空中戦
森の中で、ななは幸せな時間を
過ごした。
一瞬が永遠に感じられる、とか
そんな言葉をななは感じていた。
でも、ロボットの加藤が
いつの間にか機能を停止していた事に気づく。
ゆらり、と
揺れると
そのまま地面に倒れた。
重さは大して人間と変わらないが
どうしていいかななにはわからない。
「どうしたの?加藤さん?加藤さーん」と
叫んだ声が、森林組合の人に聞こえたのか
「どうした!?」と、近くにいた職員が
駆けて来たが
ななが血相を変えて「倒れたんです加藤さん」と言っているのに、樵のおじさんは
「なんだ、ロボットか。電池無いんじゃないか?」と、笑顔でロボットの加藤を
見下ろすと
電源スイッチが落ちていた(笑)
抱き合った時にオーバーヒートしたのか(笑)
オートシャットダウンしたようで
温度ブレーカーが効いていた。
「しばらく寝かせてけ。直るべ」と、おじさんは
少し温まっている頭、コンピュータの入ったあたりを撫でた。
「そっか」と、ななは
膝まくらにロボットの加藤を寝かせ
起動するのを待った。
kato@mobile:............
checking memory............ok
diskette c0t0d1y...........ok
静かにインバータが起動し
ロボットの加藤は瞳を開いた。
「よかった」ななの泣き顔が加藤の視界に入る。
「すみません、少し熱が」と、加藤は
冷静だ。
そんなところも人間の加藤そっくりだった。
ごめんなさい、とななは
ロボットの額を撫でた。
わずかに暖かく、中でコンピュータが
過熱していた様子が解る。
「もう、あなたを失いたくないの」と
ななは、その言葉をロボットに言っているのか加藤に言っているのかわからなくなった。
でも、形があって温もりがあって
受け答えも人間の加藤そっくりだと
なな自身、どうしていいかわからなくなった。
科学が進歩して、別に
女性が子供を産む必然は無くなった。
ジョナサンのように人工環境で育つし
何より、エネルギーが無料化した事で
親として家督を相続する必然もない。
子供は子供で、機械の親から生まれても
ジョナサンのように爽やかな青年に育つ。
苦労して家族を営む必要も無くなった。
そうなった時の愛は、まだ、ななのように
人間から産まれた子は、人間を愛するような
プログラムが支配的だけれど
それも、情報がそうさせている。
ロボットの加藤でも、好きになれるし
ロボットの方でも、人間を愛する事もできる。
大昔から立証されていて、文通から
愛が芽生えたり
メンデルスゾーンのように、音楽の才能が
愛を呼んだりもする。
コンピュータ通信が起きてからは
Eメールで恋愛になる事もある。
人間の場合、それは情報なのだ。
心が満たされれば、それは愛である。
そして、コンピュータにも心は作れるのだ。
そういう純粋な愛を知るものはより純度を増した
ななも、ロボットの加藤との語らいに満足していた。
むしろ、人間の加藤だと他の女の子への気遣いとか
生理的な問題(笑)などもあって煩わしいが
機械の加藤なら、独占しても誰も困らないし
思い切り甘えられるし、恥ずかしい事も言える。
そんな風に、ななは
ロボットの加藤と恋愛に耽溺してしまった。
ななの小屋も、ロボットの加藤のおかげで
何とか形になる。
電気も水道もないが、それは工夫で
どうにてもなる。
ロボットの加藤は、二酸化チタンの粉末を
焼結し、ガラスに焼き付け
二枚のガラスの間にヨウ素コロイドを
封入して
色素増感太陽光発電ユニットを作る。
鉱業が衰退したので、こういうもので
自作をするのが理想的だ、と
ロボットは、加藤さながらにそう述べた。
ななは、なんだかわからないが
凄い、とだけ思う。
白粉の粉からどうして電気が起こるのかは
ななにはわからないけれど
光が、エネルギーを産む事はわかった。
それと、風車。
小さなネオジウム磁石12コを円周に並べた
基盤、それと
コイルを並べ、交互に磁界を渡るように
接続する。
