第4話 善行と金儲け
「今日もチョー儲けたし!」
アタシはスマホに表示された願いポイントを見てニマニマと笑みを浮かべる。
「今日のポイントは5だからー……50万円かー! 何に使おうかなー!! あ、でも少しはパワーアップ用に残しておいた方が良いかな」
アタシは魔法少女ゴールドマイヤ、皆の為に戦う正義の味方だよ!
……つっても、ちゃぁーんと報酬は貰うけどね!
アタシが魔法少女として戦う報酬はずばりお金!
ペルヴを倒した願いポイントをお金に換えて貰ってるの!
だって世の中お金が全てだからね、お金があれば大抵の願いは叶うんだもん!
けどま、このお金を合法的に手に入れようとすると願いポイントに手数料がかかるのが難点かな。
現実とつじつまを合わせるとその分願いを叶える為に使う力が多くなるってスペっちが言ってたんだよねー。
あ、スペっちってのは使い魔のスペローの事ね。
アイツめっちゃ胡散臭いんだけど、実際にお金が貰えるから魔法少女として戦うのに不満は無いし、あと尻尾モフモフで気持ち良いし。
「んじゃ、2ポイント使って20万ゲットして、残りのポイントは取っておこっと」
お金を使うのは大好きだけど、貯金も大好きなんだよねー。願いは色んな事に使えるから、いざという時にポイントが残ってるとかーなり助かるしー。
「ふっふーん、これだけあれば新作の服だけじゃなくって新しいバッグも買えるじゃん。あとー、ムタバの新作パフェ食べてー、そうそうネイルの新色も探しに行こーっと」
明日の買い物計画を練りながら家の上を跳んでいたアタシは、ふと地上に見覚えのある姿を見つける。
「あれって……」
地上に降りたアタシは上から見かけた姿を探す。
「確かこっちに~」
と、声のした方向に視線を送ると、そこには可愛らしいお尻があった。
可愛らしい黄色いスカートは捲れて、これまた可愛いパンツが丸見えだ。
植え込みから生えたお尻は時折フリフリと左右に揺れてアタシを誘っている。
「これは、触って下さいって事だよね?」
そう判断したアタシは、迷わずお尻を鷲掴みにした。
「キャアァァァッ!?」
突然掴まれた事でお尻が悲鳴をあげる。
「ほっほー、これはなかなかの揉み応えじゃの~」
アタシは鷲掴みにしたお尻を揉みしだく。
モミモミモミモミモミモミ。
「ひにゃぁぁぁぁぁ!?」
お尻が間の抜けた悲鳴をあげる。
ぐふふふ、可愛い奴め。
「や、止めてくださいぃぃ……」
おっとー、いかんいかーん。
これ以上やったら泣かれてしまう。
アタシはお尻を揉むのを止めて後ろに下がる。
するとお尻はようやく止めて貰えた事で安堵の尻揺れをしてから、ズリズリをバックを始める。
うわー、めっちゃ揉みたい。
「うう、何だかひどい目に遭いました」
植え込みから出て来たのは、予想通りの小柄な女の子だった。
この子の名前は魔法少女リリカルユーリィ。
彼女はペルヴと戦わない珍しい非戦闘系魔法少女なんだよねー。
「やっほーユリっち」
アタシは何事も無かったかのようにユリっちに挨拶をする。
「あ、どうもマイヤさん。今日もペルヴ狩りのお帰りですか?」
「そーそー、今日は儲かったからさ、ユリっちにたい焼き奢ってあげよっか?」
「えっ! 本当ですか!? ……ってそうじゃないですよ! 今私のお尻を揉んだでしょう!」
ちっ、誤魔化せなかったかー。
「メンゴメンゴ、許せユリっち」
「メンゴメンゴじゃありませんにょー! いっつも私のお尻を揉むんですかりゃ!」
うわっ、本気で怒ってる。
ユリっちは怒ると語尾が舌っ足らずになっちゃうんだよねー。チョー可愛いー。
つってもあんまり怒らせても後で大変だし、ここは素直に謝罪しよーっと。
「ゴメンねー、たい焼きにプリンもつけるからさー」
「プリッ!?」
ユリっちの顔が真剣になる。
この子は甘い物がチョー好きだから、怒った時は甘い物で釣るに限るんだよねー。
「……プレミアムプリンなら許します」
「おっけー、そんじゃさっそく買いに行こー!」
298円で機嫌を直してくれるんだからとってもエコな子だよね。
「あ、ちょっと待ってください」
ユリっちの機嫌が治った所で、アタシは打ち上げに向かおうとしたんだけど、そのユリっちから待ったがかかる。
「何? 忘れ物?」
「いえ、この子を飼い主の所に連れて帰らないと」
そう言って、ユリっちは胸元に抱えていた子猫を見せる。
「その子を探して植え込みに潜ってたわけ?」
アタシが質問すると、ユリっちはコクリと頷いた。
「はい、この子が迷子になって飼い主さんが探していたんです」
「成程ねー、そりゃユリっちの魔法にうってつけの仕事だわ」
魔法少女はペルっちと契約すると一つの魔法を授かる。
ゲーム的に言うなら最初に必ず貰える初期装備って訳だねー。
ちなみに能力値は課金で上昇できるから努力要らずなゲームだよー。
コンティニューはないけどさ。
でも中にはこの最初に貰える魔法が戦闘に向かない子もいる。
ペルヴを倒すのが使命なのに、なんで戦えない魔法なんかを寄越してくるの?
