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【未完】偽装結婚相手に一目惚れしました。  作者: 工具
第一章 そこではじめて会ったビジネスライクな結婚をする相手に一目惚れをした。

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11 甘えてるなあ。

「お前とオルテンシア嬢を襲った者共については知りたいか?」


「別に要らん」


 オルテンシア嬢とのデートの翌日。仕事の速いおっさんは、俺が執務室に顔を出すなり事の顛末を説明したいとばかりに切り出してきた。

 特権階級絡みの面倒ごとはどうしようと面倒でしかない。俺の頭と立場じゃ利用価値はない。というか、明確な攻撃を受けたのは俺だけなんだから俺とオルテンシア嬢が襲撃されたってのは微妙に事実に即していない。


「では命令だ。要点のみ聞け。昨日の一件にハイドロフィラ子爵は無関係。背後に繋がる明確な証拠はなし。次に同じことがあれば襲撃犯の生死は不問。理解したか?」


 俺がハイドロフィラ卿を疑っていたとおっさんに見抜かれても驚くことじゃない。

 俺は基本的に四六時中ステルス機能を活用していて人目に触れることは少ない。おっさんの側にいるか、オンオフの切り替えを忘れているか、おっさんに言いつけられた用事があるか。昨日のように誰かと出かけるなんて、俺が王都に来てからは初めてだ。おっさんは即位以来忙しくて外に出る用事は今までなかったし。

 俺が今までにない行動をとらざるを得なかった原因はオルテンシア嬢で、彼女との予定をハイドロフィラ卿が知らなかったとは思えない。そんな俺の短慮など王様やってるおっさんに筒抜けで当然ともいえる。いや、頭の回転に差がありすぎておっさんが俺の頭の中を理解できない可能性はあるな。


「次以降今回と同じに生け捕りできるならそっちの方が良いんだろ。わかったわかった」


 昨日だって捕まえた後に手間取ったのは、おっさんがいない状態で人間を生け捕りにしたのが初めてだったという理由が大きい。一回やり方覚えればあとは大丈夫だろ。


「ハイドロフィラ子爵が関わっていなかったのが一番大事なんだ」


 宣誓や誓約、契約の術封器だって万能じゃない。嘘をつかずに真実を口にしない喋り方だってあり、それを熟知していないと貴族なんてやっていられない。そう俺に教えたのはおっさんだ。俺の知らない手段で疑いようもなく断言できる根拠があるのかもしれないとはいえ、話半分で聞いておこう。


「わかったわかった」


 俺の内心を察しているらしいおっさんは重い重い溜息を吐いて話を切り上げた。

 正直な話、毒殺されかけたのと襲撃を受けるのは俺としちゃ大差がない。毒を盛られた件も実行犯の死体が挙がったきりで進展はなく、有耶無耶に終わっている。今回もきっちり解決されるなんて期待は元からない。




「主様。夕食をお持ちいたしました」


 一日の仕事が終わり、俺艦隊旗艦の私室でだらけていると食事当番のブルックがドアフォンで入室の許しを求めてきた。


「ありがとう。入ってくれ」


 旗艦には――というか俺艦隊の船は最上級の施設を採用しているので調理も全自動でやってくれる設備があるというのに、俺の食事を用意する当番を持ち回りで担当する第五世代バイオロイドの四人は絶対に自分の手で全て作り上げる。そして学ぶ時間さえ確保できればあらゆる分野で最上級の能力を発揮するよう作られた四人の料理はもちろん美味しい。

 彼らが無駄なところに無駄に力を入れているのは、俺の頼む仕事量と俺の用意した人員の釣り合いが取れず余剰人員が生まれ、時間を持て余した四人が預けた部下を徹底的に鍛え上げた結果また人手が浮いてしまいがちになったという笑うしかない経緯もある。

 バイオロイドの基本設計には主人への奉仕で喜びを感じる基本性質が盛り込まれており、俺の頭じゃそこをどうしようもなかったので起きてしまった笑い話なのだが当人たちにとっては笑い話ですまないのも確かな話。

