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激闘の町役場 5


 光が戦うのは白鶴童子。

 ノエルとは竜吉公主が、カトルとは竜鬚虎が、広沢とは武吉が、それぞれ一対一で戦っている。

 安寺母娘は、二郎真君と雷震子とのタッグ戦。

 ここまでは数的に互角だが、数の差がある戦いも存在する。

 西遊記チームの五人は韋護と、光則と佐緒里は哪吒と、それぞれ激烈な戦闘に入った。

「面白いことを考える。八意思兼ではないな? これ」

 ひとり立つ太公望。

 戦況の眺めながら下顎に右手をあてる。

 澪に援軍が現れた。

 函館の屋敷を襲った連中である。

 面白くない事態ではあったが、想定の範囲内だ。

 奪還された魔王の伴侶は縮地を使うことができる。戦力を伴って速やかに帰還するという可能性は、ちゃんと考慮に入っている。

 戦闘開始から二十五分という時間は、むしろ遅かった方だろう。

 予測の最悪を極められれば、開戦直後に援軍が合流してしまう、というものもあったのだ。

「けど、そこまで思い切った策はとれなかったみたいだね」

 時間を空費したあげくの転移。

 どちらかといえば、これは悪手である。

 事実として、戦況に劇的な変化はもたらされていない。

 本陣近くに槍使いと砂使いが現れたときには、さすがに多少はぎくりとしたが、すぐに哪吒が対応した。

 結果、太公望は揺るぎなく佇立し、苛烈な局地戦がいくつも展開されることとなった。

「本陣の奇襲に失敗したから、各個に撃破するという選択を取った」

 唇が歪む。

 表面の事象をみれば、たしかにそのような格好だ。

 同時展開している特殊能力者の数では澪の側が有利。

 最重要拠点であろう正面玄関前も、きっちりと守りを固めつつ、徐々に押し出す構えを見せている。

 このまま消耗戦に移行すれば、特殊能力者の数の差で太公望が苦しくなる。

「だから、一度退いて軍を再編してはいかがか、と」

 有利な条件を突きつけてまで、一時後退を促す。

 じつに面白い。

 逆にいえば、澪としてはこのまま攻め続けられるのが嫌だ、ということになる。

 だが、ここまできて消耗戦を忌避する理由は、澪にあるだろうか。

「ない」

 単に兵站部門だけを考えたところで、守る側が有利なのは自明だ。

 まして太公望たちには補給線というものがそもそも存在せず、この一戦に賭けるしかない。短期決戦で勝負が付かなければ、餓えて撤退するしか道がないのである。

 無秩序な消耗戦に引きずり込み、だらだらと時間を使わせたいのは、むしろ澪の方だろう。

 にもかかわらず、敵に秩序ある作戦を求めるかのような動き。

 正々堂々たる戦いこそを潔しとする騎士道精神の精華か。

「それもない」

 澪の戦いは必ずしも正攻法にこだわらない。

 少数の精兵による一点突破や、別働隊による挟撃、伏兵を用いての攪乱戦法だって使っている。

「いかにも正面決戦をしたくなるような布陣。それこそが正解であるように思わせる流れ。なかなかやる」

 薄い笑いが刻まれる。

 ようするに澪としてはどちらでも良いのだ。

 このまま消耗戦を続けても、いったん間合いをとって、改めて決戦しても。

 ただ、どちらかといえば後者の方が望ましいため、構えを取ってみせた、ということである。

「ならば、私たちは、より澪が嫌がる方を選択しよう」

 右手の鞭が踊る。

 交響楽団を操る指揮棒(タクト)のように。




「うざ! こいつはうざい敵ですよ」

 戦況を眺める魚顔軍師が吐き捨てた。

 せっかく作ってやった隙に、敵は乗ってこない。

 馬鹿みたいに乱戦を続けている。

 だが、もちろん太公望は馬鹿でも低脳でもないから、こちらの狙いは読まれていると考えた方が良いだろう。

 その上で、嫌がらせをしようというのだ。

『信二』

 こころから通信が入る。

「わかっています。こちらは特殊能力者を封じられました」

『敵も然る者ってね』

 互いが見えるわけもないのに、苦笑を交わし合っている。

 じつのところ、魚顔軍師の仕掛けたトリックは難しくもないし複雑でもない。

 単なる数の計算である。

