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【未完】偽装結婚相手に一目惚れしました。  作者: 工具
第二章 なんかアレな感じの恋愛イベントはっじまっるよー

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43 ケント様へたれ

 南の島三日目ともなればグリシーネ嬢も大分落ち着きを取り戻し、ハイなグリシーネ嬢に振り回されていた俺や王子様もやっと落ち着くことが出来た。ミニダンジョンの調査という名目で思う存分運動するつもりのダイス女史とジル以外は談話室というか遊戯室となった部屋を中心にみんなで遊ぶとのことで、その対応をデボンに投げた俺は島の管理があるとか理由をつけて旗艦の自室でだらだらすることにした。皆と遊ぶのも楽しいし嫌いじゃないが最近の俺には一人で無為に過ごす時間が足りていない。昨日の午後だけじゃまるで足らない。


「あ゛ー……朝っぱらから酒飲んでシューティングとか自堕落極まれりだな」


 浮遊式ボールチェアに座り度数の強いお酒を煽って殊更おっさんぽく呟く。様式美。浮いてる椅子は慣れるとこの浮遊感がとてもよろしい。透過率を下げたARでコックピット視点のシューティングゲーム画面を表示すると没入感がとてもすばらしい。実際に戦闘艇に乗り込んで宇宙怪獣型神兵との戦場に乗り込もうとするとバイオロイド達に全力で止められてしまうのでリモートドールを操縦席に乗せた遠隔操作で妥協しているが、これはこれでゲームらしくて良い。ゲーム形態としてはARなのかVRなのかラジコンなのか微妙だが楽しければ瑣末事だ。


「主様、ご要望の品が出来上がりました」


 たった一時間で五百ミリリットルのアップル・ブランデーを三本空け、戦闘艇を十機壊した俺にアルが声をかけてきた。こんなバカみたいなお酒の飲み方しても体温ちょっと上がったかなくらいにしかならないこの体はやっぱりホモ・サピエンスじゃない。


「あれ? もうできたの? 元になる物でもあったの?」


 アルには舟遊び用のプロイデス王国で使っても問題ない舟あれこれの用意を今日の朝頼んだんだが、五時間と経ってませんよ。


「自由研究班の者が術封器と目立たない科学技術を併用した舟を何種類か作っておりましたので、多少手を加えた後はそのまま何艇か作らせました」


 自由研究班って、芝生作った子の居る班だな。あそこは俺の欲しいものをピンポイントで作るなあ。


「俺、舟欲しいなんてメモしてたっけ」


「『デートなら手漕ぎボートかアヒルボートか』というメモを元にしたと言っていました」


「ああ……オルテンシア嬢と湖デートできないかって考えてた時のだ」


 デート自体まだ一回しかしてないのにね。今更デート? とか言われないかと怖くて一度も誘えていない。いや、オルテンシア嬢はそんなこと言わないだろうと思うけど、彼女が学園に通ってるって言うのも考慮すると遠出に誘うのも腰が引けてしまうししかたないことだきっと。というか、デート二回目で遠出に誘うのは下心があからさま過ぎると思われるんじゃないだろうか。遠出となると普通は泊まりでしょ。泊りってことはごにょごにょも有り得るわけで……。


「二回目だし、前回と同じように買い物を主軸に据えるべきか……でも前回のデートが成功したかって言うと……」


「オルテンシア嬢とご相談なさっては?」


 アルが俺の独り言に助言するのは珍しい。いつも俺が勝手に悩んで勝手に切り上げるまで放置するのに。


「そうだよなー。デートって俺一人でするもんじゃないしな。本人にとまではいかなくともグリシーネ嬢やジルには相談すべきだ。ってことで今は棚上げしよう」


 えーっと、そう。アルは舟が出来たって言いに来たんだった。


「じゃ、舟見に行こう」


「畏まりました」


 船内をゆっくりだらだら歩いて向かった先はジャンボジェットが二機くらい入りそうな大きな空間。ジャンボジェットが具体的にどの程度の大きさかは知らないが二機は入るだろう。


「手漕ぎボートは何もおかしなところはない。でもあっちの何か分からない生き物を模したのは何?」


 舟はどれも二人乗りにしては大きい。お嬢様方の普段着が簡素とはいえドレスだからだろう。同じ理由で、足こぎボートを用意しても誰も乗らないんじゃないかと思う。女性陣は漕げないし、男二人では乗りたくないよな。男女で乗って男だけで漕ぐのはどうなんだろう。良し悪しの判断が俺には出来ない。それに、その足こぎボートは俺の感性で言うとちょっと恋人同士で乗るのに躊躇われる見た目だ。見た目がライオンのような魚のような、マーライオンと似ているが上半身と下半身ではなく全体的に両方を混ぜた生き物を模している。あの生き物はなんだ。


