退夢(たいむ)マシン
「はぁー。」
大きなため息を付いて会社を出た。
家路につくため、高層ビルの建ち並ぶオフィス街の夜を歩く。
駅まで続く大通りは、すでに人通りも少なくなっているのだが、そんな中突然男性がぶつかってきた。
自分が力なく歩いていた事も手伝い、お互いが体勢を崩してしまう。
「あぁ、すみません、すみません!」
男性は申し訳なさそうに頭を下げてくる。
「こちらこそすみません、ちょっと考え事をしていたもので。」
というこちらの返しを聞いているのかいないのか、その男性は体勢が崩れたのをいいことに、その状態を利用してそのまま地面に手をつき、何やらキョロキョロと首を動かしていた。
あまりにも必死なその形相を見ると、とても無視して去るわけにもいかず
「何か落とされたのですか?」
と声を掛けてしまった。
「あぁ、そうなんですよ、鍵をね、車の鍵を落としてしまったんですよ。困ったなー、今日は娘の誕生日だから早く帰るって約束したのにー。」
この男性の幸せそうな家庭が一瞬垣間見えて、少しイラッとしてしまったが、このまま放っておくのも忍びないので手伝ってやることにする。
「すみません、すみません、手伝ってもらって。落としたんならこの辺りだと思うんですよー。」
「この辺り」と言いながら、男性はどんどんと脇道のビルとビルの間へと移動してく。
さらにまたどんどんと奥へと進んで行き、いつの間にか、大通りとは雰囲気が異なる、廃墟と化した雑居ビルが建ち並ぶ路地裏の奥へと来ていた。
「あったあった!なんだこんなところで落としてたのかー!」
程無く鍵を見つけ
「ありがとうございました!ありがとうございました!」
と、男性は何度も俺の手を握ってから、「娘が待ってるので」とそそくさと立ち去っていった。
薄気味悪い所にぽつんと独り取り残され、なんだか急に疲れが押し寄せてくる。
「はぁー。」
大きくついたため息が、自分と、自分の頭上から同時に聞こえてきた。
振り返り頭上を見上げると、雑居ビルの二階の柵にもたれる、白衣を着た中年男性の姿があった。
ため息の主であろうその男性と目が合い、「あっ」という声まで二人同時に発してしまい、笑みとも苦笑いとも言えない表情をお互い作ってしまう。
「いや、これは失礼しました。」
と白衣の男性が言ってきたので
「いえ、こちらこそ。」
と返す。
「何か嫌な事でも?」
男性が更に返してくる。
嫌な事…。
30代も半ばに差し掛かり、今の仕事を10年以上続けているにもかかわらず、毎回毎回同じミスを繰り返し、その度に上司からネチネチと嫌味を言われる、不平不満と自己嫌悪の毎日。
そして今日、上司と他の社員が
「あいつから辞めるって言ってくんねーかな。こっちからクビを宣告すると不当解雇とかぬかして面倒起こされそうなんだよな。」
「今のご時世ありえますよね。ホント辞めてくれませんかねぇ、あいつ。いやもういっそのこと事故かなんかで死んでくれたら…。」
等と話しているのを聞いてしまった。「あいつ」とは勿論俺の事だ。
俺だって辞めたい気持ちはある。だが今からまた職を探して、一から頑張ろうなんていう行動力も自信もなく…。
だが、そんな胸の内など、今会ったばかりの他人に明かすはずもなく
「はぁー。」
と、再び大きなため息だけをつく。
すると男性は何か察した様子で
「あぁ、まぁ、生きてたら色々ありますわなぁ。」
と言ってから、黙りこんでしまった。
沈黙が続き居たたまれなくなり、そしていつまでもこんな場所に留まる理由もないので「では」とその場を立ち去ろうとしたところで
「あ、ちょっとお待ちを!」
と呼び止められた。
男性は階段から駆け降りてきて話し掛けてくる。
「もしストレスを抱え込んでいるのでしたら、少しはお役にたてるかもしれません。
実は今日来店されるはずだったお客さんが音信不通となってまして、やむなくキャンセルとなり、私も少し困っていた所なのですよ。」
近くで見ると小汚ない男性の風貌も手伝い、何だか胡散臭いものを感じたので、無視して直ぐに立ち去ろうとも思ったが、「ストレスを減らす」という言葉に反応してしまい、不覚にも足を止めてしまった。
「話だけでも聞いて言ってくれませんか?今回はお試しという事で無料でよろしいので。」
