第12話『彼女の現実・様子見の昼』
彼女のことを知った時から、そんな不安があったのは確かだ。
もしかしたら、という可能性が怖くて、考えることを避け続けていた。
そう。前にも何度かあったのだ。
数週間分の記憶を忘れていることが……。
学校の友達にその忘れているときのことを尋ねても、その記憶のない時間も、私は何事もなかったように毎日を過ごしていた、という答えしか返っては来なかった。
だから、彼女のことを知ったときに、考えてしまった。
もしかして、と。
だけど、それは同時に、あの日が初めてではなかったのだと、そういうことにもなり得てしまう。
だから、その可能性について考えることを拒絶した。
これがきっと、思い出すということなんだと思う。
忘れていたはずの日々の記憶が、早回しで再生されるような感じだ。
そしてそれは、最後は決まって彼女から買い取った『薬』――【カーネーション】を飲んだ後に、眠りという闇に落ちていく意識とともに消えていってしまう。
そうして、繰り返される。
こうして、繰り返してきたのだ。
それが、現実、なんだ。
「――思い出した、みたいですね」
「――はい。色々なことを、思い出すことが出来ました。ずっと、助けてもらっていたんですね、私……」
「それでは、思い出しましたか? 私の言った言葉を。今なら、分かりますか? その言葉の意味が……」
その言葉に、忘れていた記憶の終わるとき、最後の記憶が途切れる直前に、毎回、彼女が口にしていた言葉を思い出す。
『すべての過去を受け入れるために――それくらい強くなるために必要な時間を、期限つきではありますが、その時間をあなたにあげます。けれど、その時にそれを受け止められるのか、それで幸福になれるのかは、その時のあなた次第です』
確かに、今なら分かる気がする。
前のときよりも、衝撃が無いのが分かるから。
それは、私の心が成長して強くなった、ということなのだろうか。
それでも。
「……今日がもう、その期限の日、なんですか?」
「いえ。まだ先の話ですよ。今日はまぁ、実験を兼ねた様子見です。もちろん、大丈夫ならそれも構いませんが……」
今はまだ、過去は過去、だなんて、そんな簡単に割り切ることが出来ない。
今はまだ、受け入れることが出来ない。
だから――。
「すみません。今の私にはこの記憶を受け止めることが出来そうにありません。……なので、【カーネーション】をください」
私がそう言うと、彼女は一度頷いてから、【カーネーション】の置いてある場所へと足を進めた。
私も彼女を追いかけるように歩きながら、少しだけ考えてみた。
確かに今はまだ、受け止めることが出来ない。
だけどもしかすると、この記憶ともちゃんと向き合えるときが来るのかもしれない。
そう思えた。