地球で魔法を使ったら。
雑草までもが死にかけた夏が終わり、秋の風が俺の頬を撫でる。そんな季節の移り変わりを感じながら、俺は何時ものように高校への道を独りで歩く。少し赤みの差し始めた葉の擦れ合う音さえ明瞭に聞こえる、閑静な住宅街。それを横目に見ながら、俺は気付いたら物思いに耽っていた。
◇◆◇
俺が生まれたのは、今から17年ほど前の2月。今は亡き母に聞いた話だと、雪が静かに降り積もる寒い冬の日だったという。俺の両親は、そこから俺を「冬」と名付けた。まぁ、安直と言ってしまえばそれまでだが。
それはともかく、単刀直入に言ってしまおう。俺には前世の記憶がある。いや、別の世界から地球に転生してきたという表現が正しいか。世間一般的に、それは異世界転生というのだろうか。
「異世界転生」。この言葉を聞いた殆どの人はきっと、ファンタジーの次元でしか捉えないだろう。ライトノベルやアニメ、漫画の世界で異世界転生の物語を、第三者の視点で傍観する。だが俺は、それを実体験として経験している。地球の目線から考えれば、「逆・異世界転生」とでもなるのだろうか。
ここ地球を元に展開されている世界は、俺にとって異世界である。なら、俺の元いた世界はどうだったのか、というのはこの話題を説明する上で、答えておかなければいけない質問だ。俺の元いた世界は、俺以外の日本人がイメージする異世界に酷似している。
剣と魔法のファンタジー。何と陳腐な表現だろうか。しかし、まんまそれなのだ。時代は地球で言う中世ヨーロッパあたりが妥当だろう。剣士がいて、魔法使いもいるし魔法剣士もいる。仮にこの世界が科学で成り立っているとするならば、俺がいた世界が、魔法の上に成り立っていることは火を見るより明らかである。
俺が元いた世界はブレイブと呼ばれている。ブレイブ。英語にすると、名詞では勇者。そして形容詞では勇ましいという意味になる。しかし、今考えてみるとこの上なくダサい名前である。
例えば「cool!」と書いてあるTシャツをイケてる、と感じる日本人は多いだろう。だが、英語圏に住むネイティブの人間の身にもなって欲しい。日本語にすれば、「かっこいい!」と書いてあるのだ。この上なくダサいし、見てるこっちが恥ずかしくなってくるだろう?ブレイブという名前もそういうことである。
閑話休題。そのブレイブだが、俺はブレイブの中でも史上最強と呼ばれた魔法使いであった。俺の元の名も、「フユ」。こんな偶然もあるものだ。魔法使いと聞くと何を考えるだろうか。水、木、火、光…といった様々な属性の魔法を華麗に放ち、鮮やかに敵を翻弄する。そういうイメージはないだろうか。
だが、実際はひどく生々しいものである。水魔法なら、言ってしまえば、ただ敵に水をかけているだけなのである。確かにダメージも食らうが、それ以前に水をかけられてびしょびしょになった身にもなって欲しい。肌に張り付く冷たい服が気になって、闘いどころではない、というのが現状である。これが、理想と現実の差。
それでも、魔法が強いのは事実である。水魔法ではなくとも例えば火魔法なら、単純に火で炙られるので、何も用意していない敵には大ダメージを与えることができる。
そして、俺は光魔法に特化していた。光魔法に限るなら、現存する全ての魔法を放つことができたし、そのクオリティも(自分で言うのも何だが)世界最高レベルだった。光には、なぜかは分からないが相手の攻撃を吸収する魔法もあった。つまり、俺は世界最強の防御力を持ってして、世界最強の攻撃を繰り出せる無双な奴だった。
魔王を始めとする魔族もいたにはいたが、俺の出現により攻撃を仕掛けてくることはなくなった。俺は、ブレイブで「光の支配者」と呼ばれ、恐れられていた。
さらに、俺はオリジナル魔法を複数持っていた。そもそも、魔法を放てるだけで貴重な存在であるブレイブで、オリジナル魔法を使用できる人というのは激レアな存在だった。