 そんなことをぼうっと考えつつ食事の用意を進めるブルックの手元を見ていたら、ふと言いつけていた用事を思い出した。


「ブルック、緑の石の成分分析とその加工に使いたいと伝えた工具の特定はできてるかな」


 昨日の今日でできているかと訊ねていても、できていないとは思っていない。だって彼らには圧倒的に仕事が足りておらず、日々の空きすぎた時間はいつ日の目を見るかも分からない各種スキルアップにつぎ込んでいるのだ。今継続的な作業をもらえているのは走竜の品種改良に携わっているグループと、屋敷の使用人として働いているグループのみ。使用人組は三十人ほどいるので、全体の半分の手が埋まっていることになる。……半分は即応のための待機要員だと苦しい言い訳を受け入れてもらっている。


「はい。どちらも完了しております。食後に報告にあがる予定でしたが、今致しましょうか?」


 しっかり予定に組み込まれていたのか。


「速い仕事をいつもありがとう。だったら食後に聞くよ。食事の準備もありがとう。じゃあ、いただこうか」


 第五世代バイオロイド四人組の料理は少し面白い。

 俺の知識では、焼いてある、煮てある、豚鳥牛羊の肉のどれか、野菜は一般的なものならなんとかわかると、そのくらいでしか料理の区別はつかないし調理法や料理名なんてで理解できないのに、アルとブルックの男組はもともとの食材のを意識した味付けが多く、クリスとデボンの女組は出汁や食材を組み合わせて深みのある味付けが多くと明らかに違いを感じる。俺がそのことを四人に聞いてからは意識してそうしている節はあるものの、やっぱり同じものを作らせても差があって面白い。

 うん。やっぱり今日の夕食も正式名なんて知らない羊料理だったが美味しかった。小さい頃に食べた羊は獣臭い印象しか残ってないが、下処理と調理で臭みが消えるのは当然だし、初めてデボンが食卓に出してくれて以来結構好きだ。


「じゃあ、報告を……仕事を任せたのはクリスだったか。クリスに直接報告してもらう方が良いのかな?」


 食事も終わって、片づけを終えたブルックにフルーツワインをちびちびやりながら訊ねる。フルーツワインは正式なコースだと食前酒だっけ。


「ご下命いただいたのはクリスですが、直ぐにお報せできるよう結果は預かっています。クリスから直接お聞きになりますか?」


 彼らバイオロイドを始めて生み出してから四年ほど経つが、人の使い方ってものが未だに身につかない。俺の下手糞な指示や運用でもあからさまにだめなところ以外は彼らの能力でこなしてしまうので危機感も抱けず、もとより仕事量が少ないので多少手間が増えるくらいでは不満もないらしい。第五世代四人組に教師役を頼んで訓練したこともあるが、俺の本質が人の上に立つようにできていないのか俺の上司としての能力はまるで成長しなかったので諦めてしまった。

 諦めてしまったのだが、こういうふとした時に上司としてはどうすれば正しいかを考えてしまう。


「んん。手早く済ませられるようにとの手間と心遣いを汲むべきか、本人に直接報告してもらうことで……自尊心? とかそういうのを満たしてもらうべきか。ブルックならどちらがいい?」


 いつも考えても自分で答えを出せないので側にいた子に聞いてしまう。


「私であれば、やはり直接ご報告できる方が嬉しく思います」


 俺が何を思って質問するかを理解している彼らは素直に答えてくれる。甘えてるなあ。


「じゃ、クリスから聞こう。二十三時までに手があいたら来てくれるよう伝えてくれ。無理だと判断したら明日の朝に来てほしいとも」


「了解しました。余程のトラブルでもない限り一時間もせず来ると思いますよ」


 時間を区切るのも間に合わなかった場合の指示も四人の講義を受けて習慣付けているが、役に立ったことは未だにない。命令という体もなさない俺の頼み事は、彼らにとって簡単すぎて物足りないレベルなのだそうだ。

 浮遊するカートに食器を載せて退室するブルックにもう一度礼を言って、ちびちびグラスを傾ける。

 何を考えるでもなく頭を空っぽにして時計を眺めていると、三十分でクリスがドアフォンで入室許可を求めた。早い。クリスのやつ、ブルックが戻るのを待ってたんじゃないの? 急ぐならバイオロイド全員に配備した神経介入式インプラントデバイス”ネインド”で直通呼び出すってわかってるだろうに。

 俺のことを理解しているのか理解していないのか、少し苦笑しつつドアフォン越しに入室を促す。


「ご苦労、クリス。早速で悪いが、頼んでいた件の報告をしてもらえるかな」


「畏まりました。まず成分分析指示を受けた石ですが、翡翠ではありませんでした。詳しい組成などは――」


「いや、申し訳ないが理解できないから遠慮する。下手な絵でざっくりどんな彫刻をしたいか伝えていただろう? あれに使えそうかを教えてくれないか」


「はい。端的に申しますと、問題ありません。それに絡めて工具も目的の用途に合致するものを見繕ってあります。ご自身で加工されますか?」


 クリスがかけた手間をまるごと無視する俺の要求にもクリスは苦笑一つで答えてくれる。俺の知識と知能で理解できないのは事実でも、怒っていいと思うよ?