それだけで、風が吹けば電気が起こる。
自動車のバッテリにそれを蓄電し
うまく制御すれば電灯は使える。
テレビもラジオも、直流のものなら
無駄なく作れた。
ななは、ただ驚くばかりで
「男の人って凄いなぁ」と
感想を述べると、ロボットの加藤は
「ななさんには、ななさんの凄い所がありますね」と、笑顔で述べる。
そんな褒めかたも、加藤そっくりで
ななはうれしくなる。
「冷蔵庫があると嬉しいな」と
ななは、都会的センスでそういう。
電力が乏しいので、ロボットはしばらく考える。
そして、車のラジエーターと
壊れたガス冷蔵庫を組み合わせた。
冷媒は、そのまま。
ラジエーターを
外に置いて
太陽熱で温まるようにパラボラアンテナの廃材でレンズを作る。
近くの小川から水を引いて。
水溶性の気体が入った冷媒を、熱源で温めると気体は蒸発する。
それを冷やすと、濃い水溶液ができるので
冷蔵庫内のラジエーターで蒸発させると
その時、ランキンサイクルが成立する。
気化熱で冷えるのだ。
水にそれが溶ける時、ラジエーターの気圧が下がるので
沸点は更に下がる。
そうして、水に溶けた冷媒は
また、熱源によって温められて
気体と、薄い水溶液になる。
その繰り返しで、冷蔵庫の温度を下げ
戸外で熱を放出するのだ。
同じ原理で、電気のいらないエアコンも作れる。
ロボットの加藤は、人間の加藤の記憶から
それを抜き出して、実際に作ってみる。
エアコンも、冷蔵庫もうまく作動する。
ななが、仮想人格と恋愛していると
言うのも
認知の問題で
現実に合成音声で計算、の
加藤が
本当の加藤と間違えたと言う事なのだけれど
自然環境ではないので、人間の認知は
そこまでは及ばないし
なな自身の、恋愛に耽溺したいと言う
希望もある。
ロボットの加藤は、それに正しい認識を持っているハズだが(笑)
悲しい事に、仮想人格は人間を模している。
やはり、どこかに希望や夢を
持ったりするので
認識が狂ってしまう。
本物の人間、ななと自身、ロボットが
対等に恋愛していると認知障害を起こし
困惑する事になった。
ななも、その環境では困惑を進める事になる。
婚姻して家庭に入った女性が
陰欝になったりするのと似ていて
自身の想像、行動力の行き場が無くなるので
どこまでが事実か、判断して良いのか
解らなくなってしまうのだ。
自然環境を認知する機能しかない人類が
社会環境を認知するには、加藤のように
法律や科学を勉強しないとならない、と言う
良い例である。
ななに、認知を求めるのは無理だったけれども
ロボットの加藤は、役割を終えて
研究所に戻らなくてはならない。
その冷蔵庫もそうだけど、みんな
大昔の技術者が考えたものだ。
そうでないものは少ないから
加藤は、自分など大したものではないと
謙遜でなくそう言う。
勉強でスポーツでも、芸術でもそうだけど
歴史の中のひとりであるだけだから
先人に敬意を表するべきで、謙虚であるべきなのだ。
人間の記憶が、感情と関連しているのは
面白い事実である。
いつも快くありたい、などと誰も思う。
ロボットの加藤は、ななと共に
加熱式冷蔵庫のチェックをしていた。
例えばアルコール水を使えば
誰でもイメージ出来るが
腕で蒸発させれば涼しい。
その腕が冷蔵庫に当たり、蒸発したアルコールを
再びアルコール水に戻す為に
密閉容器に入れるので、蒸発凝結機の
気圧が下がり
更に沸点が下がる。
アルコール水からアルコールを取り出すために
僅かに熱して分溜する。冷やして液化した
純アルコールをまた、熱交換機で蒸発させて
冷やす。
それだけのサイクルだが、静かで電気もいらない。
と、ロボットの加藤は楽しそうにしている。
そのあたりは人間の加藤とそっくりだけど
ななは、その加藤にどこかもどかしさを感じ
本物の加藤にするよりも大胆に
その、ロボットの加藤に触れ合った。
相手がロボットだから、と言う気楽さもある。
黙ってピッタリ腕に寄り添い、体を合わせた。
それは、人間ななの気持ちいい行動だった。
物理刺激で神経が興奮し、心地好いと
