表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【未完】偽装結婚相手に一目惚れしました。  作者: 工具
第二章 なんかアレな感じの恋愛イベントはっじまっるよー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/54

38 目に力が入りすぎてしまったようで

 張り切ったグリシーネ嬢の指示によって朝靄のかかる早朝から一同は集められ、その内若干二名がものすごい疲れているようなのを無視して避寒というほど王都は寒くないのに南の島へと集団で小旅行に出立した。予定では途中途中の町で宿を取りつつ飛竜のぶら下げる竜籠に三日ほど揺られることになる。疲れてる二人も竜籠の中で眠れば大丈夫だろう。


 俺の知る限り道中で特殊なイベントはないはずだが、特殊性の話をするならまず飛竜が特殊であり、それに合わせたこの竜籠も実は特注品だ。

 というのもロイヤルな大型飛竜でも六人乗りが主流なので、八人を乗せられる飛竜が居ても八人乗りの籠がないのだ。そんなわけでこの竜籠はブルックに人員を預けて作ってもらった。大型飛竜の体の構造に基づいて作られた馬具ならぬ竜具や吊り具や留め具をはじめ、籠の底面を常に水平に保ったり、気圧や気温の変化を遮断したり、防衛用の兵器類を積んでいたり、飛竜が居なくてもそこそこ自立飛行が出来たり、例の如く動力源が賢者の石だったりの特別製である。


 オルテンシア嬢用に用意した俺たちの使っているものはそんな感じで外に出せないが、他の籠は色々な万一に備えてそのままおっさんに売っても大丈夫なダウングレード版となっている。それでも実用性においては十分であるのだが、その反面貴族がおおっぴらに使うには装飾面で貧弱なのはわざとだ。あまり良い物過ぎていっぱい作れと言われても断る手間がかかる。今回はおっさんと違い、嫌だの面倒だのの一言で済ませられる人間ばかりじゃないし。多分ジルは嫌だって言ったらそっかーで済ませられる。王子様と嫉妬男さんは無理だろう。特にオリザ嬢が欲しいとでも言えば嫉妬男さんがどうなるかわからない。あの人の人間性がイマイチ把握できていないのもあって聞いた話のイメージが強く、未だに頭の中では嫉妬男さんと呼んでしまう。名前なんだったかな。


 ブルックに頼んだ部分というはなじみの工房と置き換えたりして、同じ籠の中対面で座っているオルテンシア嬢とダイス女史に竜籠についてあれこれ説明してみた。他に話題なんてなかったんだもん。夕食を一緒に摂ったりその後談話室でまったりするのは最初から居心地好く感じられたが、移動の車中というか籠内で向き合ったままというのはまた別で会話がないのに耐えられなくなったんだもん。

 やばいな。一日の移動時間が大体七時間くらいで片道三日半を予定してるのに、今はまだ初日の半分も過ぎていない。より正確には出発して一時間くらいなのでサンシチニジュウイチの半日分四時間足して往復合わせて四十九時間のうち一時間で俺の精神は限界を迎えている。誰に助けを求めればいいのか。


 籠はそれぞれの夫婦というかペアに使用人二人ほどで一つずつとジルだけ独り身なので使用人と籠一つを使い、残りはそれぞれに割り当てられた分の籠いっぱいの使用人が乗り込んでいる。端的に言えば、俺とオルテンシア嬢とダイス女史の居るこの籠は三人しか居ないんだよ俺。自分に現実を言い聞かせると楽と同時に辛い現実を直視してしまった。余計な人間と乗り合わせなくて済むのは楽だが、オルテンシア嬢がなぜかじっと俺の方を見つめ続けているのだ。その所為で据わりの悪さに耐えられず竜籠について解説したりしてしまった。なんでだよ。空飛んでるんだし外見てくれよ。景色を楽しんでくれよ。


「あー、オルテンシア嬢、何かあったかな?」


 もうどうしようもなくなったので単刀直入に訊いてみる。神兵の軍勢より怖いぜ。現に進行形で俺艦隊が宇宙怪獣型神兵の軍団とドンパチってる俺にとっては、その戦場の戦況よりもオルテンシア嬢が何を考えているかの方が怖い。


「じっと見つめているなど不躾ですね。ごめんなさい。ケント様と遠出するのは初めてですので、気分が高揚してしまって……」


 俺に訊かれたことが理解できていない様子を見せたオルテンシア嬢だが、ダイス女史に何か囁かれると頬を薄く朱に染めて謝ってきた。あざとい可愛さ。しかしそれはそれで良い。


