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【未完】偽装結婚相手に一目惚れしました。  作者: 工具
第二章 なんかアレな感じの恋愛イベントはっじまっるよー

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39 せんもんかのしじにはしたがいます

「ということで、経緯も何もなく神様が遊ぶ場所を作ってくれたので滞在中に訪れてみるのも良いでしょう」


 移動初日の夜、適当なところで適当な宿を見繕い各自適当に食事と休息をとったあと、俺とオルテンシア嬢とダイス女史が現地まで確認に行ったことは伏せて先行させた人員からの報告と御神託を受けたという体で目的地の島に神戯場ことミニダンジョンが生まれたことを一同に通達した。


 転生してもツエーに興味がなさげだったグリシーネ嬢とオリザ嬢は案の定ミニダンジョンというものを知らなかったので、昼に説明したことを確りと覚えて理解していたオルテンシア嬢が説明していた。あの三人がきゃっきゃしてるのは目に優しくてとてもよろしい。


「オーシィ卿は我々も神戯場に入ってみることを勧めていたが、ジールダイン公子とダイス女史はどう思われる」


 俺とダイス女史とジルに王子、ついでに嫉妬男さんは三人娘とは別に相談中。オーシィ卿って誰だと思ったが、俺だ。おっさんは体裁をつくろう為に、形だけとはいえ俺を近衛騎士に任じているので一応俺も騎士であり卿と呼ばれるのはおかしくない。今言われるまでその設定忘れてたわ。騎士以前に身元を誤魔化しているので下手をすると平民以下の俺でも、一応は騎士だ。忘れないようにしないと。


「王子殿下。私は神様の鍛錬場にしか入った経験はありませんが、現地に到着次第の調査をご下命ください。オーシィ卿は本来戦力として心強いのですが……現地からの報告が正しければオーシィ卿に頼ることは出来そうにありません」


 ダイス女史とジルが視線でやりとりしたあと、ジルが王子様に所見を述べた。ダイス女史はもう現地でミニダンジョンに入っちゃったし余計なことを言ってしまう可能性を考慮して引いたのだろう。王子様に意見を述べる面倒な役をジルに押し付けたわけじゃないはずだ。たぶん。


「そうだな……。神戯場はルールに背くと碌な事にならん以上しかたない。ウォルトは何かあるか?」


 意見を求められた嫉妬男さんは首を横に振るだけで返した。それ不敬じゃないのか? 良いのか? 王子様が気にしてないし良いんだろうが……ああ、王子様とオリザ嬢と嫉妬男さんは幼馴染的なアレだったっけか。

 しかし、嫉妬男さんって頭の中で呼んでる彼の名前はなんだったろう。王子様はウォルトって呼んでたけどそれって多分愛称だし俺が呼んだらまずいよな。この旅行のメンバーは俺とジル以外学園だかで親しくしてた集団であり、ジルも社交界でグリシーネ嬢以外と面識があったらしいので旅行の時の顔合わせの際も自己紹介などしておらず名前を未だに覚えていない。やばい。ジルに名前ちゃんと覚えておけって言われて教えてもらったことは覚えてるのに名前は覚えてない。くっそこの脳味噌のスペックが低すぎる。もういっそのこと名前覚えられるまでARでタグつけちゃおうかな。


「よし。ではそのようにしよう。今日はこれで解散だ」


 嫉妬男さんの名前を思い出そうとがんばっていたら話が終わっていた。あとでダイス女史に話してた内容を教えてもらおう。




 移動日二日目三日目は何事もなく過ぎた。強いて言うなら、竜籠による長距離移動に慣れていないグリシーネ嬢が二日目の夜にはグロッキーだったくらいだ。何の問題もない。

 俺とオルテンシア嬢とダイス女史は二日目三日目も初日と同じく、飛び立って一時間ほどを竜籠で景色を楽しんだら他の面々よりも一足先に島をふらついた。南の島でお散歩デート……オルテンシア嬢にそういうつもりがなくとも形がそれっぽいなら俺の心一つでデートにだってなる。お散歩デートだと俺が思ったところで手を繋ぐことすらなかったがな。

 旅行の日程としては片道三日半の往復でまる七日を含めて一ヶ月。過去の転生転移者のもたらした年月日に神様が便乗したことできっかり一月が三十日の十二ヶ月で一年になるように自転と公転をいじられたこの星は日付感覚が楽でとても良い。しかし一週間は七日なので月をまたいだりする部分はそのまま使われていて個人的にはきれいに揃えてくれよと思わなくもない。一月が三十日なら一週間は六日でいいじゃないのよ。


「はいじゃあ、今日の残り半日分は各自荷解きや居住環境の調整に当ててください。夕食は館に先乗りしている人員に用意させますので呼集がかかるまで自由行動ということで。では解散」