「俺がやったら砕いて終わりになっちゃうだろ。あの下手な原案をもっと見られるようにして加工するところまで、全部任せていいかな。人選の権限も必要なものを使う許可も出すよ」


 贈り物って言っても自作しなくちゃいけないわけでもない。自作が絶対だとしたらハードル高すぎる。


「畏まりました。私を中心として他に四人ほど使います。留意する点やご注文はございますか?」


「オルテンシア嬢に贈るものってところに気をつけてくれればやりたいようにやってくれ。確か同じような材質で同じような大きさのがあったよな。それを練習用に使っていい。ある分で足りなかったら採りに行こう」


「畏まりました。第一の期日は十五日後、オルテンシア嬢の誕生日の前日でよろしいでしょうか?」


 俺にとってのオルテンシア嬢は今のところただの雇った人で部下とも言えるので、彼女達バイオロイドもオルテンシア嬢はオルテンシア嬢と呼ぶ。実際の関係も夫婦になったら様付けとかになるんだろう。


「十五日は無理じゃないか? やれって言ったらお前たちは無理してでもやっちゃうだろ。そんな急がなくていいよ。なんなら結婚何周年の贈り物でもいいんだし」


 わざわざ十五日後に間に合わせるか聞いてきたって事は無理しなくともやり遂げちゃいそうだなあ。


「畏まりました。ふふ。驚かせて見せますね」


 最後にウィンク一つ残してクリスは颯爽と去っていった。今のクリスっぽくない去り方は演出か。第五世代バイオロイド四人組も随分俺のことを学習してきてる。さっきみたいな芝居がかったやりかたなら普段の硬いやり取りを棚上げできるようになっている。

 そのうち友達っぽい感じで付き合えるようになりそうだ。甘えてるなあ。




 用事も一つ片付けて、ついでに何か急ぐような用件はと脳内のメモ帳を開くと『継続的襲撃への対処』と書きなぐってあった。神経介入式インプラントデバイス”ネインド”でARを活用できるのはやはり便利だ。メモしても見直すのを忘れてしまうことも多いとはいえ、こうやって思い出すのに役立つことも多い。


 襲撃を受けて、その根っこの犯人捕縛はおっさんに期待できない。どうせ貴族のややこしい力関係とか取引とかあるんだろうし。

 公的権力に守られないなら、自衛するしかない。

 自衛するならこの場合、屋敷にいる使用人組の武装を強化する方法と屋敷自体に手を入れて拠点を強化する方法がある。

 使用人組のバイオロイドだってそれなりの戦闘技術を第五世代バイオロイド四人組が仕込んである。武装も目立ちにくい物を支給してある。俺じゃ手を入れる部分に心当たりはない。

 じゃ、俺が考えるのは屋敷の強化だ。


 まず最初は塀周り。今ある塀はおしゃれな感じの装飾がある三メートルくらいの高さで、乗り越えるのもさほど難しくない。警報機みたいな術封器をぐるっと置いてるだけ。

 面倒だし進入禁止の結界でも張ろう。屋敷のどこかに大出力の術封器を置いて賢者の石でも動力源に使えば良い。その部屋自体も別の術封器で進入制限をかける。完璧。

 あとは……番犬型の警戒用人工生命体。いや、オルテンシア嬢が犬嫌いだったりしたら面倒になる。これは確認を取らないといけない。警戒用人工生命体の武装は非殺傷兵器を基本として殺傷能力が高いのもあわせて持たせよう。


 俺の頭じゃとりあえずはこれくらいだな。ハウス夫妻とおっさんにプロイデス王国のスタンダードな警備態勢を聞いたら、その後にうちの子と協議して細かいところを決めるとして、当面は監視用ユニットを配置して凌ごう。

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