「楽しみにしてくれていたなら良かった。ちょっと強引なくらいの急な旅行計画だったから負担になってないかと思ってたんだ」


 なぜ俺を見ていたのかを知りたかったものの、謝られてしまってどう返したものかと悩み言い訳じみたことをごにょごにょ言ってしまう。

 そこでダイス女史のボディランゲージによる援護が入る。オーケー。理解した。


「……っとごめん、部下に呼ばれたから少し席を外すよ。転移の目印はこの竜籠についてるし戻るときには連絡も入れる」


 目的地に先行させているバイオロイド達が気になる報告をよこしたのは事実だ。ただ、来て欲しいとは書かれていない。


「痛いっ」


 予想外に眉間を押し込まれて思わず声が漏れた。


「申し訳ありません。目に力が入りすぎてしまったようで」


 視線に物理的な干渉力を持たせて突き刺してきたダイス女史に、形だけとまるわかりの謝罪をされる。謝る気ないなら謝らなくて良いよう。心無い謝罪は心が折れるよう。


「緊急事態でしょうか?」


「いや、大したことじゃない。ただ、一応今回の一行の護衛役だし、島にミニダンジョンが出来たなら確認しておかないと」


 ダイス女史の言動に苦笑していたオルテンシア嬢が俺の方へ向き直り心配そうな顔で訊ねてくるのでことさら軽い感じに返せば、またオルテンシア嬢にきょとんとされてしまった。まあ、唐突にミニダンジョンとか何言ってんだってなりますよね。


 要点だけ言うなら、イベントってことで神様の要らない気遣いにより島にミニダンジョンが生まれた。

 神様の、要らない、心遣いによって、目的地の島に、ミニダンジョンが生みだされた。

 神様の鍛錬場の入り口じゃない分まだましだ。下層に直結する神様の鍛錬場の入り口を作ることも検討していたと聞かされてしまえば詐欺の手口だとしてもマシな方で良かったと思ってしまう。神様が詐欺みたいなことすんなよ。




 神様の鍛錬場とランダム生成ダンジョンとミニダンジョンについて、訊いてもいないのに神様が教えてくれたことがある。この三つの最も大きな違いは、神様が篭めた気合だ。過去に転生や転移で他所の世界というか俺の居た日本がある世界と近しい世界より来た者からゲームにおけるダンジョンを教えられたこの世界の神様は持て余していた暇を解消するべく『ダンジョン』をこの世界で作り始め、その結果が今の世にある神様の鍛錬場であり、ちょいちょい発生しては適切な処置を施さねば周辺の環境をすさまじく変化させるランダム生成ダンジョンであり、偶に神様が神器とかを最奥に安置してわくわくしながら見守るミニダンジョンだ。


 神様の鍛錬場に関してはこの世界の人に俺から説明することはない。上層で訓練する分には死ぬことがなく、中層で他の生命を殺せば力を取り込めたり、死んだものは墓石という拳大の石に収納されたり、下層には凄いものがわさわさあって神兵と戦って勝てばそれらを持って帰れる。あと下層の最奥部に待つ神様の分霊を仕留めるともっとすごい神様の鍛錬場が実装される。


「え、あの、最後のもっとすごい神様の鍛錬場って――」


「ああ、うん。神様が言ってた。分霊とはいえ神様殺すなんて無理だって思う。それよりも今はミニダンジョンの話だ。ここってミニダンジョンぽいし、オルテンシア嬢もダイス女史もミニダンジョンには馴染みがないでしょう」


 ちょっと言っちゃ駄目っぽいこと言っちゃったので無理矢理に話を逸らす。オルテンシア嬢が困った顔をして居るし、神様の鍛錬場下層を知ってるダイス女史は何かを吐きそうなうえーって感じの顔をしてる。今現在の神様の鍛錬場の下層もね、奥へ向かえば向かうほど神兵がすごいもんね。神様が言うには神兵の強さや力の内包量は最上級、上級、中級、下級、最下級の五段階らしいけど俺は上級までしか相手にしたくない。最上級とか片手で数えられるくらいしか遣り合ってないのに顔も見たくないレベル。


