神秘と繋がる眼-1
魔法や魔術も万能なわけじゃない。
特に、才能も血筋もない人間が、魔法を行使するには、魔女や魔法使い以上に厳しい条件や、大きな代償が必要になる。
私が売っているのは、そんな魔法を使えないただの人間が、比較的安全に魔法を行使するためのきっかけを作るアイテムだ。
一つ一つに「これを身につける人が良い隣人との縁に恵まれますように」と祈りを込めてお守りを作る。
必要なのは、髪長の友達たちの髪と私の髪で編んだ紐、魔除けの模様を書いたウッドビーズ、それに…使役妖精から取れる一枚の赤い羽根。
紐にビーズを通してから一旦結んで接着剤をぬり、接着剤が乾かない内に羽根を通し、乾燥させれば出来上がり。
これを身につけて、叶えたい願いを思い浮かべると、羽の部分に朝露みたいに魔力の雫が付着する。
雫を食べた妖精が、そのお礼にブレスレットの持ち主に力を貸してくれる。これが、私のお守りの仕組み。
「死んじゃったおばあちゃんが、わたしにくれた翠の石がついたブローチが無くなっちゃったの…大切にしなさいって言ってくれたのに…」
店内にある来客用の椅子に座ってジュースを飲んでいるみどりちゃんは、叶えたい願いを悲しそうな顔で答える。
魔法にも叶えられないことはある。
正確に言えば、叶えるためには非常に苦労するものや、思い通りになるとは限らないという方が近いのだけど。
感化されやすい花のドレスの隣人たちは、悲しげなメロディーを奏でながら両手で顔を覆う仕草をしてふわふわと飛んでいる。
「私の魔法は、人を生き返らせるとか…人の死を願うことには向かないけど、無くしものを見つけるのは得意なのよ」
みどりちゃんの表情が少し明るくなったのと同時に、小さな隣人たちも容器な音楽を奏でて嬉しそうに踊りだす。
「おばあちゃんの形見を探したいなら…これがいいかしら」
まだ細く頼りない彼女の右手首に、さっき選んだブレスレットを結びつける。
イチイの木で作ったビーズが使われているこのお守りなら、彼女の願いも叶いやすいはず…。
「あと、この白い花を花瓶に入れて飾ってね。そして、朝と夜の二回、この花の前で探しものが見つかりますようにってお願いをするの。そうすると、私のお友達があなたのお願いを叶えてくれるから」
説明をしながら、目の前にある花瓶から一輪の白いコスモスの茎を折って、みどりちゃんに手渡した。
花は小さな隣人たちの仮の住まい。力を貸してくれる子がいれば、花の中で彼女の願いを毎日聞きながら、ブレスレットから滲み出た魔力の雫を食べる。
「…あのぅ…それだけでいいんですか?」
歓喜の歌を歌い好き勝手飛んでいる小さな隣人たちに気付くはずもないみどりちゃんは、コスモスを手にしたまま不安そうに首をかしげた。
そんな可愛らしい少女に、私はもう一度、めいいっぱい優しく微笑んで、彼女のバラ色の頬にそっと手を当てる。
「そうよ。あとはね、守らなくてはいけない大切なルールがあるの。これを破るとあなたやあなたの大切な人が怪我をしてしまうかもしれないから、気をつけて」
「クク…怪我ですめばいいんだがなぁ」
カウンターで大人しくコーヒーを飲んで店の雑用をしていた灼晶の声にビックリしたのか、不穏な言葉を聞いたからか、せっかく少し安心していたみどりちゃんの顔が一瞬で青ざめてしまう。
「もう、せっかくのかわいいお客さんを怖がらせないでちょうだい。大丈夫、簡単なルールだから」
みどりちゃんのやわらかい子猫みたいな毛並みの髪をなでつけた私は、肩を小さく揺らして笑う彼を軽く睨んで、彼女に再び視線を戻す。
飛び回る小さな隣人たちも一斉にブーイングをしたからか、灼晶は頭をポリポリと掻くと小さな声で「すまん」と謝った。
「誰かを傷付けようとしたり、死んだ生き物を生き返らせることはお願いしたらいけないってだけだから」
「それなら…大丈夫。あ、でも…おねえさん…おかね、これで足りるかな…」
可愛らしいくまさんのお財布をテーブルの上で逆さまにすると、チャリンチャリンと硬貨が音をたててテーブルの上に散らばるように落ちる。
「あやかちゃんがね、魔法にはいっぱいお金がかかるからみどりには無理だよっていてきたけど…お小遣い全部もってきたら…足りるかなって」
散らばった小銭を小さな両手でかき集めたみどりちゃんは、上目遣いで私を見ながら不安そうに眉を八の字にしてみせた。