言う感情が心に生まれる。
別に変な事ではないけれど、人間の
世界では人目を憚る行為で
だから、保育園くらいから女の子は
偶然スイッチを押してしまう事もあって
気持ち良い行為に耽溺してしまう事もある。
悪い事でもない。
加藤のガールフレンドたちでも
5才くらいから知っていると言う子が多かった。
それなので、気持ち良くない時間は
それを求めて苛立つ、なんて事もあるし
思考力が低下する。
こういうタイプが婚姻すると、ひとりになれないので
いらいらおばさんになるのだが(笑)
それは仕方ない。
人間は快い事が好きなのだ。
ななは、加藤にしたように
スカートのまま、椅子に座って
椅子の座面で片方の膝を立てた。
ロボットの加藤は戸惑うけれど
誰もいない環境なので、その要求に従う。
人間の加藤も、もしそれが
二人きりの環境だったらそうしたかもしれない。
それは、悪い事ではない。
好ましい相手のためにサービスしてあげよう、お互いに。
そういう友愛である。
人類の隣人たちでは、雌同士で
見られる行動であり
あまり人間は進化していない。
ななは、幸せな時間を過ごす。
「それで、夜間の外気は温度が低いから
沢山の水を冷やしておいて、昼は断熱する訳です」
ロボットの加藤は、冷水冷蔵庫の説明をする。
水を断熱の大きな箱に貯めて、夜は放熱する。
蓋を開けて置いてもいいし、ラジエーターを使ってもいい。
朝は閉じて断熱する。
Q=MCT、則ち水の蓄える熱量は
その質量と温度差で決まる。
1Lが一秒に一度下降すれば1Kcalであり
4.2kw
だ。
1平方メートルの水でも1000Lである。
全て外気、例えば10度に冷えていたとする。
昼間の外気が25度なら
式よりQ=63Mwである。
昼間断熱しておけば、放熱は僅かであるから
十分冷蔵庫になる。
夜までの12時間、則ち43200秒で
放熱しても
17.5kwで十分能力がある。
「でも、夜の外気以下にはならないから
ガス冷蔵庫と併用した方がいいですね」と
ロボットの加藤が言った。
こういう風に、クリエイティブな楽しみもまた
人間の行動力であるから
それでも、喜ぶ事は出来ると
ロボットの加藤はそんな風にも考える。
「凄いなあ、あたしにはとても」と
ななが言うと
ロボットの加藤は「はい、わたしとななさんは
違う人ですから。でも、ななさんは
とてもかわいらしいし、それは
心が健康的だからですね。それは
わたしには無いものです」と、ロボットは
当然に言う。
ななは、その言葉に
加藤と同じものを感じて安らぐ。
そのままでいいんです。
そう言われるだけで嬉しかった。
「おっとっと」ジョナサンは
小名浜の飛行場、自衛隊のそれの滑走路に
郵便飛行機を着陸させた。
エンジンをスローにして、空気ブレーキの代わりにする。
ふわりと止めるのは難しいが、慣れた。
自衛隊のパイロットが拍手してる。
「よぉ、上手だな郵便屋さん、自衛隊へ来いよ」
大柄パイロットは、ジェット戦闘機の担当のようだ。
大きなFー15は、かっこいいけど。
「そのうちね」と、ジョナサンは
郵便袋をかついで飛行機から下りる。
ジェットはいいけど、なんか自由がなあ。
気持ち良いのは、やっぱこれさ。
飛行場で待っていた小名浜郵便局の
赤い車に駆けてゆく。
「どうせやるならでっかい事しろよ」と
加藤は、自分の利益のためにしか
動かないそういう連中に、心でそう呟いた。
明らかに生き物としては退化して滅びるタイプだな、と
比較進化論的に見てそう思う。
環境に適応して生き残るタイプは
争わずとも生きて行けるのだ。
生き物は、争いあって死滅するように出来ている。
争わない方が健康にいいのだ。
ジョナサンは、小名浜郵便局の赤い車に
郵便を渡して、帰りの荷物を受け取る。
時間が正確なのが飛行機の使命だけれど
風向きやルートなどで、遅れる事もある。
そういう時にうまくカバーするのが
いいパイロットだ。
「小名浜郵便局郵便課長代理、叶です」
「霞ヶ浦飛行隊ジョナサンです。」
敬礼!
