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【未完】偽装結婚相手に一目惚れしました。  作者: 工具
第二章 なんかアレな感じの恋愛イベントはっじまっるよー

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42 これは……ほう……

 結局、午前中は皆揃って談話室で過ごし午後から思い思いにバラけた。ダイス女史とジルはミニダンジョンへ。オルテンシア嬢とグリシーネ嬢とオリザ嬢はデボンとともに水着のデザインやらを。パインズ王子と嫉妬男ことウォルティース公子は島を見て回ると言って散策に。俺は庭の芝生に転がって魔法が使いたいみたいな歌詞の歌を歌う。ファンタジーな世界に来て六年だか七年経つのに、魔法のようなこと出来てもこの国で魔法と呼ばれるものは一度も成功していないのだ。そこらの子供が使える指先に小さな火を生む魔法すら出来ない。才能がないと神様に言われたので諦めようとは思っている。


 使えない魔法よりよりも寝心地のいい芝生が大事だ。そういうことにしたい。この芝生は俺の部下のバイオロイドが作った品種である。気ままに思いついたことを書きとめた俺のメモから興味を持ったことを好きに研究させている班の子だ。葉っぱで手を切ったりチクチクしないようにあちこち丸くなってる子供に優しい品種の芝。『いつかは芝生で膝枕』と書いたメモが発端だと本人は言っていた。なぜよりによって芝生の改良に着手したのかは想像もできないが、現にごろ寝すると気持ち良いので文句を言うことではない。


 通信石を介してダイス女史から状況を聞く限りダイス女史もジルもミニダンジョンを満喫しているようだし、パインズ王子とウォルティース公子の護衛に就いたバイオロイドからも三人娘と一緒のデボンからもなんの問題もないと定時報告が入っている。平和って素晴らしい。

 俺は何事もなく日々を過ごしたいのにグリシーネ嬢が企画した旅行というかイベントというかの主導を俺がする羽目になりがちなので精神的な疲労がすさまじく、王都を発って四日目でもう何もしたくないレベルまで疲れきっている。楽しいんだけど、元々俺は引き篭もり気質でコミュ障だ。気を遣わなくちゃならない高貴な人ばっかりの小集団をまとめる役はできれば勘弁して欲しい。でもなあ。グリシーネ嬢にはオルテンシア嬢関連でお世話になってると思うとなあ。グリシーネ嬢的には今回の旅行も一応は俺とオルテンシア嬢のためのイベントらしいし。いや、俺とオルテンシア嬢のためのイベントを俺が主導するってのもおかしな話じゃないか。オリザ嬢に投げてみようかな……。


 そんなことを考えつつ、どこぞの宇宙で宇宙怪獣型神兵と俺の私設宇宙艦隊が派手にやり合っている戦場の戦況ログを眺める。宇宙怪獣型神兵を殺し続けることで俺の力が増して艦隊の基礎能力が底上げされても、戦線を少し押し込めば宇宙怪獣型神兵のリポップ速度と直ぐに釣り合って戦況が膠着し、そうすると神様によるバージョンアップで宇宙怪獣型神兵群が強化されて戦線を押し戻される。泥沼の戦場ってこのことだ。俺の艦隊の被害が造船能力を超えるか、何らかの偶発的要因で戦場に派手な変化が生まれないとこのゲーム終わらないぞ神様。


 ARで半透過の窓を開いて戦況の推移を見守ったり、バイオロイド達の作った斜め見下ろし2Dのツクール系RPGをやったりと頭を使わなくていいない贅沢な時間を過ごす。

 明日は皆なにするんだろうなとか、昨日の夜はみんなでトランプやったけど今日は何かするのかなとか、昨日の夜はオリザ嬢が余興をやったし今日は俺が何か用意しようかなとか、取り留めのないことを考えてる内にちょっと思いついて誰にも見られないように旗艦へワープする。一応クリスには艦隊指揮の一部を任せてるものの、ハイスペックな第五世代バイオロイドなのできっと大丈夫だろう。いや、物作るときはクリスに頼んでばっかりだし、今回は他の子の方が良いかな。




