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【未完】偽装結婚相手に一目惚れしました。  作者: 工具
第一章 そこではじめて会ったビジネスライクな結婚をする相手に一目惚れをした。

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34 これも一つの節目かな。

「まあそんな感じで、お互いに向ける気持ちを赤裸々に話し合ったのでまた鋭意努力していく所存です」


「有耶無耶に終わってるし、具体的な行動指針も言ってないしぐだぐだじゃん。シア、本当にこれでいいの? もうちょっと頼りがいのある男じゃなくていいの? シアならもっと良いの捕まえられるよ?」


 大事な話し合いがまたももにょっとした感じで終わった数日後、俺とシアは揃ってグリシーネ嬢のお茶会に呼ばれ事の顛末を二人で話した。お茶菓子は俺が持参した日本ノコンビニで手に入れられる系のものいろいろ。オリザ嬢と食べられるように包んだのをグリシーネ嬢に渡すの忘れないようにしないと。


「私は、その……ケント様ほど相性の良い方とお会いしたことがありませんので……」


 ちらり、と俺の顔を伺うように見たオルテンシア嬢は暫し口ごもって申し訳なさそうに言った。

 洗脳したようで罪悪感があると俺に告げて以来、オルテンシア嬢はちょいちょいこういう仕種を見せる。俺に言ってしまった以上、無理に隠す必要もなくなったというのもあるし、本人に言ってしまったのに泰然としていることも出来ないしといったところだろうか。

 天邪鬼な俺としては殊更態度に出されるとポーズだけなんじゃないのかと思ってしまうが、本当に気にしているならそんなことをわざわざ言っても心労を増やすだけだ。ついでに言うと憂いのあるオルテンシア嬢もいいと思う。


「アンタ、今、ろくでもないこと考えてなかった?」


「エスパーか。憂いを帯びた表情のオルテンシア嬢もこれはこれでいいなと思ってた」


 無言のまま畳んだ扇で叩かれた。立ち上がってまで叩くことないじゃないですか。


「シア、貴女は本当にこんなので良いの? 考え直せる内に考え直しなさい?」


 グリシーネ嬢が真剣な表情でオルテンシア嬢に訊ねる。俺も今の流れだと本気で心配する。


「明け透けな好意で困ってしまうこともありますけれど、ケント様が夕食の後の時間に目いっぱい示して下さる私への愛情はやはり嬉しいので」


 オルテンシア嬢は頬を赤らめながはにかみつつちょっとまずい言い方で俺への気持ちを言葉にしてくれた。嬉しいと言ってもらえて俺も嬉しいが、その言い方はだめだ。


「アンタ何してんの?」


 グリシーネ嬢が『子供が起きちゃう』とか言いながらいちゃついてる両親をみちゃった子供のような目を俺に向けて鋭く問う。


「最近は晩御飯一緒に食べたあと一緒にいる時間を作ってるんだけど、その時間オルテンシア嬢は神器を外してるんだよ」


 この想いよ届けとばかりにオルテンシア嬢と一緒にいる幸福を噛み締めたりすると、実際にオルテンシア嬢へ届いているらしい。便利なのか不便なのかわからない体質だ。


「今回は普通に惚気……なのかな? アンタとシアにしては普通に順調なんじゃない? どうなるのかなって心配したりもしたけど、なんとかなりそうで良かったわー。私もそろそろお忍びじゃなく外に出ていいって話だし、良い事が続くと気分も良いわ」


 グリシーネ嬢は王子様が遠征から帰ったことで俄然やる気を出し、ちょっとやそっとじゃ外れない淑女の仮面を手に入れたためにおっさんも外出許可を出したと昨日か一昨日か一昨昨日か、いつだったかはさておいて言っていた気がする。


「グリシーネ嬢は休学中なんだったか?」


「そうそう。ピースも籍は置いてるんだけど、忙しくて休学も多いのよね。モンスターっていうんだっけ。なんか危ない生き物の退治に行ってるらしいわ。でもこういうのってアンタみたいなのの仕事じゃないの?」


「俺はあくまでおっさんの護衛だよ。前線に出るのは別のとこ。王子様もおっさんがいる内に前線で顔売ったり武勲挙げておかないと将来大変なんだし、未来で要らん苦労しない為の今の苦労だ」


 俺にしてはまともな事言えたんじゃね。内心で自画自賛していると、戦う云々の話の所為かふと脳裏を過ぎるものがあった。


「あ、やべ」


「どしたん?」


 唐突にちょっと慌て始めた俺へとグリシーネ嬢とオルテンシア嬢が心配そうな視線を向けた。


「ダイス女史との模擬戦の話、神様に場所用意するからって言われてそのまま忘れてた。あれどうなったんだろう」


 別のテーブルでグリシーネ嬢の侍女さんたちと歓談していたダイス女史が一瞬鋭い視線を突き刺していった。本当すみません。


「ダイスさん? 神様?」


 オルテンシア嬢は何のことか分かり、グリシーネ嬢に説明している。

 そして久々の御神託。前に御神託もらったのは、どこだかの星のどこだかの海でなんとかいう生き物の子供が順調に育ってるとかだったかな。まるで興味なくてほとんど覚えてない。