「ご苦労様です。ジョナサン君。フルネームだと何て言うの?」
口調が砕ける課長代理。
「ジョナサン・リビングストーン・シーガール」
それホントに?と
郵便課長代理は笑ってバイバイ。
ジョナサンの心に、いくつもの音楽が浮かぶ。
バリーホワイトの「愛のテーマ」。
5thディメンジョンの「輝く星座」。
シルビー・バルタンの「あなたに夢中」
「どれも飛行機のコマーシャルだな」(笑)
ジョナサンは笑って、山下達郎の ride on time を口ずさんだ。
これも飛行機の映像が出るテレビだった(笑)。
楽しげなジョナサンは、帰りの燃料を入れに補給へ向かう。
「よぉ」つなぎ服の老人は、ジョナサンを見て笑う。
日焼けの顔にシワまで笑顔だ。
「ガソリンは珍しいな」と、老人は
エンジンが好きらしい。
・
ガソリンを投入しながら、老人は
ジョナサンに注意を促す。
「暗くなると危ないから、海辺を飛んで行った方がいい。モーターパラグライダーが増えているから高度を取って。それから、腕試しに
来る奴らがいるからな。相手にするな」
「腕試し?」ジョナサンに聞いたことのない
言葉。
老人は頷き「いつの時代も同じさ。ただ、今は暇になった奴らが飛行機を買って、飛ばしているからな。モーターの。操縦訓練とか言って」
嘆かわしい、と老人は言う。
飛行訓練と称して、仕事で乗っている
ジョナサンのようなパイロットと
腕を比べたいらしい。
いつの時代も同じだが、操縦が上手いと言う
証が欲しいらしい。
「郵便飛行機って上手いパイロットだと
思ってるんだろう。それに勝ったって
吹聴したいんだろな。愚かな奴らだ」と、老人は言う。
さっきのF15のパイロットが来て「護衛してやろうか?ミサイルで吹っ飛ばしてやるぜ」と
笑顔(笑)。
もちろん冗談である。
ジェット戦闘機とではスピードに違いがありすぎる。
暇が出来て、食うに困らなくても
男ってのは力比べが好きらしい。
科学の子ジョナサンには理解できない。
「僕は郵便運ぶのが任務だから」ジョナサンは笑う。
「ああそうだな。それでこそ公務員だ。」と、老人。
郵便局は、貨幣流通経済が破綻してから
国営に戻った。
市場経済には見合わないコストだからである。
同じく、鉄道もほとんど国営に戻る。
利益を得る必要がもうないからだ。
自然エネルギーの無料化で、企業活動をしてまで
日本銀行券の信頼を上げようとする企業もない。
企業活動そのものが必要なくなったのだ。
人々はそれぞれ、好きな事をすればいい。
いいのだが。
飛行機の操縦、なんて
今まで普通の人々には無縁だったものを
する時間が出来て来ると
上手いと言われたい。
そんな欲もあるのが人間。
「エアレースでも出ればいいのさ」と
F15のパイロットは笑った。
「そうやって、キチンと勝敗がつくと
まだ怖いのさ、そういう連中は」と、老人は
よくわかっている。
「力試しならいいがな。堂々と勝負してやれ。あんたは大丈夫だ」ガソリンを注ぎ終えて
老人は笑顔を見せた。
「ありがとう」と、ジョナサンは言う。
「着陸、見事なもんじゃったぞ。」と、老人は笑顔。
「ああ、軍用ヘリコプターでも使えそうだよ。郵便局辞めて来いよ」と、パイロットは言う。
ジョナサンは晴れやかに飛行帽をかぶり
ゴーグルをした。
郵便局の支給品なので、赤い〒マークが付いている(笑)。
「これがいいんだよね」
オークションで売らないように、と
飛行隊から言われている(笑)。
貨幣流通が止まっても
ふつうのクレジットカード、と同じように
IDカードで決済は出来るから
別に、売買も出来るけれども
皆が裕福になったので
