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【未完】偽装結婚相手に一目惚れしました。  作者: 工具
第二章 なんかアレな感じの恋愛イベントはっじまっるよー

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35 イベントを用意しました

 宇宙怪獣型神兵軍団が早期警戒網にかかり、一時的な拠点として抱えた資源型小惑星を放棄して迅速に陣形を組みつつ高速偵察艦を全方位へ放つ。接近中の宇宙怪獣型神兵軍団が一つのみだと判明するなり、そんな単純な力攻めをするには圧倒的に不足している敵陣容との齟齬が俺の警鐘を鳴らした。また俺では想像もできない攻め手に変化する確信を覚え自軍の艦隊に全力でその宙域から撤退するように指示を出したが、そんな俺の判断能力を見越していたかのように俺の艦隊が休息していた宙域のデブリが発光、宇宙怪獣軍団を召喚した。咄嗟に先ほど発見した宇宙怪獣軍団の所在を確認するとそいつらはまだ居た。つまり内と外からの挟撃を受けている。


 ああ、この艦隊は捨てるしかない。事前に無駄すぎるほど宙域の精査を繰り返したのに、どうやって召喚装置を隠し通したんだか。せっかく敵陣深くまで潜り込ませて希少資源を漁ったのにもったいない……。

 各船内で艦隊制御の補助を任せていたバイオロイド達にはシグナル一つで何よりも優先した緊急離脱を命じてあるので人的損害は皆無ではあるものの、回収していた希少資源や船そのものの損失が結構痛い。そのうえ艦隊を潜入させるため最前線で派手にやりあった分の消耗を考えると、相手の手札を一枚明かしただけじゃ到底割に合わない。

 今回の作戦失敗で唯一の戦果は囮にした最前線を少し押し込めたくらいだ。全体の戦局には全くもって影響を与えない軽微な損害とはいえど本当、割に合わない。


「――だから、イベントを用意しました」


 神様との恒星系をまるごと一つ使った宙域陣取りゲーム(下手を打てば死人も出るよ)に集中していたら、いつのまにかグリシーネ嬢とオルテンシア嬢とオリザ嬢の三人が俺の方を向いて何か話しかけていた。ゲームのフィールドが広大で、無能指揮官な俺でも端っこの方で全体に影響しない程度になら遊べるものだからついつい意識を注ぎすぎて人の話を聞かないことが増えてしまっている。いや、人の話を聞いていなくて怒られる頻度はゲームを始める前とあまり変わっていない気もするし、多分俺は元々人の話を聞いていない。


「あ、はい。がんばってください」


 美女美少女三人の視線を一身に受けて挙動不審になるのは仕方ない。美少女って何歳くらいの子までつかっていい表現なんだろうかとか考えて意識を逸らさないとまともに応答も出来そうにないくらい居心地が悪い。というか、何度も主張したが俺はあくまでグリシーネ嬢の護衛という名目でここにいるはずなのでお茶会の参加者として扱うのはやめてもらえたらなって思うんですよ。グリシーネ嬢の供回りもオリザ嬢の供回りも誰も気にしてないとはいえね、体裁ってものがあるわけで。そんなことはくどい位言って全部切捨てられたのでもう言いませんけども。


「ちょっと、けんちゃんまた話聞いてなかったの? 前から多かったけど最近もっと多くなってない?」


「あー……。こういう言い方はずるいからしたくなかったんだが、神様の遊びに付き合っててな。基本は人任せで指示出してればいいものの、手を抜くなって言われてるんで俺も自分で動かしたりしないとならんのよ。ぶっちゃけ結構楽しいし」


 この説明じゃまるで実態が分からないなと自分で言ってて思った。


「んー? 神様と何して遊んでんの?」


 俺がこういうよくわからんことを言った時の反応はグリシーネ嬢が一番速いし的確だ。


「宇宙怪獣と宇宙艦隊で陣取りゲーム」


 俺のいつもの格好がターン制宙域制圧SLG『星の海を冒険しよう!』に出てくる一般兵の武装と同じと知っているグリシーネ嬢に宇宙艦隊なんて言ったらまずかったかな。俺が自前で宇宙艦隊を抱えてると知られるのはちょっと良くないかもしれない。一般的な日本人の感性で言えば、個人で所有することに躊躇いを覚えない方がおかしい武力だ。暴力や軍事力と呼んでも差し支えないかもしれない。その場合、そもそも軍とは何ぞやという――