俺のオリジナル魔法の例を挙げると、相手の動きを止めるフリーズ、死んでいなければどんな傷でも、どんな病、傷でも一瞬で治せるヒーリング、ありとあらゆるものの存在を消すことができる破滅といったところだろうか。だが、正直言ってフリーズはよく使ったものの、ヒーリングと破滅は使う機会がほぼなかった。というか必要性がなかった。ヒーリングに関しては使える人は俺以外いなかったものの、その存在は俺とユキの間でしか共有されていなかったため世間に知られることはなかった。だって、みんなが知ったら大変なことになるでしょう。
そんな俺だが、日々行動を共にしていた、ある一人の女性がいた。彼女の名は、「ユキ」。彼女も俺と同じく魔法使いで、光魔法を使うことができた。その魔法は一般的な魔法使いと同程度だった。それでも、俺は彼女を愛していた。彼女は優しい。そして、時に頼れるカッコイイ存在である。それに、とにかく可愛いのである。贔屓目なしにしても、ランクはSS+だろう。もう一度言おう。マジで可愛いのである。一度見れば分かる。
大変ありがたいことに、対する彼女も俺を愛してくれていたようだ。俺たちは付き合っていて、結婚する予定まであった。もし、世界最強の魔法か彼女かどちらか選べと言われたら、迷わず彼女を選ぶだろう。
だが……。俺とユキが鬱蒼と茂る森を、手をつないで歩いていたとき、二人の間を切り裂くように電撃が走ったと思えば、既にユキの姿はなく、気付いたら俺は生まれたての赤ちゃんになっていた。
◇◆◇
どうして、あの時彼女を守れなかったのか、今でも悔やんでいる。しかし、こちらの世界で16年以上過ごしてきた今、くよくよしていてもしょうがない。俺は前を向き、昇ってくる太陽に目を細める。太陽は夏とは少し違う、どこか優しい光を放っていた。
さて、ここで衝撃の事実を紹介しよう。その事実とは「俺は地球でもブレイブと同程度の魔法を使うことができる」ということだ。これは、生まれたときから自我が確立していた俺が両親の見えないところで放ったら成功したので間違いない。というのも、怖くてそれ以来使っていないのだ。魔法を。
そのうち、学校が見えてきた。少しさびれたクリーム色の校舎は、建てられてから長い時間がたっていることを如実に語っている。通用門をくぐり、校舎に入ると、天井につるされた時計は7時56分を示していた。よく、家から学校までの道のりが近い方が近い方が遅刻しやすいと言うが、本当なのかも知れない。今日も危なかった。
俺は、3階までの階段を急ぎ足で上り、左折をする。するとすぐ、2-Bの教室が見えてくる。俺は教室のドアを開け、着席する。俺の腕時計は、7時57分を示すところだった。
急いでリュックの中の荷物を机の下に移し替え、着席をする。俺の席は窓側の最後列。我ながらいい席を引いたと思う。
「よっ!イケメン君!」
俺の隣の席の女子― 立花 瑞稀といったか が、話しかけてくる。
「あぁ、それよりその『イケメン君』止めてくれないか。」
「ええ~?別にいいじゃん。イケメンなんだし。」
「そうか?そんなことないと思うけどな。まぁ、心がイケメンなのは確かだがな。」
「うわー自分でそんなこと言っちゃうんだー。引くぅ。」
「そんな言い方ないだろ。」
「冗談だって、冗談。ジョークも通じないのか、イケメン君は。」
「はぁ。」
こいつといると、無性に疲れるんだが。というか、俺はイケメンなのだろうか。でも、俺をイケメンであると決めるのは周りの人。世間だ。世間が俺をイケメンに認定すれば、それは真の意味でのイケメンになってしまう。たとえそれが絶対的な顔の良さではなくとも、周りがイケメンと認めればイケメンなのである。自分は周りの人によってのみ作られる。そういう意味で自分を作るのは、自分ではなく世間なのだ。自分は世間によって作られると言い換えられるかも知れない……って誰かが言ってた気がする。
おっと、SHRが始まろうとしていた。朝の挨拶をテキトーにやり、健康観察という名の出席確認に移る。雪見 冬という名前の俺は、必然的に呼ばれるのが後半になる。それが意味することは、SHRの中で寝られる時間が減るということだ。早めに呼ばれてしまえば、その後、SHRが終わるまで寝られるのだが。
