プロローグ
俺は変われたか。
もう自分の傍にいない相手に向かって心の中で問いかける。
変われたなら、俺はきっと――
梅雨に入る前の暑くも寒くもないちょうどいい気温が中心の季節。どっちつかずの人は嫌われるらしいが、季節に関してはどっちつかずの方が好かれそうだ。
そんな季節のある休日の昼間。俺はこの町の中で五本の指に入るぐらいに急な坂道を上りきって疲れていた。
「家から本屋に行くためにこんな坂道を毎回上らなきゃいけないってやっぱりおかしいだろ……。」
そんなことを愚痴ると、帰りにまたこの坂を上らなければいけないということを意識してしまい、もっとげんなりしてしまった。
そこに追い打ちをかけるように、俺の耳のそばで虫の羽音がした。驚いた俺は虫を追い払うように手を耳のそばで大げさに振った。虫の羽音が聞こえると条件反射でいつも大げさにやってしまうのだ。
その時、手がメガネに当たってしまった。メガネは顔から外れて、そのまま下り坂に落ちてしまう。
やばい! あのメガネ最近買い換えたばかりなのに!
そんな焦る俺のことはお構いなしにメガネは下り坂をころころと転がっていく。メガネが普通そんなに転がるはずないが、何故か転がっていく。
そのことを不思議に思う暇があるはずもなく、俺は慌ててメガネを追いかける。しかし、メガネが転がるスピードの方が速かった。
俺がメガネに追いつくことができないでいると、メガネはなんと下り坂が終わったところにあるマンホールの中へと入ってしまった。普段マンホールの蓋は閉まっているはずだが、何故か今は開いていた。
そのことを不思議に思う暇も……いや、さすがに不思議に思ったがそれよりも落胆の方が大きかった。
諦めて新しいメガネを買おう。
そう決めた瞬間、マンホールの中から声が聞こえてきた。
不思議に思い、マンホールの中を覗き込もうとした瞬間にマンホールの中から何かが飛び出てきた。
飛び出てきたのは、さっき落としたばかりのメガネだった。