取引と言っても、大した額面では出来なかった。
レア・アイテムなら
高額で売れたとしても
電力量の需要が限られているので
得たエネルギー量が捌けなければ、それは
資産にはならないし
そもそも、個人がエネルギーを大量貯蔵はできないから、
高額取引は不可能だ。
従って、貧富は起こらず
無意味な贅沢三昧はできない。
それなので、贅沢品などの取引をしても
買う人々は少ない。
そういう人々は紙幣を使いたいところだが
それの信用が下がっているのである。
国家が保障する信用紙幣だが
その国家に所属する企業が
企業活動を控えるようになってしまったので(笑)
紙幣、則ち国家が国民に対する借款である。
国民が支持しなければ、借款は成り立たない。
かつて、世界中の資産の70%が
僅か3%の人口に把握されていると言われた
信用貨幣だが
残る97%にそれは支えられていたので(笑)
97%が降りてしまえば、それは単なる
紙屑になる、と言う訳だ。
意識せず、それを行った加藤は
今は並列異空間に飛んで、ここにはいないが
今、この世界にいる加藤が、それの
発明者だと見られている。
ただ、加藤はエネルギーを発明しただけで
それを取引に使ったのは、誰彼ともなく
自然に起こった事であるから
誰を責めると言う訳にも行かなかった。
超電導が普及し、電力の融通が国際的になると
電力の余った国が、足りない国に融通する
ネットワークが出来る。
そこでは、取引は電力量で行われるから
そこに、加藤のエネルギー源が
個人単位で接続されるだけ、である。
夢のような永久エネルギー源も
常温超電導と、重力制御装置で可能になった、と言う訳である。
老人は、白い整備士服で
「じゃあな。幸運を祈る。雷など出ないように」
悪天候が一番怖い、軽飛行機である。
ありがとう、と
ジョナサンは操縦席に乗り、エンジンを掛ける。
点火時期を少し戻し、デコンプレッション。
セルフスタートを回す。
簡単にエンジンが掛かるのは
オイルが温まっているからだ。
クランクシャフトは組み立てなので、オイルが回らずとも軽く回る。
カムシャフトも、針ローラーベアリングだ。
そのため燃費も良いし、パワーもある。
4本の排気パイプは、美しいカーブを描いて接続されている。
1ー4、2ー3。
いわゆる、ツインスロートだ。
圧縮比は8だが、膨張比が14。
いわゆる、ミラーサイクルエンジンである。
ターボチャージで、ディーゼルにしても使える汎用エンジン。
今はガソリンが安いので、ナチュラルアスピ。
軽くエンジンが掛かる。
やや大きめのプロペラは、パワーのあるエンジンだから。
「じゃね」ジョナサンは片手を上げる。
F15のパイロットも片手を挙げて。
郵便飛行機は、滑走路を少し走ったかと思うと
ふわり、とカタパルトのように
飛び上がって
旋回しながら上昇。
ジョナサンは足を交互に踏み、翼を振った。
見上げる老人は「いいな、若い者は」と、にこにこ。
F15のパイロットは「乗んなよ、趣味でいいから」と、言うと
老整備士は
「いや、遊びで乗ってもなぁ」
元々、戦場パイロットで
今、ここにいると言う事は
相当のキャリアの持ち主なのだろう。
旧軍から自衛隊に来れる人は珍しい。
一度、出た人が戻る事が稀なのは
かつての仲間が使い難いからで(笑)
それでも呼ばれるのは
余程のキャリアを持っているから、なのだろう。
加藤もまた、その口で
一旦研究所を退官したあと、別の研究所を幾つも渡って
研究を続けた。
その成果が学会経由で認められ、再び
この研究所に戻れたのは
よその研究所に成果を出すなら、うちに。
そういう理事の意向である(笑)。
