どこから出てきたそのナイフ。
「それで?今日は何を作るのか?」
「ん、今日はお握りにしようと思ってますけど。」
というか、本当に冷蔵庫が空なんだ、それくらいしか作れない。
「オニギリ?」
「はい。丸めたお米の中に具を詰める食べ物です。今から作るのはお握りに牛もも肉を巻いて焼く、肉巻きお握りです。」
「・・・オコメとは何だ?」
そう言われると説明って難しいよね。仕方がないから現物を出して見せることにする。どれくらい食べるか分からないし、2合くらい量ってジャーに入れる。
「これです。」
首を傾げた男は、穀物か、と呟いた。どうやら余り興味はないらしい。
お米を洗ってスイッチを押す。因みに、お米の固さは若干固めが私好みである。
スイッチを押してから、他には何を作ろうかなと考えて思い付く。
「お握りには味噌汁か。」
水を火に掛けながら豆腐を切ろうか迷うけれど、冷奴を作りたいので止めておく。代わりに乾燥ワカメと舞茸を入れることにする。
水が沸騰したら、ほんだしと友人がくれた旅行先のお土産の昆布だし粉を入れる。ちょっと高そうなだけあって美味しかった奴だ。出汁粉を使ったとしてもキノコを入れたらいい出汁が出て美味しくなるよね。因みに味噌は合わせを使ってる。
味噌も具も入れ終わったら一煮立ちさせて火を止めておく。
「後は、冷奴。」
冷蔵庫から豆腐を取り出す。
因みにこの豆腐、安売りしていた私の好きなところのものだ。ここの豆腐は本当に美味しい。冷奴にも合う。ひとパックだと多いから、見栄えは悪いけど半分に切って皿に乗せる。そこに細切りにしたきゅうりと乱切りしたトマトを置いて。
ソースはオリーブオイルと醤油を混ぜるだけの簡単ソースだ。そして鰹節を上から降らせてソースをかければ完成。
ピーっピーっピーっ
「何だっ!?」
「ひっ!!?」
炊飯器が鳴ったようだ。男が大声を上げたのを聞いてひきつった声がでた。恥ずかしい。
男はさっとナイフを取り出して構えている。ちょっと待って、そのナイフどこから出てきた。というか反応しすぎでしょ。笑っちゃうじゃん。
「ご飯ができた音ですよ。」
男を横目で見てから炊飯器を開けると温かい湯気が顔に当たった。私の若干暖かい目線に気付いたのか、男は少し不満そうな顔をしてナイフをしまった。良かった、実はちょっとビビってた。
私は男がナイフをしまったのを見届けてから、ご飯を大きめの深皿に入れる。そして、昆布の佃煮を投入してご飯粒が潰れないように混ぜていく。ご飯を切るように混ぜるってうまい例えだと思う。
混ぜ終わったご飯を俵状に握っていく。そして、梅干しの果肉を潰したものを薄く伸ばし、お握りに塗っていく。
「この赤い物は本当に食べられるのか?」
「うわ、失礼。」
まあ確かに外国人って梅干しが嫌いな人が多いようなイメージあるけど。
真っ赤な果肉を見て顔をしかめる男を余所に、私は梅干しをぱくっと口に入れる。う、酸っぱい。顔が歪むのを我慢して笑うと、もう一つ梅干しを指で摘まみ男の口元に持っていく。男は素直に口を開けた。よっしゃ。




