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【カーネーション】  作者: 神崎慧
第一部
13/21

第12話『彼女の現実・様子見の昼』


 彼女のことを知った時から、そんな不安があったのは確かだ。

 もしかしたら、という可能性が怖くて、考えることを避け続けていた。

 そう。前にも何度かあったのだ。

 数週間分の記憶を忘れていることが……。

 学校の友達にその忘れているときのことを尋ねても、その記憶のない時間も、私は何事もなかったように毎日を過ごしていた、という答えしか返っては来なかった。

 だから、彼女のことを知ったときに、考えてしまった。

 もしかして、と。

 だけど、それは同時に、あの日が初めてではなかったのだと、そういうことにもなり得てしまう。

 だから、その可能性について考えることを拒絶した。

 これがきっと、思い出すということなんだと思う。

 忘れていたはずの日々の記憶が、早回しで再生されるような感じだ。

 そしてそれは、最後は決まって彼女から買い取った『薬』――【カーネーション】を飲んだ後に、眠りという闇に落ちていく意識とともに消えていってしまう。

 そうして、繰り返される。

 こうして、繰り返してきたのだ。

 それが、現実、なんだ。



「――思い出した、みたいですね」

「――はい。色々なことを、思い出すことが出来ました。ずっと、助けてもらっていたんですね、私……」

「それでは、思い出しましたか? 私の言った言葉を。今なら、分かりますか? その言葉の意味が……」

 その言葉に、忘れていた記憶の終わるとき、最後の記憶が途切れる直前に、毎回、彼女が口にしていた言葉を思い出す。

『すべての過去を受け入れるために――それくらい強くなるために必要な時間を、期限つきではありますが、その時間をあなたにあげます。けれど、その時にそれを受け止められるのか、それで幸福になれるのかは、その時のあなた次第です』

 確かに、今なら分かる気がする。

 前のときよりも、衝撃が無いのが分かるから。

 それは、私の心が成長して強くなった、ということなのだろうか。

 それでも。

「……今日がもう、その期限の日、なんですか?」

「いえ。まだ先の話ですよ。今日はまぁ、実験を兼ねた様子見です。もちろん、大丈夫ならそれも構いませんが……」

 今はまだ、過去は過去、だなんて、そんな簡単に割り切ることが出来ない。

 今はまだ、受け入れることが出来ない。

 だから――。

「すみません。今の私にはこの記憶を受け止めることが出来そうにありません。……なので、【カーネーション】をください」

 私がそう言うと、彼女は一度頷いてから、【カーネーション】の置いてある場所へと足を進めた。

 私も彼女を追いかけるように歩きながら、少しだけ考えてみた。

 確かに今はまだ、受け止めることが出来ない。

 だけどもしかすると、この記憶ともちゃんと向き合えるときが来るのかもしれない。

 そう思えた。




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