初めてユリっちと出会った時、アタシはユリっちの魔法を聞いてそう思った。
その時ユリっちはペルっちから、魔法は契約した人間の心を形にするからどんな魔法を貰えるのか分からないって言われたと教えてくれた。
それを聞いてアタシは自分の貰った魔法がそういう効果だったのはそういう事だったのかと納得した。
納得したけど納得できなかった。
「そんじゃその子猫を飼い主に返したらプリン食べにいきますかー」
と、アタシ達が油断した時だった。
「ニャーッ!!」
「あっ!?」
突如子猫が暴れ出してユリっちの腕から逃げ出したのだ。
「ま、待ってー!」
ユリっちが慌てて子猫を追いかける。
「ええっ!? ちょっ、待ってユリっちー!」
プリンを奢ると言った手前、アタシもユリっちを追いかけない訳にはいかない。
アレか? これが因果応報って奴!?
◆
「あっちゃー、完全に見失っちゃったねー」
逃げた子猫は運悪く建物の細い隙間に逃げてしまった。
それを先回りするべくアタシ達も行動したんだけど、子猫はどんどん人間が通れない道へと向かっていき、遂にアタシ達は子猫を見失ってしまった。
「どうする? 諦める?」
そろそろ暗くなってきたし、家に帰った方が良いんじゃないかなーとアタシは思うんだけどさー。
「いいえ、帰りません!」
けどユリっちは探す気満々だ。
「魔法を使って探します」
そう言うと、ユリっちは懐から大きな宝石の付いた細い鎖を取り出す。
「子猫さんの居る所を教えて」
そうユリっちが言うと、鎖から垂れ下がっていた宝石が淡い光を放って宙に浮きあがる。
そして散歩をせがむ犬の様にある方向に向かって動き出した。
「行きます」
ユリっちは宝石が進む方向に向かって走り出す。
「はいはーい」
そして宝石の指し示す方角に向かって進んでゆくと、人気のない路地裏にたどり着いた。
そう、人の気配のない場所に。
「これはマズイねー」
アタシの言葉にユリっちも身を固くする。
これは魔法少女だけが感じ取る事の出来る気配。
そう、ペルヴの気配だ。
「来たよ」
アタシの言葉に応える様に、ぺルヴが物陰から姿を現す。
けど、そのぺルヴはこれまでアタシが戦ったことの無いタイプのペルヴだった。
「何アレ!?」
ソイツの姿は、半透明でプヨプヨした人型のゼリーみたいな姿だった。
むぅ、どうするかなー。
さっき戦ったばっかだから、今ペルヴと戦うにはちょーっと準備が足りないんだよねー。
けど無理して戦う必要もないし、子猫さえ保護できればアイツは他の魔法少女に譲っても良いかなー?