 俺の最上級神兵恐怖症はどうでもいいんですよ。ミニダンジョンだミニダンジョン。ランダム生成ダンジョンも今はほとんど関係ない。

 ミニダンジョンとは、神様が楽しむことを第一の目的として生み出される空間である。別名『神戯場』。神が戯れる為の場所。

 ダンジョン内のモンスターがバカ強くて最奥にすごいものが安置されていたり、ダンジョン内のモンスターが子供でも殺せるレベルに弱くて最奥にちょっといいものが安置されていたり、ダンジョン内のモンスターがバカ強くて最奥に何もなかったり、ダンジョン内にモンスターが居なくてくっそ難しい立体迷路で最奥へたどり着いた者に合わせた神器を神様がくれたりと、大概の場合において最奥まで行くと良い物が手に入る。

 最奥へ辿り付く度に特定のものを得られるうえに何度も挑めるミニダンジョンもあれば、一度誰かが最奥に到達すると中に居る者を吐き出して消えるミニダンジョンがあったり色々種類がある。他の要素で言えば中で死んでも死なないミニダンジョンがあれば普通に死ぬミニダンジョン。地形の特異性で言えば、一歩入ると水中だったり高空に放り出されたり土の中だったりするキワモノのミニダンジョンもある。

 何の為にそんなものがあるかと言えば神様が楽しむ為。それ以外の目的はあんまりない。

 それを利用する側の人としては、最奥で得られる凄いものを目的にする者も居るし、ダンジョンに最適化した形で生み出されたダンジョンモンスターを殺すことで得られるダンジョンモンスターの強さに応じた力を目的にする者も居る。

 神様の鍛錬場とミニダンジョンの違いはいくつもあるが、大きな差異を挙げるとすればミニダンジョンは唐突に現れたり消えたりするのと神様の鍛錬場中層にいる生命ほどダンジョンモンスターは強くないくらいだろうか。あとミニダンジョンで死んでも拳大の墓石に収納されたりしない。


 言っちゃ駄目っぽいこと言っちゃったのを誤魔化すべく、立て板に水とばかりに以前神様から一方的に聞かされたミニダンジョンに関する知識を垂れ流した。オルテンシア嬢は貴族の子女とは縁遠い話を聞かされ続けてちょっと目を回している。ダイス女史は興味がないと丸分かりの態度で置物のように微動だにしていない。

 うん。多分誤魔化せた。ミニダンジョンに関してペラペラ喋ってる間に思い出したのだが、神様の鍛錬場にハードモードの追加が予定されていると言うのはおっさんに口止めされていたので二人とも忘れて欲しい。蒸し返されたら明言するので良いよね。


「うん。一通り説明したかな。何か気になるところとかあった?」


 漫画的表現をすれば目が渦巻きになっていそうなオルテンシア嬢に問いかける。


「え、あ、はい。大丈夫です。でも、このミニダンジョンはどうされるのでしょう?」


「んー。ちょっと中を軽く見てまわって、あんまり危なくなさそうなら滞在中に皆で遊びに入ってみるのも良いね」


 俺とダイス女史とジルという戦力があれば余程の危険でもない限りなんとかなる。部下のバイオロイド達でも基本兵装をフル装備させた集団で運用すれば十分な戦力になる。いつもお世話になってるグリシーネ嬢にファンタジーを満喫してもらうのも良いな、なんて思う。ええ。本当にお世話になっていますのでね。


「でしたら、私が偵察の役目を」


 珍しいことにダイス女史が自分から直接俺に提案してきた。どうしたことか。


「旦那様では、他の方々の安全性を図る目安には少々……」


 二度も約束を忘れた俺は三度忘れる前にダイス女史と模擬戦をしたものの、初手で五百メートル級宇宙船の体当たりを受けたダイス女史はたいそう驚いたらしく、以来戦闘面での俺への信用は底値のままだ。屋敷の防衛設備や使用人組の戦闘能力をダイス女史に伝えたのも影響している気がする。いや、だっておうちは安全な方が良いじゃない。


「それに、あそこの立て看板を見る限り旦那様はこのミニダンジョン内において戦力に数えられそうにありませんので」


「やっぱりあれは見間違いじゃないんだな」


 ミニダンジョンは神戯場と呼ばれる、主催者であり観客たる神様が楽しむ為の場所だ。ミニダンジョンのギミックも神様がその時々で楽しむ為のものが用意されている。

 今回グリシーネ嬢が企画した皆で仲良くなろうイベントに併せて生み出されたミニダンジョンにも当然神様が楽しむ為のギミックはあり、入り口前の看板にわかりやすく以下のように明記されている。


『ケント・オーシィはオルテンシア・ハイドロフィラ・オーシィと当ミニダンジョン内において常に手を繋がねばならず、加えて積極的な戦闘への参加を拒否する』 


 神様はどれだけ暇を持て余しているのか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