ドSではありません。
お前何異世界人とか言ってんの頭イっちゃった?と聞かれても答えられそうにない千鶴ですどうも。
頭がイっちゃったのではなくて、ちゃんとした理由があるから聞いて欲しい。
まず、男の服。電気が付けたから分かったが、この人の服がコスプレだとしたら、いい意味でも悪い意味でもあり得ない程のクオリティなのだ。こんなに目の荒い布でできた服は日本には存在していないと思う。しかもイベントとかでは需要がなさそうなやつ。一言で例えると村人A。
そして、男の顔。汚れてはいるけれど、精悍な顔つきは日本人のようにも白人のようにも見える。同じく肌も白人か日本人か判断がつかない。しかも髪色が藍色。私はこんな人種を見たことがない。
極めつけはクローゼットから続く足跡。泥棒だったとしたら、こんな回りくどいことはしないだろう。何より私はこのクローゼットの先に森があることを知っている。この前私のコート達を消した憎き森だ。結局どこへいったんだ私のコート。
未だ見つからないコートに思いを馳せながら伺う。
「服にも血が付いてるので脱がさせてもらいますね。」
男は苦しそうに少し身動ぎをするだけで何も言わなかったので構わず脱がせていく。床に血が固まると掃除が大変そうなのだ。
ゆっくり服を脱がせていて気付いた。男の身体には昔の傷跡はあっても、先程付いたように見える傷は一つとしてない。
「‥‥え?返り血?」
それにしてはびしょびしょですが。てか怖い。
思わず視線をさ迷わさせると、ナイフが近くに転がっていたのに気付いて慌てて回収する。今まで男に集中しすぎていて気付かなかったが、男の手に渡るまでに回収できたことは幸いだった。
ナイフは軽く拭いてから、テレビの裏の隙間に置いた。直ぐ見つかりそうだけど、血だらけのナイフを戸棚の中とかに隠す趣味はない。
きちんとナイフが隠れていることを確認してから男を見やる。男はやっぱり苦しそうだ。返り血とか思わず口に出しちゃったし、聞こえてたらいい気分はしないだろう。そして殺される可能性も出てきた。あれだけ血が服に染みかついているんだ、何かは殺してる。凶悪犯かどうかは判断できないけれど、少なくとも生き物を傷付けることに割りきっている人なのだろう。
私はそんな人の近くに行きたいとは思わない。
「ごふっ、」
そんな私の気持ちは一瞬で覆された。男が吐いたのだ。
ぎょっとして近寄ると、嘔吐物の中に赤黒い血が混じっているのが見えた。
「大丈夫ですか!?意識はありますか!?」
男が少し頷いたので少し安堵する。
呼吸が浅く、脈も速い。
「毒ですか?」
また頷く。聞いてみたけど毒の対処法なんか知っているはずもない。水を飲ませて排泄させるぐらいしか思い付かない。慌ててコップと水を持ってきて差し出す。
「どうぞ」
口元まで持っていって傾けると少しずつ飲んでいく。いや、これじゃだめだろ。さらに傾けて飲ませる。
「も、飲めな、」
「はい、深呼吸。吸ってー、吐いてー、」
「すぅ、っかはっ!!ごほっ、ごほっ」
一度毒を出した方が良いと思ったので、背後から拳を鳩尾において深呼吸と共に吐かせてから更に水を飲ませる。
ナイフ持って返り血浴びた不審者に凄い鬼畜なことやってんな私。これが終わった後自分の命はまだあるのだろうか。
片間の片隅でそんなことを考えているのに気付いてげんなりとする。人命救助が先。その後のことは終わってから考えよう。若干自分自身に言い聞かせてる感は拭えないが、私は気付かなかった振りをして手を動かした。