「俺が思い出したから今場所完成させたって神様が言ってきた。相変わらずあのヒトはノリが全てだな」


 俺の呟きをホモ・サピエンスではありえない聴覚により聞き取ったダイス女史がわくわくした空気をまとい始めた。今日帰ったらいつやるか話さないと。


「はへー。ダイスさんって強いんでしょ? アンタ大丈夫なの?」


 オルテンシア嬢から事情を聞き終えたグリシーネ嬢がさっきより心配そうな色を強くした面持ちで俺に訊いてくる。


「俺もそこそこ強いんだよ。じゃないとダイス女史もちょっと殴りあわないかって誘わない」


「なに。アンタ、オレツエーとかしてたの?」


「俺単品で言ったらあんま強くないよ」


 パワーアシストスーツ脱いだらおっさんにも負けますわ。


「やっぱり強くないんだ。相手はダイスさんだし大丈夫だろうけど気をつけなさいよ?」


「当然。怪我したら痛いしな」


 その後はオルテンシア嬢とグリシーネ嬢のきゃいきゃいしたお喋りを見て癒されて解散。オリザ嬢と食べてもらう分は忘れず渡した。

 一応俺とオルテンシア嬢の仲は順調な進展を見せていて、グリシーネ嬢と王子様の仲も順調。オルテンシア嬢とグリシーネ嬢の仲も良好となれば、やっぱ俺と王子様の接点も増えそうだなあ。ああ、面倒くさい。おっさんがどうにかしてくれないものか。




「二度も忘れて本当にすみません」


 帰宅後、腰を落ち着けてすぐダイス女史に謝る。一つの約束を二度も忘れるって、当事者じゃない人にも人間関係を見直されるレベルの落ち度だ。こちらには大概の賠償に応じる用意がある。


「二度までは許しましょう」


 感情の窺えない硬質な声でダイス女史が寛大な沙汰を告げる。おお。心広い。


「私も以前同じことをした時に言ってもらった言葉です。一度言ってみたかったんです」


 茶目っ気たっぷりに言ってくれたのはダイス女史の優しさだろう。

 ダイス女史の言葉に甘えて忘れていたことはそのまま流させてもらう。後でオルテンシア嬢に頼んで間接的且つ表面的には今回と関係のないところで補填しよう。侘びは要らんと言われてるのに押し付けるのは俺のエゴだし、何もしないのはどうかとも思うし、そのあたりが落としどころのはず。


 本来この時間はオルテンシア嬢の為の時間だが、オルテンシア嬢が俺とダイス女史のやり取りをにこにこと眺めているので、そのまま日程とダイス女史がオルテンシア嬢から離れる間クリスを代役に充てる事が決まった。俺はオルテンシア嬢との関係が一段落ついて予定らしい予定はなく、ダイス女史も基本的にオルテンシア嬢の側に居るのでオルテンシア嬢が許可を出してダイス女史穴埋めがされるなら問題はないと、日程の調整は楽なものだった。


「旦那様、連絡用にお預かりしているこの術封器なのですが、そろそろ魔力が溜まり過ぎているようでして」


 模擬戦の件がまとまると、ダイス女史が細い銀紐を唐蝶結びにした飾り紐をどこからともなく取り出した。どこに持ってたんだ。


「魔力を蓄えるだけで消費する機能はないもんな。でもダイス女史がその魔力を取り出して使えるなら使っちゃって良いよ?」


 俺としては無駄に放出させたりするよりは無駄がないと提案したのだが、オルテンシア嬢は頬を赤らめて術封器に向けていた視線をそっと逸らし、ダイス女史はなんとも言いがたい困り顔になった。


「私の方では問題ないのですが、お嬢様が……」


 今の反応でそうだろうと思ったが、やっぱりオルテンシア嬢に何かあるようだ。


「相性の良し悪しというのはさまざまな面にあるものでして……私とケント様の相性は何から何までとても良く、あの……相性の良い魔力を心地好く感じることはご存知ですか?」


 ちょっとぶつ切りで要領を得ないが、要するに俺の魔力はオルテンシア嬢と相性が良く、相性の良い魔力は心地好く感じるものなのでオルテンシア嬢は俺の魔力を心地好く感じると。そんなことがあるんだな。俺は魔力を出したり引っ込めたりはできるようになったものの感知するのはまるでだめだ。自分の身一つだと触れたものの魔力を感じ取るのが精々で、魔力を使うのも術封器の起動はともかく魔法なんて一つも使えない。魔法や魔力に対しての警戒は、いつも身につけている基本兵装にそれ用のオプションを乗せているのだ。