「今度はほとんど関係ないこと考えてたでしょう?」


 思考が逸れかけたところでグリシーネ嬢に鋭く指摘された。何このエスパー。


「今の話に直接関係あるわけじゃないんだけど、前にけんちゃんとシアと話してた時に気づいたのよね。私、生まれたときからなんか変な感じするなーって」


 オルテンシア嬢の体質には触れず『前に話した』だけでさらりと流したのはそのときのことを知らないオリザ嬢に対する配慮か、いまだ自分の体質を制御できていないオルテンシア嬢に対する配慮か、グリシーネ嬢とオリザ嬢の供回りが居るからか。


「それでけんちゃんに教えてもらった『力を感じ取るんじゃないか』っていう考え方、あれを意識したらなんかよくわかんないものが見えるようになって、けんちゃんとか、ダイスさんとか、強い人? が何考えてるのかなんとなくわかるようになったっていうか……」


 どういうものか自分ではっきり理解できていないのか、最後の方は尻すぼみにもにょもにょと消えていった。唐突に名前を出されたダイス女史がちょっとびっくりしてるのは俺でも分かる。

 んー。力の強い人の考えてることがわかる、ね。


「地面の下からは何も感じないのか?」


 前に神様が竜脈がどうの地脈がどうのって言ってたし、惑星が一つの生命体みたいな考えで星の血管みたいのがあるんじゃないのかなと根拠もなく訊いてみた。


「あるような……気がしなくもない? 『水の味ってどんな味』って聞かれるのと同じ感じで答えにくい」


「水の味といえば、お米は炊く時に使う水で味が変わるそうですね?」


 オリザ嬢が自分の興味がある方へ強引に話を持っていった。まあ、この話を続けるのは俺としても言っちゃいけないこと言いそうで怖いし乗っかろう。


「パンもそうだし、お酒もそうだし、煮物は言わずもがな。『炊く』って煮てる様なもんだし、米の味が水で変わるのもおかしなことじゃないんじゃないか」


 この話のオチは分かってるので無理に逆らう気はなく、俺に逆らえるとも思えない。


「では、今度はお米やパンの食べ比べですね」


 オリザ嬢が満面の笑みでおっしゃった。オルテンシア嬢もオリザ嬢がそう言うことを察していたのか苦笑気味だ。

 しかし、貴女達二人は俺の行動を予測できていないだろう。


「こんなこともあろうかと……」


 オルテンシア嬢でも一口でいけるサイズのおにぎりがいくつか乗った皿を六枚ほど、テーブルの空いているところへ並べる。


「米の品種は全て同じで、この皿が俺がいつも使ってる料理用の水で炊いたもの。こっちが王都の地下水で炊いたもの。これは王都の北にあるナントカ山の湧き水で炊いたもの。これは神様の鍛錬場中層で遭遇した水の精霊に貰った水で炊いたもの。これは湧水の術封器で作った水で炊いたもの。最後のこれはまじりっけのない完全に水だけの水で炊いたもの。食べ比べてみるといいよ」


 水だけの水は純水と呼ばれる類のもののはず。クリスに不純物を一切含まない水が欲しいと言ったらくれたものなので詳しくは知らない。

 それぞれ別の六種類もの水で炊いたご飯による塩すらつけていないおにぎりという普通とは言いがたいものがこんなにある理由は単純な話で、俺が以前に食べ比べたからだ。残った分はそのうちまた食べ比べようと時間凍結しておいたので炊き立てとほとんど変わらない。

 個人的には精霊さんに貰った水で炊いたものが一番美味しい。神様の鍛錬場で何度か顔を合わせるうちに仲良くなって半年に一回くらい物々交換をしているので水そのものはトン単位であるのだが、日頃から最上級に美味しいものを食べ続けると美味しいものに慣れすぎて舌がバカになるという俺のこだわりによって普段は精霊さんの水を料理には使っていない。因みに精霊さんは言語によるコミュニケーションが成り立たないのでオーバーすぎるくらいの身振り手振りで交流している。あの精霊さん、知性は少なくとも俺より高いだろうになんで人の言葉を喋らないのだろうか。


「私、この北の山? の水のやつが一番好き。なんかさっぱり系?」


「北の山というとグリフドレミリル連峰でしょうか。あの山にはグリフィンが住まうそうですけれど、鍛錬を積まぬものには飛ぶ姿すら見ることが出来ないとか」


「そんな逸話のある御山でしたのね。私はこのまじりっけのない水……おそらく純水のものが一番好みですね。一番癖がなくて、お米自体の味が分かりやすいです。こうして食べ比べていると、一度は諦めた自身の手による至高のお米を生み出すという夢が再び熱を持ってしまいそうです」


