第二部3話『始まりの着信・勇気の源泉』
お風呂から上がり、そのままベッドに倒れ込む。
髪がちゃんと乾いていないからシーツが濡れるが、そんなに気になるほどじゃない。
俯せに寝転んだままぼんやりしていると、すぐそばに置いていた携帯電話が鳴り出した。
表示は『非通知』。
まぁ、よくあることだ。
「……はい。もしもし?」
『死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね』
「――はいはい。お疲れ様」
呪詛を唱えるように続くそれに、私はそれだけ言って電話を切った。
最近、この手のいたずら電話が増えてきた気がする。
まぁ、仕方ないといえば仕方ないのだけど。
私がメイとして活動を始めてから二年。
記憶を忘れさせる、なんていう触れ込みのせいかは知らないけど、こういう電話が増えたのは確かだった。
それでも非通知を拒否しないのは、客のほとんども非通知で掛けてくるからだ。
麻薬と思われる薬に手を出すのだから、最低限の警戒とも言える。
ため息を吐いて携帯を元の位置に戻す。
とほぼ同時に、再び着信が鳴り響いた。
表示されているのは知らない番号。
この携帯電話は、今まで通知して掛かってきた番号はすべてアドレスに登録してある。
つまり、今まで通知して掛けてきたことはない、ということになる。
そういえば、最近は非通知か常連ばかりだったな、と思いながら電話に出る。
「……はい、もしもし?」
『――メイさんの携帯電話で宜しいですか?』
「えぇ」
『【カーネーション】を発注したいのですが、こちらで間違いなかったでしょうか?』
「――はい。伺います」
最初に感じたのは、若く柔らかい声に似合わない硬い口調の違和感だった。
営業を仕事にしている人がするような、マニュアルでもあるかのような、そんな口調。
だけどそれは、慣れていない人が口にすれば、たやすく見破ることが出来る。
彼は、慣れていない側の人間だった。
お客様の立場なのだから、別にそこまで頑張らなくても良いと思うけど……。
とりあえず、様子見かな。
『……それであの、どこに行けば良いですか?』
「お客様が指定する場所で構いません。――と、すみません。その前に、お名前をお聞きしても宜しいですか? もちろん、統一していただければ偽名でも構いませんので……」
『あぁ、すみません。そうですね……。それでは、マサキでお願いします』
「マサキ様ですね。分かりました。それでは、日時と場所の指定をお願いします」