起きてないといけないので、なぜか眠い体を呼び戻し、目を擦る。すると、「天羽 雪」という名前が聞こえてくる。天羽 雪。彼女は、何時もどこか冷たい雰囲気を持っており、話しかけられても適当に受け流すタイプの人間である。しかし、俺は「雪」という名前から、ある一つの予想を立てていた。
もうおわかりだろう。その予想とは、彼女は、天羽雪は俺の愛した女性、ユキなのではないか、ということだ。殆ど接したことのないので、確証など勿論ない。ただの予想である。いや、そうであって欲しいという俺の願望なのかも知れない。
しかし、それを本人に訊いたときに、違ったらやばい奴だと思われるのは免れない。だから、訊いていない。いつか訊いてみたい、とは思うが。
さて、そうしている内に、SHRは終了していた。担任は終了早々職員室に行ってしまう。俺はその後に続くように、トイレに行く。なぜか、1限前のトイレは俺のルーティンと化している。落ち着くのである。
俺はトイレを済ませ、水道の蛇口で水を飲み、ゆっくりと重めの足取りで教室に帰る。俯き加減になりながら。
少しくすんだ灰色の床を見ながら、俺は今も彼女― ユキの事を考えていた。
そのときだった。
「私が、守る!」
こんな声が俺の教室から聞こえてきた。そして、透き通った冷たい声。でもどこか優しさが垣間見える声。その声の主はもしかして…
― ガラガラガラ
ドアを開けると、そこにいたのは、やはり彼女、天羽さんだった。でも、なんで…。俺は、教室を見渡す。
椅子に座っている人はおらず、その殆どが教室の隅に固まっていた。おびえた表情で。その中は大混乱である。しかし、ただ一人入り口の所に立っている人がいる。それが、天羽さんなのである。
「は?どうしたの?」
俺は何が起きているのか理解できず、思わず言葉をこぼしてしまう。
「私の前。見て。」
天羽さん言う方向を見るとそこには、怪しげな男が一人、立っていた。まるで、自分がこの世界の頂点であるというように主張しているようだった。深いフードから垣間見える口元は薄気味悪い笑みを浮かべていた。
「…な…。」
「分かった?あいつは、私たちの敵。拳銃を持ってるの。だからあなたも早くあっちに行って。」
拳銃だと?よく見てみると、数枚の窓ガラスが割れていた。おそらく威嚇射撃をしたのだろう。あれだ、これは、学校襲撃だ。それも結構マジなやつである。このまま行けば俺らは死んでしまうのではないか。やばい。
「その…天羽さんも逃げた方が…いんじゃね?」
「私は、彼と対等にやれるだけの力があると自負しているの。だから、大丈夫。あなたはもう行きなさい。」
有無を言わさぬ口調に俺はただただ頷き、こそこそと逃げることしかできなかった。
そして、俺が教室に入ってきてから一言も発していない例の男がやっと口を開く。
「まさか、俺もそんな人間が出てくるとは思っていなかったな。おれと対等に戦えると主張する奴がいるとはな。まぁ、俺が負けることはない。さぁ、そこの女。俺を倒したいんだろ?倒してみろよ。ま、こっちにはこの拳銃があるがな…。」
「ええ、いいわよ。見て驚かない方がいいわ。」
は?何を驚くのか。その身体能力だろうか。それはいいとして、天羽さんが彼と張り合えるわけがないだろう。相手は拳銃。彼女は生身の人間で武装も一切していない。まぁ、彼女がそこまで言うんだから何か案があるのかも知れないが、危ないときには俺の魔法を使う可能性も考えておかなければならない。うまく使えるかどうかは分からないが、大丈夫だろう。よく、自転車の乗り方を忘れる人はいないって言うしな。
「ははは……そこまで言うのなら見せてみろよ。拳銃を持った男に対して何か術があるなら、な。」
そうだ。その通りだよ。何か策があるのか。
「ええ。いくわよ。シャインランス!」
シャインランス!ま、まさか……!?
