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私の魔法で出来ること-3

「…それが俺の役割だからなぁっ!行くぞ」


 悪魔に向かっていく灼晶あきらの背中を見ていたみどりちゃんが私の服の裾を引っ張る。


「あの…あやかちゃんは…どうなるんですか…」


「そうねぇ…。命だけは助かると思うけど」


 ここまでされて、まだ友達の心配を出来る少女の優しさに驚きながら、私は真実を答えあぐねた。

 殺さないことは出来る。でも、もとに戻せるかどうかは少し難しい問題だった。私の魔法で悪魔になった人間を弱らせて眠らせることは出来るけど人間に戻すことは出来ないし、灼晶あきらが出来るのは焼いて消すか、食べることだ。


「魔法で…助けられないですか…?」


「彼女のことを助けるのは…私の魔法では無理なの…」


 嘘を付くのは、私の魔法の力が弱まるからできるだけしたくない。私の口から言えるのは一つの可能性の示唆だけ…。


「…あなたには素質があるから教えてあげる。あの子が飲み込んだ翠の石はね、すごい量の魔力が閉じ込められていたの。多分、あなたのおばあさまは魔法使いだったんじゃないかしら」


 あんな高密度の魔力が込められたものを、持っていたのだからきっとみどりちゃんの祖母は凄腕の魔法使いだったにちがいない。

 母ではなく、孫に宝石を渡したのは、きっとみどりちゃんに才能があったからだと思う。だから、戦いは灼晶あきらにまかせて、私はみどりちゃんに奇跡の可能性を示す。


「魔法はね、人間の欲に反応するの。だから、正しく使わないと大変なことになる。あなたなら、悪魔になった人間を癒やす魔法を使えるようになるかもしれない」


「魔法を、正しく…使えば、あやかちゃんとまた話せる?」


「その可能性はあるわ。ただ…話せたからって仲直り出来る保証はないけれど」


 大きな目から真珠のような涙の粒が浮かび上がる。涙をそっと拭ってあげるとみどりちゃんは、牙の並んだ悪魔の口元に拳を振るう炎を全身にまとった灼晶あきらを見つめた。


炎に(fy fflam)焼かれ(Burnt)(Ewch)(drwy'r)奪え(Rob)


 灼晶あきらの手が悪魔の体にめり込む、尖った針でガラスをひっかいたときのような悪魔の悲鳴が響き渡る。

 メリメリと肉が裂ける音と共に、ネバネバした悪魔の体から飲み込まれたブローチを灼晶あきらが引きずり出したのが見えた。


「こいつはどうする?喰っていいのか」


「ううん、眠らせてあげて。この池の下あたりがいいかな…」


 土埃をあげて倒れた悪魔はみるみるうちに小さくなり、子供くらいの大きさの黒い石に変わっていく。

 素手で土を掘り返して深い穴を中庭の池のすぐそばに掘った灼晶あきらは、悪魔が変異した石を穴の底に置くと掘った土を再び戻した。


「解放される時が来るまで…ここにあの子を眠らせておくね。あなた以外はあの子のことを明日から忘れるから、騒ぎにもならない」


「そ、そんな…私に…できるかわからないのに…」


「無理なら無理でいいのよ。だってあなたと私たちしかあの子のことは覚えてないもの」


 悪魔が消えて、戻ってきた小さな隣人(妖精)たちが私に手渡してきたのは銀色の粉の入った小瓶だった。

 銀色の粉は記憶を奪う|月の女王の鱗粉で出来た《妖精の》秘薬。

 鳥の姿になった灼晶あきらの足に蓋を開けた小瓶を渡すと、空高く飛び上がって銀色の粉を雪みたいに街中に降らせ始めた。

 そんな幻想的な風景を見ながら、私はみどりちゃんに話を続ける。


「最初の一歩は手伝ってあげる。魔法を使える仲間が増えるのは嬉しいことだもの」


 真剣な顔で友達が埋まっている場所を見たみどりちゃんは、私の言葉に声を出さないまま頷く。

 新たに決意を固めた小さな魔法使いの肩を軽く叩いたところで、ちょうど小瓶を空にした灼晶あきらが戻ってきた。

 もう時間は0時を回っている。

 両親に黙って家を抜け出してきたみどりちゃんを部屋に無事に送り届けた私達は、店に戻ってやっと一息ついた。


灼晶あきら、お疲れ様」


「…オレはこのためにお前に作られたんだ。使役妖精(ファミリア)としての当然のことをしたまでさ」


 乱れた髪を両手で持ち上げて整えながら、灼晶あきらはカウンターの奥にある扉を開く。


「それに…あんたの師匠の骨を喰ったのに、師匠の魂を呼び戻せなかった。失敗作のオレに出来るのは、悪いものを壊すことだけだ」


 階段を先に登っている彼の表情は見えない。悔しさの滲む声で師匠のことを話される度、私の心は軋むように痛んでしまう。


「死者の殻をかぶった何かが出来てしまうから…死者の復活を願ってはいけない。わかっていたのに誘惑に負けた私が馬鹿だっただけよ」


 老いた師匠を失って狂気に飲まれた私がしてしまった過ち。それで作り出してしまったのが灼晶あきらだった。彼の姿は、師匠の若い頃に似ている。


「いつか、貴方を解放するから、それまでは私のそばにいてね、かわいい私の灼晶(小鳥さん)


「…まぁ、いつか、な」


 階段を登りきって灯りも付けないまま部屋に向かう。寝室に付くなり寝具に横たわった灼晶あきらが「オレはこのままが嫌なわけじゃないんだが…」と小さな声で呟いたのが聞こえたけれど、私は聞こえないふりをして自分の寝具に潜り込む。


 神秘と繋がる眼(グラムサイト)…それが私の魔法さいのうの一つ。そして、過ちから造り出してしまった小さな鳥の使役妖精(ファミリア)と共に私は小さな奇跡を売って生きていく。これからも。

 完結です。最後までお読みいただきありがとうございました。

 魔法の呪文はウェールズ語なのですが、間違いも多々あると思います。雰囲気を楽しむ程度のものとして間違いなどは受け流してくださるとうれしいです。

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