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【カーネーション】  作者: 神崎慧
第一部
4/21

第3話『彼女の過去・眠れぬ原因』


 最初は、それが何を意味するのか分からなかった。

 こういうのを気配で起きた、なんて表現してもいいものなのかは分からない。

 だけど、目が覚めた私は、それがまだ朝ではないということに気付いて、ただびっくりしていた。

 普段なら、少なくとも目覚ましが鳴り響く7時頃まで起きることはない。

 そんな私がまだ部屋が暗いうちに起きるというのは、なんだか変な感じだった。

 だけど、それを思うのと同じように、不思議なことに気が付いた。

 寝ていた私の上に、人がいたのだ。

 ぼんやりと見えるその顔は、もちろん、知らない人ではなかった。

 いや。よく知っている人だった。

 そこには、自分の手を支えにして、私に覆い被さるようにする、お父さんの姿があった。

 ただ、いつもとは違う、荒い息づかいで。

 目が、怖かった。

 たぶんそれは、本能的な恐怖だったのだろう。

 ただただ、いつもと違うお父さんの姿が、恐かった。

「おとう……さん?」

 なんとか出てくれたその言葉は、掠れてしまって、本当に発することが出来たのか、分からなかったし、お父さんはそれでも、私の上で荒い息を繰り返すだけだった。

「―――」

 ふいに、小さな声がお父さんの口から漏れた。

 それはあまりにも小さくて、その上震えていて、ちゃんと聞き取ることが出来なかった。

 だけど。

 それが始まりを告げたらしく、お父さんの体がゆっくりと動いた。



 悲鳴は、あげなかった。

 いや、叫ぶことが、出来なかったのだ。

 恐怖が、言葉を封じてしまっていた。

 私に出来たのは、目を瞑ってただひたすらに耐えることだった。

 感覚を遮断できたら、どんなに良かっただろう。

 そんなことを考えた。

 終わった後、お父さんは無言のまま、部屋を出ていったみたいだった。

 ただ、それだけだった。

 次の日からは、またいつも通りだった。

 厳しくも優しい、私のことを心配してくれる、いつものお父さんだった。

 夢だったんじゃないかと、何度思っただろうか。

 夢であってほしいと、何度願っただろうか。

 でも、あれは間違いなく現実で、あれから一睡もすることが出来なくなったのだから。

 寝てしまえば、繰り返されるような気がしたのだ。

 それが、怖かった。

 そうなることが、恐ろしかった。

 そんな思いが、私を眠れない体にしてしまったらしい。

 そうして、何もなかったフリを続けてしばらく経った頃。

 彼女のことを――【カーネーション】の存在を知った。

 あれからも、私以外はいつも通りで。

 だから私が忘れればそれで済むのだと、そう思った。




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