その瞬間、彼女の手元から無数の輝く槍が放出され、その全てが猛スピードで例の男に向かう。
「ま、まさか?そんな!?…っく!!」
しかし、例の男はそこまで弱いわけでもなかった、あいつは槍をギリギリのところで買わし大きく右にずれる。そして全ての槍は消え、男を射貫くことはできなかった。
「え……うそ………でしょ?」
まさかの事態に彼女は大変困惑している。普段の冷静な彼女からは想像できない表情だ。その中には、焦燥も含まれている気がした。
暫しの沈黙を挟んで、例の男が口を開く。
「はははははははは……。こいつぁ驚いた。まさか魔法が使えるなんてな。学校を襲撃したらいきなり魔法で攻撃されるなんて想定外だった。もしかしてお前、ブレイブの出身か?」
「え…?え、ええ。そうよ。まさか、避けられるなんて。」
そう、アレは魔法、なのだ。そして『シャインランス』。これは光属性の攻撃魔法の一種で、その名の通り、鋭い槍を無数に放つ魔法のことである。俺も前はよく使っていた。
そして、今彼女が魔法を使ったという事実は、俺の中で『彼女はユキである』と断定するには十分すぎるものだった。やはり、俺の予想通り、彼女はユキだった。
だが、あの男はブレイブの魔法を知っていた。つまり、あいつもブレイブと何らかの関わりがある可能性が高い。そうなると、危ないかも知れない。
「今のは、光の攻撃魔法だったな。まさか俺と同じブレイブの出身がこんな星にいるとはな。だがな、今のが全力だとしたら、とんだ見当違いだよ。」
どこかで訊いたことのあるような台詞を吐いた男は余裕の笑みを絶やさない。
「……どういう、こと?」
「いい質問だ。つまり、俺は今使った魔法よりも数倍威力のある闇魔法を使うことができるんでな。なんたって俺は魔王軍の幹部だからな。」
「噓でしょ??魔王軍の幹部だったなんて……」
魔王軍の幹部だと?魔王軍なんて久々の登場だな。だが、このままではユキが危ない気がする。だから…
「ねえ、天羽さん。俺、何か手伝おうか?」
「は、はぁ?あんた、何言ってんの?今の見てたでしょ。私でも、倒せるか分からない奴がどうしてあんたに倒せるって言うのよ!!!」
「ご、ごめん。」
彼女は、焦っていた。そして、少し泣きそうだった。だが、彼女は俺に荒っぽい口調でまくし立ててきたので俺は否定できなかった。俺は意気地なしだ。
「おい、お前、ブレイブの出身と言ったな。お前の名前を知りたいんだが。名前も知らない奴を倒しても面白くないんでな。」
「わ、私は、天羽…いや、ユキよ。」
「ユキ……。悪いが、知らねえな。ってか、魔王軍以外の魔法使いは、光の支配者しか知らないがな。あいつには、勝てない。だから、俺たちも絶対に近づかない。だが、あいつのいない状況下で、貴様らを殺す分には支障はない。」
「光の支配者……。ねぇ、あなた、フユがどこにいるか知ってるの!?」
「フユ、ああ、光の支配者のことか。それが、最近― ここ10何年間か見てねえな。だが、そんな情報もこれから死ぬお前にはいらねえだろ。」
「そう……。なら、私が全力であなたを倒すだけだわ。」
「はっ!できるものならやってみるがいい。」
そうして、ユキと、魔王軍幹部との闘いが、始まった。
だが、その実力差は、歴然だった。彼女は開始わずか10分ほどで、体力の9割を消費しているように見えた。それに対し、あいつはまだ余裕そうである。このまま行けば、彼女が負けるのは必然だ。
……ところで、クラスメイトは、呆然と立ち尽くしているので説明は割愛させていただこう。
光魔法と闇魔法。絶対的な魔法の差はあまりないのだが、魔法使いに差があれば、実力に差が出るのは至極当然のことである。
彼女は泣いていた。そして、その涙は、クラスメイトを助けられなかった悔しさを如実に物語っていた。彼女は疲弊しきっており、全身にあざや切り傷が見える。血だらけだ。骨も数本折れているだろう。言ってしまえば、死にそう、なのである。
「こんな、こと…。」
そして、その場に崩れ落ちるように倒れてしまった。
「ふはははは。弱いな。弱すぎる。ま、そこいらの魔法使いなんて所詮この程度のものだったか。戦う価値もないゴミだったな。」
なん、だと?ふざけるなふざけるなふざけるなぁぁぁああ!!!!
