四
彼は颯と目を掻いた。
そして足はその歩みを続けながら、徐々に近付く正面の糸柳。しかし彼は、異様な色合いをした葉らをその手で持つ糸柳自体に、恐怖も不気味さも感じてはいない。寧ろあの葉らは彼に懐かしさを含む親和を呼び起こさせる。そして幹や手は残念ながら、煙たい白々しさを。
穴
その幹には、彼の目の高さ程の位置にその目程の大きさの穴が一つ。
それに漸くぼやりと彼が気付くと、その穴にとっては、呼吸か、飲み食いか、単なる戯れか、彼はその穴に自分が吸い込まれているということを感じた。彼は抵抗の必要を察した、鈍く。しかし、手元に何か支えがあったわけでもなければ、また、思う程に足にも力が届かず、抵抗の意思を自らで自らに提示できただけ。その足取りは蝶。曖昧に。ひらりひらり。
或いは、穴からの生の露見や蜜の誘いなどはそもそもなく、彼には突然その歩みを止めることがもはや難しく、只、習慣の巧みな罠から止まり方を思い出せなかったのかもしれない。
彼は幹に触れる寸前の手前までふわふわと歩まされ、または歩み、確かに朦朧状態ではあったが、流石にこの先の未知に対してその想像が見事に出産成功をした恐怖に、許容を超えた恐怖に、軟らかく、気を失った。
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