 そして夜、夕食後のこと。今日の談話の余興は俺が担当すると立候補した。実はちょっとした特技があると言って取り出すのは大きなピアノ。学校の音楽室とかにあるでかいやつ。俺とみんなとの間にピアノを置き、そのまま演奏を始める。俺が日本で聞いていたポップスなのでこっちの人には聞き馴染みのない曲調だが、誰も何も言わず椅子に腰を下ろしたまま俺の意外な特技にちょっと驚いた顔をしている。


「けんちゃんピアノなんて弾けたんだね」


「すごかろう」


 一曲引き終わったところでグリシーネ嬢が感嘆したような声で話しかけてきたので自慢げな返答をして俺が立ち上がると、タイミングを合わせたようにピアノが次の曲を奏で始める。


「え」


 独りでに演奏するピアノ。学校の会談の定番である。誰に任せようか悩みながら旗艦に顔を出したらブルックは忙しそうだったので、手の空いていたクリスにこういった物が欲しいと言ったら作ってくれた物だ。ピアノは作って放置していたただのピアノのはずだが、勝手に演奏する部分がどういった技術によるものかは俺も知らない。科学か魔法だろう。取扱説明書も受け取っているが仕組みなどは理解の外だ。


「これ、一回演奏した曲を奏者なしで再生してくれるんだぜ」


 日本に居たころは『星の海を冒険しよう!』ばっかりやってた俺がピアノを弾けるわけがない。俺の記憶から再現・補完してクリスが演奏してくれたのを再生し、人外スペックの肉体能力を駆使して勝手に動く鍵盤とペダルに合わせて手と足を動かしていただけだ。


「えぇ……私の感動を返してよ……」


 オリザ嬢はピアノ演奏に造詣があったのか俺の動きの違和感に気付いていたし、ジルとダイス女史は人外スペックを活かした観察力で俺の動きの不自然さに気付き、パインズ王子とウォルティース公子はなんか変だと思いつつそういうものだと見てたっぽい。完全に気づいていなかったのはグリシーネ嬢とオルテンシア嬢だけだ。二人ともどこか抜けてる人だし予想通りといえば予想通り。


「でもピアノかー。懐かしいなあ。他の楽器はないの?」


「あるぞ。暇つぶしにあれこれ手を出していた時のが。一つくらい弾けるようにならないかなって思ったが、俺には一つもまともに弾けなかった。デボンも手伝ってくれ」


「畏まりました、主様」


 三人娘に気に入られてこの旅行中は必要がない限りステルス機能を使わないようにと約束させられてしまったデボンに手伝ってもらい、日本で一般的な楽器をひょいひょいとどこからともなく取り出す。どこから出してるかなどという疑問の声はない。ファンタジーしてますな。


「うわー。見たこと無いのもある。あ、これってプロイデス王国の楽器だよね」


「いや、それダルシマー。プロイデス王国のはこっち」


「プリトルグスか。確かにこの二つはよく似ている」


 パインズ王子の言うプリなんとかとダルシマーは箏の弦をスティックで叩くみたいなところは似てるのに土台みたいな部分の形が違うので音が全然違う。ついでに箏も音の響きとか違うと思う。そんな事言い始めたら弦楽器は全部弦を弾くだけなのにって話になるかもしれない。


「これは……ほう……」


 ダイス女史はテルミンが気に入ったらしい。ふあんふあん鳴らしてにまにましている。振動を云々して戦うダイス女史にはきっと普通の人にはわからないものがあるんだなきっと。そんなテキトーな理由でもつけないとダイス女史の緩みきった顔が怖い。


「指が少しずれて……はい、そうです」


「形が似ていると使い方も似ているのは道理だが、微妙な音のずれはさすがにどうしようもないな」


 オリザ嬢と嫉妬男ことウォルティース公子はヴァイオリンできゃっきゃうふふしてる。ウォルティース公子の言うヴァイオリンと形が似ている楽器はプロイデス王国で見たことがある気はするがここにはない。公園や通りで大道芸の人が弾いてたり酒場で吟遊詩人が弾いてるのを見たことがあるそれは、ヴァイオリンというか大きさ的にはヴィオラっぽかった。音も結構似てた記憶がおぼろげにあるようなないような。おっさんの護衛でダンスパーティーとか出ても演奏してる人たちをじっくり見たことは無いので、上流階級だと俺が町中で見たのと別のものという可能性はある。


