ふたつのこころ
「でも、時間が戻ったりして」と
ミシェルは、涙声でめぐに訴える。
ハンドタオルで、ミシェルの涙を拭いてあげながら
めぐは、たとえ話で言った。
「飛行機で旅すると、時計を合わせたり、日付を変えたりするでしょ?地球って、時速1700kmで回ってるから。私たちもいつも動いてる。だから、スピードを出すと、戻ったりはするわ。海外旅行みたいに。」と、めぐは
ルーフィに聞いた話をそのまま言った。
どうして高速が出せるのか、は知らない(笑)。
ミシェルは、なんとなく解った気がしたけど
別の疑問が生まれて来た。
ミシェル自身、リサお姉ちゃんの弟で生まれて来たなら
リサお姉ちゃんも、魔法使いなんだろうか?
おじいちゃん、おじさんも
そうなんだろうか?
ミシェルは、めぐお姉ちゃんに
抱き寄せられて
ちょっと、どっきり。
でも、なんとなく、安心する。
そう思った。
夢想の中で、裸体のめぐお姉ちゃんを
抱き寄せた事は、何度かあった(笑)けれども
ほんとうに、そばにあると
そんなに、エロチックな気持ちに
ならないものだと
ミシェルは、そんなふうに考えた。
しばらく、そうして抱き合っていたけれど
でも、めぐは思う。
ーーーやっぱり、弟かな。
ルーフィに抱擁された時は、どきどきしたのに。
れーみぃと抱き合ってるみたいな、感じ。
恋心は、ちょっと感じない。
残酷だけど、恋愛ってそんなもの。
気持ちの動きはどうしようもない。
そんな時、ミシェルは言う。
「あの、婚約はいいけど、僕は好きです、ずっと前から」
深夜の食堂車。誰もいないけど。
そういう気持ちを打ち明けられても
なんとなく、めぐには実感がない。
「わたしなの?」と言う感じで。
ミシェル自身も、それまで思っていた
めぐお姉ちゃんへの思いが、なんとなく
イメージの中のものだったのかな、なんて
そんな気持ちになったりもした。
体操服だっためぐが、さっぱりしすぎていた。(笑)
それもあるかもしれないけど。
同じ魔法を使える、と言う事に
めぐお姉ちゃんのイメージが変わってしまったのもある。
おとなしそうで、優しくて、って言う
遠くから見て、守ってあげたいような
めぐお姉ちゃんが
あんな、とてつもない魔法を使えるひとだった。
そんな気持ちもあって。
でも。好き。
「次の駅まで、どのくらい?」と
ミシェルはふつうの声になって、そう言った。
「1時間くらいじゃない?」と、めぐは
よくわからないけど、そう言って微笑む。
そういう、曖昧に微笑むところを
ミシェルは、愛らしいと思っていた。
ふんわりとしていて。柔らかくて。
女の子なんだな、って感じる。
「もう寝よう?明日早いし、あたしたち」と
アルバイトの事をめぐは思い出して。
とりあえず落ち着いたミシェルを促して
寝台に戻る。
ゆっくりと、列車は進む。
夜の旅を楽しむかのように。
ミシェルは、リサや母にいわれると
反発しそうな言葉、促されたりする事も
めぐに言われると、反発する気持ちに
ならなかった。
制御されているような気持ちに
ならなかった、と言うのもあるけれど
それも、やっぱりめぐの思いやり、なのだろうし
めぐが、リサや母よりは
ミシェルの病弱だった頃を知らない、そういう
事もあって。
でも、めぐは
言っておいたほうがいいかな、と思った。
「ミシェルの事ね、かわいいと思うわ。
恋はしていないけど。」
はっきり言っておいた方がいい、と
思ったのだった。
ミシェルは、別に
わかっていた事だから、動揺もしなかったけど
「はい。でも、いつか、僕が
男らしくなったら、好きになってくれますか」と、ミシェルは、あの機関車乗りの事を
連想してそう言った。
魔法使いルーフィの事は、思い起こさなかった(笑)
だって、ライバルだもん。
早急な、算術的なミシェルの言葉は
やっぱり少年だな、と
めぐは思う。
でも、先の事はわからない。
けど......