 グリシーネ嬢がやらないので号令は俺だ。王子様が主導したのはミニダンジョンの話し合いだけ。なんでだよ。主催はグリシーネ嬢だし一番身分高いの王子様だろうが。そんな俺の内心の叫びはさておき、本館とは別に五棟ある客室ならぬ客棟をそれぞれの夫婦と随行員を一纏めにして四棟、残り一棟を随行員ではない使用人たちで使うと事前に決めてあるので各自散っていく。グリシーネ嬢のところとオリザ嬢のところはまだ婚約者だしジルは独り身だったか。夫婦はうちだけだった。


「オルテンシア嬢、ダイス女史。俺たちも行こうか」


「はい。ふふ。初めてなので楽しみです」


 オルテンシア嬢が含みのある感じで答え、ダイス女史は静かに頷いている。

 そうね。島自体は昨日一昨日とふらふらしてたものの、この屋敷には一回も入ってないもんね。


 ちょっと足取りの軽いオルテンシア嬢と本館の正面玄関から入り、本館内を見ながら俺たちに割り当てられた別棟に向かう。棟ごとに玄関はあるんだけど、大食堂やホールは本館にあるのでグリシーネ嬢の考えるイベント次第ではこっちにも来ることになるだろうと下見だ。俺は理由がない限り近づくつもりはない。各人の随行員で足りない部分は先乗りしていた使用人が手伝うので、その使用人がみなバイオロイドである以上護衛に関しても問題はなく、俺は出来る限り王子様と直接関わりたくない。


「待ってたわよ。さ、早くダンジョン行きましょうよダンジョン。私、そもそも生まれた町と王都しか知らないのよね。ツエーも興味なかったし。でもやっぱり安全が確保されてるならダンジョン見てみたいじゃないダンジョン? だからはやくはやくダンジョン」


 俺達が割り当てられた棟と本館を繋ぐ渡り廊下の前で待ち構えていたグリシーネ嬢に畳み掛けられた。王子様にはできるだけ近づきたくねーつってんだろダンジョン。というか正確にはミニダンジョンだ。ダンジョンと呼ばれるものはなくともミニダンジョンはミニダンジョンだ。違和感あるなら神戯場と呼べ。口では言わないがな。だって王子様がめっちゃ渋面でこっち見てる。


「リシー様、気が急くのも分かりますけれどまだ安全確認も出来ていないそうですよ」


 あれ? オルテンシア嬢ってグリシーネ嬢にこんな砕けた喋り方だったっけ。


「けんちゃんはそういうとこ気付くのになんで気遣いも出来ないし乙女心もわかんないかなー」


 俺が変な顔をしていたのか、グリシーネ嬢に呆れた口調と声音で呆れられた。え、なんで矛先こっち向いたのよ。


「シアとは付き合いも長くなってきたし、これからも長くなるだろうってフランクに接して欲しいってこの間言ったのよ」


 ああ、なるほど。グリシーネ嬢がはっきり言ったのね。


「それはそれとしてダンジョンよ。けんちゃんって王様が認めるくらい強いんでしょ? だったらぱーっと行って見て来れないの?」


「ん? 前は俺のことそんな強くないって言ってなかったか? 俺への評価変わるようなことって――」


 ふとダイス女史が居心地悪そうにしているのが目に入った。


「ダイス女史との模擬戦の話でも聞いたのか?」


「そうそう。なんかダイスさんが疲れてるの丸分かりで聞いてみたらけんちゃんと練習試合みたいのしてぼこぼこにされたって。ダイスさんってあれでしょ、英雄って呼ばれるヒト。そんなヒトぼこぼこにするってけんちゃん王様の言ってた通りに強いヒトだったんだーって」


 ダイス女史も苦い顔で頷いている。オルテンシア嬢はずっと苦笑したままだ。王子様はカカオ八十パーセントのチョコ食べた甘党みたいな顔してる。カカオって苦いけど酸っぱくもあるよなあ。


「……ダイス女史、説明してさしあげて」


 視線をめぐらせ、ダイス女史に投げる。グリシーネ嬢がここに居る時点で王子様に説明役を振っても意味がない。オルテンシア嬢は事情を知っているが『守られる側』の人間だ。残ったのが俺とダイス女史で、グリシーネ嬢がどっちの話を聞き易いかと言えばダイス女史だ。面倒で押し付けたわけじゃない。ちょっと、視線でほっぺぐりぐりするのやめてダイス女史。