「マレアロッサ家の守護聖獣です。プロイデス王国の別名である獅子の国とは、四方を獅子の特徴を持つ聖獣に守ってもらっていることに由来するそうです。南方のマレアロッサ領は海と沿岸を縄張りとする海獅子リーノラレオネを守護聖獣として奉っています」


 おっさんの国は獅子の国って呼ばれてるのか。初めて知った。レオネの語感的にその聖獣さんの名前って女性系っぽくないか? あのライオンは鬣があるぞ。


「オス? メス?」


「四聖獅はどれも性別が無く世代交代をしない単一個体のみの種ではありますが、慣例的に女性として扱うそうです」


「しせいしって音が微妙だなあ。もしかして翻訳してる所為か?」


 俺自身はおおよそ日本語で喋っているしおおよそ日本語に聞こえるが、どういう理屈かわからないファンタジーな翻訳パワーにより俺はこっちの世界というかプロイデス王国の人間と会話が出来る。いつだったか踏み絵がおっさんに通じないことがあったようにたまに翻訳し切れていないが日常生活には不便しないので、色々研究してもらっているバイオロイド達の班の一つに解明できないかまる投げして普段はあまり気にしていない。音波解析したら俺の鼓膜に触れるまでは確かにプロイデス王国の言葉なのに、俺には日本語に聞こえるのだ。俺に理解できる現象じゃない。


「主様の言うファンタジーな翻訳パワーの解析は難航していますのでなんとも」


「まあ、サンプルが俺しか居ないもんな。俺の聴覚ログ使ってもただの日本語にしか聞こえないし、俺の周囲に張り付いて観測し続けるのも俺が時間作ってる間だけだし」


 俺と同じ、日本人の体でこっちの世界に来た人間がもう一人居れば研究も進展があるかもね。


「ひょっとすると、魂の分野に関連しているのではないかと仮説を立てているものも居ります」


「そっちもまるで進んでないんじゃなかったっけ。オルテンシア嬢の神器の端っこ貰ったやつしか資料無いんだろ?」


「私達の魔法技術も発展途上にあります。将来的にはどうなるか予想も出来ません」


 アルが現状ではままならないことが悔しそうに口を引き結ぶ。第五世代型バイオロイドは優秀だが四人にはあれこれ頼んでるんだから仕方ないと思うぞ。実質的に研究してるのは別の子達で編成した班だもん。


「あんまり気負いすぎるなよー」


「ありがとうございます」


 気にしすぎるなっていって気にしなくなるならそもそも気にしないとは分かっていても一応言っておかないと、思いつめて暴走したりしそうで怖い。アルは第五世代組四人の中で特に真面目だから尚更に。


「うし。問題ないとは思うが、島の側にステルスフィールド作って一応試乗しよう。問題なかったらお嬢さん方の水着が出来上がって水遊びするって時にデボンに渡してもらおう」


「畏まりました。ステルスフィールドの用意をします」


「安全面には気を配りつつ、だらだら準備してなー」


 今日の俺は何もかもにおいてだらだらするのだ。作業中の安全面は気を抜かないがな。




 舟の確認をしているうちに南の島三日目の夜を向かえ、夕食、遊戯室で皆揃ってまったりして、そして四日目となり俺は三日目と同じように過ごし……気付けば南の島滞在七日目となった。充電期間として俺にとっては必要なぼっちの四日間だが、集団旅行の和を乱すような俺の行動をグリシーネ嬢が見逃しているのは不自然だ。もともとこの旅行の主目的はそれぞれ婚約者なり夫婦なりで仲を深めようというものだったはずで、この島に来て以来俺とオルテンシア嬢がほとんど行動を共にしていない現状を、恋も戦争も突撃一筋のグリシーネ嬢が見逃しているのはおかしい。絶対何かたくらんでいる。