俺はこのとき、怒っていた。俺の愛する人を、時に優しくて、頼りになる彼女を、侮辱したのだから。だが、その怒りを心なのかだけにとどめておくだけの自制心が俺にはあった。
そして、いよいよあいつは、倒れている彼女に闇魔法を放とうとしていた。
「ダークボール!!」
彼女の心臓に向かって、漆黒の球が飛ぶ。
そのとき、ここにいた殆ど全ての者が、ユキは死んだと思った。ただし、俺以外は。
刹那。まばゆい光が彼女と玉の間を通り過ぎたと思えば、ダークボールが落ちた場所に彼女の姿はなかった。
「な!?まだ敵がいたというのか。」
幹部さんは驚いているようだ。俺は彼女にダークボールがたどり着く直前に、光魔法を使い、言葉通り目にもとまらない速さで彼女を拾い上げた。
「え……?」
この言葉は衰弱しきった彼女から発せられた言葉だ。
「こりゃひどいな。おい、大丈夫か?」
「ど、どういうこと?」
彼女は俺に質問をする。
「質問は後だ。取り敢えずこの傷をどうにかしないといけないな。」
「どうにかって……あなたに何ができるの?」
…俺は彼女の質問を流す。彼女は俺が誰だか分からないようだが。
それはとにかく、俺は魔法を発動する。
「フリーズ!!!」
と、俺が叫んだ先にいたのは、魔王軍幹部。
「フ、フリーズだと!?」
その瞬間、あいつは動けなくなる。
そして、俺は治癒魔法を発動する。あいつが動いてたらヒーリングどころじゃないからな。
「いい、ユキ。目を閉じて。」
「え?う、うん……」
「聖なる癒やしの女神よ、何処までも続くこの地球よ。願わくばこの者を大いなる慈悲にて救い給え!ヒーリング!!」
その瞬間、彼女の身体に一条の光が走る。そして、光が収まったときには彼女の身体は癒えていた。
「ふう。これだ大丈夫だ。ユキ。ユキは下がってて。後は俺がやる。」
「わ、分かった…」
今度は俺が有無を言わさぬ口調で彼女に言う。彼女は俺の正体に気付いたからなのか、すんなり聞いてくれた。
「フリーズ解除。」
「な、なんだ!?ヒーリングって何だ!?お前は誰なんだ?」
俺はあいつの発言を無視し、いざとなったら使おうと決めていたあの魔法を使う。
「破滅!!!」
「ま、まさか、光の支……」
彼の言葉が最後まで発せられることはなかった。俺のオリジナル魔法、破滅によって彼は跡形もなく消えていた。
◇◆◇
その日の夕方。事態はクラスの中だけで収束し、どうにかなった。だが、どうにもできないことが1つだけある。それは、今、横を歩いているユキのことだ。まだ、あれ以来一言も話していない。そして、突然ユキが、
「ねえ。ホントに、フユなの?」
「え?あぁ。今まで黙ってて、ごめん。でも、確証がなかったんだ。天羽雪がユキであるっていう。」
「やっと…会えたよ。」
ユキの目からは一筋の涙が流れている。彼女の透き通った肌を綺麗なしずくが流れる。
「ああ、俺も会いたかった。ユキに。ずっとずっと、ずっと会いたかった。」
「あ、フユ。涙、流れてるよ。」
「ユキ。お前もな。」
そうして、俺たちはクスクス笑い合った後、抱きしめ合った。
そのとき、秋風が、緋色に染まる空を、まるで俺たちの再開を祝福するかのように吹いた。
これは、作者の妄想をそのまま形にしたものですので、前後の詳しい状況設定はいたしておりません。ご了承ください。また、この短編が面白かった・続きが気になるという方は是非是非、評価・感想をお願いします!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。