 量産型能力者と兵馬俑では絶対数が違ううえに、単体としての戦闘力で後者に軍配があがる。

 まずはこれを何とかしよう、というのが信二の作戦だ。

 理屈としては簡単。

 兵馬俑どもには特殊能力者をぶつければ良い。

 そのためには、敵の転生者たちをいったん後退させる必要があるので、戦力再編の時間を、わざわざ作ってやったのである。

 異能者の数が拮抗(きっこう)したぞ。どうするどうする? と、これ見よがしに。

 しかし太公望は動じなかった。

 特殊能力者には転生者をぶつけるという当初方針を変えることなく、兵馬俑どもを攻撃の主体においている。

 結果として、澪は劣勢をまったく覆せない。

 兵馬俑の残数は百三十を超えるのに対して、第一隊はそろそろ五十を割り込みそうな勢いだ。

 もともと百八十対六十からスタートしているのだから、損耗比率では比較にならない。

 澪の戦士を一人倒すのに、敵は五体の損害を出している。

『けど、その計算じゃ敵を全滅させるまでに、あと二十六人死なないといけないよ』

 こころの声も苦い。

 粘土細工に魂を与えただけの兵馬俑など、何体失おうと太公望は痛くも痒くもないだろう。

 だが、澪の戦士たちは生きている人間だ。

 失ってしまえば取り返しがつかない。

 このまま事態が推移し、すでに戦死した十名以上と合わせて四十名もの犠牲を出してしまったら、とてもではないが再建の目処などたたないのである。

『こんなことなら、召喚装置を作っておけば良かったよ』

 じつのことろ、こころもアンデッドモンスターを操ることができる。

 黄泉醜女(よもつしこめ)という冥界の鬼女だ。

 これならいくら倒されても問題ないし、戦闘力も量産型能力者を凌ぐ。

 しかし、召喚装置は昨年の戦いで破壊されてしまった。

 壊した張本人は、現在、最前線で戦っている。

 ゆえにこころの呟きは、愚痴の域をでていない。

「ちなみに、いまから召喚装置を作ることはできますか? こころ嬢」

『多少の時間があればね。でも、この戦いに間に合うかどうかは微妙だよ」

「どのくらいの時間ですか?」

『半年くらいかな』

「それは、少しばかり間に合いそうにないですねえ」

 本格的なものとなると、やはり時間と金がかかってしまう。アメリカ軍との戦いに使った十五分間くらいしか召喚できない不完全品なら半日ほどで作ることができるが、それでもちょっと時間が足りない。

『よし。愚痴終了。私の方でもなんか考える』

「俺も次の手を編みます。御大将の到着まで、あと十七分といったところです。なんとか凌ぎきりましょう」

『実剛がきたって、どうにもならない気がするんだけどね』

 苦笑する智恵者。

 なにしろ次期魔王はただの人間である。

 ぶっちゃけ、できることといえば、味方の足を引っ張ることくらいだ。

「御劔氏と絵梨佳嬢、それに紀舟陸曹長が一緒ですから」

『せめて主君を弁護してから戦力を羅列したらどうだい?』

 ひどい軍師もいたもんである。

 敬愛すべき主君を戦力外扱いされて、一言の否定もしないとは。

「いいんですよ。俺が御大将に求めているのは、戦場の勇者であることじゃないんですから」

 穏やかな、だが確固たる信頼を込めた魚顔軍師の言葉。

 次期魔王がそこにいる。

 ただそれだけで、志気が上がる。

 ただそれだけで、絶対に勝たなくてはと思ってしまう。

 ただそれだけで、力が何倍にもなるような気がする。

 将器(しょうき)という。

 実剛には絵梨佳や光のような戦闘力はない。信二や美鶴のような神算鬼謀(しんさんきぼう)もない。琴美や光則のような特殊なチカラも持っていない。

「ですが、それが俺たちの御大将なのですよ」

『はいはい、ごちそうさま。ラブラブぶりも、せいぜい楓に妬かれない程度にしておきなよ』

 突き放しておいて、こころが戦場に視線を戻す。

 短期的な戦術を練るために。

「まじか……」

 わりと信じられない光景が目に入った。

 沙樹と琴美。

 たぶん澪の最強タッグが、苦戦を強いられている。



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