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【未完】偽装結婚相手に一目惚れしました。  作者: 工具
第二章 なんかアレな感じの恋愛イベントはっじまっるよー
49/54

49 ずっと一人だったの?

「けんちゃんは、フツーの人と感覚が違い過ぎて愛情表現が重い」


 お嬢さん方が疲れているので各自ゆっくり過ごそうぜの日の午後、グリシーネ嬢に呼び出された俺はお茶とお菓子の並んだテーブルを挟んで開口一番ディスられた。


「詳しく聞こうじゃないか」


 一晩でミニダンジョンのポイントを稼ぎ過ぎてオルテンシア嬢とダイス女史にドン引きされた午前の一件のことだろう。


「けんちゃんさー、王妃になるんだからビーチの工事くらい大した事ないって思えるようにもならないとだめって言ってたよね」


 そんなことを数日前に言った気もする。


「ビーチっつうか砂浜の工事は二箇所とも終わってるぞ。順調に作業が進んで工期は短くなったらしい。使用人に聞けば案内もしてくれる。そうじゃなくてもどこの砂浜使うかは誰かに言い置いていってくれ。現地でばったりは居心地が悪い」


 話に出たし丁度いいだろうと今日から砂浜デートができると伝えておく。いつ終わると言ったのか思い出せないので適当に誤魔化すのも忘れない。ARのカレンダー機能ちゃんと活用する習慣を付けよう。


「夕方にでもピースと行ってみようかな……。それはそれとして、けんちゃんってさ、英雄級とかって人なんでしょ? だからけんちゃんって、私とは逆にフツーの人の感性を忘れてるんじゃないの? まあ、フツーって言ってもシアはもともと貴族の子だけど」


 グリシーネ嬢のまとう雰囲気は友達から愚痴を聞かれたから当人に少し注意しようという軽い物ではなく、しっかりと当人達の問題を見定めて改善すべきだという真剣なものを感じる。ふむ。本気で心配しての助言っぽい。なら、俺も正直に言おう。


「俺、この国で普通に生活したり普通に人と触れ合ったことってないんだよね。オルテンシア嬢と知り合うまではおっさんくらいとしかまともに会話しなかったし。オルテンシア嬢と知り合ったころはまともに会話なんてしなかったけどさ」


 グリシーネ嬢は眉間にしわを寄せ、俺が何を言っているのか理解できないといういつかも見たような顔をする。


「飯屋で飯注文したり、宿で部屋とったり、神様の鍛錬場中層で手に入れた墓石を売ったり、そういう事務的なやり取り以外で会話したこと自体がほとんどないままおっさんと会って王都へ引っ越したから……友達って言えるような相手がね……」


「神様の鍛錬場の中層って、ゲームのダンジョンみたいなところって言ってたよね。ずっと一人だったの?」


 可愛そうなものを見る目を向けられ、問われる。


「スキルがあれば一人でどうにかできたし、誘われなかったし」


 言い訳がましく問題は何もなかったと主張する。

 正確には誘われて組んだことはあるが、まともな奴らじゃないと事前に知ってたし案の定その通りになったのでなかったことにした。神様の鍛錬場中層じゃ行方不明なんてよくある話だ。


「自分から人に声かけるとか」


「信用がない状態で組む組まないの話をするやつはあそこじゃ相手にされないよ」


 神様の鍛錬場中層で様々な資源を集められる人材を育成するための錬士育成機関という公的機関があり、教育中の生活費や住居の面倒を貸与という形で保障してくれるとあって神様の鍛錬場へ通う錬士を目指すやつは大抵一度はここに籍を置く。そのため大抵のやつは命を預けあえる相手を在籍中に見つける。プロイデス王国所有の契約の術封器をいくつか割り当てられているため返済の踏み倒しはまずできず、公的機関との契約で出し抜こうなんて馬鹿はそうそういない。


「なんかごめん」


 俺が誤解の余地などないぼっちだったと知ったグリシーネ嬢に謝られた。


「いや、それなりに生活が安定してからは積極的に他人との関わりを避けたし引きこもり気質を強めていったんで、謝られることじゃないよ。その所為でオルテンシア嬢とコミュニケーション不全起こしてるのは自業自得だし」


