人と魔法を繋ぐモノ-1
「お姉さん…あのね、魔法なんて嘘だって…そんなことないよね」
あれから数日後、予想通りやってきたみどりちゃんは、少しやつれているように見えた。
これだけ両肩にベッタリと悪意の塊を乗せていれば疲れるし、ネガティブな気持ちになるよね…と同情してしまう。彼女の周りにいる花弁ドレスの隣人たちもどことなく元気がない。
「魔法はね、信じている人には本当で、疑う人にとっては嘘みたいなものなの…」
「あやかちゃんが…うそだって。あやかちゃんのおかあさんはすっごく高いお金を払ったのに、みどりは200円なんておかしいって…いんちきだって言うんだもん…。でも…わたしちゃんと見たの!夢でドレスを着た女の子たちが探しものを手伝ってくれてるの見たもん…」
みどりちゃんを来客用の椅子に座らせて、りんごジュースを差し出した。
一口もジュースを飲まないまま、誰にも言えなかったであろう不安を吐き出し始めた彼女は今にも泣き出しそうな顔をしている。
「そうねぇ…。普段はしないんだけど、特別よ?夢で姿を見せたってことは、あの子たちも見られて平気ってことでしょうし」
少女と同じように元気がなく漂っている彼女たちに視線を送ってみる。花弁ドレスの隣人たちは、嫌がる素振りも見せずに私の肩の方へふわふわと翔んできた。
「じゃあ、私の足の甲に、足を乗せてみて」
おずおずと足を差し出したみどりちゃんの足の下に自分の足を滑り込まる。
不安そうな顔をしている少女に微笑んでから、彼女の頭のてっぺんに自分の手を乗せた。
「私の右肩を見て」
「わぁ…夢で見た女の子たちだ…あれが妖精さん?」
「妖精なんて無粋な名前で呼ぶと怒られちゃうわよ?お隣さんとか、小さな友達って呼んであげると喜ぶの。この子達は、あのコスモスの花の中に住みながらあなたの願い事を叶える手伝いをしてくれてるの」
「そうなんだ…きれい…」
私がみどりちゃんの頭から手を離すと、彼女の視界からは花弁ドレスの隣人たちは見えなくなる。
神秘と繋がる眼は、彼らを見て交流するだけの力じゃない。こうして良き隣人たちと人間をつなぐことも出来る。
魔法の力を自分の目で確かめたみどりちゃんの表情からはさっきまであった不安は消え去ったのか、元の可愛らしい笑顔に戻っていた。
「小さなお隣さんは、お手伝いしてることを他の人にお話されるのが大嫌いなの。だから、これは私とみどりちゃんだけの秘密…ね?」
「うん!ありがとう」
笑顔のみどりちゃんと指切りをしたところで、ちょうど買い物を頼んでいた灼晶が帰ってきた。扉を開いた灼晶は、みどりちゃんの両肩に乗ったヘドロのようなものを見て顔をしかめる。
「ようちび。もう帰るのか?」
平静を装って話しかけた灼晶は、みどりちゃんの隣を通り過ぎてカウンターに荷物を置くふりをして、そっと彼女の背後にへばりついている黒いベタベタしたものを引き剥がしてあっという間に飲み込んだ。
そのまま、なんでもないような顔をして、彼がカウンターの隅にある椅子に座ると花弁ドレスの隣人たちは身軽になったのかさっきよりも軽やかに唄い、踊りだす。
「お姉さんも、お兄さんもありがとう!またね」
みどりちゃんは、来たときとは打って変わった元気な足取りで元気に大きく手を振って出ていった。
パタパタという可愛らしい足音に合わせて、花弁ドレスの隣人たちの楽しそうな笑い声と歌声も遠ざかっていく。