ミシェルは、10号車で別れて。
ひとり個室、ふつうタイプ。
こんどは、1階タイプなので廊下
のスイングドアを開いて、そのまま腰を
下ろせる。
頭の上に、2階の床が少し、出ているけれど
窮屈でもなかった。
「言われちゃった」。
けど、なんとなく
親しすぎる、と言うのか
ルーフィや、映写技師の青年や
司書主任さんや。
そういうひとたちとは違うと
めぐは感じていた。
それだけじゃなくて
親友リサの弟だって
ふつうの男の子だったら、中学生を
かわいいから、と言って
肩を抱いたりはできない。
そう思うめぐだった。
ミシェルと別れて、14号車まで
歩きながら、めぐは考えた。
ふたり個室、プラネタリウムつき。
ひとり用、sクラス個室。
いろんな車両を眺めて歩きながら。
似たように、ひとにも
いろんなタイプがあるのかな、なんて思って。
でも、同じ魔法を使えると言う事は。
どこかで、誰か同じひとの
作った魔法を受け継いでいるんだろうな、と
めぐは思う。
ミシェルは
10号車の自分の部屋で、落ち着いて
部屋付きのナイトガウンに着替えて
眠ろうか、と
壁の鏡を見た。
すこし、やつれたかなあ(笑)なんて
思った。
予想してはいても、ちょっと衝撃。
はっきり言われちゃった事に。
でも、すっきりしてていいな、とも(笑)
めぐは、歩きながら13
号車のデッキまで来た。
「めぐ?」リサは
デッキの隣にある、ミニロビーで
めぐを待っていた。
「ミシェル、どうしたの?」
お姉さんだから、やっぱり気になるらしい。
でも、魔法の事が気になってる、なんて言えない(笑)。
めぐの知っているリサは、魔法使いじゃあない。
だから、魔法の事は秘密秘密(笑)
親友だって、それは
何故か言ってはいけない事になってる。
なので「旅情で、おセンチになってるんじゃない」と、JK言葉で軽く言っためぐだった(笑)
それは本心じゃないけれど。
「ミシェル、赤ちゃんの頃から身体弱かったから。あたし、気をつけてたの。」と、リサは
繊細なミシェルを、とても大切にしていた、と
めぐに告げる。
かわいいから、ね、と
リサに、そう言いながら
めぐは、思う。
ーーやっぱり、リサの弟なんだね。
どうして魔法使いなんだろう?
とか。
神様のした事を、まだ、めぐは知らない。
「ミシェルね、ちっちゃい頃は
いつもあたしの後をついてきて。
うっとうしいくらいだったけど、でも
かわいくて。カルガモのひなみたいで」と
リサは、思い出を楽しそうに話す。
「だからかな、女の子みたいなやさしい子で。
あんまり、ガールフレンドとかも欲しがらなくて。
けっこう、モテるのよ、あれで」
リサは、お母さんみたいに(笑)
めぐも、なんとなく分かる。
「今も、女の子みたい」と、めぐが言うと
「そう!ちょっと心配してたんだけど、でも、大丈夫ね。めぐに婚約したいなんて
言うくらいだから。
そっちの欲もふつうにあるのかな」と、リサは明け透けに笑う。
「そう!」と、めぐも笑った。
「それじゃさ、ミシェルのお部屋になんか、Hな本とか隠してあったりした?」と
(笑)楽しい話題を振ると、リサは
「そういうのは見ないなー。今は、ほら、ケータイで
見てるんじゃない?」と。
なるほど、と、めぐも笑ったけど
でも、なんとなく触れた感じでも
男の子っぽくなかったな、と
めぐは、感触でそう感じる。
ミシェルは、ひとりが好きだった。
学校でも、あんまり
男の子の友達とわいわい、するタイプじゃなくて
本を読んだり、音楽を聴いたり。
音楽室でピアノ弾いたり、って
