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黒い羽(1)

アルファポリスに掲載して数ヶ月、ようやくこちらに転載です。

ほんとゆったりとしか書いてないので。

それでいてプロットはだいぶ先まであるのですよ……。

ヴァンパイア。いわゆる、吸血鬼。

そんな生物が実在していたということに驚かされた。そして、この少女がそうであるということにも。

「やっぱり、おどろきマスよね……」

彼女は僕の表情を見ながら、少し前にも聞いた言葉を紡いだ。そして、僕の態度を見て、こう続けた。

「……ひかないんデスね」

「しっかりと会話できる以上、ひく理由なんてないさ」

それが僕の、カウンセラーとしての心構えだ。リストカッターや中二病の人とも沢山話すから、見た目や性格に関しては気にしない。

「そーデスか。めづらしいデス」

それはたぶん、ひかなかったことに対してだろう。ヴァンパイアという言葉はどうしても恐怖を掻き立てる。恐怖に陥った人間の行動は限られてくる。その中で、僕が最も多いと感じるのは――逃避だ。

「見境ないやつでなくてよかった……」

そのとき、不意に鏡の中から声がした。

そのことに、また驚かされた。

「……ウイ、きゅうにでてくるの、やめテください」

「ごめんごめん。でも、こういう状況なら、白はボクの力が必要でしょ?」

「まぁ、ソーなんデスが……」

「ちょっと状況が理解できないんだけど……」

ウイ?

「自己紹介したほうがよさそうだね。ボクは黒羽卯衣。黒い羽で黒羽。卯の刻の卯と衣の衣。ちなみに、白はwhiteの白だ」

「僕は飛鳥蒼大。飛ぶ鳥で飛鳥、難しいほうの蒼に大きいで蒼大だ」

自己紹介をされたので、僕も同じように返した。

「卯衣、のこりたのんデいーデス?」

「確かに、ボクのほうが夜型だしね。おやすみ、白」

そう会話すると、白は立ったまま蒼色の瞳を瞼で覆った。

「立ったまま寝て大丈夫なの?」

卯衣がいる鏡に向かって、そう問いかけると、

「問題ないよ」

白のほうから声が聞こえた。

瞼を開けたその瞳は、蒼色ではなく紫色に変わっていた。

「ボクと白は自由に入れ替われるんだ。どっちが中身なのかは瞳の色でわかると思う」

「わかった。覚えておくよ」

「……そうかい」

そう言うと卯衣は、梯子を上って十字架の前に出た。

「だ、大丈夫なのか?」

彼女は吸血鬼(ヴァンパイア)。十字架とかまずいのじゃないのかと思った。

「ん? ……ああ」

一瞬、水色の感情(疑問)をこちらに向け、僕の視線を追った彼女は、どこか曇った白色の味を放ちながら、僕の疑問の答えを告げた。

「……慣れた」

「……え?」

「吸血鬼をやりながら、何万回も、何十万回も祈りを捧げてたんだ。ボクらは」

その回数を聞いて、唖然とした。その回数、祈りを捧げるとなると一体どれだけの時間がかかるのだろう。

「他のものもだいたい慣れた。だから、僕らは吸血鬼ではあるけれど一般的に吸血鬼の弱点とされてるものはほとんど効かない」

「それは……よかったね」

「よくないっ!」

突然叫んだ卯衣の声が礼拝堂の中を木霊した。

「……なんかごめん」

「いや、今のはボクのほうが悪い。キミはなにも知らなかったんだから」

そう言うと、卯衣は窓際に移動して、外を眺めた。降っていた雨は弱まり、僅かな雲の隙間から月光が差していた。

「よくないって言った理由を教えておくよ。ボクがああ言ったのは、ボクが……ボクたちが――――」

卯衣は窓に手を添えながら振り向き、なぜ、そう思うのか、僕にはわからない答えを告げた。

「――――この命に、終止符(ピリオド)を打ちたいから、さ」

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