 そんな、魔力魔法に関して門外漢の俺なのでなにか問題あるのかもしれなくともさっぱりわからない。


「その、ですね」


 余程言いにくいのか、それきりオルテンシア嬢が黙ってしまった。急かす理由もないのでちょっとしたお茶菓子を追加したり、呆れた表情を隠さないダイス女史に紅茶を淹れて貰ったりと一人でゆったりする。気にしてる素振りを見せようものなら、常々俺への罪悪感を抱いているオルテンシア嬢は言いたくないことでも言ってしまいかねない。無理矢理聞き出すというのはオルテンシア嬢にはしたくない。


「はぁ。お嬢様の仰る『心地好い』というのは端的に申しまして性的快感と近しい類の感覚なのです」


 焦れたダイス女史が言ってしまった。オルテンシア嬢は首も耳も真っ赤になって俯いている。そりゃあ言い難かろうよ。


「加えて申しますと、旦那様ご本人から感じる魔力とこの術封器から感じる旦那様の魔力では質が微妙に違うそうで、一度術封器を通したものは刺激が強いとのことです」


 うむ。下種な好奇心で訊いたわけでもないのにこの居心地の悪さよ。ああ、そういえば初めてこれをダイス女史に渡したときもなんか変な反応してたなあ。この話はあまり触れてはいけない。


「なんというか……連絡手段は別のものを用意しよう。俺の――」


 あまりおおっぴらに出来ない通信機を取り出そうとしたところで唐突に疑問が湧き出た。ダイス女史って誰がどういう契約で雇ってるんだっけ? 前に俺に雇われてるみたいなことを言ってたが、契約を交わした覚えがない。


「いつ私の雇用に関して契約をしっかりと結んでいただけるのかと思っておりましたが、まさか本当にお忘れだったと……。いえ、何の問題もございません。旦那様並びにこのお屋敷の特異性を口外したことはございません。宣誓の術封器による潔白を主張することも吝かではありません」


 うわー。セキュリティに気を払ってるつもりでうわー。


「ええ。一応お願いします……」


 ダイス女史の重ねてきた契約関係を浄化の術封器でとっぱらったり、俺と屋敷の内情に関して他者へ口外していない旨の宣誓、術封器による雇用契約をぱぱっと済ませた。ダイス女史が大変協力的なおかげで全部まとめて一時間とかからなかった。


「ふむ。契約によって隠匿していた以前知りえた機密などを洗いざらい喋ることができるかと思ったのですが、そういったものを引き出さなくてよろしいのですか?」


「面倒ごとの種は要りません」


 ハウス夫妻もそうだが、以前の職場で職を辞す際など機密を保護する為に口外しないと契約や誓約、宣誓をしていたものはそのまま口外できないようにしてある。俺がそれらを全て浄化した後に訊ねたのは、俺に対して悪意のある契約は結んでいるかだとかの自衛のものだけだ。安全が確保されたら以前の機密保護はそのままにするよう契約している。好奇心は猫を殺すのだ。下手なことは知るもんじゃない。さっきみたいになるからな。

 契約を一度全部取っ払った際にそのことを契約相手が察知できるかと併せてハウス夫妻とダイス女史の潔白を確かめたが、本来褒められたやりかたじゃないし費用がかかりすぎる。なにせ、そこそこお高い浄化の術封器を過稼動により壊れるほどの出力で使う必要があるし、その動力源たる莫大な魔力も要る。俺は浄化の術封器の生産ラインが船にあるし魔力は賢者の石で賄っているが、神様と直接取引で同じような環境を作らないと無理なんじゃないかなと思う。


「しかし、ダイス女史に悪意があったらと考えると冷や汗どころじゃない……本当に良かった……」


「ふふ。ダイスは私のお友達ですもの。そんなことしませんので大丈夫ですよ」


「お嬢様、そういう状況を放置していたことが問題なのです」


 オルテンシア嬢が控えめに慰めてくれるが、本当に危険だったのでダイス女史の冷たく鋭い視線も甘んじて受け止める。その視線に物理的な力が与えられていて実際に冷たくて痛いのも我慢だ。


「なんにせよ、これも一つの節目かな。オルテンシア嬢。ダイス女史。改めてこれからよろしく」


「はい。よろしくお願いします、ケント様」


「二度約束を忘れたのを許すのは今回だけですので、そこを踏まえてよろしくお願いします旦那様」


 進んでるかどうかちょっと怪しい恋路もできればよろしくお願いしたいが、これは俺の努力次第ですね。

 連絡用の術封器をどうにかって話は放置したままだけど、もう今日は疲れたし今度でいいよな。あとで魔力が空っぽの同じヤツを渡しておこう。

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