 ぼっちやコミュ障を自分で加速させたのは悪いとも思ってないし反省もしてないが、オルテンシア嬢と上手く付き合えていないのは身から出た錆びという自覚はある。


「あ、ああ、うん。そうなの? えっと何の話だっけ……そう、フツーの感性がって話。それで、あー、けんちゃんはシアと仲良くなりたいならシアのことをちゃんと知りなさいっていう……思いの外けんちゃんのぼっちぶりが筋金入りで驚いちゃって何言おうとしてたのか忘れちゃった」


 もにょもにょと尻すぼみになってしまわれた。


「夕食一緒に食べたり、そのあとお茶飲みながら話す時間を大事にするよ」


 今も大事にしてるけど、もうちょっと自分からオルテンシア嬢を知ろうとする感じでがんばる系みたいな。


「わざわざ呼び出したのに微妙な話の終わり方でごめん」


「そういうこともあるさ」


 呼ばれてほいほい来たのも今日は午後の予定がなかったからだし。

 微妙な空気で話が途切れ、俺もグリシーネ嬢も何も言わず紅茶とお茶菓子を口に運ぶ。グリシーネ嬢と差し向かいでお茶を飲むのは珍しいほどじゃないが、考える間を取るわけじゃなくこうやって何をしゃべるでもない無言はほとんどなかったように思う。俺がグリシーネ嬢に持ちかける相談事のおおよそはグリシーネ嬢にとって悩むほどのことではない内容だからかもしれない。相談した話に対して答えや指標をもらったらすぐ帰ってたのもある。

 そうか。グリシーネ嬢と二人でいるときにどちらも黙ってた覚えがないのは話すことはなしたら俺が帰ってたからか。帰ろうかな。


「あのさ」


 話が途切れたところで帰っておけば買える理由に悩まなかったのにとか考えていたらグリシーネ嬢のほうから話しかけてきた。


「私、けんちゃんがオリザとあんま仲良くないのなんでかなって思ってたんだけど、さっきの話聞いたらけんちゃんって基本的に自分から人と係わろうとする人じゃないんだよね。つまり、ぶっちゃけオリザとか嫉妬男って単純に興味なかったりする?」


 訊き難い事訊いちゃった。でももう訊いちゃったし腹括ろう。って面持ちのグリシーネ嬢には申し訳ないが、俺としてはそんな答え難い話ってわけでもないよ。


「興味ないってほどじゃないけど、ウォルティース公子の嫉妬がどうこうって言われ過ぎて自分から仲良くなろうとはあんまり思わないかな。今のところ二人との接点が少ないからかそういうところ見たことないとはいえど、一応ね」


「今はウォルティースもそんなひどくないよ。でも一時期凄くてねぇ」


「そういえばパインズ王子やウォルティース公子とは顔見知りだったのに、オリザ嬢とは俺がおっさんに仲介してもらうまで会ったことなかったんだな。学園だかに皆で通ってたんじゃなかったっけ」


 俺の言ってることを理解するのに、グリシーネ嬢が小首をかしげて瞬きを何度か。ちょっと不安になる時間をかけた後、ああと納得したように一人で頷く。


「私とオリザは入れ違いだよ。オリザの家が転封されてオリザが学園辞めたちょっとあとに私は学園に入ったんだよ。って言っても、ピースと婚約して休学するまで三ヶ月も通ってなくて……だから復学できて結構嬉しいんだよね」


 微妙に話がずれてる気もするがまあいい。オルテンシア嬢が係わってたらしい王子の婚約者騒動をちゃんと知っておくべきか否か……これこそ興味ないし、知ろうと思えばいつでもおっさんに訊けばいいな。


「ファンタジーの学校ってそんな楽しいの?」


「楽しいよー。魔法とか習うのそれっぽくてついはしゃいじゃうよね。最近は自分の体質も意識的に活用できるようになって魔法でできることも増えてるし、これそのうちスキルに……」


 しゃべってる途中で何事か悩み始めるとはまた珍しい。時間かかるようなら宇宙戦争の戦況がどうなってるかちょっとのぞこうかな。


「シアの体質のこと教えてもらう前に、けんちゃんってシアがスキル持ってるか凄い気にしてたよね。あれってなんで? スキルってその人の持つ技術とかが神様に認められたっていう証なんでしょ? スキルかそうじゃないかをそんなに気にする理由があるの?」