何だかますます胡散臭いが、どうせ今帰ったところで、ワンルームの狭い部屋で苦しい夜を過ごすだけなのだから、ちょっと付き合ってみるかと思った。
「よかった!じゃあこちらまで来てください。」
そう言われて、雑居ビルの二階の一室に連れてこられた。
中は、少し薄暗いが、病院の診察室のようになっており、診察用と思われるベッドが中央に置いてある。
その風貌とは異なる清潔感のある室内に、少し警戒心が緩む。
「あの、医者なんですか?」
「あー、まぁ一応医師免許は持ってますが、そっちは副業みたいなものでして。本業は博士というか、発明家みたいな事をやっとります。」
発明家と聞いて、ふと部屋の隅に置いてある物々しい機械に目がいく。
その機械からはコードが沢山出ており、そのコードの幾つかは、ベッドの正面にある机の上のパソコンへと繋がっている。
「あぁ、やっぱり気になりますよね?そう、この機械こそが私の偉大な発明でしてね。」
男性はなにやらテンションが上がっている。
「どういう機械なのですか?」
こっちから質問したつもりが
「あなた、過去に戻ってみたいと思った事は?」
逆に質問をされてしまう。
「え、それはまぁ、何回もあります。」
「この機械はね、その夢を叶えてくれる装置なのですよ!」
思わず鼻で笑いそうになるが堪える。そしてなおもテンションが上がっていくこの人物は、絶対に危ない人だと思いながらも
「え?過去に戻って人生やり直せるとでも?」
と面白半分に問いかけてみた。
「アヒヒヒヒッ!人生やり直すなんてそんな事出来る訳ないじゃないですか、そんな事出来るならとっくに私がやってますよ、アヒヒッ!」
何故だかこっちが笑われてしまい、加えて下品な笑い方に腹が立ち帰ろうとすると
「あ、いや、失礼。私の問いかけが悪かったですね。申し訳ない。」
と真顔で謝罪をされたので、とりあえずもう少しだけ話を聞く事にする。
「私が出来る事は、文字通りあなたを過去に連れて行って差し上げる事だけです。」
「どういう事ですか?」
「この機械はですね、簡単に言うと脳に特殊な刺激を与えることで、夢の生成をコントロールする事ができる装置なのです。」
今一理解の出来ない事を言いながら、男性はその装置から伸びている、先がシール状になったコードの幾つかを俺の頭に取り付け始める。
「脳が記憶を整理している過程が夢として映像になっている、みたいな事を聞いたことがあるでしょ。
夢の素は記憶なんですよ。なので逆に記憶から夢を作ってしまえという事です。」
尚も説明を続けながら、今度はベッドに横になるように促される。
「これからしてもらう体験は、夢の中での出来事ではありますけど、普段見る夢なんかよりずっと鮮明で意識もはっきりしてますよ。
まぁ実際に体験して頂いたほうが早いです。」
最後にパソコンを起動したところで、どうやら準備は出来たらしい。
「では、あなたが戻りたいと思っている時代、もしくは場所、あるいは思い出そのものとか、何でもいいので強く念じながら目を瞑って下さい。きっかけさえ感知出来れば、あとはこの装置があなたの記憶を呼び覚まし、一瞬でその場所へと連れて行ってくれますから。」
いつの間にか流れに身を委ねてしまい、なされるがままになっていた。
胡散臭さは拭えないが、ここまで来たらもうどうとでもなれだ。
とりあえず戻ってみたい時代、小学生辺りの事でも思い出しながら目を瞑ってみた…。
――――――――――――――――――――
光の中を通過したような眩しさが駆け抜け、ハッと目を開ける。
周りを見渡してみて、そこは実家の近くだと直ぐにわかった。
畑の間に点々と建つ家屋。その中に、個人が経営している小さなスーパーマーケットや電気店が不自然に割って入っている。
今はもう開発されて、高層ビルの下へと沈んだ町並み…。
確かに、そこには20数年前の、俺が小学生の頃に見ていた景色が広がっていた。
懐かしい…。
郷愁に浸りつつ、少し歩いてみる。
凄いことに、あの頃感じていた風や音、臭いまでも完全に再現されている。
俺は実家の方へと向かった。
当然、そこには俺が小学生迄住んでいた家があった。
中に入ってみると、懐かしい声が聞こえてきた。
「ほら、好き嫌いしない。ちゃんと野菜も食べる!」
