限定的不良少女
小学校の時の好きな人が、中学生になると不良になっていた。
体育館での始業式が終わり、二年二組の教室は、新しいクラスに馴染もうと、クラスメイトが騒がしい。
だが、北条かなでだけはピクリとも顔を動かさず、机の下でスマホをいじっている。
セミロングくらいの黒髪をサイドに束ね、大きな一重の目を持つ美少女だ。
「北条さん、今年もよろしく!」
彼女の隣の席の新見が、無邪気に話しかける。人当たりの良さそうな柔和な男だ。
去年も彼女と同じクラスだったからか、妙に馴れ馴れしい。
僕は隣のクラスだった。
中学での一年のブランクは大きく、彼女に話し掛けられずにいる。でも、
「はあ? 知らないし」
彼女はスマホの画面から目を離さず、冷たくそう言い放った。新見は困ったようにはにかんでいる。
変わっちゃったなあ……。
僕は、彼女の後ろの席でツヤツヤした形のいい後頭部を眺めながら、しみじみと思った。
小学校の時は、一人でいることが多かった僕に話しかけてくれたり、遊びに誘ってくれたりしたり、明るくて面倒見のいい女の子だった。
けれど、恥ずかしがり屋で不器用な面があるのも僕は知っている。
そんなことを考えていると、今日の始業式は終わった。
学校からの帰り道、僕の目の前に北条が女友達と歩いていた。
小学校が同じなので帰り道が一緒になることはよくある。
歩調は僕の方が速いが、追い越すのは何だか気まずいのでゆっくり彼女たちについていった。
その時、北条のリュックからキーホルダーが外れて落ちるのを見た。
どうやら彼女は気付いていないらしい。
話しかけづらいが、無視するわけにもいかない。
僕は地面に落ちたキーホルダーを拾った。よく見ると、映画『スターウォーズ』のロゴが付いている。
「北条、これ落としたよ」
僕は早口でそう言って、キーホルダーを差し出した。
「え。ありがとう。君、久しぶりじゃん!」
彼女は僕を見て、昔と変わらない弾けた笑顔を見せた。
僕のこと覚えてくれていたんだ。
びっくりして「うん」とだけ言うと、足早にその場から去った。
「僕もスターウォーズ好きなんだ」とか、何か言えばよかったと、家に帰ってからひどく後悔した。
予想外に、次の日の朝も彼女は笑顔で話しかけてくれた。
「後ろの席だったんだ! ちょっと早く言ってよー」
僕はまた驚いて、「あはは」としか言えないでいると、彼女は前の席の友達と、楽しそうにはしゃぎだした。
昨日の様子は、たまたま機嫌が悪かったからだろうか。
そう考えていると、彼女は突然静まり返り、スマホをいじり始めた。
「おはよう」
登校してきた新見に話しかけられても無視している。
「あれ、そのキーホルダー」
ふと新見が北条の机にかけてあるリュックを指さした。北条の肩がビクッと震える。
「北条さんもスターウォーズ好きなの? 俺も好きでさ。おんなじの持ってるんだ」
新見は笑顔で、鞄からキーホルダーの付いた筆箱を取り出した。
「いや、好きじゃないし。なんとなく付けただけだから!」
北条はまっすぐ前を見ながら早口でそう言うと、スマホを激しくタップし始めた。
もしかして……。
どうやら彼女は不良でもなんでもなかったらしい。
僕は後ろの席から、彼女の真っ赤に染まった耳をじっと見つめていた。




