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【未完】偽装結婚相手に一目惚れしました。  作者: 工具
第一章 そこではじめて会ったビジネスライクな結婚をする相手に一目惚れをした。

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20 とうとう壊れてしまったのかもしれない。

 神様の鍛錬場の入り口付近には人の町が出来上がる。その理由は主に二つ。


 第一に、国家としては生命が死ぬことのない神様の鍛錬場上層を使うことによる常備兵の訓練が当然のものとなっているから。神様の鍛錬場上層ではあらゆる生物は自己の研鑽を目指す限り訓練によって死ぬことはない。病などで事前に死期が迫っているならば延命は出来ないが、訓練中の事故で死亡することはない。神様の定めた『訓練』は『より上を目指そうとする行為全て』であり、危険な研究はいつの時代・どの国家でも神様の鍛錬場を用いるようになるのは必然だ。


 第二に、中層へ入り込んだ生物を殺すことで力を得、その生物の死体を持ち帰り資源とする行いが根付き神様もそれを許容しているから。神様の鍛錬場中層において死んだ生命は、如何なる死因であろうとその死体は『墓石』へと収納される。この『墓石』は人間の成人男性の握りこぶしと同じほどの大きさで、中に収められた者の名前または名前を持つ文化やそれほどの知性を持たない生物の場合は神様の定めた種族名が刻まれる。一定以上の知性を持つ生物にとって、個体名の刻まれた墓石は神殿などでそのまま供養するのが神様の鍛錬場で他者を殺めた者の礼儀であり慣わしであるが、個体名の刻まれていない墓石は違う。

 墓石に刻まれた文字を魔力を纏った指先でなぞることで中に収められた死体を取り出すことが出来、個体名の刻まれていない墓石の中身は生物資源として有効活用されるのだ。


 端的に言って神様の鍛錬場は便利な場所である。

 他にもランダム生成のミニダンジョンに関してや、モンスターと魔物と幻獣と聖獣の違いとか、とりあえず今喋りたいことを喋ってますって感じの御神託とは呼びたくない神様放送を延々と聞かされた。

 久々に俺が神様の鍛錬場へ行くからって神様は何したいんですかね。大体の話はもう何度か聞いたことのあるものばかりだ。お喋りしたいなら付き合うのも吝かでないのでせめて身になる内容にして欲しかった。ランダム生成ダンジョンとミニダンジョンをいつの間にか混同してたので説明いただけて助かりましたけどもさ。




 久しぶりに旗艦に乗っての移動ということもあり、周囲の景色を楽しめる速度で飛ばしていた。

 王都最寄にある神様の鍛錬場の入り口がある都市、俗に言う鍛錬都市までは地上を馬車なり竜車なりで行くなら十日、亜竜などで空を行くなら三日、俺の旗艦なら遊覧航行で一時間の距離だ。おっさんが本気で走ると多分二日くらい。。

 旗艦のみの運用とはいえ、バイオロイド達も各所で配置についているので皆とても生き生きとしている。特に、俺がいるブリッジに詰めている子達は遠足の日の子供並のはしゃぎっぷりだ。旗艦で一時間飛ぶだけなのにこんな喜ばれると申し訳なくなるわ。これからはこの子達と接する時間も増やそうかな。


 旗艦の各種人員だけではなく雪薔薇の捜索にもバイオロイドの手を借りる。神様の鍛錬場下層には俺しか行かないが、上層と中層の捜索に加え、万が一にも神様の鍛錬場には入らず地上でトラブルなりがあって行方をくらませている場合に備えることも大事だ。

 なんとなく下層でフラフラしていればすぐに見つけられそうな気がしているものの、根拠の有無はともかく胸を張って自分が正しいと言えない以上は無駄になりそうな労力も割かないと行けない。一応今回はお仕事ですし。


「はい、じゃあ皆さん各班長の指示に従って無理のない範囲でお仕事をお願いします。今回無理してがんばっちゃったら次回からは優先してお留守番組に回しますのでね。何度も繰り返しますが、俺の体感時間で一ヶ月が過ぎる前には一度地上に戻ってきますのでそれまで何かあれば第五世代組四人の協議で全体の動きを決めてください。多少の独断専行も良いですが、やりすぎると次回からはお留守番組です。では俺は先に行きます」


 ばいばーいと軽い感じでお互いに手を振り合って旗艦の大ホールを出る。

 無理した子は次回からお留守場組って言ったときに何人か愕然としてたな。あの子達大丈夫だろうか。班長の人選は第五世代組が自信を持ってたしきっと大丈夫でしょう。


 失踪人というべきか行方不明者というべきか言い方はさておいて、人探しなので結構な人員を導入するにあたり屋敷に配備した使用人組を除いた内、戦闘能力を持つ子のみで五人一組のチーム分けをしてある。班毎の受け持ち範囲は厳密なものではないが、下層にはどの班も入っちゃダメと中層は第五世代組の誰かが最低一人居ないと入っちゃダメの二点は徹底するよう言いつけてある。