「まぁそう無理に食べさせなくても、そのうち食べれるようになるさ。
なぁ?」
「またそうやってアナタは甘やかす。そのうちじゃ駄目なのよ、今栄養取っとかないと。」
そこには、亡くなった両親の姿があった。
「父さん、母さん!」
思わず声を上げてしまったが、当然、二人には届いていない。
それはそうだ、二人とも俺の思い出が作り出した幻なのだ。
それでも、元気に動いている両親を見て泣きそうになってしまった。
二人は食卓を囲んでいるが、食事は三人分用意してある。
空いた席には、どうやら幼き頃の自分がいるらしい。
俺が見ていた光景が再現されているわけだから、自分自身の姿は見えないということか。
だが、正面にある窓ガラスには、うっすらと幼き頃の自分の姿が映っている。
なるほど、何かに写っている自分は見える訳だ、何だか面白い。
一通り家の中を見回った後、再び外に出る。
まだずっとこの世界の中に浸っていたかったが
「では、もうそろそろ起こしますよー。」
という男性の声が町内放送のように響く。
どうやら体験はここまでのようだ。
がっかりしながら、最後にもう一度町を見渡す。
すると、なにやら視線を感じた。
ふと、その視線を感じた方を見ると、10メートル程先に、少し目のギョロっとした、見知らぬ少年がこちらを向いて立っていた。
こんな子供いたっけな、と不思議に思ったが、思い出す間もなく、俺は現実へと戻された。
――――――――――――――――――――
「どうでした?」
目を覚ますと、自信満々な男性の顔が俺を覗きこんでいた。
「これは、凄いじゃないですか!」
「そうでしょう!」
興奮気味に起き上がる俺の姿を見て、男性は嬉しそうにしている。
「まさかこんな体験が出来るなんて思ってもみませんでした。
何もかもが完全に再現されていて。」
「当時のあなたが意識して見ていなくても、その時に少しでも目に写っていたもであれば全て再現出来ているはずです。
逆に言えば、目に写っていなかった物は絶対に再現されないのですけどね。
例えば、再現された時代に、行ったことの無い場所へ行ったとしたら、その場所は真っ白な空間になってたりしてます。
ところでどうです?多少はストレス無くなりました?」
言われてみれば、確かに少し気持ちが楽になっているような気がする。
「久々に卒業アルバムや昔の写真を見ると心が和んだりしますからね、あれと同じ理屈です。
よかったら、もう1回体験してみますか?」
「いいんですか?」
「ええ、久々に気に入って頂けた方に出会えたので、正直私も嬉しいのです。
大体の人は、話を聞いた時点で帰ってしまいますからね。
あ、そのかわりまた来てくださいね、その時はきちんと御代を頂きますので。」
自分も話を聞いていた時は怪しんでいた。
何となく流れで体験するに至ったが、確かに、普通は帰るであろう。
だが、あの不思議で心地好い体験は病み付きになりそうで、一体普段はどのくらいの金額を取るのか、など考えるよりも先に
「ありがとうございます、先生!」
なとど言っていた。
とにかくあと1回は無料で体験出来るとの事なので、さて次は何処に行こうかと考えている間に、再び準備が出来たようだ。
俺はまた、過去の事を思い出しながら目を瞑った…。
――――――――――――――――――――
光が過ぎ去り、目を開ける。
場所は高校生の頃に通っていた学校だ。
校舎、教室、慌ただしくはしゃいでいる生徒達の姿まで、今回も完全に再現されている。
この頃も、今と変わらず友達なんておらず、楽しい高校生活を過ごしたとは言い難かった。
それなのにここにきた理由はたった一つ。
俺は自分のいたクラスとは別の教室へと向かう。
他の生徒と違い、輝いて見えるその人は直ぐに見つかった。
教室の後ろの方で、友達と一緒に昼食を食べている女子生徒、俺の初恋の人だ。
聡明で、それでいて少し天然で、屈託のない笑顔が魅力的な彼女は勿論皆に人気で、やんちゃな男子生徒の間でも、彼女には手を出してはいけないとの盟約が結ばれていたほどだ。
当然、俺なんかが声を掛けていいような存在ではなく…。
今でも、それが幻と分かっていても、側にいるだけで緊張してしまっている。
