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【未完】偽装結婚相手に一目惚れしました。  作者: 工具
第二章 なんかアレな感じの恋愛イベントはっじまっるよー

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36 なんかアレな感じの恋愛イベントはっじまっるよー

「どきどきっ。夏の、あの、なんかアレな感じの恋愛イベントはっじまっるよー」


 無駄にテンションの高いグリシーネ嬢のタイトルがないタイトルコールにより、どうやって都合を合わせたのか分からない無駄に高貴な面子による夏のイベントが王城にある豪華な会議室っぽい場所で幕を上げた。どっちかっていうと、火蓋は切られたって表現の似合いそうな鬼気迫る空気を纏った方々もいらっしゃるのは触れないでおこう。企画立案で率先して気合を入れているグリシーネ嬢が一番すごい熱気だし。


 企画立案・主催グリシーネ嬢、雑用業務おっさん(当日不参加)と俺(帰りたい)による名前のない夏のイベント参加者はちょっと引くレベルの高貴な方々がそろい踏みだ。何度でも言う。引くくらい高貴な面々が雁首そろえて何してんだ。


 まずグリシーネ嬢とプロイデス王国次期国王たる第一王子パ、ぱ……ピース王子。王子様の名前すら思い出せないのはさすが俺の脳細胞。

 次にプロイデス王国四公爵の一角、南方の海辺を中心とした国境における鎮守の要たるマレアロッサ家の次期当主ウ、ウオー……嫉妬男さんとその婚約者のオリザ嬢。やべえ、オリザ嬢の婚約者ってグリシーネ嬢がいつも嫉妬男って呼ぶ所為で名前が思い出せない。

 更にプロイデス王国四公爵が一角、北方の雪原を中心とした一帯を守護するロゼネージュ家の公女から公子になった異色の貴公子、雪薔薇ジールダイン公子。性別を変えたという公表が一ヶ月前のことなので婚約者はまだ居ない。

 最後に次期王妃の親友のオルテンシア嬢と、一応はその夫で高貴な方々の護衛を国王のおっさんに命じられたザ・俺。オレだとジになるのかな。


「やあ、久しぶりケントさん。なんか面白そうな話を聞いて参加させてもらったよ。事前の仕込みは万全だったのに王都にいると煩いのが多くて陛下に王都から蹴りだされるっていうのが実情だけどね」


 グリシーネ嬢の気合が入りすぎて空回ってる開会の挨拶はそっちのけで、隣に座ったジルが話しかけてきた。

 オレの身分はこの集団で群を抜いてダントツ不動の最下位なのでジルのほうから声をかけてくれて助かった。身分差が大きいとね、下の位の人間は勝手に口開いちゃダメなのよね。嫉妬男さんは知らんが王子様はその辺きっちりしてるので王子様が一緒だと俺も気を遣わにゃならん。


「ジールダイン公子ちーっす。おっさんから接近禁止を言われてたもんでまだ言えて無かったんだが、ジルのおかげだったり別に関係なかったりでオルテンシア嬢との仲はそこそこ良好なものになりまして、その節はお世話になりました」


 声に指向性を持たせて唇をほぼ動かさないまま喋れば言葉遣いは気にしなくても良いという、人外スペックの無駄遣い。


「うん。役に立ったのかは分からない説明だね。まあ、上手くまとまったなら何よりだ。あっちの二組も……順調……うぅん……特に問題はなさそうだし、なによりだね」


「グリシーネ嬢と王子様は多分順調だぞ。王子様が忙しくてグリシーネ嬢がちょいちょい寂しがってるくらいだ。もう一組は知らん。嫉妬男さんの方に愛はあるんだろうが、オリザ嬢はその辺掴みどころがない」


「ケントさん、男二人の名前覚えてないだろう」


 赤味がかった銀髪で青い目って言う冷たい印象を与えそな色合いと釣り目や細面という輪郭なのに、ジルは相変わらず柔和な雰囲気を纏っている。ついでに浮かべてる苦笑も柔らか味がある。乳幼児くらいの子が涎ででろでろのお菓子くれて受け取る時の好青年って感じ。うん。自分で言っててよう分からん例えだ。


「王子様は王子様でいいだろ。嫉妬男さんは今日会ったばかりだし、あの人俺がここに居ることを認識してないんじゃないのか? オリザ嬢に意識注ぎすぎだろ」


 顔はグリシーネ嬢の方を向いているのにオリザ嬢以外は最低限って感じでオリザ嬢を意識しまくりの嫉妬男さん。そらー、グリシーネ嬢もストーカーと呼びますわ。同じ部屋に入って三十分と経ってないのにもう一緒に居たくないもん。あんなのと四六時中付き合ってるオリザ嬢の忍耐力はちょっとおかしい。