けどその時ユリっちが小さな悲鳴を上げた
「マイヤさんあそこ!」
ユリっちが指さした先、ゼリー状のペルヴの腕の中にあの子猫がいた。
「ニャー」
「うっわ、最悪」
そう言いたくなるのも仕方がないと思う。
だってあの子猫を助けようとするなら、ペルヴと一戦交えないと行けなくなるわけで、しかも子猫を気遣いながらだからなおめんどい。
「ユリっち、これは諦めた方がいいんじゃない?」
戦闘向けでないユリっちにペルヴの相手は荷が重い。
アタシもやる気がない以上無理に子猫を助ける必要はないと思うんだよねー。
「いいえ、諦めません!」
けどユリっちはやる気満々だ。
そして運の悪い事に、ペルヴもやる気満々だった。
「ウォォォォン!!」
雄たけびと共にペルヴが殴り掛かって来る。
アタシとユリっちは左右に跳んで逃げる。
「ってマジ!?」
完璧に避けた、そう思った瞬間、ペルヴの腕が裂けるチーズみたいに真っ二つに割れてアタシ達を追いかけて来た。
「うわっと!?」
「きゃあっ!?」
アタシは何とか回避したけど、戦闘向けじゃないユリっちはまともに攻撃をくらってしまった。
「よくもユリっちを!」
アタシはポケットから小銭を取り出すと。それを貯金箱型のステッキに入れていく。
「喰らえマジカルATM!!」
これがアタシの魔法、お金を魔力に両替する力だっての!
これを使うと所持金が減るし、ゲンナマじゃないといけないからいつもある程度のお金を持ってないといけないからいまいち使い勝手が悪いのよね。
でも今使ったのは500円玉、結構痛いよー!
アタシの500円玉攻撃はペルヴの体に見事命中、更にペルヴを突きぬけて後ろの壁を破壊する。
「どんなもんよ!」
その時だった。
なんとペルヴの体に空いた穴は、瞬く間に塞がってしまったのだ。
まるで水が染み込むように。
「ウッソー……」
そして穴の塞がったペルヴは何事もなかったかのようにアタシに向かって攻撃を放ってくる。
「っ!」
アタシはペルヴの攻撃を回避しつつ、さっきの裂けるチーズ攻撃を警戒する。
案の定ペルヴは腕をグニャリと曲げてアタシを追撃してきた。
「当たるかっての!」
油断しなきゃあんな攻撃当たりっこない。
でもこっちも攻撃が通じないしどうしたもんか。
なんかでっかい攻撃でまるごと吹き飛ばさないとダメかな?
「ニャー」
って駄目だ。下手な攻撃をしたら子猫が巻き添えを食っちゃう。
これはいよいよヤバイね。
こっちの攻撃が効かないのに子猫の心配もしてうかつな攻撃は出来ない。
これはユリっちを連れて逃げた方が良いかな。
アタシは反撃を諦めてユリっちの下へ向かう。
幸いユリっちは大きな怪我はしていなかったみたいで、見た目に異常はなさそうだった。
「大丈夫ユリっち?」
「は、はい。大丈夫です」
ユリっちは気丈に返事を返してくる。
「こいつマズイよ。アタシ等の手には負えない。ここは一旦引くしかないよ」
そう忠告するアタシだったけど、ユリっちは静かに首を振る。
「子猫を助けないと」
ユリっちは子猫を助けないと逃げれないと言う。
「ねぇユリっち、何でそこまでして助けようとする訳? やっぱ願いの為?」
魔法少女はペルヴを倒す事で願いを叶える為に願いポイントを貰える。
でもユリっちみないな戦えない魔法少女はペルヴを倒してポイントを稼ぐ事が出来ない。
そんな彼女達がポイントを稼ぐ方法は一つ、善行を積む事だ。
彼女達は善い行いをする事でポイントを得る事が出来る。
アタシ達戦闘向けの魔法少女でもポイントをゲットする事は出来るけど、戦闘に比べれば貰えるポイントは微々たるものだ。
社会人の給料と子供のおこずかいほど違う。
だからユリっちは貴重なポイントを稼ぐ為に子猫を助けようとしているのかと思ったのだ。
でも違った。
「いいえ、あの子猫が帰って来るのを、飼い主さんが待っているからです」
ユリっちは真剣な顔でそう言った。
本心を隠す為の演技とかじゃなく、心からの言葉だってわかる。
ほんとこの子ってば、アタシと違って善良なんだから。
しゃーない、トコトン付き合ってあげますか。
「でもアイツに攻撃は通用しないよ。近づいたら裂けるチーズ攻撃で腕が追って来るし」
「裂けるチーズ!?」
アタシの言葉にユリっちがキョトンとした顔をみせる。
そして肩を震わせてプルプルと肩を震わせ始めた。
コンニャロ、全然笑いを隠せてないぞ。
「で、では、私の魔法であのペルヴの弱点を探ってみます」
そう言ってユリっちがペルヴに向けて宝石の付いた鎖を掲げる。
「そんな事できるの!?」
「やるのは初めてですけど、私の探す能力ならあるいは……ペルヴの弱点を探して!」
そうユリっちが叫ぶと、手にした宝石の先端から緑の光が飛び出し、ペルヴの体の一点を指した。
「マイヤさんあそこです!」
「よっしゃ!」
すっごい! ほんとに弱点を見つけちゃったよ!
