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第5話 温泉少女と魔女

魔法少女モノこれにて完結です。

次回作にご期待ください。

「くっらえー! ホットハートシャワー!」


 学校の帰りに偶然ペルヴと遭遇した私は、周囲に被害を及ぼさない内に倒してしまおうと戦いを挑んだ。

 そしてペルヴを弱らせる事に成功した私は、今まさに必殺技で止めを刺そうとしていたその時だった。

 ペルヴに向かって放たれた私の攻撃が突如弾かれてしまったの。


「うそっ!? 何で!?」


 驚いた私だったけど、その理由は直ぐに分かった。

 そこには、一人の女の子の姿があったからだ。

 普通の女の子が着たりしない不思議な衣装、魔法少女のコスチュームを着た女の子の姿が。


「貴女……魔法少女だよね?」


 魔法少女以外に私の攻撃を防ぐ事なんて出来る訳がない。


「何でペルヴを倒すのを邪魔するの?」


 でも、その女の子は首を横に振る。


「私は魔女。魔法少女じゃ……ない」


「魔女?」


 魔女と名乗った女の子は、ペルヴを守る様に立ちはだかるとこう言った。


「もう願いを叶えるのは止めなさい。これ以上願いを叶え続ければ……」


 魔女は一旦言葉を区切ると、私を美しく力強い眼差しで見つめてくる。


「世界が滅ぶわ」


 ◆


「って事があったんだよー」


 結局あのあとペルヴには逃げられてしまい、詳しく聞こうにも気が付いたら魔女も消えてしまったので、仕方なく私は家へと帰ってきた。

 そして今は願いで作った秘密の大浴場で温泉に入りながらスペロー君に事のあらましを説明していたわけだ。


「魔女については僕も聞いた事があるよ。彼女達は元魔法少女でありながら、ペルヴ狩りを拒否した存在らしい」


「ふーん」


 そっかー、あの子も元々は魔法少女だったんだ。


「でも願いを叶え続けたら世界が滅ぶってどういう事?」


 私はスペロー君に彼女の言葉の意味を質問する。

 けどスペロー君は首を横に振って分からないと言った。


「僕は魔法少女をサポートする為に生み出された使い魔だけど、それ以外は何も教わっていないんだ。僕らが知っているのは、ペルヴを倒さないと人間達に被害が出ると言う事だけ。そしてペルヴを何とか出来るのは魔法少女をおいてほかにない。そして魔法少女との契約の方法とその力の使い方をレクチャーする事。僕らが知っているのはこれだけさ」


「つまりペルヴ君は下っ端だから何も分からないんだね」


「そういう事だね」


 すごい、下っ端と言われてあっさり認めちゃったよ。


「でも世界が滅びるって言われると願いを叶え辛くなっちゃうなー」


 だって世界が滅びるんだよ? さすがにこう……ね?


「本当に世界が滅びるのかなぁ……」


 私は答えの出ない疑問に頭を悩ませながら湯船に体を沈める。

 ああ、温かい。

 こんなに暖かいのに願いを叶えちゃだめだなんて……


「……やっぱり、納得いかないよ」


 そうだよ、私達は悪い事なんてしてないんだ。

 だったら……


「もう一度あの子に会おう!」


 私は、魔女と名乗ったあの女の子を探す事を決意した。


 ◆


「見つけたよ魔女さん!」


 あの子を探すと決心して一週間、ようやく私は魔女と再会する事に成功した。

 方法は簡単。ひたすらペルヴと戦う事だ。

 そして今日、ペルヴに止めを刺そうとした私を再び魔女は邪魔してきた。


「貴女はまだ戦い続けるのね」


 良かった。私の事覚えてくれていたみたい。


「貴方に聞きたい事があったんだよ。何で願いを叶えると世界が滅びるの!?」


 私は魔女に向かって先日の言葉の意味を問いかける。


「逆に聞くけど、願いってどうやって叶えられていると思うの」


「え? それはペルヴを倒した願いポイントで……」


「その願いポイントって何? それはあくまでも倒した相手の強さを数値としてあらわしただけの事よね。その数字が願いを叶える訳じゃないわ」


 そ、そう言われてみれば……


「例えば100万円が欲しいと思ったとして、普通に手に入れようとしたら何カ月も働かないといけないわ。効率的に働く為のノウハウや体力も必要ね。でも魔法少女が願えばそれを一瞬で叶える事が出来る。だとすればその労力はどうやって短縮するのか、という話よ」


 うむむ、そう言われると確かに疑問かも。


「お金なら相手があらかじめ用意しておけば何とかなるかもしれないけど、でも中にはお金ですぐには叶えられない願いもあるわ。力や知恵といった自身の肉体の永続的な強化や外見を良くしたり、中には不治の病を治した子だって居たわ。そんな願いを叶える為に、何が犠牲にされたと思う?」


 犠牲、何かが犠牲にされた?


「それが世界よ。この『世界』を維持する力が、願いによって消費されているの。そして『世界』を維持する力が完全に消費されつくした時、『人間の為の世界』は滅びて『神々の為の世界』が蘇るのよ!!」


 ……ヤバイ、完全にシリアス案件ですよこれ。

 あと神とか宗教関係の人かな?