「いいんじゃない? 嫉妬男が家を継いで領地に引っ込んだらオリザも行かなくちゃいけないんだし、そうしたら自分でお米作る時間と場所くらいどうにでもなりそうじゃん」


 オリザ嬢はお米も好きだけど、お米を作る方にも興味があるのか。婚約者だか夫だかとの力関係はオリザ嬢のほうが強そうだしがんばれば着手は出来るんじゃないかなあ。手伝わないし、責任は持ちたくないしで絶対言わないけど心の中で応援はする。


「オリザ様が望まれるのでしたら、ウォルティース様もきっとご理解くださると思います。その後を上手く成せるかはオリザ様のお気持ちしだいではないでしょうか」


 オルテンシア嬢が柔らかな笑みでオリザ嬢を応援する。グリシーネ嬢もちっさいおにぎりをもぐもぐしながら頷いている。米だけで塩も具もないおにぎりをあんなに楽しそうに食べてもらえるのはなんだか嬉しい。そして、そんなおにぎりすらグリシーネ嬢と同じように楽しんでくれるオリザ嬢に一年以上も日本米断ちさせたことが申し訳ない。もともとなかったなら辛くはなかったろうが、一度二度と日本米を食べた後に長期間食べられなかったのは結構なストレスだったんじゃないかなと思う。プロイデス王国でも一部地域で細々と米が栽培され食べられているが、日本米とは別物なのだ。類似品があるからこそ本当に望むものがない苦しみというのもあると思う。


「ふふふ。ケントさん、一年も私からお米を取り上げた謝罪のお気持ちはお米でお願いしますね」


 考えていることが顔に出ていたのか、オリザ嬢が冗談めかしてわざとらしく厚かましい言い方で言ってくれる。こういうときに明け透けな言い方をされる方が俺は楽だとわかっていらっしゃるのね。オルテンシア嬢……よりはグリシーネ嬢の気遣いかな。


「むぅ。私だって三人には悪いと思ってるのよ……」


 グリシーネ嬢に視線を向けたら不満そうに、というよりも居心地悪そうに謝られてしまう。王族に入る予定の身としては直接的な言葉で謝罪なんて出来ないので、彼女に出来る限りの正直な気持ちを表せる言葉じゃないかな。


「俺は気にしてないさ。オリザ嬢が白米食べられなくてキツかったんじゃないかなって思っただけで。米は……精米済みのを渡せば自分で炊けるのかな?」


「土鍋は用意してあるんです」


 とても朗らかで輝くような笑顔だ。そうかー。米はないのに土鍋は用意してたかー。どれだけ米を食べたかったかの一端が窺えてしまう。オルテンシア嬢はどういう表情をしたらいいか困った挙句の笑みとわかる、ちょっと引き攣った笑みを顔に貼り付けていた。


「違うし。お米はおいしいけど、違うって。イベント。アンタらの恋路にはイベントが足りないって話よ」


 このままお開きになるかといった空気になったところでグリシーネ嬢が何か言い始めた。イベントってあのアレな元令嬢転生者と会って変な影響を受けたんだろうか。オルテンシア嬢に感染する前に隔離しないといけないかもしれない。


「違う。けんちゃん失礼なこと考えてるでしょ。違うの。ゲームとかマンガ的な発想だけど違うの。けんちゃんとシアの恋路の話なの」


 恋愛ゲーム脳転生者と似通った発言だったと自覚したグリシーネ嬢はあわてている。


「きょ、共通体験? なんかそんな感じのアレよ。二人で一緒に苦労を乗りこえると仲良くなれるみたいなの。……吊橋効果?」


「共通体験も吊橋効果も違うんじゃないのか? 共同作業の方が意味合いは近そうだぞ」


「ケーキ入刀ね。うん。それそれ。で、イベントを私が用意したのよ。ビデオゲーム的なのじゃなくてレクリエーション的なイベントね」


 わざわざビデオゲームて……。ゲーム的って言い方じゃ、レクリエーションの体を動かす系も含まれそうってことだろうと分かるものの……グリシーネ嬢、ちょっとテンパってない?


「ああ、もう。その目をやめなさい。私だって慌てることくらいあるんですぅ」


 オルテンシア嬢もオリザ嬢も苦笑しつつグリシーネ嬢を見てるのに俺だけ注意された。理不尽だー。

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