アタシは貯金箱に500円玉を入れて狙いを定める。
でもなぜかユリっちの指し示す光がグニャグニャと動いて位置が定まらない。
「ユリっち、弱点どこ!?」
こうも動いたら狙いが定まらないよ。
「あ、あれ? どうしたんだろ……あっ!?」
っと、そこでユリっちが何かに気付いたらしく声をあげる。
「アレ! あの弱点動いてます! 光の先に小さいのが動いてますよ!」
ユリっちに言われて光の先を見ると、確かに何か小さいのが動いてる。
「アレを狙うの!?」
いやいやいや、あんな小さくて動くのをピンポイントで狙うなんて、このままじゃ無理だ。
けど、自分のペットでもない子猫を助けるのにこれ以上はなー。
「ニャー!!」
っとその時子猫が悲鳴をあげる。
どうやらペルヴがユリっちの魔法で弱点がバレた事に気付いて興奮したみたいだ。そんで捕まった子猫を握る腕に力が入って苦しんでるみたい。
「マイヤさん早く!!」
ユリっちがアタシを急かす。
「あーもーしゃーない!」
アタシは観念して一万円札を投入口に何枚も放り込む。
「ホーミング、精密動作、一点集中!!」
アタシは換金した魔力を魔法の追加効果として付け加えてゆく。
これぞアタシのマジカルATMの真骨頂、換金すればするほど威力だけでなく効果まで追加できる能力!! でも財布にめっちゃ痛い!!
「喰らえ! ホーミングマジカルATM!!」
貯金箱型ステッキから放たれた極細の魔力光は、動く弱点の動きを完全に見切ってど真ん中に命中する。
するとペルヴが苦しみながら体を崩壊させ始めた。
「子猫さん!」
ユリっちがすかさず飛び込んで落ちて来た子猫をキャッチする。
後に残ったのは完全に液体になったペルヴの残骸。
それもすぐに光の塵になって消えてしまった。
「やりましたねマイヤさん!」
ユリっちが子猫を抱きかかえながら満面の笑顔を浮かべてやって来る。
「そうねー」
でもアタシ的には大損気分だ。
稼いでいるとは言っても、戦闘で一万円以上を使うとかなんだかすっごく損した気分になるのだ。
アタシの攻撃はお金が無いと使えない。
だから無駄遣いはしたくないのだ。
気分的には課金ガチャで爆死した感じだ。
このお金でもっと有意義な事が出来たよねって。
「さ、子猫を飼い主の所に帰してあげましょう!」
「はいはい」
◆
その後、子猫を飼い主の下へと帰したアタシ達は、帰り道を歩いていた。
「飼い主さん喜んでいましたねー」
子猫が戻って来た飼い主の笑顔を見たユリっちはご機嫌だ。
けどもう暗くなってしまったので、約束のプリンは後日に持ち越しだ。
甘い物でのストレス解消も出来なかったので、アタシは気分転換に倒したペルヴのポイントを確認する。
「えーっと、今回の獲得ポイントは……」
とそこでスマホに表示されたポイントを見てアタシは目を点にする。
「にじゅっぽいんとぉぉぉぉぉぉ!?」
「ひゃう!?」
ユリっちがびっくりして悲鳴をあげる。
しかしそれどころでは無いアタシは、もう一度スマホの画面を見た。
そこには、確かに20Pと書かれていた。
「えーっと、20Pって事は約200万弱……200万弱!!」
まさかの大金星!! さっきのスライムペルヴってそんなに大物だったわけ!?
いやま確かに小さな弱点以外攻撃が通じない敵って手ごわいけど、でも予想もしてなかった金額だよ!
「あ、ほんとだ! 私にも10P入ってます!」
どうやら弱点を見つけた事でユリっちにもポイントが入ったみたいだ。
「ふへへへ、20Pもあればかーなーりー贅沢できるよねー!」
やっばいな、こんだけあれば暫く遊び放題だよー!
顔がニヤけるのを止められませんなー。
「よっし今日の夕飯は豪勢にいくぞー! ユリっちにも奢ってあげるから!」
「え? でも私家でご飯が……」
「いいからいいから!」
アタシは帰ろうとしていたユリっちの腕を掴むと、夜の繁華街にむかって突き進んでいくのだった。
「ペルヴ狩りサイッコー!!」