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【未完】偽装結婚相手に一目惚れしました。  作者: 工具
第二章 なんかアレな感じの恋愛イベントはっじまっるよー

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37 どんなイタズラを――いえ、失言でした

「あの、ケント様。飛竜の件、よろしかったのでしょうか?」


 グリシーネ嬢主催の南の島で遊ぶ的なイベント参加者が顔を合わせた打ち合わせを終えた日の夜、日課となった俺とオルテンシア嬢とダイス女史のくつろぎタイムでオルテンシア嬢が話を振ってきた。


「その、随分と素晴らしい飛竜なのですよね? そのようなものを今回のために手配してくださったというのに、素晴らしい飛竜だからこそすぐ手放すことになってしまわれたのでは……」


 うん。うん? オルテンシア嬢の上品さはとても好ましいのだが、俺と話す時に気を遣い過ぎてて言葉そのものという意味でも言い回しという意味でも、偶に何を言っているか理解できないことがある。今回は言葉の意味は理解できるが、何を言いたいのかが理解できない。理解できない際における毎度の問題だが、どうしよう。


「今回ケント様が手配してくださった飛竜は、もしかして秘しておきたい類のものだったのでは……」


 あ、はい。言い直させてすみません。


「大丈夫だよ。あの飛竜はもともとオルテンシア嬢のために用意しておいたものだ。オルテンシア嬢が普段使いするには過剰気味だったようだし、おっさんが買い取るというならオルテンシア嬢が同じくらいのを何頭か抱えていても問題ないようにしてもらうし、どっちみち損はないよ」


 今回のイベントに使う十六頭全てをおっさんが買い取るといっても、値引きする代わりに新しくオルテンシア嬢に用意する分の言い訳やら所有の手続きやらを任せるといえば拒否はされないはずだ。その手間を拒否するなら嫌がらせも辞さない。夜明けあたりに毎日騒がしくするよう言いつけたりな。


「そうだ。隠しておきたいことで思い出したんだが、ダイス女史に預けている俺からの連絡用に使ってる術封器――」


 魔力の空き容量とかオルテンシア嬢は俺の魔力に慣れたのかとか訊こうと思ったんだが、顔を赤くして俯いたオルテンシア嬢の反応で全て言う前に察してしまった。一ヶ月二ヶ月で慣れるようなもんでもないらしい。


「――連絡用の手段は新しいものを用意したので、ダイス女史に預けている術封器は好きにしてくれて良いよ」


「よろしいのですか?」


 二重の意味があるように聞こえるのは穿ち過ぎだろうか。ひょっとして、ダイス女史は俺の魔力に反応するオルテンシア嬢を見て嗜虐心を擽られたりしていた? 


「……水飛沫を飛ばされた小動物のように驚き跳ねるお嬢様はとても愛らしいのです」


 俺に胡乱げな眼差しを向けられたダイス女史はそっと顔を逸らして大人しく白状した。


「これの説明を終えたら何か動物を飼う話でもしよう」


 あまりこの話題を掘り下げるとオルテンシア嬢とダイス女史の顰蹙を買いそうなので逃げを打つべく取り出したのは、小指の爪より小さい菱形の金属っぽい枠に嵌め込まれた透明な石が二つ。正八面体を断面が菱形になるように真っ二つにした感じで中心部分がちょっととがってる。角は落としてあるから尖ってるとは言えないか。


「連絡手段がこの石ですか? なんらかの術封器でしょうか」


 素早く立ち直ったオルテンシア嬢が、好奇心が明らかすぎるほどの楽しげな表情で石を見つめる。さっきの話を続けると一番傷が大きくなるのはオルテンシア嬢だもんな。積極的に別の話を広げるのもおかしくない。それに、連絡手段が変われば俺が術封器に送り込んだ魔力に反応せずに済むようになる。


「術封器とは技術体系が違うものだよ。俺は使い方は分かるが、仕組みは詳しく理解できてない。これならオルテンシア嬢が持っても大丈夫だろうし、オルテンシア嬢とダイス女史の二人に持ち歩いてもらいたい」


 喋りながらテーブルの上、二人の正面に一つずつ置く。


「お嬢様がお持ちになって問題のない品ならば私が持つ必要はないのでは?」


 ダイス女史も興味があるっぽいのに、自身の好奇心と仕事は別物として確認してくる。


「この石同士……通信石同士でも連絡を取り合うことができるから、二人が持っていれば便利だろう?」


 今回の『一見機械に見えず魔法的な妨害に強い機械による通信手段』という俺のオーダーに応えてくれたアルは名前は好きにしてくれといっていたので、単純明快の見たままで名前をつけてみた。


