プロポーズかよ。
「あなたのご飯が、食べたい、です。」
・・・ん?
「今、何て?」
「あなたのご飯が、食べたいです。」
急に敬語を使うとかどうしたんだとか、何を思ってそうなったのかとか色々教えて欲しいけど、その前に言いたい。そんなに美味しかったの?でも前のご飯って既製品のソース付けただけなんだ。日本様々だね!
なんとも言えない気持ちに、から笑いをしつつ訪ねる。
「・・・理由を聞いてもいいですか?」
「・・・うまかった。」
「そ、れはどうも・・・。」
「・・・・・頼む。」
質問の答えになっていないことはこの際置いておく。
さっきまで警戒していたのに急にそれはないだろう。が、気まずそうなその顔は嘘をついているようには見えなかった。食べたいのは本心だけど信用はしていないってとこかな。
ま、夜の森に一人暮らしをする女というのは私から見ても不審者に該当するのでこの際置いておく。
本音を言うと少々面倒臭くはあるけれど、極力怒らせたくはないし、イケメンにあなたの作るご飯は美味しいって言われて悪い気はしないから、1日1人分多く作るくらいなら訳はないかなという結論に辿り着く。
これじゃあ、早く帰ってもらおうとか言っておいて何手のひら返してんだ、とか言われても仕方がないとは思うけど。うん?決してイケメンの熱い目にやられた訳じゃないよ?
「まあいいですけど。でも、今日、ですか?」
残念ながら今日はスーパーに寄ってないので、材料が殆どない。作るんならもっと喜んでくれる方が嬉しいし、日を改めて欲しい。そう言おうとして口を開けると、その前に何かを考えていた筈の男が一瞬だけ早く言葉を発する。
「・・・できれは、これからも。 あなたのご飯が食べたい。」
プロポーズかよ。その言葉は辛うじて飲み込めた。
そして、ツッコミに気が行きすぎて回らなかった思考を慌てて回転させる。そして気付く。違う、違うんだ。私は今日だけ食べるのか聞いた訳じゃなくて、今日食べるのか聞いたんだよ!!
「・・・?」
言葉をなくした私に男は首を傾げると、何思ったのか少し笑った。男の笑い方が先程とは違い無防備なことが気になったが、疑問を口にするか決める前に男が口を開いたので諦める。
「先に靴を脱いでもいいか?」
「よく土足禁止だと分かりましたね。」
「ああ、あなたは靴を履いていないからな。」
そういえば、私が前回部屋で男を発見した時には既に靴を履いていなかった。
「よく見てますね。」
「傭兵は自分の身は自分で守らねばならないからな。観察眼も身に付く。」
「傭兵さんでしたか。」
さん付けに苦笑した男は、そのまますっと目の色を冷たくさせて笑みを深めた。
「・・・何か問題でも?」
「いえ!ただ納得しただけです!」
村人だと思ったけれども、口調やマナーが村人と比べて良いこと。貴族なら、このような場所での食事はなれていないだろうと思ったこと。商人の下働きをしていて・・・宝石はそこから拝借したか貰ったものだと思っていたこと。そこまで聞くと、男はふるふると震えだした。
「・・・なんですか。」
「いや、悪い・・・っ。」
未だに震えている男は確実に笑っているのだろう。盗人呼ばわりは申し訳ないとは思うがいつまで笑っているのかと呆れてみていると、漸く笑いを止めた男は誤魔化すように軽く息を吐いた。
「一介の傭兵に過ぎないとはいっても、貴族と接触することはあるからな。口調やマナーは問題にならないところまでは学んでいる。」
そう言って頬を緩めた男は、少しだけ雰囲気が柔らかくなったような気がした。