 今回の仕事では緊急時の最大戦力という面が強い第五世代組の四人、アル、ブルック、クリス、デボン達にも最低一人は常に地上に残るよう頼んである。皆は過保護すぎると言っていたが、そんなもんお互い様だ。





 個人的には結構気合を入れてお仕事に臨み神様の鍛錬場下層へ入って三日後、一見草原に見えてその実草原っぽい場所で一休みに日向ぼっこしていると雪薔薇の方から接触してきた。


「貴方は『鈍ら』さんか?」


 背格好。赤味がかった銀髪。空のように青い瞳。腰にある赤い薔薇の装飾が施された細剣。何よりも氷で出来てるらしい薔薇の髪飾り。


「おう。俺は確かに『鈍ら』だ。あんたは薔薇雪家の『雪薔薇』さんでいいのかな」


 俺を呼ぶ『鈍ら』にはそういう名前だという気持ちしかなかった……と思う。より正確にはあだ名は覚えていても本名知らないし別にこれでいいかみたいな無頓着な印象を受けた。


「ん、すまない。初対面で『鈍ら』なんて呼び方は失礼だな。あー、なんて呼べばいいだろう」


「篭められた感情次第だよ。悪意がないなら『鈍ら』でもいい。ケント・オーシィだ」


 名乗るついでに右手で握手を求めてみる。握手の文化はプロイデス王国にもある。


「薔薇雪家の『雪薔薇』ジーレンディーネ・ロゼネージュだ。よろしくケント」


 雪薔薇、ジーレンディーネ嬢が握手に応じながら名乗る。ん? こいつ今自分で薔薇雪とか雪薔薇って言ったか? ロゼネージュと薔薇雪……おっさんにはロゼネージュで通じておっさんもロゼネージュと言っていたが、俺が薔薇雪家と言ったらこいつも薔薇雪と言った。俺が呼び分けたのが通じてるなら現地の言葉でも同じ意味合いの別の言葉なんだろうか。ロゼネージュは昔の戦働きで家名をもらたっておっさんが言っていた気がするし、今ではどっちかが古語とかそんなんなのかな。ちょっと気になって、いつものごとくすぐどうでもよくなった。

 家名については後で思い出したら誰かに訊いてみよう。それより、俺は選択肢があるときは全面的に勘を信じる人間じゃないが、やっぱり大したこともなく発見できたことが大事だ。


「王都で国王陛下の護衛をしているはずの貴方がなぜ神様の鍛錬場下層に?」


 一休みしていかないかという俺の提案に頷いたジーレンディーネ嬢が側に腰を下ろすと、興味本位と分かる雰囲気で訊ねてきた。


「休暇も兼ねて行方不明の人間を探しにな」


 地べたに座っている状態で丁度いい高さのテーブルと、お茶、お菓子、おしぼりを出しつつざっくり答える


「下層で人探しか? 私も協力しよう。そんな貴重な人材を我が国で失うわけには行かない」


「あん? あんた、地上じゃ自分が行方不明になってる自覚なかったのか?」


 こんな元気な状態でフラついてるもんだからてっきりわざと身をくらましたのかと思ったわ。


「私が? いや、事前の探索申請では……途中で何度か気を失ったのがまずかったか……」


 どんだけハードにやってたんだよ。確かに神兵を殺して力を得た回数が少ないうちは力を取り込むショックで気絶してもおかしかないが、一人で下層をうろつけるならもうそんな段階じゃなかろうに。


「ああ、あんた神兵の訓練場に混ぜてもらってるクチか。それで最近やっと神兵を一人で殺せるくらいになったってところか?」


 神様の鍛錬場下層には神兵の町があちこちにある。そういうところには職人とかの技術者も居て、外から来た人間と殺し合いではない勝負に応じてくれるし、技術指導をしてくれるし、稽古相手にもなってくれる。神兵を殺せば莫大な力を得られるが、純粋に技術を磨くなら彼らとの命を賭けない勝負の方が確実だ。一度殺し合いを挑めばどっちかが死ぬまで神兵は戦いをやめないし。

 余談だが、俺の一方的な都合で人のいい彼らを殺すことを躊躇っていたときに、彼らは技能と人格を保ったまま神様が生みなおすと神様に教えてもらった。蘇生という表現ではないのは、体は別物を用意するからだ。


「そうだ。つい数日前……気絶している間の日数を含まなければつい数日前に初めて殺せた。私が殺した神兵が直ぐに復活してこれで一人前だと褒められた時は複雑な気分になったよ。その後は別の人にも相手をしてもらって、なんとか勝ち抜けた」


