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配られた五枚のカード 9

 (しらみ)潰しにスパイを捜すことはできない以上、ある程度あたりをつけて探るしかない。

 少女軍師たちが導き出した候補は三人。

 物産館レストラン『暁の女神亭』に雇用された、山田という料理人。

 琴美と仲が良い、佐藤という函館みらい大学の学生。

 沙樹が親しくしているという、佐々木という男。

「怪しいのはこんなところかしらね」

「ううーん。外縁部ばかりだね」

 妹の言葉に実剛が首をかしげた。

 副町長秘書の沙樹はともかくとして、五十鈴や琴美の地位は澪中枢部にはない。

 女勇者の身分は孤児院の院長であり、第一隊の戦闘員。

 琴美にいたっては、たんなる学生である。巫の血族ゆえ、一朝事(いっちょうこと)あったときには最前線で戦う戦士ではあるが、公的な職責はもっていない。

 そのあたりに接近しても、あまり意味がないのではないか。

「孤児院がシンクタンクになっているのは、外には知られていないことだしね」

「兄さんにしてはよく考えた方だけど、謀略のイロハが判ってない発言ね」

「なんだとぉ?」

「まあまあ。実剛さま」

 まるで平和主義者のように次期魔王をなだめながら、楓が補足する。

 いきなり中枢部に入り込めるわけがない。

 第一段階として、まずは外縁部の、そして女性に接近するというのは、わりと正統的な方法だ。

 そうでなくとも澪の男どもは女性に弱いのだ。

 沙樹でも琴美でも五十鈴でも良いが、そのあたりから「お願い」があったとき、魔王は突っぱねることができるか、という話である。

「むう……」

「不可能とは申しません。ですが、至難であるとわたくしは推測いたしますわ」

 なにしろうちの魔王さまは、入学祝いに軽自動車をプレゼントしてあげちゃうくらい、従姪(じゅうてつ)を溺愛している。

 もっと溺愛している沙樹の願いだったら大変なことになってしまうだろう。

 嘘か誠か、沙樹が御前陣営に拉致されたとき、「東京を地図から消してやる」と発言し、盟友の萩鉄心(はぎ てっしん)が青ざめたという噂もある。

「なるほどね……」

 ふむと頷く実剛。

 一波揺らめいて万波揺らぐ。

 謀略の基本であるが、澪の幹部たちには苦手分野だ。

 堂々たる戦いなら一騎当千。圧倒的な武力で敵を打ち払うこともできるが、知略戦となるとかなり心許ない。

 美鶴や楓は優秀だが経験が足りないし、魔王の懐刀たる高木だって政治能力は高くても謀略とは無縁の人生を送ってきた。

「そっち方面に強そうなのは、こころさんとそよかぜ姐さんくらいかなぁ」

「ダウトよ。兄さん」

 苦虫を噛み潰したような顔をする美鶴だった。

 こころは信二と肩を並べるほどの人材だが、あくまで客分なのであまり頼りすぎるのはまずい。

 町立病院の改革に辣腕(らつわん)をふるってもらっていること自体、望外なのだ。

「それに、八意思兼神やこころおもいかねのかみというのは、頭は良くても人間関係の機微に疎いため何度も裏切られているんですよ。伝説では」

 くすくすと楓が笑う。

 仮にハニートラップを見抜いたところで、こころが動いたら事態は混乱するばかりだ。

「姐さんに頼るのもNG。あの人は非戦闘員よ。事が荒立ったら最初に殺されちゃうわ」

 庁舎のオカマバーに君臨する、そよかぜ姐さんの能力はマインドリーディング。スパイを特定するのにこれほど向いたチカラはないだろうが、なんといっても彼女(?)に戦闘力はない。