「神々の世界って……何?」


 とりあえず疑問に思った事を聞いてみる。今は情報が足りなさすぎてわけわかめだよ。


「言葉通りの意味よ。元々この世界は神々が支配する世界だった。神が全てを司り、人間は神々や怪物に支配され、蹂躙される神話の世界だったの。それを快く思わなかった当時の人間の魔法使い達は、人間を守る為に魔法の、神秘の無い世界を作り出したのよ。それがこの世界」


 お、おおう。なんだか壮大になってきましたよ。


「神や魔物は神秘の存在。つまり神秘が無ければ神は存在できない。酸素が無ければ火は燃える事が出来ないのと同じね。つまり世界から神秘という酸素を取り除く事で、私達は神々を世界から追い出したのよ。火の付いたろうそくの上からひっくり返したコップを下ろして壁を作るみたいにね。理科の授業でやったでしょ?」


 そう言って、魔女は握った右手の上に開いた左手をかぶせるジェスチャーを行う。


「つまり願いが消費するのは、人間の為に作られた神秘を取り除くコップという力なの。これが失われたら今の世界は崩壊して、再び人間が神々に蹂躙される世界が復活してしまう」


「……じゃあ、スペロー君は神様の作ったスパイ!?」


 私は味方だと思っていたスペロー君が人間の敵だったと知って衝撃を受ける。

 まぁ普通の女子中学生をスカウトするあたりで怪しいという意味では納得なんだけどね。


「いいえ、アレは神々が作ったモノじゃないわ。あれは、神々の世界を復活させたい人間の魔法使い達の一派が生み出した存在よ」


「何で人間が神様の世界を復活させるの? 神様の世界になると人間は大変な事になるんでしょ?」


「それは普通の人間の話ね。この世界は神秘のない世界、つまり魔法使い達にとっては魔法が使いにくい世界なのよ。だから彼等は魔法が自由自在に使えた昔に戻りたいの」


 魔法使い達も一枚岩ではないと彼女は言う。

 そして魔女は私の目をまっすぐに見つめて来る。


「この事実を知って、貴方はどうする? これからも願いを叶え続けるの? それとも、この世界を守る為に私達に協力してくれる?」


 うむむ……これは困った。

 予想外に真面目な話だよ。

 私達がペルヴを倒して願いを叶えるとそんなとんでもない事がおきるなんて……


「そもそもー、ペルヴって何な訳? アイツ等が居なかったら魔法少女なんていらない訳じゃない」


 そうそう、結局ペルブが居るから魔法少女が必要なんじゃない。


「ペルヴェルティーヌはこの世界を維持するための歪みよ。本来なら神秘のある筈の世界から、神秘を取り除いた不自然の歪みを矯正する存在。いうなれば形を持った地震と言ったところね」


 あれは地震だったのかー。


「地震は地面に沈む混むプレートが元に戻る時に引き起こされる現象。そしてプレートが元に戻ったら地震が収まる様に、ペルヴもある程度暴れたら消え去るわ。つまりアレは天災の一種なのよ」


 天災って言われても納得しづらいなぁ。形のない地震なら仕方ないと諦める事が出来るけど、ペルヴは形があるもんねぇ。


「ペルヴの危険から人間を守りたいのなら、人を救って安全な場所まで避難させるだけでよいわ。その時は建物とかが破壊されるだろうけど、少なくとも命は守られるわ」


 うむむー、そう言われるとそうだけど、でもそれだと私達無償で正義の為に戦わないといけなくなるんだよねー。

 ボランティアで命を掛けるのはちょっとなー。

 何かいい方法はないかなー……

 人間の世界を守りつつ願いを叶える方法……たとえば。


「あの……さ」


 私は1つのアイデアを提案してみる。


「何? 答えが決まったの?」


「答えというか、提案なんだけど」


 どうかなー、通用するかなー。


「ペルヴを倒した願いで、人間の世界が壊れませんようにって願ったらどうなるの?」


「は?」


 魔女が目を丸くしてきょとんとした顔になる。


「えっとね、皆が願いを叶えて世界を守る力が弱くなるなら、逆に願いで世界を守る力を強くしたいって思ったらどうなるのかなって」


「貴方ね、それが自分の財布から取り出したお金を自分に支払う行為だって分からないの?」


 うわー、めっちゃバカにされてる。


「でもさ、でもさ、最初にその世界を守る力ってのはどうやって作ったのかな? それも魔法で造ったんでしょ?」


「え? ええ、そうでしょうね。そうだと思うわ」


 お、それじゃあイケるかも!


「だったら、私達が魔法を使うのに使ってる魔力を世界を守る力を補充する為に無理のない範囲でチャージすれば良いんだよ」


「い、いくらなんでも個人で賄える量じゃないわよ! 常識で考えなさい!」


「大丈夫だよ! 魔法少女っていっぱい居るんだし、みんなで少しずつ魔力を注ぎ込めばイケると思うんだ!」


「皆って、魔法少女がどれだけいるか分かってるの?」


「詳しくは分からないけど、願いでそれが分かるようにしてもらえばいいんじゃないかな。そんで皆に世界が滅ばないように定期的にチャージしてもらうように頼めばいいんだよ。皆だって世界が滅んだら願いを叶えて楽しむどころじゃないでしょ?」


「……」


 私が早口でまくし立てると、魔女はアゴに手を当てて考え込んでしまった。

 どうかな、イケるかな?


「少なくとも、時間稼ぎにはなるわけ」


 おっ、好感触!


「仲間達と検討はしてみるわ。でも貴方達もむやみに願いをかなえるのは控えなさい。世界を守る力を使い切ったら願いは叶わなくなってしまうんだから」


 そういって魔女は身を翻すと、私に背中を見せて去ってゆく。

 そして、


「私の話、真剣に考えてくれてありがとう……」


 去り際、小さな声で彼女は確かにそう告げた。


「……可愛い」


 思わず私は本音が漏れてしまった。

 いいなぁ、あの子と一緒にお風呂に入りたいなぁ。


「また、会えるといいなぁ」


 こうして、一人の魔女との邂逅が終わりを告げ、魔法少女達の間では願いをかなえる代わりに世界を守る力を補充するという暗黙のルールが出来上がるのでした。


 ◆


「さっーて、今日も頑張ってペルヴを狩るぞー!」


 ~Fin~ 


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