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軍師の帰還 澪の危機 2


「私たちも戦う」

 口火を切ったのは玄奘三蔵こと、志津野ゆかりである。

 捕虜となった西遊記チームは、朝になっても澪を離れようとせず、会議への出席を要求した。

 昨夜のうちに、仲間たちでよくよく話し合ったのだろう。

 推察した実剛は、とくに異論を唱えることなく、伯父たる魔王にその旨を打診したのである。

「却下だぜ」

 笑いながら暁貴が応える。

「なんで!」

「俺らが信用できないってのかよ!」

 激しかかる孫悟空と猪八戒を抑えるように、沙悟浄が右手を挙げた。

「魔王陛下。理由を伺いたい」

「信用できないからって理由じゃねえぜ? べつにお前さん方に限った話じゃねえけどよ。なるべく戦って欲しくねえんだよ。未成年にはな」

 西遊記チームは、退学しているとはいえ、年齢的には高校三年生である。

 澪でいうと、第二隊の構成員たちと同年配だ。

 戦場で命のやりとりをするには、若すぎる。

 もちろん例外があって、勇者隊とか、忍者隊の仁とか、成人に達していない年齢の者も実戦に参加している。

 実剛たち子供チームだってそうだ。

 ただ、子供チームには、町の幹部としての責任がある。

 芝の養子となった仁もまた同じ。

 幹部たちが危険を回避して安全な場所に隠れているわけにはいかない。

 まして戦士ならば、なおのことである。

「お前さん方が澪に帰属するってんなら、それは受け入れるぜ。大歓迎さ。けどよ、家賃を払うようなつもりで戦っちゃいけねえよ」

 煙草を取り出し、先端に火を灯す暁貴。

 この会議は禁煙ではない。

 愛煙家たちが、けっこうすぱすぱやっている。

「王よ……」

「高校生だったんだろ? うちの高校に編入すりゃあいい、偏差値的にはかなりアレだけどよ。かわりといっちゃあなんだが能力者でも通えるぜ」

 不器用に片目をつむってみせた。

 うざい中年である。

「しかし……」

 なおも食い下がる沙悟浄。

 彼らだって、タダ飯喰らいになるわけにはいかない。

「つっても、もし戦争が始まりゃあ、特等席で観戦させてやるってこともできねえんだ。うちも台所事情がきびしくてな」

「なればこそ、我らも戦おうと」

「第二隊と協力して、住民の避難誘導に当たってくれや」

「避難誘導……」

 失望を滲ませる西遊記チーム。

 新参の彼らは、やはり華々しい槍働きはさせてもらえないのだろうか。

「たぶん一番重要な戦いだぜ」

「避難誘導が?」

「ああ。住民に被害が一人でも出たら、俺たちの負けだ」

 真剣な魔王の表情。

 自衛隊と戦い、ヴァチカンと戦い、御前と戦い、米ロの連合軍を退けてきた。

 想像を絶する激戦の連続。

 だが、ただのひとりとして住民に被害は出していない。

 それこそが澪の戦士たちの誇りである。

「だからよ」

 一度、言葉を切り、ごほんと咳払いする。

「西遊記チームに命じる。第二隊、ポーク隊とともに住民の安全ため最大の努力をせよ。ただの一人の損害も出すこと、厳に禁じる」

 暁貴とは思えないほど、凛とした声での命令だ。

勅命(ちょくめい)(たまわ)りました」

 第二隊を指揮する佐藤奈月(さとう なつき)教諭が、

一命(いちめい)()して!」

 ポーク隊の指揮官たるサミュエル・スミス元海軍中佐が席を立ち、右拳を左胸にあてる。

 澪式の敬礼だ。

 発端は、ポーク隊が子供たちのつけてくれたアップリケに対して決意を表明するために始めたのだが、いつの間にかすべての戦士たちが使うようになった。

 格好いい、というのが最大の理由であろう。

 基本的に敬礼の意味とかは考えない人々なので。

 やや遅れて、西遊記チームの五人も席を立ち、同様のポーズを取る。

『友と明日のために!』

 声を揃えて。

 昨夜、実剛に教えてもらった澪の歓呼の叫び(シュプレヒコール)

