんな好きじゃない?」


「フフ、安心しろ。俺はロリコンではない」


「普通に傷ついたんですけど⁉」

 むー、と不満そうに頬を膨らませるレナス。

「おかしいなぁ。胸も大きいつもりなのに……」


「ああ。おまえは綺麗な女だと思うぞ」


「むー。めちゃくちゃ嘘っぽいんですけど……」


 実際、レナスのそういう女性らしさにバルフも惹かれていたわけだしな。

 他の男児たちもレナスに一目置いていたようだし、魅力的なのは違いないだろう。


 ただ、俺の恋愛遍歴はまさに悲惨そのもの。


 誰かを好きになっても……良いことはひとつもないのだ。


「ぷん、納得いかない。私、あなたに好きになってもらうように頑張りますからね」


「はいはい、勝手にするがいい」


 俺が肩を竦めた、その瞬間。


「着いた! ここだ!」

「あれ……? 魔族がいない……?」


 突如、武装した人間たちが走り寄ってきた。


 よくよく見ると、さっき逃げたはずの冒険者たちも数名混じっている。逃げろと言ったはずだが、増援を呼びに行ったわけか。


「や、やっぱりそうだよ……! 俺、見たんだ!」

 冒険者のひとりが甲高い声で叫んだ。

「空からでっけえ炎の柱が降ってきて……間違いない! あれは10年前に失われたはずの喪失魔法だ!」


「はぁ……? さすがに冗談だろ? ベイリフ様しか使えないはずの魔法だぞ……?」


「でも、現にこうして魔族の気配がないわけだしな……。あながち見間違いとも言い切れん……」


 あーあ、こりゃ面倒なことになったな。


 つい調子に乗って、派手な上級魔法を使ってしまった。

 10年前ならともかく、現世では絶対に目立ってしまうのに。


「ふふ、ご安心ください♡」

 戸惑いの声をあげる冒険者たちに、なぜかレナスが歩み寄った。

「この世の欺瞞ぎまんは、この《月詠の黒影》が残らず狩り尽くします。皆さんも、どうか偽物の聖者に騙されぬよう……」


 そして彼女は俺の右手をぎゅっと握ると、空属性の魔法を発動する。


 使用する魔法は《浮遊》。

 現代では喪失魔法と呼ばれているそれを、レナスは普通に使ってみせた。


 やはりこの女……色々と隠していやがるな。


「う、浮いた……⁉」

「あれも喪失魔法か……⁉」


 冒険者たちも目を見開き、すっかり空高く浮かび上がった俺たちを見上げている。


「それでは皆様、ご機嫌よーう♡」


 今度はレナスの空間魔法が発動し――

 俺とレナスは、この場所から転移したのだった。


ここまでお読みくださり、ありがとうございました!


ここからどんどん盛り上がっていきますので、

ブクマ・または広告下の【☆☆☆☆☆】をクリックorタップして評価していただけますと嬉しいです!


これが更新のモチベーションになりますので、ぜひともよろしくお願いします!


(ノシ 'ω')ノシ バンバン!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 続きが読みたい
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