同じ理由でも、研究所に再び戻る人は少ないが
加藤の場合、科学者としての研究能力が
天才的だ、と言う事を
世界が証明してしまったので(笑)
日本の国としても、日本一の研究所に
籍を置かないと
体裁が悪い(笑)と言う
対外の理由もあったのだろう。
それでも、正規研究者に加藤がなりたがらない理由は
例えば原子力のように
本当の事を言うと
国が困ってしまったりする事もあったりするので(笑)
そういう時に困らないように、と言う配慮もあった。
ジョナサンは、離陸してすぐ
高度を上げた。
エンジンは力強い。けれども
高度を上げると
酸素が減って来るので、パワーが経る。
ふつうのエンジンだと、シリンダの空気は
40%くらいしか入れ代わらない。
当たり前だが、バルブの隙間より
シリンダの方が大きいからである。
気圧が下がると、PV=nRTで
入ってくる空気量が少なくなるので
理想混合を保つと、燃料量が減る。
燃料の発熱量は一定だから、量が減ればエネルギーが下がる。
当然である。
解決には、空気を詰め込むしかない。
「ターボ、つけてくれるかなぁ」と
ジョナサンは夢想するが
せいぜい高度300mくらいだと、それも
期待できないか(笑)。
と、思っていると
郵便飛行機の空路に、見慣れないモーター飛行機が2機。
「おいでなすったか。」老人の言う、力試しの
成らず者だろうか。
黒い翼である。
「黒って、カッコイイつもりなんだろうけど」
飛行機や自動車には向かないである。
認識されにくいので思わぬ事故に繋がるし
太陽熱を吸収しやすいので、燃料に
悪影響があったり
機材の故障を招いたりする。
「ま、力自慢なんてモテない男の好きそうな事さ」と、ジョナサンは口笛で
いきなり高度を上げた。
操縦桿をぐい、と引く。
後ろについていたもう2機は、慌てるが
ジョナサンの飛行機は軽いし、エンジンである。
パワーがあるし、高回転に強い。
他のはモーターなので、回転が上がると
パワーが減る。
モーターの宿命である。
「それにしても、4機とはね。ひとり相手に」
弱い奴らはみんなそうさ、と
ジョナサンはエンジンを全開にして急上昇。
ついて来れないモーター飛行機は
電池の重さがあるから、だ(笑)。
「どうって事ないなぁ」
そのままエンジンスロー、失速急降下、海面すれすれまで
降りたところで
エンジンを全開で急上昇。
後ろの2機はそのまま着水。
「はい、2丁あがりー」ジョナサンは楽しい。
戦争じゃあないから死ぬ事もない。
軽いエンジン飛行機にモーター飛行機が
敵う訳ないのだ(笑)。
残りの2機はと言うと
着水した仲間を助けもせずに
上空から急降下してきた。
「戦争マンガの読みすぎだよ」ジョナサンは操縦桿を引きながら右足を少し踏む。
弾を撃ち込む訳でもないので
ジョナサンに向かって来ても何もできない(笑)。
ジョナサンの郵便飛行機は、ルートに戻って
霞ヶ浦を目指してフルスピード。
少し、点火時期を戻す。
その方が、慣性で回転が上がるのだ。
飛行場に戻ったのは、定刻より少し早めの時間だった。
滑走路に、いつものように着陸して
飛行機を格納。
「ジョナサン戻りました」到着点呼をすると
隊長が手招き。
「ジョナサン、噂になっとるぞ」と、隊長は
半分笑った顔で。
「なんの事ですか?」
「海岸で、飛行場が墜落して
原因が不審だと。その時間、ジョナサンは
飛んでるからな」隊長は笑った。
余計な事を言うなよ、と、小声で。
「はい。」ジョナサンは笑顔で。
海難事故になるか、それはそうだけど。
撃墜した訳でもないし(笑)。
ジョナサンはとぼけた(笑)。