「神兵は日数に関しては明確に訊かないと何も言ってくれないからな。そりゃあ行方不明の自覚もないわけだ。あんたが申請してた帰還予定は地上じゃ二月前だぞ」


 地上でどれほど時間が経っているか知ったジーレンディーネ嬢の驚きように驚いた。きれいに整った顔で驚愕されるとちょっと怖いわ。




 その後二人一緒にさっさと一度地上へ戻って、関係各所に挨拶と心配をかけた謝罪に行くジーレンディーネ嬢とは別れた。俺は通信機ですぐおっさんに報せた。


「終わるの早すぎたし、もうちょいこっちで遊んでいくわ。二ヶ月くらいは問題ないよな」


 おっさんがうーあー言って明確な言葉を発さなくなった。とうとう壊れてしまったのかもしれない。

 カリカリとペンの走る音が十分ほど続き、やっとおっさんが口を開いた。


「一ヶ月だ。一ヶ月で帰ってこい。それ以上は私にはどうにも出来ん」


「俺の仕事なんざ実際にはないくせに何言ってんだおっさん」


「あれだ、かわいい奥さんが家で待っているだろう。出来るだけ早く帰ってやらないとダメじゃないか」


 このおっさん本当に何言ってんだ。そんな早く俺を帰らせたいのに具体的に何も言わないってことは面倒ごとか。


「そのかわいい奥さんの邪魔しないための長期出張だろうが。おっさん、なんか面倒臭いトラブルだろ? 三ヶ月に延長な。神様の鍛錬場の下層に篭るんで連絡は諦めてな」


「おい、ケント、少し待て。ええい、お前も少し待て。話が進まん。私以外には使えないと言っておろうが」


 カリカリ聞こえてたのは書類仕事じゃなくて筆談だったのか。おっさんが発した音のみを拾うように設定してあった所為でおっさんが一人芝居してるように聞こえるわ。そのおっさんの一人芝居を聞く限り、おっさんは圧されてる。それほどおっさんに強く出られる相手はあんまり思い当たらない。候補としては王子様が最有力。グリシーネ嬢が親友のオルテンシア嬢の現状を思って塞ぎ込んで王子様が俺に八つ当たりしたいとかありえそうだ。


「取り込み中すまんかったな、おっさん。土産は持って帰らないから期待すんな。じゃ、俺の休暇が終わる三ヵ月後までにトラブルは片付けておいてくれ」


 おっさんの制止を無視して通信を切る。ついでにおっさんに預けてある通信機を崩壊させる。周囲の被害を考えてふぁさっと塵に還す感じ。おっさんのトラブル解決に協力してやる俺って優しい。何かあっても監視ユニットの方は万全なので問題はない。


 バイオロイド達にはもう撤収を指示してあるし、すべきことは何もない。

 三ヶ月の休暇をどうしようかと悩んで露天の食べ歩きをしていると、ジーレンディーネ嬢とばったり遭遇した。


「おやケントさん。奇遇だな」


「どうも、ジーレンディーネ嬢。挨拶回りは終わったのか?」


「私の名前は長いだろう。ジルかディーネでいい。挨拶はさっきのところで最後だ。皆には随分心配させてしまっていて申し訳なくなったよ」


 ジーレンディーネ嬢は苦笑して言うが、身分も身分のうえに彼女個人の重要性もある。神兵を殺せるようになった今は控えめに言って英雄級、功績さえ挙げれば立派な英雄だ。命の価値って意味じゃこの国においておっさんの次に大切にされておかしくなく、生まれが良くここまで才能を示した彼女はおっさんの側室に推されているかもしれない。おっさんももう一歩で英雄級の個体だ。優良個体同士の掛け合わせは品種改良の基本――人に対してこの考え方は自粛しよう。さすがにちょっと不味いと思う。


「呼び方は……いや、あー、この口調だし今更だな。ジルって呼ばせてもらうよ」


「ああ。わかった」


「で、だ。ジル、悩み事でもありそうな顔してるぞ。飯でも食いに行くか?」


 俺と波長が近いのか、顔を見てるとなんとなく何考えてるか分かる気がする。正しいかは知らん。


「……ケントさんは数年前から神様の鍛錬場の下層で戦えていたらしいな。じゃあ、お言葉に甘えて先達に相談させてもらおう」


「役に立つかは知らんがね。話を聞くぐらいはできるんじゃねえの」




 その後、飯を食い、酒を飲み、ジルの悩みを聞いた俺は協力を約束した。面白そうだし、三ヶ月の休暇は俺には長かったし。

 興味本位で面白半分の俺の態度でもジルは受け入れ、翌日二人で下層に乗り込んだ。

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