そういう記憶が多い。
「僕は、いつからめぐさんを好きだったのだろう?」
揺れる列車のベッドに横になって、ミシェルは回想する。
最初は、お姉ちゃんの後を追っていて。
いつの間にか、お姉ちゃんの
代わりになっていたような、そんな気もする。
お姉ちゃんみたいな、恋人が
僕は欲しかったのかな、なんて
そんなふうに、ミシェルは思った。
クラスメートに、ガールフレンドも多かったけれども
他の男子みたいに、エッチな視線で
女の子を見る事はなかった。
服装とか、髪型とかは気になるけれど。
おとぼけ神様は、そんなめぐたちの
気持ちも知らず
楽しい、列車の旅を満喫。そろそろ山陽の
岡山あたりに来たところ。
寝たり起きたりで、うつらうつら。
「しかしのぉ。人間と言うのも楽しみがあっていいのぉ」
ひとを愛したり、時に憎んだり。
生きてこその喜びだ。
神様になると、そういう心とは無縁になる。
もちろん、博愛はあるけれど。
「めぐや、リサたちが羨ましいのぉ」
サンライズエクスプレスは、岡山で瀬戸編成と連結される。
出雲編成は、ここまで4時間ほど乗れて
かなり楽しめるから
わざわざ、遠回りして
神様は、これに乗った。
「めぐは、いまごろどこを走っているのかのぉ」
魔物に襲われて、心を傷つけて。
天使クリスタがずっと、宿って護っためぐ。
「でも、命が危なくなって。」
2回めの人生を送っているんだったと
神様は思い出す。
その時、時間を巻き戻して
魔物の記憶を知らない、新しい人生を
送るようにさせたんだっけ。
そこで、はた!と
神様は気づいた。
「あの時の、めぐの旧い魂は、どうした?」
ひょっとして、あのミシェルが死にそうだった時に。
「慌てて、リサイクル魂(笑)を
入れてしまったのかのぉ」
と、おとぼけ神様。
「まあ、氏より育ち、と言うからの」
それからの経験が人格を作るから。
生まれはどうであれ、育ちが大切なのだ。
「そろそろ寝ないと」リサは、揺れる13号車、ミニロビーから立ち上がる。
区切られたスペースだし、個室寝台車なので
気兼ねはない。
その時、白いスーツの車掌、リサのおじさんが通り掛かる。
「リサ坊、起きとったのぉ。早く寝ろ。」と、おじさんは、鉄道職員らしい率直さで。
「おじさん、あたしはバイトじゃないの」と、リサは言い。笑顔。
ああそうか、と、おじさんは帽子とって笑顔。
「車掌さんって、ずっと起きてるんですか?」めぐが尋ねると
「なも。寝る。駅の間が長いとこでの」と、おじさんは笑う。
仮眠、だけれども。
それでも、せいぜい2時間くらいだ。
「それだと、ミシェルには辛いかもね」と、リサは気にする。
「3年経ったら、夜行は無くなる、たぶん」とおじさんは、笑顔で。
でも、ちょっと淋しいような笑顔で
そう言った。
「夜行なくなったら、どうするんですか?」と、めぐが聞くと
おじさんは「辞めへ、カメラ屋さする」
おじさんは写真が好きで、あちこちへ乗務で行くと、乗務の合間に
カメラの機材を買ったり、写真を撮りに行ったりしている。
リサの記憶では、幼いリサにヤシカのカメラを持たせてくれた、とか。
当時のヤシカは高価で、ツァイスレンズをつけて、白黒写真を撮るのが
楽しみだったおじさん。
国鉄の仕事が好き、と言うよりか
おじいちゃんの後継ぎ、そんな意味もあったのだろうか。
それで、リサに機関車、ミシェルに車掌。
めぐはイメージした。
10年後の、リサとミシェル。
リサは、機関士の姿がイメージできたけれど
ミシェルは......。車掌さん、かな?
