人と魔法を繋ぐモノ-2
「あやかちゃん…ね…」
みどりちゃんの姿が彼女が曲がり角を過ぎて見えなくなった辺りで、不意に彼女が口に出していた名前を思い出す。…みどりちゃんにへばりついている悪意と関係があるのかな。
「あのチビに付いてた悪意…一応食っておいたが…ありゃまたすぐにこびりつくぞ」
インスタントコーヒーで口直しをしている灼晶は不快感を隠そうともしない。
ただの子供にあんなに悪意がベッタリとこびりつくことは珍しい…多分彼女の近くにそういうものを寄せやすい子がいるんだと思うけど。
「放っておくと…嫌なことになりそうなのよね」
「見ておくか?」
「うん、お願い」
マグカップを置いて店の外へ飛び出していく灼晶を窓から見送ってから、私は杖を取り出して顧客リストをそっと開く。
杖をかざすと、本のページがパラパラと捲られ、普段は見えないように魔法のインクで記している小さな友人たちが集めた顧客の情報が浮かび上がってくる。
「ああ…もしかして、あやかちゃんって…」
浮かび上がった一人の名前を見てピンときた。
先日、派手にお守りを穢したあのふくよかな女性客のページで魔法が止まる。
そのページには、青白い文字で娘という文字と共に文佳という名前が映し出された。
お守りに付いた穢れ自体は、山羊頭の客人のようなタイプが引き取りに来るのでごみになるわけではないし、引き取り手がいない場合は灼晶が食べてくれる。
お守りが台無しになるのはよくあることだけど、でもあのみどりちゃんのお守りに込められた願い事が他人の悪意で台無しになるのは嫌だな…。
「うーん…早めに手を打ったほうがいいかしら」
引き出しの中から小さな香炉を取り出して火を灯し、冷蔵庫からミルクと小麦の穂を用意した。
香炉の前に置いた松の木で作った小皿にミルクと小麦の穂を入ると、窓からは透き通った翅を持つ小さな友人たちと、片手に角杯を持った短髪の小さな淑女が入ってきた。
彼女たちが木の小皿の前に群がると、麦の穂は音もなく黒ずみ、ミルクはくすんだ色になる。
食事を食べた小さな友人たちは甲高い小さな鈴の音のような声で囁きふふっと笑い合って踊りながら再び姿を消した。
「これでなんとか時間が稼げればいいけど…」
小さな友人には、こうやって古来からの方法でみどりちゃんと灼晶を助けてくれるようにお願いをしておく。
私は、炎を操ったり、天気を操れるような強大な魔法使いではないけれど、他の人間より少し妖精に頼み事をするのは得意だから…。
人の気配も隣人《妖精》たちの気配も消えた店内はやけに静かで心が妙にそわそわする。
落ち着かないので、減った分のブレスレットを作るために、棚から材料を取り出して椅子に腰掛けた。
「えーっと…確かこの間、仕入れたはずだから…」
髪長の友達から受け取った金色の絹糸のような髪の束をテーブルの上に広げておく。
自分の髪を一本引き抜いて願いを込めながら金色の髪と一緒に編みこんで一本の紐にしていく。これを身に着けた人間がどうか小さな友人たちとの良い縁を結びますようにと…願いを込めて…。