「石……通信石同士でやりとりができるとなると、ケント様も同じものをお持ちに?」


 おっとオルテンシア嬢が意外なところをつついてきた。なんだね。おそろいが宜しいのかね。そうなら嬉しいが、多分違うな。


「いや、俺のはまた違うものだよ。二人のために用意したこれは、要らない部分をそぎ落としてあるんだ。あまり便利だと日常的に使いたくなってしまうが、できればこれのことは人に知られたくなくてね。おっさんにはまた別のものを預けてあるし、オルテンシア嬢もダイス女史も外で使うときはなるべく気をつけて貰いたい」


 この通信石でできるのは互いの位置の把握と音声による連絡だけだ。ついでに、俺の旗艦からワープするマーカーにもなる。

 通信手段として一番望ましいのは”ネインド”なんだが、”ネインド”がどういうものか説明するのは難く、仕方なく装飾品のワンポイントとして付け外しできる今回の形に落ち着いた。この石、肌でもガラスでも布でもなんにでもくっつけることができるのだ。

 あとは魔法文明が主流のプロイデス王国一帯で傍受や妨害に対処すべく基本的な通信には魔力を用いないが、防犯部分は魔力による個人認証が楽なのでそっちを使っているし、緊急時や魔法的手段による通信妨害を受ければ魔法的な対抗機能が起動する。


 魔法的な部分が少なくたって、どこにあるかわからない俺艦隊旗艦に通信が届く時点でファンタジーだよなぁなんて考えつつアルが通信石とセットで渡してくれた資料をARで開いて、通信石の機能や遣い方についてオルテンシア嬢とダイス女史に一通り説明した。


「とても便利なものですね」


 指先で摘んで通信石を見つめるオルテンシア嬢が、目を見開いて何度も小さく頷いている。便利だよねー。


「旦那様、興味本位で伺いたいことがあるのですが……」


 オルテンシア嬢と同じように通信機を見つめていたダイス女史がふと視線を俺に向けて歯切れ悪く切り出した。


「答えたく無かったらそう言うから、とりあえず言ってみると良い」


「では憚りながら。旦那様の目が不思議な動きをしているように見受けられる事があるのですが、もしや人に見えないものが見えているのではないかと気になってしまいまして」


 通信石のことじゃなかった。でもそうか。ダイス女史の前でARを使ってるし目の動きでなんかやってるのはわかるか。この世界のホモ・サピエンスやめた人たちは百メートル先に立つ人の毛穴だって見えちゃうからね。たかが数メートル隔てた人間の目の動きくらいマイクロメートル単位で把握できても何もおかしくない。俺はやったことないけど。


「あー。精霊とかそういうのではなくて、自分にだけ見える書類を見ているって言うのが近いか……手で紙を持つより楽で手間も少ないんだよ」


 ARは一度日常的に使い始めると手放せなくなる。ファンタジー的な世界に来ちゃったり人外スペックの肉体を手に入れた俺の場合フルダイブのVRはあんまり使っていないものの、ARは毎日何かしらに使っている。主にあれだ。おっさんの護衛という名目で突っ立ってる間が暇すぎて、俺の記憶からゲームを再現するためのバイオロイドチームを作ってそれのプレイで毎日AR使ってる。携帯ゲーム機要らずで操作も思考や視線でできるのでかなり操作性が良い。日本に居たころの自由に出来る時間はほとんどを『星の海を冒険しよう!』につぎ込んでいた俺だが、ツクール系のフリーゲームは気分転換がてらちょいちょいやってたのでそれをバイオロイド達に再現してもらったりアップデートしてもらったりしている。ARでツクール系のゲームをやるのはかなり贅沢な感じでとても良い。


 俺のAR事情はさておいて、これはさすがにオルテンシア嬢にもダイス女史にもあげられないんだよなあ。俺の使っているARは神経介入式インプラントデバイス”ネインド”によるものなので、インプラント手術が必要になる。自分や部下のバイオロイドに施術するのと親しいとはいえ他人に施術するのは心理的ハードルがまるで違う。”ネインド”を自分に埋め込んだときはARVRSRMRヒャッハーでハイになってたのが大きいけどちょいと自棄になってたのもあるし。事前に安全確認を全くしなかったのは、今じゃ冷や汗物って話じゃ済まない。