 ジルはピアノが気に入ったのか、独りでに動く鍵盤とペダルに合わせて手足を動かして動きをトレースしている。楽しそうだし今は放っておいて、あとで自動演奏を解除した直後に弾いてみろとか無茶振りしてやろう。


 オルテンシア嬢は一人でカホンを眺めて首を傾げている。カホンは知らないとただの箱だよね。シンプルな構造だからこその奥深さがあるとブルックが語っていた気がする。

 デボンは気付いたら居なくなっているのでオルテンシア嬢は一人だ。いつも一緒に居るダイス女史はテルミンときゃっきゃうふふしてるし、ジルは勝手に動くピアノときゃっきゃうふふしてるし、他の四人は婚約者同士できゃっきゃうふふしている。これは俺もオルテンシア嬢ときゃっきゃうふふすべきなのか。


「ぁ……ケント様。あの、こちらの箱も楽器なのですか?」


 逃げるかそっと逃げるか悩んでたらオルテンシア嬢がこっちに気付いてしまった。まじで。今でもまともな会話すらちょっと怪しいのに専門外の物に関して説明しながらの会話は俺には難しくないですかね。一通り試したけど一つも上手く扱えなかったって俺さっき言ったよ?


「太鼓の類だそうだ。基本はこれ自体に座り、前屈みになって足の間から両手や足で……」


 すっと視線を下げたオルテンシア嬢に釣られて同じものに目を向ければ、簡素とはいえドレスを纏ったオルテンシア嬢の体というか下半身というかがある。足を開いて座ることが淑女として有り得ない上に、それを脇に置いても足首まで伸びるスカートだとカホンを叩けないだろう。

 これは俺でも分かる簡単なサービス問題だ。俺が実演する流れだな。


「一応はやり方も覚えてる。少し叩いてみようか」


 俺はドレスではなくいつもの如くパワーアシストスーツなので文字通り軽く叩くだけならできる。演奏はできない。しかし、こういうときに見栄を張りたいのが男というものだとどこかの誰かも言っていた。正直俺としては見栄を張るより逃げたいんだがそうはできない。ついでに言うとぺこぺこ叩いてこういう音ですって言うのも味気ない。この料理ってどんなのって聞かれてこういう材料を使ってますみたいな返答をするのと同じではないか。頭の中で自分で自分にたとえ話をしているのに何を言っているのか理解できない。とりあえずARでブルックが演奏してた際の視覚ログを引っ張り出してカンニングしながらカホンがどういうものか実演しよう。


 最終的に見栄を張るのと変わらない結論を出してカホンを叩いていたら五分とせず全員が寄って来た。なんでだよ。このままどうやってオルテンシア嬢と距離を詰めようかと悩んでたのに皆きちゃったらなにもできないじゃない。具体的にどうするかは全く決まってなかったけども。ついでに気付いたらデボンが居るしピアノの自動演奏も止まっている。デボンが止めたっぽい。


「けんちゃん普通に楽器使えるんじゃん」


「癖といえば癖に思えますが、なにか違和感が……あるような……」


 グリシーネ嬢が気づかないのは案の定というべきか。オリザ嬢はウォルティース公子にヴァイオンリンの弾き方教えてたし前世でやってたのは確実として、今の体でも耳がいいのかな。パインズ王子やウォルティース公子が違和感を抱いているらしい表情なのは教養ゆえか貴族の子弟として神様の鍛錬場で力を多少なりとも取り込んだゆえか。ジルとダイス女史は教養と人外スペックの併せ技で俺がずるしてるのを見破っている顔だ。


「前にこれで演奏してもらったのを真似してる所為だろう。体のスペックで無理矢理再現してるんだよ」


 ARがどうのの説明は面倒だから端折る。


「普通に演奏するより器用です……ね?」


 疑問形になるなら無理して褒めようとしなくていいですよオリザ嬢。


「神様の鍛錬場で力を取り込むと記憶力も良くなるんだよ。パインズ王子とウォルティース公子はどうか分からないが、今の俺の動きをそのまま真似するのはジルとダイス女史にもできるはずだよ。昨日の夜のダイス女史も同じ理屈」


