第4話『彼女の日常・眠れぬ朝』
目覚ましが鳴り響く。
それが私にとってはいつもの朝だった。
眠れないまま朝を迎えるようになってからも、それは変わっていない。
あのときより前に日常だったことを変えるのが、怖かったのだ。
だからこそ、いつも通りだった。
朝に目を覚ましたらご飯食べてから学校行って、終わったら友達と寄り道したりしてから帰ってきて。
そんな、なんでもない日常としての毎日を繰り返す。
そうやって過ごしてきたからこそ、忘れてしまうには都合が良かった。
まぁ、今日は学校をサボることになってしまうけど。
それでも、きっとその後はまた、いつも通りへと回帰するのだろう。
もちろん、逃げたい気持ちが無くなったわけではない。
だけど、もう覚悟は決まっている。
さぁ、そろそろ家を出ないとお父さんに不審に思われるかもしれない。
そうして私は、いつも通りの時間に制服に身を包んでから家を出た。
昼に待ち合わせをしたのは、理由があった。
朝だと、友達と鉢合わせしてしまう可能性がどうしても高くなってしまうし、夕方すれば学校帰りの寄り道で向かいづらくなってしまうからだ。
板橋公園は常に人気があるとは言えないが、人がまったくいない日もあまりないような、そんな場所だった。
木陰にあるベンチに座り、ぼんやりと公園内を見渡していると、女の子がお父さんらしき男性を引っ張って走り回っているのが見えた。
女の子はとても嬉しそうに笑っているし、男性の方も苦笑いながらも楽しそうなのが伝わってくる。
微笑ましい、という言葉が似合うその光景に、思わず幼い頃の思い出が蘇り、口元がにやけてしまう。
お父さんは基本的には忙しい人だった。
会社が家からそんなに離れてはいないため、朝は少しのんびりだが、残業が多く、休日出勤もよくあった。
だから私は、お父さんが休みの時は思いっきり相手をしてもらった。
今考えると少し酷なことをしていたと思う。
だけど、お父さんはそんな私のわがままを苦笑いしながら聞いてくれていた。
あんな風に公園に連れてきてもらって、遊具の中を引っ張り回したりもしたものだ。
懐かしいな。
そんな風に、思った。
「――お待たせしました。イズミさん」
すぐそばの方から聞こえた声に顔を向けると、私より少しだけ年上に見える女の人が立っていた。