 若い顔にたゆたう決意。

 行き場のない彼らを受け入れ、保護し、生きる意味を与えてくれた。

 報いよう。

 世にも愉快な魔王と、その仲間たちに。

 彼らの暮らす澪のために。

 町の幹部たちが、あるものは頷き、またあるものは生あたたかい目で見守る。

 これあるかな我が魔王、と。

 新参者だろうが寝返った者だろうが、遠慮なく重要な仕事を任せるのだ。

 疑うのではなく信じる。

 拒絶するのではなく受け入れる。

 それが澪の魔王だ。




 次々と決定してゆく緊急時の対応。

 嬉しくも何ともない話だが、伊達や酔狂で何度も何度も侵攻されているわけではない。

 こうきたらああする、ああきたらこうする、という決め事が、ある程度まとまっているのである。

 基本的には、第一から第三までの偽装要塞で、まずは初撃を受け止める。

 これは動かしようがない。

 敵は縮地を用いて一足飛びに澪中枢部に現れたが、大軍でテレポートなどできるわけがないため、道路を使って進軍してくる。

 いずれかの要塞を攻略占拠して、橋頭堡にしようとするだろう。

 問題は、どの要塞を狙ってくるか、という点である。

「どの要塞も、攻撃を凌ぎきった実績があるからねぇ」

 皮肉っぽい声で指摘するのはこころ。

 鉄心の秘書であると同時に、魚顔軍師と並び称される天界一の智恵者である。

 彼女はバンパイアロードとともに軍を率いて第三偽装要塞を攻撃したが、見事に敗北した。

 その戦訓を取り入れ、アメリカ軍が第二偽装要塞を、ロシア軍が第一偽装要塞を攻撃して、やはり敗北している。

 どこを攻めても、澪の守りは鉄壁。

「そう簡単に崩せるもんじゃないって、太公望は知ってるはずだよねぇ」

「ならばどうする? 一挙に中枢を突くか?」

「それは一番ないと思う。鉄心さん」

 鬼の頭領の疑問に応えたのは、第二軍師たる美鶴である。

 縮地を用いた奇襲はたしかに強力であり、油断ならざる攻撃だ。

 しかし、少数で中枢を攻めたところで各個撃破の対象になるだけ。

 事実、二郎真君も哪吒も為すところなく敗走している。

 同じ手でくるというなら、むしろありがたいくらいだ。

「なら、基本戦略は動かしようがねえな。出撃拠点に予備兵力をのこして、各要塞に配置だ。実剛。バランスは任せるぞ」

「はい。伯父さん」

 視線を向けられ、次期魔王が頷く。

 実戦指揮は彼の領分だ。

 もちろん兵力配置等も含まれている。

 これまでの戦いは魚顔軍師とのツーマンセルで臨んできたが、此度は美鶴や楓と協議しながら進めてゆくことになるだろう。

 ある意味で、実剛がリーダーとして独り立ちできるかの試金石でもある。

 絶対の信頼を置いてきた信二がいない。

 主席軍師の立てる作戦に頷くだけという簡単な仕事ではなくなった。もちろん美鶴や楓も折り紙付きに優秀ではあるが、どうしても彼に比べたら見劣りしてしまう。

 かといって、こころをあてにするのは筋が違う。

 天界一の智恵者はあくまでも客将だし、暁貴や鉄心のサポートをするという仕事だってあるのだ。

 頼り切るわけにはいかない。

「まずは侵攻時期の予測から。最も危険だと思われる数字を示して」

 少女軍師に依頼する実剛。

 嫌な敵というものは、こちらにとって一番嫌な時期を選んで攻めてくる。

 今までの経験から、次期魔王はそのことを学んでいた。

「それなら……」

 美鶴が口を開きかける。

 遮るように、会議室の窓が割れ砕けた。

 大音響とともに。

 飛び込んでくる影!

 騒然となる議場!

 だがそれは、攻撃ではなかった。

 血みどろの人間である。

 肘から先の右腕と膝から下の右足を失い、左目は閉じたまま。

(はがね)くん!?」

 悲鳴に近い声をあげ、シスターノエルが駈けよる。

 沙樹と絵梨佳も。

 ふたりの両手に灯る回復の光。

 指が何本か欠けた左手を挙げ、鋼が制した。

「火急なれば、非礼をお許しありたし」

 ぼろぼろの身体で告げるニンジャマスター。

 暁貴が頷く。

 最悪の予感に青ざめながら。

 幹部たちの集う会議に忍者隊のリーダーは出席していなかった。とある重要な任務があったからである。

 魔王城の守備、という。

「二郎真君ならびに太公望が巫邸を急襲。護衛三名が討ち死。奥方さまならびに愛猫ぴろしき号、拐かされまして候」

 床に額を打ち付け、ニンジャマスターが不覚を詫びる。

 第一隊の中でも最大級の戦闘力をもつ男が敗れ、魔王にとって最も大切な人が誘拐された。

 言葉を失い、暁貴と実剛が立ちつくす。

「最悪の時期についてだったわね……兄さん。それなら、いま(・・)よ……」

 第二軍師のかすれた声が、静まりかえる会議室に響いた。



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