 無論、そういうのを一目で理解する為の訓連や、すぐに真似するために体を思い通りに動かす訓練はいる。ついでに、目にした物を記憶できる限り記憶しておく普段からの心がけも要る。どれも俺には無いので、より高いスペックの体とARのログ取得機能がなければ俺には不可能な芸当だ。


「昨夜のアレはそういったものだったのですね。こちらで生まれてからも上手くできるように折を見て練習していたかくし芸だったのにあっさりと真似されてしまって、少々ショックでしたのよ私」


「申し訳ありませんでしたオリザ様。では、かくし芸の失点はかくし芸にて取り戻しましょう。いざ、このテルミンをもって私が」


 謝る気があるのかないのかわからない謝罪とともにダイス女史はテルミンを奏で始めた。そんな癖の強い楽器を、たった十分足らずで使いこなすのはさすがだ。ダイス女史の特技は振動をどうこうする魔法がどうこうらしいし、ひょっとしたら本当に常人とは違う感覚で音を捉えていたりするのかな。


「ダイスさんすごい。なんでテルミンかはわかんないけど」


「では次は私達ですね。さあ、ウォルト。練習の成果を見せてみなさい」


 やっぱりそういう流れになるのか。でも、練習って言うほど時間なかったでしょうに。

 オリザ嬢の指示に何もいわず従ったウォルティース公子がヴァイオリンで弾き始めたのは森の熊さん。なぜその曲をウォルティース公子に教えたのか。オリザ嬢のセンスもよく分からん。


「……みんなきようだね」


 ウォルティース公子の森の熊さんが終わり、次は自分かパインズ王子がダルシマーで何かしなければならないのかと冷や汗を流すグリシーネ嬢。グリシーネ嬢が何かしてくれるかもしれない。


「次は私達だな」


 俺はグリシーネ嬢に期待していたが、パインズ王子が颯爽とダルシマーの元まで歩いていき、プロイデス王国で良く知られている曲をアレンジして短くしたものを演奏した。えー。面白くない。仕方ないのでオチはジルに押し付けよう。


「あれ? ピース演奏できたの?」


「プリトルグスは我が国の伝統楽器で、王族は扱いを一通り教えられる。それとほぼ同じ形の楽器だからな。弦を一通り叩いて音階は覚えておいた」


 そつがない。王族は楽器のことも覚えなくちゃならないなんて大変だなと思いました。さ、オチのジルだ。上手く落とせよ。


「ケントさんから不穏な空気を感じるなあ。ま、大丈夫でしょう」


 勘の良いジルは俺がジルをオチに使おうとしていることに気付いているが、俺は何もしないぞ。

 ピアノの前の椅子に腰を下ろし、鍵盤に手を置き、鍵盤を押し込む……が、鍵盤は下がらず音も鳴らない。何度押してもピアノは無音のまま。ついでに微妙な空気が流れる。


「ケントさん、何かした?」


「いや、何も。何かあったら面白いかなと思ってピアノに触れた瞬間に魔力を流し込まないとまともに鍵盤も下がらないことは教えてないが、特別何かしたということはない」


 取説にあった内容を説明する俺に誰も何も言わない。


「なぜそんな面倒な作りに……」


「それは色んな術封器の集合体だからな。演奏を再現するときは内臓の賢者の石――のような何かで稼動魔力を賄うが、ただ演奏するときは使用者の魔力がないといけないんだ」


 賢者の石って言い切っちゃったけど誤魔化したし大丈夫。この場のみんなは対応がオトナだからきっと大丈夫。最近ガードが緩んでるような……。

 ピアノの使い方を理解したジルは普通に演奏して見せたが、特別盛り上がることも無かった。出鼻くじかれちゃうと観客の方もノるの難しいので仕方ない。俺の悪戯心が原因だが、反省はしたので許してもらいたい。

 ジルの演奏前後の微妙な空気は仕方なかったとして、そのあとは皆で楽器を使って遊び、旅行終わりまで一部の楽器は置いておくことになった。

 これにて二日目終了。

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