「第一王子のパインズ殿下と、マレアロッサ家嫡男のウォルティース公子だよ。さすがに、プロイデス王国で重要な人物を上から数えた時に挙がり易い人の名前くらい覚えておこう」


 ジルに諭されてしまっては仕方ない。同じことをおっさんに言われても無言で流すかテキトーに返事をして忘れるが、ジルに正論を言われると素直に従っておこうと思える。声や口調が柔らかいからなのかなあ。

 しかしこいつ、性別の件を乗り越えたら万事完璧な人間じゃなかろうか。家良し顔良しでそれらに相応しいだけの人格と教養と品位を自分の力で身につけて、その上武芸にも秀でている。なんだこいつ超人か? そりゃあ与えられる環境がなければ教育は受けられないが、それを自分の糧に出来るかは個人の資質と努力が重要のはずだ。


「俺、お前との初対面が今のお前だったら嫌いになってたかもしれない」


 出来すぎた人間を胡散臭く感じてしまう俺は捻くれている自覚がある。


「グリシーネ様には『出来すぎて胡散臭いけどそれはそれでありだ』と初対面で言われたよ。あのお言葉は、私がそれで気分を害さないと察した上でのものなのか……。こうやって見ている分には下町で見かける普通の娘さんなんだが、底の見えないお方だよ」


「多分、ジルなら大丈夫だと言ったんだろうが、グリシーネ嬢も容赦ないな」


 そのグリシーネ嬢は他者には理解できない演説を終えたところで、やり遂げた感じの空気を放っている。王子様とオリザ嬢と嫉妬男とオルテンシア嬢は表情一つ変えず、表面的にはグリシーネ嬢の演説を全て聞いていたようだ。断言できる。誰一人今のをまともに聞いていなかったと。


「じゃあけんちゃん、詳しい移動方法なんかを説明しちゃってちょうだい」


 自分でやってくれないかなと淡い期待を抱いていたが予想通りそんな俺の気持ちは一言で吹き散らされた。

 仕方なく静かに立ち上がって、貴人を前にした礼をとり口を開く。


「グリシーネ様の指名を受けました私、ケント・オーシィがこの度の皆様の御遊山に際して――」


「けんちゃん、敢えて訊くけど、なんでそんな変な喋り方なの?」


 俺が場に合わせた言葉遣いをするのが余程意外なのか、丁寧に喋る俺が何か恐ろしいものかのような視線をグリシーネ嬢が向けてくる。

 俺の言語能力にケチつけんじゃねえ。俺だって俺の敬語がひどいのは理解しとるわ。でもどういう人か知らない嫉妬男さんはさておいても王子様が居る以上仕方ないんだよ。


「……貴人たる皆様を前に――」


「下手な言葉遣いをするぐらいなら簡潔に本題を話せ」


 俺がどうにかこうにかグリシーネ嬢に答えようとすると、今度は王子様が言葉をかぶせてきやがった。

 えええ。毎度貴方が言ってるんじゃないですかー。貴人に対しては貴人に対する礼を払えって。何度となく俺にぐちぐち言ってきたことを実践したらなんで叱られるんだ。


「……今回の件にオーシィ卿の助力を得るにあたって陛下からは多少の無礼には目を瞑るよう言われている」


 俺が余程の間抜け面を晒していたのか、王子様は顔を背けて苦々しげに理由を言った。

 おっさんの配慮なら納得。でも配慮してくれるなら俺を王子様の視界に入れないで欲しかった。


「じゃあ、お言葉に甘えまして。今回の移動手段は俺所有の大型飛竜を十六頭使います。八人と相応の荷物をまとめて載せられる籠も併せて用意していますので、一組ごとに籠四つで人員と荷をやりくりしてください」


 オルテンシア嬢の屋敷を用意する時に地竜の品種改良をしておけばよかったと反省した俺は、時間を作って飛竜にも手を出していたのだ。輸送能力を強化した大型種と移動速度を強化した小型種を配下のバイオロイド達が完成させている。唯一の誤算は、品種改良という形で種の進化に関わってしまった所為かバイオロイド達の完成させた二種の飛竜全てが俺に対して驚くほどの従順さを見せていることだ。研究班のバイオロイドたちがそういう因子を埋め込んだわけではないと思いたいがそういう可能性もありうる。訊けば答えてくれるとわかっているからこそ怖くて訊けない疑問の一つである。