「私もまだ無理だとは説明したんだが、な……」


 尻に敷かれてるっていうのかねこれ。普段は王子様のが主導権持ってるって言うか……現状を鑑みるに主導権を持たせて貰ってるって言うか……。


「彼女に甘いのは分かっている。しかし、一年近く側に居られなかった負い目があるんだ」


 別にー責めてませんよー。出張が長かったのまだ引き摺ってんのか。グリシーネ嬢の方はそうでもないように見えるんだが、実はそうでもないのかね。俺にゃわかんねえだよ。


「けんちゃんって神様とどういう関係なの?」


 ダイス女史によって理性と落ち着きを取り戻したグリシーネ嬢が、納豆を始めてみた時のオルテンシア嬢と似たような顔をして問いかけてきた。

 この世界のというか、少なくともプロイデス王国のある地方におけるヒト種は、俺の知ってる日本人よりも総じて五感が鋭い。その所為というかなんというか、料理も俺が日本で食べてたものよりは素材の味を生かす調理法が多いっぽいし調味料も控えめなものが多いので、日本で俺が食ってたものを俺の記憶から再現してそのまま出すとオルテンシア嬢やダイス女史には味がキツイそうだ。この点はこっちで新しい肉体を得て赤ん坊から育ったグリシーネ嬢とオリザ嬢も同じで、日本の食べ物を再現したものを二人に食べさせるときは第五世代型バイオロイド達が結構気を遣ってる。初めてグリシーネ嬢と会ったときに食べさせた常備チョコは俺用に味を弱めにしてるものだったので美味しく感じられたらしいというのも、その後のバイオロイド達の努力によって判明している。あの時はそんなこと考えてなかったんだがそんなことはグリシーネ嬢たちは知らない。


「なんだろうな……遊び友達って程対等じゃないし、ペットと飼い主って程親密でもないし……なんだろうな」


 グリシーネ嬢の質問に向き合いたくなくて全く関係ないことを考えていたらダイス女史が視線を突き刺してきたので仕方なく答えるが、明確な答えなど持ち合わせていない。


「ゲームマスターとプレイヤーくらいの距離感と関係性が近いか……?」


 現に今も神様の用意した宇宙戦争みたいな陣取りゲームをやってる。ここ一週間は俺が優勢だ。俺がっていうか俺艦隊が。より正確には俺艦隊の宇宙船を使って戦ってるバイオロイドたちが優勢にゲームを進めてる。艦隊は俺のものでも俺は指揮官ではないのです。

 神様とやってる宇宙陣取りゲームといえば、戦場は神様の鍛錬場ではなく宇宙のはずなのに宇宙怪獣型神兵を殺すたびに俺の力が増えてるのはどういうことなのか。力は増えて困るもんでもないものの、宇宙戦争規模でバカスカやりあってるとあって力の増える早さがちょっと引くレベルで早くて怖くなる。神兵を殺して力を得られるのは神様の鍛錬場の中だからじゃないのかと神様に訊いても笑うだけでまともな答えくれなかったしな。


「けんちゃん? どしたん?」


「いや、今更ながら神様と俺ってどんな仲なのかってな」


 友達でいいじゃんという文面で”ネインド”を介したメール的御神託が届いたが黙殺しておく。個体としての差がありすぎてさすがに友達っつうのもなあ。というかあの神様は個体と呼んでいいのかどうか。


「やめよう。これは深く考えるとドツボにはまる系のやつだ。あー……で、だ。とりあえず明日一日使ってダイス女史とジルがミニダンジョンの調査をして、それで安全性が確認できたら今度は二人と一緒に俺とオルテンシア嬢とオルテンシア嬢の護衛がミニダンジョンの調査をしてって予定だ。グリシーネ嬢がミニダンジョンに入れるのは早くても五日後くらいだろう。それまで待っててくれ」


 五日という日数に根拠も意味もない。ミニダンジョンができたって報告を受けた当日にダイス女史が調査して、更にそのあとダイス女史と俺とオルテンシア嬢と第五世代型バイオロイド達で中に入って安全性は十分に確保できると結論が出てるし。ジルにはその辺も伝えてあるので、ダイス女史とジルによる調査は体裁を整える為だけのものだ。


「むー。せんもんかのしじにはしたがいます」


 不承不承グリシーネ嬢が頷いた。長かった。俺とオルテンシア嬢とダイス女史はまだそれぞれの部屋割りすら済ませてないって言うのにもうこの子は。


「はいどーも。数日は王子様と二人でゆっくりしてなさい。長期休暇の確保で最近忙しかったんだろ? 滞在は長いんだ。一息入れてから遊ぶのでも遅くないって」


「しゃーなし。ピース、今日は部屋でゆっくりしよっか」


「そうだな」


 王子様が疲れた溜息とともに頷くと二人は去っていった。ハイになってたグリシーネ嬢も少しは落ち着くでしょ。……一息入れた所為で体力取り戻して滞在後半にイベントラッシュとかならないといいなあ。

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