第二部プロローグ
光。
雨が降っていて薄暗い中、ただそれだけが印象的だった。
迫ってくる車のヘッドライトが、眩しくて、思わず目を閉じていた。
耳に響くのは、クラクションと、ブレーキの音。
そして、誰のモノかも分からない、悲鳴。
場違いにも、うるさいと感じてしまった。
それから、すぐに衝撃を感じた。
だけどそれは、思っていた方向とは違っていて。
思っていたよりも、ずっと軽いものだった。
ほとんど痛みを感じない体を不思議に思いながら目を開けると、道路の脇の方にいて、中心の方に人が倒れていた。
そのすぐ傍には、さっきまで私に迫っていたはずの車があり、そのライトの照らす先にある水溜まりが、赤く染まっていた。
たくさんのクラクションが鳴り響く中、呆然と、ほとんど無意識に体を起こしている自分に気がついた。
擦り傷でも負ったのか、痛みを感じながら、それでもその倒れている人に近づく。
なんだか、見覚えがある気がして。
どうしてか、知っている人だと、思ったから。
そんなわけ、ないのに。
あるはずが、ないのに。
それなのに、何故か、そう感じてしまったから。
近づくにつれて、影になっていて見えなかった顔が、見えていくのがなんだか印象的だった。
少し、茶色く見えるその髪の色は、私の知っている彼に似ていた。
その服も、なんだか見覚えがある気がする。
いつか彼が同じ服装でいたように記憶している。
その顔も、双子なんじゃないかと、そう思うほどにそっくりだった。
そう。
それはあまりにも彼に――最近付き合いはじめた彼に、とてもよく、似ていた。
「――ぃやだ……いやだあぁぁぁぁあぁぁっ」
私の口が、叫びをあげた。
認めたくない頭が、現実を否定するように動いていたにも関わらず。
それでも、体は正直に、現実を見つめているように。
心が拒んでいたにも関わらず、この人が、彼本人だということを、理解していた。