淡い感情が覆いつくしていく中、ふと視線を感じる。
彼女の後ろには掃除用具入れがあり、その扉には等身大程の鏡が張られている。
その鏡には、教室の入り口辺りに立ち、鏡越しにこちらを見ている、ギョロ目の少年の姿が映っていた。
とっさに振り向き、教室の入り口を見る。
そこに少年の姿は無い。
あの少年は、さっきの夢の中で見た少年だ。
今の夢は、さっきの夢から10年くらい時が経っている。
なのに、姿形変わる事なくこの時代にもいて、しかも俺を見ていて、そして振り向くと消えた。
ここは俺の記憶の中で、実際に見ていたものしか再現されていないはずだが…。
考えれば考える程ゾッとしてくる。
俺は背筋に寒いものを感じながら、向き直して再び鏡を見る。
すると、自分の肩口にその少年の顔が迫っていた。
――――――――――――――――――――
「うわああああああっ!」
絶叫と共に目を覚ます。
「大丈夫ですか!?モニタリングしていた脳波が突然異常な数値になったので、急遽覚醒させたのですが。」
俺は夢の中で起こった事を話した。
大きく脈を打つ鼓動が邪魔をして、説明はしどろもどろになってしまっていたが、それでも何とか要点は伝わったようだ。
「そんな事が…。いや、いやあり得ない事です。そんな怪奇現象染みた事今まで起きたことないですし、そもそも記憶されているもの以外映像として出てくるはずがないんですよ。
そう、あくまで映像なんですから、あなたを見ているなんて事もあるはずがないですよ。」
先生は、俺に対してなのか自分自身に対してなのか、納得させるように諭してきて、初めはとりつく島もないような感じだった。
だか、興奮した俺の状態と、パソコンに表示されているらしい異常な数値が、先生を信じさせる気にさせたようだ。
「とにかく、あなたの体験したというその現象については調べてみます。
ひょっとしたら装置に何らかの異常があるのかもしれません…。」
気落ちした様子の先生は、俺に謝罪をした後、明日また来て欲しいと言った。
医師としての彼が、俺を心配してくれているようだ。
原因を調べる為か、先生は装置とパソコンを交互に見ながら忙しく作業を始めたので、ひとまず今日は帰る事にした。
家に着いてからも、あの少年がどこかで見ているかのような感覚が付きまとっていた。
鏡や窓、テレビの画面など、とにかく何か映るものを見る度に恐怖が甦る。
症状は時間が経つにつれ悪化し、ついには幻覚を見るにまで至った。
結局、ろくに睡眠も出来ないまま朝を迎える。
俺は会社を休み、朝一で先生の所へ向かった。
約束の時間よりかなり早く来たにもかかわらず、先生は迷惑する様子もなく、むしろ申し訳なさそうに中へ招いてくれた。
俺は一晩中幻覚に悩まされていた事を告げる。
「そうですか…。
こちらもあなたが帰った後色々と調べてみましたが、装置に異常はみつかりませんでした。
なのでその少年に関する事象は、あなたの記憶の中にあるものが造っていると考えられます。何がそれを造っているのか、そこを解決すれば幻覚からも解放されるかもしれません。」
「どうすればいいですか?」
「その少年の正体をはっきりとさせるしかないと思います。
なので、もう一度装置を使って頂きたいのです。
そして出来るだけ例の少年の事を考えながら眠りに入って下さい。
そうすれば、少年と関係のある場所に行けるはずです。」
正直、怖くはある。だが、ここで真相をはっきりとさせておかないと、今後もずっと幻覚に悩まされるのは耐えられない。
「大丈夫です、常にモニタリングしておきますので。何か異常が起きたら直ぐに起こします。」
先生のその言葉が背中を押し、再び俺は装置と繋がった。
――――――――――――――――――――
目を開けると、そこは山の中だった。
感覚は前回と同じなのだが、白い空間が多く、目の前にある山道だけが鮮明に画かれている。
後ろを振り向いても白い空間が広がっているのだけなので、とりあえずその山道に従って進んで行く。
道は、少し登った所にあった、コンクリートで出来た小さな建物の前で止まる。
窓はないが、鉄製の扉が半分だけ開いている。
鈍い音を立てるその扉を押し開け中へ入ると、部屋の真ん中に地下へと続く階段があった。
