第3話 力と技
「はぁっ!!」
俺が拳を繰り出せばペルヴの巨体が吹き飛び、手刀を落とせば豆腐を切るように脳天から両断する。
「せいっ!!」
蹴りを放てばペルヴの硬い外皮が砕け、掌を放てば自慢の鎧を通り抜けて内部から破砕する。
けど……
「こんなもんじゃ足りない!!」
俺の目的には、悲願には力が足りなさ過ぎる!!
◆
「おらぁ!!」
今日も俺こと魔法少女ドリームユウキはペルヴを狩り続ける。
一応親を心配させない為に学校には通ってるが、それ以外はずっとペルヴを狩る毎日だ。
「今日もペルヴ狩り? 熱心なのは良いけど、少しは学業にも力を入れた方が良いわよ?」
戦いを終えた俺に話しかけてきたのは、同じ学校に通う皐月翠ってお嬢様だ。
こいつも俺と同じ魔法少女で名前をグレイスミドリとか言うらしい。
見ての通りお上品なお嬢様だ。
俺とは大違いだな。
「最低限赤点は取らないようにしてるから心配すんなって」
っていうか、赤点取ると母様が怖いからな。
ウチは代々道場を経営してきた家だから武術に力を入れる事を推奨されている。
だから多少テストの点が悪くてもとやかくは言われない。
けど母様の方針で武術家にも最低限の教養は必要、故に赤点は許しませんって言われている。
もし赤点を取ろうものなら、世にも恐ろしいお仕置きが待っているからな……
アレはイヤだ。アレはヤバイ……
「貴方もお嬢様なのだから、もう少しだけ言葉遣いをキレイにする事を覚えなさいよ。本当に素材は最高なのに」
「顔が良くても強くはなれねぇよ」
「名前だって優しい姫なのに」
翠が残念そうにため息を吐く。
「俺だってこんな弱っちそうな名前に生まれたくて生まれた訳じゃねぇよ!」
そうなのだ。俺こと東染院優姫は、その名を体であらわすかの様に小さい体をしていた。
周りの人間はお人形さんの様に可愛いなんていうけど、俺はもっと大きくてがっしりした体になりたいんだよ!
本当なら願いで筋肉ムキムキになりたかったんだけど、母様から女の子は可愛くないと絶対ダメといわれてるから、筋肉が付き過ぎるトレーニングは禁止されてるし、もし母様チェックにひっかかったらお仕置きされるし……
「あーもー! もっと強くなりてぇー!」
次なるペルヴを求めて俺は駆け出す。
「少しは落ち着きなさいよね。闇雲に走ってもペルヴが見つかるわけないでしょ。ちゃんと気配を探らないと」
翠が俺の横に並びながらアドバイスをしてくる。
コイツやたらと俺の世話を焼いてくるんだよな。
学園でもやれリボンが曲がってるって直したり、やれほっぺたにお弁当が付いてるって言ってご飯粒を取ってくれるし。
もしかしてコイツ俺が好きなのか?
……いや女同士でそれはないか。
ともかく、俺は意識を集中してペルヴの気配を探る。
そうだ、気配を探って相手の場所を知る力も俺の目的とする強さのひとつだもんな。
ただ強いだけじゃダメだ。
「さんきゅミドリ」
「う、うん!? ……どう致しまして」
俺に礼を言われ、ビックリした翠が顔を赤くする。
礼を言われたくらいでそんな顔するなよな。
「……っと、見つけた! 行くぞ翠!」
◆
「たりゃぁぁぁ!!」
俺が拳を連打すると、4本の腕での連続攻撃が自慢だったペルヴがたじろいで後退する。
たとえ手数が多くたって、武術家である俺には素人が二人いるのと同じだっての!
「危ない優姫!!」
と翠が叫んだ時、左側から5本目の腕が襲い掛かってくる。
「うぉっと!?」
まさかここにきて5本目かよ! ずっと4本で攻撃してきたから不意を突かれたぜ。
「油断しないで!!」
翠の声が鋭く響くと、反対側からゴトンという音が聞こえてくる。
見ればそこには6本目の腕が転がっていた。
「悪ぃ、助かった」
俺は横に来ていた翠に礼を言う。
変身した翠はその手に一本の日本刀を構えていた。
コイツの獲物は刀、肉体を武器にする俺とは戦いへのスタンスが違うが、それでもコイツの剣の鋭さは美しさすら感じる。
ぜひ一度真剣で戦いたいもんだが、翠は断固として戦ってくれない。
木刀での戦いすら嫌がる。
なんでも自分の剣は守る為の剣、故に剣を向ける相手は敵に対してのみなのだそうだ。
練習くらいいいと思うんだけどよー。
「そんじゃ、そろそろ止めだ!」
俺は両手に魔力を込め、全力で地面を蹴ってペルヴの懐に入り込む。
そして両手をペルヴの腹筋バキバキの腹に叩き付けて、魔力を思いっきり放出した。
「トウセンハァっっっ!!」
両手から放たれた魔力が、ペルヴの体に放たれその体が空気を大量に入れた風船のように膨らんでいく。
そして限界を超えた風船が、破裂した。
「ふぅ……」
戦いを終え、残心する。
高揚した心を落ち着けるこの瞬間はわりと好きだ。
「お疲れ様」
刀を鞘に納めながら翠がねぎらいの言葉を掛けてくる。
見ればその足元には更に二本の腕が転がっていた。
どうやら俺への反撃の為に放たれた拳を切って守ってくれたらしい。
「さんきゅ」
「……貴方は守りが手薄すぎるのよ。もっと全体を見るクセを付けなさい」
「はいはい」
翠のお説教を聞き流しながら、俺はスマホを取り出して変身アプリを起動する。
そして今回のペルヴを倒したポイントがいくつなのかを確認する。
「へへっ、結構溜まったな。また強くなれるぞ」
俺は手に入ったポイントを使用して、自分の肉体を強化していく。
願いポイントが消費され、俺の拳が熱を帯びていく。
もうすこしだ、もう少しでアレが出来る様になる筈!
「……そういえば優姫、貴方って何でそんなに強くなりたいの?」
と、肉体を強化する俺を見て翠がそんな事を聞いてきた。
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「ええ、聞いてないわ」
そっか、こいつとは学校で同じクラスになってからの付き合いだからな。
そこんとこ教えてなかったっけ。
「まぁお前なら良いか」
翠はペルヴ狩りを手伝ってくれるしな。
その分願いポイントが分散されるけど、命あってのモノダネだ。
「俺の願い、それは……」
俺は自分の両手の平を見つめながら自分の願いを言葉にする。
「手から……ビームを撃つ事だ!!」
そう、俺の本当の願いは、強さを求める俺の願いは、いつか鍛えに鍛えた手からビームを放つ必殺技を会得する事なのだ。
「……は?」
翠がキョトンとした顔で俺を見てくる。
わっかんねぇぁかなぁ?
「ほらアレだよ。バトル漫画だと両手からビームとか撃つだろ? 俺はアレをやりたいんだよ! だから強くなってビームを撃てる様になりたいんだ!」
「……ああ。トウセンハのハって波の方だったのね」
お、さすが優等生。良く分かったな。
「……本当に貴方って、純粋よねぇ」
しみじみとした目つきで、翠は俺を見てそう言った。
一体どういう意味だ?