第11話『彼女の真実・種明かしの昼』
「はい。今日の待ち合わせ場所、スタート地点のここが、今回の『花屋さん』です」
彼女はあっさりとそう言うと、そのまま中に入って行く。
「そろそろ少しだけ種明かしでもしましょうか」
「種明かし……?」
「そうです。まず、あなたは疑問に思うべきでした。私があなたを『イズミさん』と断定したことを」
何を言っているのか分からない。
そんな私を無視するように、彼女は歩を進めながら言葉を続ける。
「でも、それ自体は不思議でもなんでもないんじゃ……」
「待ち合わせ場所、ですよ」
待ち合わせ場所って、板橋公園のことだよね?
何が――。
いや、違う。
待ち合わせ場所はもっと細かく指定していた。
板橋公園の入口だと。
いや、待って。彼女が私を見つけたのは……声をかけたのは……。
公園の中にある、ベンチだったはずだ。
待ち合わせ場所でもない、そんなところにいた人に、気軽に声をかけたりするだろうか。
当たり前のように名前を呼んだり――。
「私はね、知りたいんだよ。忘れてしまった記憶の、取り戻し方を。その方法を。だからね――」
そこで彼女はくるりと振り返ると、初めて見せる残酷な笑顔を浮かべて、笑っていた。
「勝手に試作品の実験体になってもらっているあなたには悪いとは思っても、止まるわけには行かないんですよ。たとえ誰を犠牲にしてしまったとしても。そう思わないですか? 『常連の』イズミさん?」
その時に私を襲ったその感覚の例え方を、私は知らない。
無理矢理に例えるなら、きっと忘れていた夢を思い出す感覚に近いモノ、だろうか。
グラグラする視界に堪えられなくなって地面に座り込んでしまう。
思考がどこかに吹っ飛んだような、気がする。
彼女は私を『常連』だと言った。
それの意味を、私は――。
「あぁ、やっと効いてきたみたいね。さぁ、思い出して。あなたの過去を。忘れてしまった、その記憶を」