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封澪演義!? 10


 まずは食事である。

 なにかと欠点の多い巫家だが、三度の食事はしっかりと摂る。これは数少ない美点だろう。

 絵梨佳と佐緒里、それにキクが台所へと移動して調理を始める。

 やや遅めの夕食となるため、そんなに凝ったものは作らない。

「お米が足りないかも。すぐ炊いちゃおう」

「了解だ。あたしは炒め物と揚げ物を作る。奥方は野菜を刻んでくれ」

「らじゃっ」

「じゃあわたしはお米研いだらおみそ汁作っちゃうね。佐緒里さん」

「わかった。肉のストックがあって良かった」

 和気藹々とした調理。

 芝の姫も萩の姫も料理上手である。キクはそこまで家事が得意ではないが、一人暮らしの経験があるので人並み程度にはこなすことができる。

 これに修行中の美鶴を加え、普段は四名で台所を回している。

 魔王と次期魔王は、普通に食べる専門だ。

 死んで良いよってレベルで羨ましい身分である。

「塩ダレ、まだあったよな?」

「沖縄の塩でつくったやつ? 冷蔵庫に入ってるよー」

「塩にく炒めにしよう。あとはいつものザンギで問題あるまい」

「おけ。そんならおみそ汁はあっさり目にするー シンプルにネギとわかめでいいねー」

 ごはんとみそ汁。

 沖縄の塩でつくった塩ダレを澪豚切り落としにからめ、たっぷりのたまねぎと一緒に炒めた炒め物。

 多くのものが虜になった澪豚ザンギ。

 それにたっぷりの野菜サラダ。

 夕食の献立である。

 暁貴たちが食したようなフレンチのフルコースというわけにはいかないが、なかなかに豪勢なラインナップとなった。

 大皿に盛りつけられてゆく。

 捕虜も仲間も、同じ皿の料理をつつく。

 それが澪流だ。

 居間に大きな座卓が置かれ、食器類や飲み物が配られる。

 ちなみにこういう単純労働は実剛と光の仕事である。

「さーみんな。座って座って。いただいちゃおう」

 次期魔王が促し、混乱の表情のまま西遊記チームも席についた。

 わけがわからない。

 わりと本気で。

 どうして自分たちは、さっきまで戦っていた相手と食卓を囲んでいるのだろう。

「みんな未成年ってことで、お酒はキク姉さんの分だけね」

「ふっふっふっ。これがあればまた縮地がつかえるようになるぜっ」

「ハイボールでMPが回復ってのは、新機軸だと思いますよ。姉さん」

 呆れつつ、義理の伯母にハイボールを作る実剛。

 なかなかの手際だ。

 魔王さまはバーテンダーって感じである。

「……おいしい。これ」

 思わず呟くのは孫悟空だ。

 毒味というわけでもないだろうが、捕虜たちの中で彼が最初に箸を付けた。

 澪豚ザンギ。

 これを食べずに、澪は語れないというほど、定番の一品である。

 最初は緊張感をもって、三蔵法師が、猪八戒が、沙悟浄が、玉竜が箸を動かし始める。

 徐々に加速してゆく動き。

 負けじと食べる光と美鶴。

 琴美と光則は自宅に帰ったため、二人の食欲魔神で戦線を支えなくてはならないのだ。

「ていうか、お坊さんって肉食べて良いんだっけ?」

 ものすごくいまさらなことを実剛が言った。

「私は僧侶じゃない」

 玄奘三蔵の転生といっても、基本的にはただの元女子高生である。

 肉だって魚だって食べる。

「あ。すまん。猪八戒」

 思い出したかのように佐緒里が謝る。

「なんだ?」

「共食いをさせてしまった」

「……いまお嬢が僧侶じゃねぇっていったよな? 鬼っころ」

 がるるると唸る。

 彼だってブタではない。

 そもそも、西遊記の猪八戒だってブタではない。

 豚の腹から生まれたというだけで、ふつうに神様なのだ。

「だが大丈夫だ。鬼は共食いを忌避しない」

「ブタじゃねえっていってるだろうがっ! なにが大丈夫なのか全然わかんねえよっ!」

 噛みつかんばかりの男。

 小首をかしげる萩の姫。

「不思議そうな顔をされても困るんだけどな……」

 なぜか親和力が高まってゆく。

 謎である。




「とはいえ、方針としてはひとつしか立てようがないんだよ」

 こころが言った。

 今後の戦略方針である。

 太公望に代表される、中華神話の神々が澪を狙っている。

 これはもう疑いのようのない事実だ。

 対抗するための手段を講じなくてはならない。

 座して封印されるのを待つという選択はないのだから。

 かといって澪から攻めるという選択も、また存在しない。

