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異世界と繋がるクローゼット  作者: りゅん。
逆トリップ編
14/30

変態じゃないと信じてる。

 

「・・・お風呂、案内します。」

「は?・・・ああ、いや、」

「遠慮しないでください。こっちです。あ、靴下は脱いで下さいね。」


何か言いたげな男の言葉を無視して風呂場へ案内する。そんな世間知らずの娘をどう説得するか悩んでいるような顔をしなくても。独り暮らしの女が不可抗力とはいえ男を部屋に入れた挙げ句、お風呂を勧めることは"そういう意味"にとられても仕方がないことは理解してるし。

でもがそんな気ないことも分かってる。大体、こんなに端正な顔の男に言い寄ってくる美人は吐いて捨てる程いる筈だ。第一印象は顔で決まるというし、性格がいい美人と性格がいい平凡だったら美人な方がいいだろうに決まっている。結局世の中顔なのだ。しかも性格がいい前提で話をしたけど、私の性格がよろしい訳でもなく。

つまりなにが言いたいのかというと、身の程は弁えているので気にすんなってことである。だから床を汚さないで。


「青いほうが水で赤いほうがお湯です。頭用の石鹸とか使います?」


蛇口を捻りながら説明するついでに浴槽にお湯も入れておく。因みに頭用の石鹸とはシャンプーのことだ。異世界にシャンプーがあるのか分からないので曖昧な言い方になってしまったけど、知っていたら理解はしてくれるだろう。


「使わん。そんなものがあるのか?」

「じゃあいいか。」


シャンプー等を説明する気にはなれなかった。見た感じ髪の毛とか傷んでないし?シャンプーとかコンディショナーを使わないでそれだけサラサラなんだからいらないだろう。説明が面倒臭かった訳ではないよ、うん。


「ああ、これを。」


男から思い出したように渡されたそれは、琥珀色の液体が入った瓶だった。


「これは?」

「ハチミツ、という。もしかしたら食べたことがあるかもしれないが、森でもめったに見かけないだろう?珍しいものが欲しいと言ったら知り合いが融通してくれてな。」


蜂蜜は知ってるけど。というかカレーの中にも入ってるけど。どうやら森に一人ですんでる(と勘違いされている)私には必要がなさそうな宝石より、食材を対価として持ってきた方が良いと思ったらしい。

異世界には養蜂箱がなく、もし森で偶然見つけたとしても安全を考えると採取が難しいことから高級食材なのだという。いいのか。確かに地球でも砂糖より割高だけど、口にできない程じゃない。

ちょっと考えて、有り難く受けとることにした。


「せっかくなんで、これ使っておやつでも作っちゃいます?」

「ほう。」


感心したように言ってもらえるのは嬉しいが、お菓子の細かい分量とか覚えてないんだ、ごめん。後でこっそりレシピ探索しとこう。


「じゃあ、しっかり温まって下さいね。」

「、助かる。」

「いえいえー。」


へらりと笑うとにこりと笑い返された。

あ、はにかんだ感じがちょっと可愛い。

にまにましながら脱衣場から出て、台所へ戻る。浴槽を開けるガラガラっていう音って、壁越しに聞こえると地味に気恥ずかしくなるよね。今お風呂入ったんだ、みたいな。

・・・・ヤバい、自重しよう。


「あ、着替えいるじゃん」


上は大きめのTシャツ、下はハーフパンツ。両方私のだからちょっと小さいだろうけど、着れないってことはないと思う。そう信じてる。パンツは・・・・諦めて貰おう。あれだよ、水着みたいなもんだって!

着替えの用意をして脱衣場に戻って声を掛ける。


「えっと、あー・・・・、」

「ユダだ。」

「はい、ユダさん。着替えとかタオル、ここおいときますね。」

「助かる。」


辺りを見渡しても、男の私物らしきものは見えなかったので風呂場に全部持って入ったのだろう。ナイフとかはまだしも服持って入るって。はっ。


「あの人、風呂場で洗濯する気か・・・・!!」


あの村人服の染料が何にしろ、洗濯機に入れて色落ちの心配がないとも限らないから仕方がないか。

外に行くわけにもいかないし、泥で排水溝が詰まらないことを願っておく他なかった。

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