プロローグ(1)
「……寒い」
カサカサと音を立てながら、枯れ葉が舞い落ちる。
11月。秋と冬の境目。日が落ちるのが早くなり、肌寒さが際立つ季節。
辺りはすっかり暗くなり、仄かな街灯の灯りが、校門へと続く道を照らしている。ふと、そこを歩いている生徒から、薄い黄色の味がした。
「……楽しそうだな」
『共感覚』。それが僕、飛鳥 蒼大の持つ力だ。
赤の自己。青の他者。緑の理性。白の善意。黒の悪意。
感情を色として味で感じてしまう。
色の捉え方は、いわゆる色相環と同じで良い。
つ薄い黄色の感情というのは、「自己と理性の中間の善意寄りの感情」、つまり、「本能も理性も善意に惹かれる感情」ということになり、楽しいという感情になる。
……具体性を持たせるとこんな感じになるが、僕個人の感覚でしかないから、正直何とも言えない。
この力は、便利だが不便だ。
他者に騙されたり、他者が話したくないことを理解するという点では役立つ。
だが、物凄く疲れるうえに、知りたくないことまで知ってしまう。それこそ、誰が友達同士で嫌いあっているのかなんてことも――――。
「……帰るか」
暗くなりはじめた思考を振り払うように、僕は歩きはじめた。
「と言っても、すぐ着くんだけどな」
学校の敷地内にある、礼拝堂。その中の一室――職員室が、僕の家だ。
……僕はこの学校の生徒であるのと同時に、職員でもある。担当は「宗教学」と「カウンセラー」だ。
なぜこんなことになっているのかというと、僕が孤児で、ここで育てられたからだ。
僕は教義にそこそこ精通していて、他者の心をしっかりと把握することが得意だ。だから、僕は神父として認められていて、そのせいかこのようなことになっている。他に行くあてもないので、僕はここで、そのようにして生活している。ちなみに、信仰心についてはさほどない。
部屋にたどり着き、荷物を置く。この礼拝堂で暮らしたり、この礼拝堂の職員室を利用している職員は僕だけだから、この部屋には様々なものが置かれている。だが、これといって特異なものはない。そもそも比較対象はないが。
コンロに向かい、夕食を作る。ちなみに、食材は週末に買い込んでいる。だから、平日は学校が終わったら家まで寄り道せずに帰ることがほとんどだ。そもそも、寄り道をするならだいぶ遠回りになってしまう。
完成した夕食を、祈りを捧げてからひとりで食べた。この祈りは、この食材たちへの冥福と、この食事を恵んでくださった方々への感謝だ。
食事を済ませたあと、傘を持って、なんとなく外に出て散歩をすることにした。