 領域を拡大しないというのが大前提である。戦を仕掛けないというのもそれに準じる。

 もし防衛を名目として澪が仕掛ければ、高天原やヴァチカンとの修好条件に反することにもなりかねないのだ。

「専守防衛だな」

 暁貴が頷く。

 どこにも攻めかかることはしない。そのかわり、攻め込んできたら容赦しない。

 それが澪の大方針である。

 ゆえに、たとえ太公望たちの本拠地が知れたとしても、それが澪の領域の外ならば、こちらから攻め込むことはできない。

 武力をもってしては。

「それ以外の方法で攻めるか否かって部分を、決めておかなきゃいけないと思うんだよ。暁貴さん」

「つまり?」

「今現在、澪は対抗情報戦をおこなっているよね。もう一歩進めるかってこと」

 こころの言葉は辛辣である。

 武力を用いない戦いを提案しているのだ。

 太公望たちを追いつめるため。

 転生者は人間である。

 妙な表現になるが、地上に血肉を得た以上、人間として生活しなくてはならない。食事も必要だし、まさか宿無しということもないだろう。

 広沢とかだって同じだ。

 ちゃんと日本国籍を持っているし、学校にも通ったし仕事もしている。

 職業はカミサマです、といって食べていけるほど、世の中は甘くできていない。

「澪の戦士には、澪っていうバックボーンがあるよね。太公望たちはどうなんだろうね」

「ない、と考える要素はどこにもねえだろうなあ」

 個人として行動には限界があるし、大がかりなことだってできない。

 俺は地上最強の男だと言い張ったところで、移動するにも情報を集めるにも戦うにも金がかかるという事実はひっくり返らない。

 となれば、その金を提供する組織なり団体なりがなくては、あっというまに立ちゆかなくなる。

 勤めていた会社が倒産してしまったため、職を求めて澪にきた北海竜王だっているのだ。

「さっきから、やたらと自分を引き合いに出すの、やめて欲しいんですが。軍師さん」

 嫌な顔をする広沢。

「広沢くんの例が判りやすいんだから、仕方ないじゃないか」

 ともあれ、太公望たちの後ろ盾となっている組織を割り出し、そこに情報戦を仕掛けるのはどうか、というのがこころの献策である。

「ふーむ」

 腕を組む暁貴。

 澪以上の力を持った組織、などというものはいくらでもある。というより、澪など北海道という地方自治体の中の、渡島(おしま)という一地方の、たったひとつの町にすぎない。

 対外的な影響力など、本来はゼロである。

 寒河江からの資金提供と、日本国との秘密協定、あとは能力者たちの存在によって特殊な地位を築いているだけだ。

「澪から圧力がかかって、それで屈服するような組織があるかねぇ。つーかたとえばアメリカさんから圧力とかかかったって、それがどうしたって気がするけどな。俺にゃあ」

 良く判らないな、という顔をする魔王。

 アメリカが広沢を渡せといってきたとする。

 暁貴は普通に拒絶するだろう。

 渡さなければ核ミサイルをぶち込むぞと脅されたって、どこ吹く風で「やってみれ。けどこっちが一人でも生き残ったら、てめーら皆殺しだからな」くらいは言い返す。

 そういう男である。

「だから、なんで自分が引き合いに出されるんですか」

「やー こころちゃんもやってたし、俺もやらないと不公平かな、と」

「意味が判りませんよっ!?」

 困ったもんだの竜王くん。

 その肩をこころが叩く。

 優しげな微笑。

 彼女は暁貴の真意を察している。たとえ外様でも、ひとたび仲間になった者を見捨てるわけがない、と。

 澪の魔王はそういう人物である。

 だからこそ、多くの異能奇才が彼の元に集うのだ。

 むろん、それを口に出すような素直さを、天界一の智恵者は持ち合わせていない。

「なんでいま自分、肩を叩かれたの?」

「判るだろう? 社会人なんだからさ」

「肩たたきっ!? 肩たたきなのっ!? これっ!?」

 謎の嘆きを放ち、あたまを抱える広沢。

 かまうことなくこころが続ける。

「効果のあるなしはともかく、仕掛けても良いんじゃないかな? この策なら人死にがでないし」

「んだな。こころちゃんに任せるぜ」

「了解。影豚をかりるね」

 粛々(しゅくしゅく)と決定してゆく善後策。

「自分はどうすればぁぁぁ!」

 北海竜王の悲痛な叫びだけが副町長室に木霊していた。

 沙樹と鉄心が視線を交わす。

 そろそろ止めろ、お前がな。という表情で。


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