「これもこれで便利なんだが、使えるようにするには色々条件があるんだよ。二人は当面、その通信石で我慢して欲しい」


 途中で考え込み始めた俺をじっと見つめていたオルテンシア嬢とダイス女史に心配要らないと手を振って誤魔化す。バイオロイド達の検証により今はインプラント手術も完全に安全なものだと思ってはいるが、施術の肉体的な安全性を脇においても俺のスキルがもたらす技術を外部へ流出させすぎるのは気乗りしない。オルテンシア嬢が完全に俺の人生のパートナーとなってダイス女史もオルテンシア嬢に一生仕えてくれるって言うなら俺の隠し事を全部明かすに吝かでないが、その話をするのは時期尚早だ。オルテンシア嬢は俺を洗脳したんじゃないかって罪悪感を抱えたままだし、ダイス女史はぶっちゃけよくわからんし。


「我慢するというよりも、これほど便利なものだと馴染むのに時間がかかってしまいそうです。ダイスはこういうのに慣れるの早いわよね」


「比較的器用な方だと自負しておりますので慣れるまでは時間もかからないでしょうが、使いこなすまでどのくらいかかるかは……。旦那様とお嬢様と私のみの連絡手段とはいえど、早さと手軽さが今までと桁違いです。どんなイタズラを――いえ、失言でした」


 今のはわざとか? ちょっと俺がへこんだ感じだった所為で空気が悪くなりかけたのを明るくしようとしてくれたんだよな? 本気でイタズラする気じゃないよな?


「これを使ってどんなイタズラをするの?」


 オルテンシア嬢がダイス女史の漏らした言葉に食いついた。

 ダイス女史は視線を泳がせて何も言わずに乗り切ろうとしたがオルテンシア嬢の無言の圧力に屈すると、オルテンシア嬢の耳元にそっと顔を寄せて口元を手で隠しながらぽしょぽしょと囁き始める。


 同じ家で暮らしているならハプニングがあってしかるべきというグリシーネ嬢の教えに従い着替えやお風呂でばったりを手始めに、オルテンシア嬢が倒れたという嘘で俺を呼び出して急いで帰った俺を何事もないオルテンシア嬢が出迎えてなぜ急いでいたのかを訊ねるとか、屋敷で俺が浮気する現場をダイス女史がその目で確かめてすぐにオルテンシア嬢を呼び出すとか、ダイス女史はわざと俺に聞こえるように喋ってる。

 その話を耳元で囁かれるオルテンシア嬢の百面相はとても良いものなんだけどね、俺は浮気した覚えがない。


「とまあそんなイタズラを考えていたのですが、そもそも旦那様は恋人がいらっしゃらない御様子。少なくとも最後のものは無理でしょう」


 そもそもの話をするなら、朝と夜の出勤帰宅に夕食とその後のまったりタイム以外は先生のレッスンぐらいしか俺はこの屋敷内にいない。オルテンシア嬢やダイス女史、使用人組バイオロイド達の生活空間には入らないので着替えや風呂に遭遇することがない。

 でもなあ。目の前であろうと内緒話っていう形を取り繕っていた以上俺は突っ込めない。例え、ダイス女史がわざと俺に聞かせていて俺が突っ込めずにぐぬぬってるのを楽しげに眺めていようと、だ。『うぐぇあ゛』のループ再生をしてやろうか。


「あんまり悪用はしないでくれよ」


 この程度しか言えない。悔しい。


「悪用といえば、飼うなら小動物と番犬みたいなもののどちらが良いだろうか」


 術封器によって変質した俺の魔力に反応するオルテンシア嬢を眺めるのが楽しいというのは悪用してるのと似たような物だろうということで、悪用の言葉がきっかけでついさっき動物を飼う話をしていたと思い出した。

 屋敷で走竜を飼ってはいても可愛がるよりも実用性が強いし、番犬にもなる可愛いのとか?


「小動物ならば小鳥がおりますよ?」


 オルテンシア嬢に小首を傾げられて、以前連絡用に預けた青い鳥型伝書用人工生命体を思い出す。ああ。あいつらの見た目は愛玩動物っぽい。俺の認識だと、造る過程で魔法は使ってないけど魔法生物系の防犯装置とかだったわ。


「あの鳥を可愛がってくれてるなら、番犬のようなものを何か用意してみようか」


 プロイデス王国にも犬は居るし、結構あちこちで見かけるので一般的なのだろう。犬かー。

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