階段を降りると、その先は洞窟になっており、2メートル四方程の道が奥へと続いていた。
照明は無いが、懐中電灯で照らしたような光の後が、地面に点々としている。
この記憶の主が、足下を照らしながら進んでいたのだろう。
土の地面には所々水溜まりがあって、時折雫が落ちては洞窟内に音が響き、気味が悪い。
先生に言わせると、これは俺の記憶の中のものとなるのだろうが、さっきの山道からそうだが、こんな場所に心当たりなどまるでない。
それでも、今はとりあえず進むしかないので、そのまま奥へと向かう。
しばらくすると、「ザッザッ」と土を掘り返しているような音が聞こえてくる。
その音を辿るように左に折れた道を曲がると、少し開けた小部屋のような空間に出た。
そこには照明があり、明るく照らされたその部屋の中央では、掘り返えされた土が、再び穴を塞ぐ動きをしていた。
土が独りでに動いているように見えるが、近くにある水溜まりには人の姿が映っている。
落ち続けている雫が、水面に絶えず波紋を作っているせいで、はっきりとした姿までは確認出来ないが、確かに誰かが穴に土を投げ入れている。
一体何を埋めているのか…。
嫌な予感はするが、俺は覚悟を決めて、恐る恐る穴の中を覗き込む。
そこには、人の姿があった。
胸より下は既に土に埋まっていたが、その顔ははっきりと確認できた。
「え、お、俺?
俺が土に埋まっている、どういう事だ?」
顔を確認した直後、埋まっている自分の、閉じていた目が開く。
その目は自分のもとは違って、あの少年のギョロっとした瞳だった。
そして目が合う。
「っ!」
ゾッとする暇を与える間も無く、次の瞬間視界が変わり、俺は穴の中から天井を見つめていた。
いつの間にか自分の意識は、埋められていた俺の身体へと入れ代わっていた。
これは現実ではない、しかしこのまま埋められてしまってはまずいような気がする。
俺は必死に脱け出そうとするが、身体は土の中で、しかも手足が縛られているのか全く動かない。
ヤバい!
そう感じた時には既に遅く、遂に顔にまで土が被されて
「それじゃあ、おやすみなさーい。」
という、さっきまで診察室で聞いていた声が耳に届いたのを最後に、俺の意識は、消、え…
――――――――――――――――――――
「よし、ぴったり0、と。」
「入るぞ。首尾はどうだ?」
「えぇ、丁度今終わったところですよ。」
「今回は大丈夫だろうな、前回みたいな精神崩壊者だと商品にならんぞ。」
「ちょっと、あれはそっちがいきなり最終施術をやれっていうからああなったんですよ。
今回はちゃんと精神を弱らせてからやったんで大丈夫ですよ。」
「1回で出来るようにならないのか、時間が掛かるとリスクも増える。」
「無茶言わんで下さい、元々は娯楽用として作ってたんですよ。この理論を発見したのは偶然なんですから。」
「ふん、まぁ今回ちゃんと出来ていればそれでいい。」
「それは完璧ですよ。
脳にダメージは殆どなし、肉体も無傷、自立して呼吸もしてます。
死んだのは意識だけです。」
「よし、これなら出荷出来る。」
「さて、こいつはこの後どうなるんですかねぇ。
バラバラにされて部位ごとに転売されるか、もしくは身体が朽ちるまで血液を絞り取られ続けるのか、はたまた人体実験に使われるのか。」
「知らん。先方が何に使うかなんていちいち聞かないからな。
とにかくこいつはもらっていくぞ、金はいつもの口座に振り込んでおく。」
「毎度あり。そいつの身辺整理はいつものようにそっちに任せますよ、そこは私の専門外なので。」
「分かっている、それはこっちで処理しておく。
あぁ、それとな、明日また新しい獲物を連れてくる。」
「今度はどんな奴で?」
「先週失職したばかりの33歳の男だ。身寄りもなく人間関係も希薄。こいつと同じく、行方不明のまま社会から消えても影響のない野郎だ。」
「よく毎回このての人間見つけてきますね。」
「それも仕事だからな。
とりあえずいつもの要領でここまで誘き寄せるから、その後は頼んだぞ。」
「はいはい、いつもの要領ですね。
あ、そういえばコレ、遅くなりましたけど、娘さんに誕生日ケーキです。」
「ばーか、娘なんかいるわけねぇだろ。」
「知ってます、冗談ですよ。アヒヒッ!」
おわり