 なんてことを七日目も単独行動をとって旗艦にてだらだらしつつ考える。昨日までの四日間で水遊びに使えそうなおもちゃは思いつく限りバイオロイド達に作ってもらったし、ステルスフィールドやら遮音結界やらを活用して浜辺の側にわざわざ真水のプールを増設したりもした。流れるプールを作る為に開発された潮流制御の術封器やら『星の海を冒険しよう!』におけるテラフォーミング技術の一部を流用し、危ない生き物がこの島の周囲へ近づけないようにしたし波に攫われて沖へ流されることもなくなっている。正直やりすぎた。水中での護衛用に魚類や蛇の人工生命体を島の周囲に放ったのはまだよしとしても潮流に手を入れたのは我ながら過剰だった。網状結界くらいで妥協しておくべきだった。

 安全に心を砕くのは悪いことじゃないと自分に言い聞かせてこの件にはそっと蓋をしておこう。


「夏で海なら夕方浜辺デートだろ」


「ケント様、あんなデートこんなデートが鉄板だのやってみたいだの言ってないで、一度くらいオルテンシア嬢を誘ってみたらどうですか?」


 クリスの口撃。ケントはワンパンされた。

 俺の護衛に就いていたアルと俺艦隊の指揮に就いていたクリスは昨日から交代している。デボンは思いのほかお嬢様方に気に入られてしまったのでデボンとブルックの交代はしていない。一週間くらい経ったらクリスとブルックが交代することになっている。


「ばっかお前……ばかおまえ……誘う勇気があったらとっくに誘ってるっつの……」


 これから恋人になりたいって人をデートに誘うのはどうなのかと毎度悩んでしまう。ただそれだけだ。余計なことして順調っぽい今の関係をダメにしたくないなんて腰が引けた考えで躊躇するわけじゃない。


「ははは。ケント様へたれ」


 クリスの口撃。ケントは立ち直れない。


「デートで思い出した。ミニダンジョンにオルテンシア嬢が入るって言ったら手を繋がないとならんのか」


 触れ合う機会が出来るのは嬉しいが、オルテンシア嬢にネガティブな気持ちで付き合わせるのは避けたい。嫌々手を繋がれたら精神的な死活問題だ。そこまで嫌がられるとは思ってないけど事前に最悪の状況を想定してね、予防線をね。逃げようかな。

 面倒は省こうってことでミニダンジョンの調査方針を途中で変更して俺とオルテンシア嬢を連れて行く辺りの手順は飛ばし最初から最後まで調査はダイス女史とジルの二人に任せることになり、ダイス女史とジルは事前の予定通り今日でミニダンジョンの調査を終わらせた。俺の配下の戦える使用人バイオロイドが協力して護衛される人間を連れていった場合のシミュレーションを行い、明日からはダイス女史やジルの付き添いだったり俺の手配した護衛を伴えば他の人も立ち入り出来るようにすることになっている。グリシーネ嬢は、多分明日からミニダンジョンに突撃する。グリシーネ嬢が行くならパインズ王子も行くだろうし、オリザ嬢もグリシーネ嬢に付き合うだろう。オリザ嬢が行くならウォルティース公子は確実に同行する。余ったのは俺とオルテンシア嬢。オルテンシア嬢はどう出るのか。


「普通に考えるとオルテンシア嬢もミニダンジョンに行くよな。そうすると俺はどうするべきか。ここのところ単独行動だったしそのまま一人でいるか……でももう十分休んだし、皆でミニダンジョン行って遊ぶなら俺も一緒に遊びたいな。しかし俺もミニダンジョンに行くとなるとオルテンシア嬢は俺と手を繋がなければいけないというルールがある。オルテンシア嬢がそれにどう出るか……」


「フツーに受け入れてフツーに手を繋ぐと思いますよ」


 一人でブツブツ言ってたらクリスが突っ込んできた。分かってない。クリス君、君は分かってないよ。


「いいかぁクリスゥ。あの年頃の女の子ってのはな、俺には理解できない存在なんだよ。多少可能性が低かろうと事前に備えておくことが大切なんだ。そして、現実は、俺の予想なんて役に立たない方向へ転がるんだよ」


 今回だとミニダンジョンに絡めたグリシーネ嬢発案の突発イベントが始まったり、神様が思いつきで何か始めたりな。本命と対抗があの二人なら、大穴でウォルティース公子。王子様は気を遣ってるのかあんまり俺に関わってこないし、ウォルティース公子はまともに話したのがこの南の島に来てからって言う付き合いの浅さだから男二人は何もしないはずだ。ジルは何かやるなら俺に持ちかけて段取り踏んでくれると思う。オリザ嬢は良くわからない。


「ケント様、フリですか?」


「ハハハ。そんなはずないだろ。きっと何も起こらないって」


 何も起こりませんように。

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