はっきりわからなかったのは、めぐはそんなに予知が上手じゃあないから。
自分が飛んでいくなら出来るのだけど(笑)
予知は、イメージだけを通信するので、座標を設定するのが難しい。
modelica.world.magic //座標系
domain=[4],start={0,0,0,0} //位置情報
domain.time={x,0,0,0} //時間情報
equation ;
algorhythm x:= ++10 years;
「仮眠って車掌室で寝るんですか?」と、めぐが聞く。
んだんだ、って、おじさん。
「寝られないですね」と、リサ。
「んだんだ、はんで、昼寝る」
乗務員宿泊所は、静かなホテルだけれども
そういう事で、静かなところにあるらしい。
たぶん、働くって事じゃなくて
生活が、鉄道に乗る事だと言う感じなんだろうな、って
めぐは思う。
お金貰って、楽しく暮らすための仕事。
そういう仕事もあるし、学者さんみたいに
研究をする事が好きで、する仕事。
そういう感じで、夜行列車を走らせる事が
生活。
リサの一家は、そうなんだ。
国鉄一家(笑)。
みんなのために、安全に汽車を走らせる。
生き物は、ふつう
弱い者を守るけれど
そういう、昔からの生活と
同じ感覚で、みんなのために働く仕事も
とっても、凄い(笑)と
めぐは思う。
まあ、魔法使いも
たまには役にたつけど、と
めぐは、ちょっと自慢(笑)。
アメリカンのために働いたし。
その、白い制服を着ていると
とっても目立つから。
お客さん案内をしたり。
この時も「次の駅で、何か買えますか」とか
お客さんの声に応えたりして。
車掌さんは、休めない。
でもそれが、見ていてとても
かっこよく見えるのは
めぐが、そういう人を好きなんだろう。
めぐのお父さんは、そういう仕事じゃなかったけど
研究をする仕事だから、なんとなく
似ているのかもしれないって、めぐは思う。
「さ、それじゃ本当に寝よう」と、リサは
お客さん対応で、客室に消えた
車掌のおじさんを行く手に眺めて
14号車に向かった。
めぐも、一緒に。
もう10時過ぎ、朝4時に起きても
6時間しか寝られないーー!って
れーみぃの言葉じゃないけど。(笑)
13号車のドアを開けて、デッキに向かった
めぐは、明かりのついている車掌室を見て
「車掌さんは、6時間なんて寝られないんだね」と、労いの言葉を掛けたくなった。
運転手さんみたいに、2時間交代にすればいいのに。とか(笑)思ったりもして。
10号車のミシェルは、ひと足先に
眠ろうかと思い
その前に、ロビーカーにある
シャワー室へ行って来ようと。
バスローブを持って、それと
タオルを持って。
7号車に向かった。
一両全体がロビーの、豪勢な作りは
国鉄ならではのもので
私鉄だったら、儲けにならないから、と
バーカウンターにしたりするだろう。
実際、カウンターもあるのだけれども
お酒の提供が、芳しくないと言う(笑)
そこは国鉄である。
でもまあ、自販機のビールくらいは飲める。
そうして、お仕事の移動らしい
ビジネスマンが、お酒を飲んでいる隣を
通って
シャワールームが3つ。
そこに、ミシェルは入った。
誰も使っていない。
床に、水滴ひとつ落ちていないのは
10月の終わりで、そろそろ北の地方は寒い、
そんな理由もあった。
ドアをロックしたけれど、なんとなく
外がロビー、と言うのは落ち着かないのは
いつも、ミシェルが
静かなところに住んでいる、そういう理由もあったりする。
さっき、ガウンに着替えたので
シャツとパンツだけを取り、ミシェルは
白い裸体になった。
細身で、わりとやせ型。
筋肉質ではなく、病弱だった雰囲気は
少し残る。
鏡にうつる自分を見ても、そんなに
男らしいとは思わないミシェルだけど
女の子に、「かわいい」と言われても
他の男子みたいに嫌悪な気持ちにはならなかった。
特別、男の子だと言う事を忌避するつもりもない。
不能なのか、と思ったが
そうではなくて機能はある(笑)。
だけど、夢想で
めぐお姉ちゃんを抱きしめても
抱擁したい、と思うだけで
だから、
めぐお姉ちゃんに抱き着いた時も
別に、ふつうの男子がするような
行動が目的ではなかったのだけれども(笑)。
それは、めぐにはわからない。
シャワーを浴びながら、ミシェルは
水に打たれて生まれ変わりたいと
思ったりもした。
クラスメートの男子たちみたいに、ふつうに
生きてみたい。
魔法が使えても
好きな女の子への接しかたがわからないし
目的もわからない。
どうしたら満足できるんだろう。
そんな、少年らしい気持ちと
特別な境遇とに
ミシェルは、悩んで
そんなふうに思う。
客観的に見れば、それで女の子にモテて
魔法まで使えるのだから
贅沢な悩みである(笑)。
サンライズエクスプレスで、東京に向かっている神様は
14両編成になった電車を、外から眺めて見るかと
スリッパのまま、暗い岡山駅ホームに出た。
山陽本線ホームは、もう22時過ぎで
ひとの気配も少ない。
新幹線のホームも、そろそろ終業。
「夜は眠るに限るのぉ」と、大きな編成の車体を見ていると
「変なおじさん」と、笑いながら
旅人らしい少女がふたり、ホームから
サンライズエクスプレスへ乗り込む。
その姿に、めぐ、とクリスタを連想する
神様だった。
「お節介クリスタ、天国に戻っておいで」と
ひとりごと。