「八人とその荷物を載せて運べる大型飛竜だと。そのようなものをどこで……」


 王子様はわかるよなー。嫉妬男さんもちょっと反応してる。女性人はなんとなく凄そうだくらいで実感はなさげ。

 王室の所有するロイヤルな感じの輸送用最上級飛竜の基準が最大積載量千三百キログラムくらい。フル装備の男六人とその荷物と籠そのものを合わせた重量だ。籠そのものは魔法とか術封器とかファンタジーな材料でできてるので結構軽い。そんなロイヤル飛竜が、公表されている限りでは王家所有のものをも含めてプロイデス王国全体で五十頭くらい。おっさんに今回使う飛竜のスペックを教えたときにそんなことを言ってた。航続可能距離も移動速度も個体で多少の差は出るが最低限求められる能力を超えているのがそのくらいだそうだ。


 翻って俺の用意した十六頭。プロイデス王国では速度や航続可能距離は特筆しない限り定められた基準を満たしていると見做されるので、単純にロイヤル飛竜を超える能力のものをどっから持ってきたんだって話になる。

 俺は悪くないんだ。事前にこの国の飛竜の能力をおっさんに確認しなかった挙句、具体的な目標スペックを提示せずに品種改良の全てをバイオロイドにまる投げした過去の俺が悪いんだ。今の俺は悪くない。


「おっ――王様には俺が用意したのを使っていいと確認も取ったし、俺が所有しているという法的手続きも済ませてあるので」


 あぶない。王子様に対してプロイデス国王のことをおっさんて言うところだった。王様って呼び方はおかしいがおっさんよりはマシだ。

 ハイスペックな飛竜十六頭を俺が所有するとおっさんが認めたと明言すれば、王子様が不満げに呻って黙り込んだ。

 おっさんには正しい値段をつければ売るって言ってあるから睨むなよー。


「けんちゃん、どういうこと?」


 俺と王子様のやりとりがいまいち理解できなかったグリシーネ嬢が俺に直接訊ねて来た。どうしよう。そのまま言っちゃっていいか。


「神様の鍛錬場中層で俺が捕まえた飛竜の群れは、折り合いがつけば譲って欲しいって陛下に言われるくらい能力が高かったんだと」


 地表が見えない空区画とか、海底はあっても海上にはたどり着けない海区画とか、神様の鍛錬場中層にはさまざまな環境が用意されているのでこういういいわけが成り立つ。おっさんにもそういうことにしておいてっていってあるのでこの説明で大丈夫なはず。


「ふーん。そんなの捕まえるなんて運が良いね」


「そんなのを見分けられるくらい見る目があるって言ってくれ」


「はいはい。で、移動手段は分かったから次進んでよ」


 事前に資料渡してあるんだし急かすくらいなら自分でやっちゃえばいいじゃない。逆らいませんけどー。


「目的地はマレアロッサ公爵領のロシミレッツ市近海にある王家所有の孤島にある邸宅。避寒地として今上陛下の数代前に建てられたものの立地が悪く数代で王族にも忘れられていたのをグリシーネ様が文献から見つけ、今回の旅行のために私が手配して整備しなおしたのですぐにでも使える状態です」


「やー。一ヶ月で資材や人員の手配して送り届けて別荘を直しちゃうんだから、けんちゃんってば意外な手際よねー」


 うわー。グリシーネ嬢に不自然な仕事の速さの口止め忘れてた。ポカやらかした俺が悪いとはいえ余計な事言いやがってこの……貴様の嫌いな糸コンニャクを口にねじ込んでやろうか。


「資材と人員はもともと別荘を建てようと……まあ、いいんですけどね……」


 こういう小芝居挟むのってば結構面倒なんだぞ。その場しのぎの嘘ばっかり言ってると破綻も早いんだぞ。


「それってあれかい、以前相談してきた奥方の避暑地を――っと……すまない。続けてくれ」


 ジル、この、お前、この……要らん設定増やすな。咄嗟に睨みつけたら俺が初めて見る悪戯小僧じみた笑みを返してきやがった。愉快犯か。


「えっ。そうなの? ごめんけんちゃん。シアもごめん。今回のイベントその分がんばるからっ」


 要らん飛び火した。うわー。グリシーネ嬢だけでも誤解といておかないと雪ダルマ式に面倒ごとが大きくなりかねない。


「あー、いや。飛竜の輸送能力を確かめるのが主題だったんだよ。ジルが良い場所を見繕ってくれてる間にモノだけ用意しておこうって」


 ちらりと隣のオルテンシア嬢を窺えば、全部分かってると言いたげに頷かれてしまった。ああ、これ本当に全部分かってるんじゃない? 体質抑える神器製ブレスレットを外して見せてくれてるし。でもあとで説明しておかないと。


「あー、この話は切り上げて、移動や滞在の具体的な日程についてを――」




 グリシーネ嬢の無自覚な、ジルの愉快犯的なトラブルを強引にねじ伏せて、日程の調整自体は協力的な参加者のおかげでぱっぱと終わらせた。なんで俺が仕切る羽目になってんだよ。グリシーネ嬢がやれよ……。

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