 チカラが知られれば、まず間違いなく命を狙われるだろう。

「それはまずいね。そよかぜ姐さんを失うわけにはいかない」

「何言ってるの兄さん。澪には失っても良い仲間なんて、ただの一人もいないわよ」

 真剣な顔を美鶴がする。

 直近の戦いでは、彼女が率いた部隊に戦死者が出た。

 もうあんな思いをするのはたくさんだ。

「そうだったね」

 右手を伸ばし、妹の髪を撫でる兄。

「まずは、暁の女神亭からあたりますか。一番可能性が低そうですし」

 兄妹の様子を微笑ましく見守っていた楓が提案した。

 可能性の低い方から包囲の輪を狭めていけば、危機を悟った諜報員は任務を中断して撤退するかもしれない。

 過大な期待は禁物だが、敵の思惑を探るのが不可能な以上、是非ともお引き取り願いたいところだ。

「面倒くさい。スパイだと思われるやつはみんな殺せば解決だ」

「うん。言うと思ったよ。佐緒里さん。ここ日本だからね。世紀末ワールドじゃないから」

 いつもどおり、まったくぶれない鬼姫の発言に実剛が笑う。

 疑わしいからと殺していたら、澪は死体だらけになってしまうだろう。

「生かしておいても、たいして良いことはない」

 萩の短慮な姫君の意見も一理あるのだが。

「殺したら話がもっとややこしくなるからNGよ。だいたい、殺してから関係のない人でしたって判ったら、目も当てられないわ」

「明日から行動開始しますか。放課後、暁の女神亭にいってみるということで」

 総括するように美鶴が言い、楓がぱんと手を拍った。

 現状、できることは多くはない。

 まずは証拠を集めなくてはならないのである。

「刑事ドラマみてーだなー」

「刑事ものじゃなくて、スパイものだと思うよ。羽原くん」

「それだと俺らが悪役ってことになっちゃうじゃん。実剛兄ちゃん」

「しかたないね。人類の敵だもの」




 子供チームの方針が練られていたころ、別の場所では別の思惑が進行していた。

 澪孤児院(シンクタンク)である。

「僕は朝から函館にいく。院長先生には上手くごまかしておいてくれ。ほたる」

「……本気なの? お兄ちゃん」

 高校をさぼって澪を離れる。

 品行方正な将太くんとは思えないほどの無軌道ぶりだ。

「会って確かめないといけない。そいつが、アンジーさんを託すに足る男なのかを」

 ぐぐっと拳を握る。

 ほたるちゃんがため息を吐いた。

 恋する男の子の情熱はたいしたものだが、計画性がなさすぎる。

 これでシンクタンクのリーダーなのだから、片腹痛いというべきだろう。

「ちゃんとアクセスは調べたの? 明日、その人は学内にいるの? 部外者は大学に入れるの?」

 たたみかけるような質問。

「……そんなものは、行ってから考える」

「で、空振りしたあげく、学校をさぼったことがばれて、院長先生には怒られ、

琴美お姉ちゃんには不真面目だと嫌われる、と。うん、ここまでは見えたわ」

「おまえなぁ……」

「しっかりしてよ。将太お兄ちゃんはそれでもリーダー? 再度の挑戦なんかないんだよ?」

 腰に両手をあてるちびっこ参謀。

 孤児院の院長である五十鈴はけっして甘くなく、二度も三度もは出し抜けないだろう。

 チャンスは一回のみ。

 それで決めなくてはならない。

 朝、普通に孤児院を出て、高校に向かった振りをしつつ、JRかバスで函館に入り、みらい大学を訊ねる。

 高校と違って大学はかなりオープンだから、守衛に止められる可能性は高くないだろう。

 ただ同時に学生数も半端ではない。

 その中から、たった一人を捜すのだ。

 行き当たりばったりで上手くいくはずがない。

 登校していないことはすぐに判るし、おそらく午前中のうちに五十鈴に連絡が入るだろう。

 行き先について、ほたるちゃんたちが問いつめられるのだって時間の問題である。

 そうなれば、もうごまかしきれない。

「澪の政戦両略を担う私たちが、そんな杜撰(ずさん)な計画を立ててどうするのよ」

 苦笑とともに差し出される紙片。

「これは……?」

「計画書に決まってるでしょ。乗るのはスーパー北斗二号。指定席は足が着くから自由席ね。あと、(くだん)の佐藤(なにがし)氏は、明日は出席しているはず。二講目からね。これ顔写真。函館まで行っちゃうと距離的にも時間的にもロスになるから、五稜郭で降りてタクシー使って。で、これがお金」

 ぽいぽいといろんなものが渡される。

「ほたる……なんで……?」

「シンクタンクをなめないでね。いまの将太お兄ちゃんの思考なんて、ぴろしき以下なんだからバレバレだよ」

 ちなみにぴろしきというのは、巫家の飼い猫である。

「すまん。ほたる……」

「貸しイチだよ。その代わり、私が仁君と駆け落ちするときは、ちゃんと協力してね」

「駆け落ちて……んな予定あんのかよ……」

「すべての可能性を否定しない。信二お兄ちゃんの教えでしょ」

 蠱惑(こわく)的な微笑を浮かべる小学生だった。



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