 唐突だなー。自分の体質がスキルになるかで思い出したにしても、話題転換が急過ぎんぜ。


「あれな、洗脳とか思考誘導をガチガチに警戒してるおれに影響を与えるならスキルとして神様が認めるくらいの技術じゃないとありえないって思い込んでたんだよ。実際はしっかり習得した技術じゃなくても瞬間出力さえどうにかすれば俺だって洗脳されうるという良い教訓になりました」


 英雄級って呼ばれるくらいの力を手に入れて慢心していた苦い記憶でもある。身の安全を考えるなら技術の停滞なんて許容しちゃあかんよなー。今じゃバイオロイドたちにいろんな技術開発や研究を再開してもらったといっても、それで満足したらまた同じことになると常に意識しておかないと。


「自分なら何があっても大丈夫って天狗になってたんだ?」


 にしゃにしゃと笑ってとても楽しそうですね。


「率直にチョーシこいてたって言っても良いぞこのやろー」


 事実なのでそう言われてもぐぬぬるしかない。


「痛い目見る前に自覚できて良かったじゃん」


 澄ました顔してても目は笑ってるぞ。


「生死に直結してなかったって意味だと痛い目は見てないですけどね、精神的には大分痛いですよ」


 敬語で言っちゃうくらいには汚点だ。


「でもま、大物貴族の娘だーとか、王子様の婚約者ーだとか、気に入らない他人皆ぶちのめしちゃえる魔法でツエーとか、フツーの日本人だったはずなのにそんなものぽんと与えられたら自分は特別だって思っちゃうよね。下町で屋台やってたら王子様に見初められてしかも実は王族の血を引いてますとか……私だってちょっと間違ったらピースの婚約者になろうとしてたあの子みたくなっちゃうんだよね」


 いつになくしんみりと饒舌なグリシーネ嬢があの子の名前を呼ばないのはどういう心の現われなのか、少し考えて不粋な真似だと放り投げた。


「辛気臭い話はやめよっか。それより、明日はシアとオリザとダイスさんと海で遊ぶから、その話をしよう」


「一応一通りは揃えてあるぞ。ビニールシート、サマーベッド、パラソル、各種浮き輪にボール、ボディボード、サーフボード、パドルボード、カイトボード、ヨットやゴムボートやバナナボート、水上バイク代わりの小型の水竜」


「ん?」


「波を少なくした場所なら手漕ぎボートや足こぎボートも良いと思う」


「ちょっと」


「ウォーターボールも用意したが、水上歩行の術封器の方が楽しいんじゃないかと思う」


「ちょっとまって何箇所かおかしい」


 突っ込まれると思ったから畳み掛けてたんだよ。


「まず、ビニールあるの?」


「黙秘する」


 米神ピクついた。


「小型の水竜ってなに?」


「水棲の竜。大型は船を牽かせたりしてるし、小型はさっき言ったみたく水上バイクみたいな使われ方が多い」


 俺の知らないうちに自由研究グループの子が発案して品種改良グループの班が一つがんばってくれてた。


「じゃあ最後、波を少なくした場所ってどういうこと?」


「それなー、うんそれなー」


 ぽろっと言っちゃったんだよ。砂浜の工事であんなに悩んでたグリシーネ嬢が潮流いじったなんて聞いちゃうと胃を悪くするんじゃないかと思うんだよね。


「入り江でも作ったの? 砂浜は三種類用意したいって言ってたけど、ボート出して遊べるくらい広い入り江作ったの?」


「あ、はい。ついでだしいいかなって」


 テラフォーミング技術を流用して潮流いじったのがばれたかと思った。砂浜にするため工事した二箇所のうち片方は確かにボート出して遊べる広さの入り江になってるのでグリシーネ嬢の勘違いに乗っかろう。わざわざ言う必要のないことだしね。言わなきゃばれないだろ。


「そんなに広い範囲の工事はしないって言ってたのに」


「どうせだから入り江の口を閉じるように結界で網張って生簀みたいにしようかなってね、思ってね。パインズ王子も水遊びなら舟で釣りみたいなこと言ってたじゃん」


「それ言ったのジルじゃなかった?」


「そうだっけ」


「はぁ。やっちゃったもんは仕方ないか。でも、ちょっとやりすぎたって自覚しないとだめだよ?」


「いえす、まむ」


 よっしゃ誤魔化せた。


「そうだ。けんちゃんさ、ピースのこと呼ぶとき殿下って付けた方が良いよ。敬称つけないとか怒られるよ」


「はい」


 殿下って敬称だったっけ。王子じゃまずかったか。気をつけよう。

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