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プロローグ(3)

「ここから監視する感じでいいと思います。……にしても、ここから監視カメラにアクセスできたんですか」

「一応、僕の部屋が職員室だし、ここは教師用の倉庫だしな」

礼拝堂にある、タイル張りの床の倉庫。ここにインターネットはひかれていないが、僕の部屋からWi-Fiが届く。僕の部屋のWi-Fiは2種類。

ひとつは、一般回線のもの。これは僕個人用だ。

もうひとつは、学校の職員用の回線だ。こっちは礼拝堂内での授業に用いられる。で、この回線であれば、学校のセキュリティシステムにアクセスできる。パスワードは職員しか知らないが、僕も職員だから、パスワードを知っている。

「では、この部屋と傘をお借りしますね。蒼大、また明日、です」

「ああ、また明日、な」

コツ、コツと、ローファー特有の足音を奏でながら歩き去っていく彼女は、ある1ヶ所で唐突に立ち止まった。そんな彼女の感情は水色――疑問だった。

「どうかした?」

「いえ、別になんでもないです」

そう言うと彼女は2度、つま先を鳴らして、そのまま歩いて行った。


――風子が立ち去った少しあと。

僕は風子が気にした場所を調べることにした。

風子は、凄く耳が良い。だから、ほんの少しの音の違和感に気づいてしまう。そのおかげで、シロアリを早期撃退できたということもあった。

そんな彼女が違和感を覚えた場所を、調べない理由はない。

風子が違和感を示した場所へと近づく。……よく見ると、他の場所よりもほんの少し、隙間が広い。

バールを持ってきて、そのタイルを剥がす。

「……これはなんだ?」

タイルの下には輪状の何かと、古びた紙の切れ端があった。

『インド人を右に』

古びた紙の切れ端にはそう書いてあった。

インド人を右にってどういうことだ?

インドから連想するものについて考えたが、まったくわからない。

諦めてインターネットで調べることにした。

……「ハンドルを右」にの誤植で、これはそこそこ有名なネタらしい。ということはこの輪状のこれはハンドルか。

ハンドルを右に回した。すると突然、水の流れる音がした。そして少しすると、礼拝用の祭壇のほうから、何かが動く音がした。

祭壇のほうへと行くと、床が上がり、その下から梯子が現れていた。梯子が続いている穴は暗闇に包まれていて、底が見えない。

……これは、降りるべきだろうか。

一応、僕はここの管理を任されている。だから、こんなものがあったのならば。

「調べないわけにはいかない、か」

近くにあった燭台の蝋燭に火を灯し、その燭台を持って、僕はゆっくりと、その梯子を降りた。



降りた先は、ちょっとした小部屋になっていた。

その小部屋にあるのは、埃を被った机と、棺桶だけだった。

「死臭もしないし、あの棺桶の中には何がいるんだ?」

神父という立場上、死臭を嗅ぐこととなる機会はあった。だが、この部屋からは一切、そんな匂いはしない。

そして、棺桶の中からは灰色の味がする。

……つまり、棺桶の中には『何か』がいる。

「……開けてみるか」

僕の中に、確かめないという選択肢はなかった。

棺桶に近づき、蓋に手を添える。少し力を込めると、ガタッという音をたてて、中身が姿を表した。

――――それは、少女だった。

少し年下くらいの見た目で、銀色に近い髪をもつ、色白い肌のその少女は、呼吸をせずに、それでいて眠っていた。

まるで、時が止まっているかのように。

蝋燭の光が、うっすらとその顔を照らした。

「んっ…………………………」

すると少女は、ほんの少し、目を開けて、こちらを見た。

「ふー、あーゆー?」

「…………えっと」

少女が何と言ったのか理解できず、困惑してしまう。

困惑している状況を察したのか、その少女はほんの少し、表情を和らげながら、

「ふー、あーゆー?」

と、もう一度言葉を発した。

ふー、あーゆー?

ふー、are you

Who are you?

「あ…………」

そこで理解した。

この少女は、僕に英語で話しかけてきている。

僕に、名前を聞いてきている。

「あ、あいあむそうた。Sota Asuka」

「OK. You are Sota. ……My name is Siro, Siro Kuroba. Nice to meet you.」

「な、ないすとぅーみーちゅう、とぅー」

「……そのなまりカタ、ソータは、ニッポンシンミン?」

「……日本人ではあるけど、臣民ではないよ」

日本臣民て、あれか。大日本帝国憲法時代の国民のことだよな。

「シンミンじゃない……いったい、イマはなんねんデス?」

「2018年だ」

「2018…………トいうコトは、ワタシは100ねん、ねむっていたトいうコトデスね」

100年間、眠っていた。

シロは、確かにそう言った。

「あはは、やっぱり、おどろきマスよね」

「それは……ちょっとな」

やっぱり、100年と言われたら驚く。というか彼女はなぜ、何の変哲もない棺桶で、100年もの間生きていられたんだ?

「きっと、ふしぎだとおもってるトおもいマスが、ワタシが、100ねんいきテいるのは…………」

そのとき、外から、雷鳴が聞こえた。

「ワタシが、ヴァンパイアだからデス」

アルファポリス版では、『インド人を右に』のメモを画像として登録しています。

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